【#1-2】DNAからmRNA、そしてタンパク質へ
1. セントラルドグマ
セントラルドグマという言葉を聞いたことがあるでしょうか。専門用語ですが、一般的にも使われることがあるようです。これは「基本的に変わらない流れ」を意味しています。生物学では、DNA(遺伝子の設計図)からタンパク質を作る、
DNA→mRNA→タンパク質
この一方向の流れをセントラルドグマと呼びます。
#1-1で、DNAは細胞の核の中に収まっていることに触れました。また、DNAが生物の設計図になることも述べました。設計図になるということは一体どういうことなのか説明します。
生物学ではDNA、RNAを元に作られるタンパク質があらゆる生命活動を支えています。少し前の記事でも述べましたが、新しいタンパク質を作っているのもタンパク質ですし、アルコールに対する強さを決めるのもタンパク質です。お酒に弱い強いというのは、アルコールそのものを分解したり、アルコールが分解された後に作られるアルデヒドという毒(悪酔い、吐き気の原因)を分解するタンパク質が多いか少ないか、もっと言えば、遺伝子からそのタンパク質が作られやすいかそうでないか、などによって体質が決まります。
遺伝子検査などでは遺伝子を調べ、そのタンパク質を作るためのATGCの配列がどうなってるか確認することで、タンパク質の作られやすさ、量(発現量と言います)を推定することができます。それにより、お酒に弱い体質ですよ、がんになりやすいですよ。など判定することができます。(がんのなりやすさに関しても、がんの原因となるタンパク質などが複数突き止められていますので、そのタンパク質の発現量が多そうか少なそうかなど、遺伝子の配列で推定することができます。)
2. DNAからmRNAへ
#1-1で見たDNAから、セントラルドグマに従って、RNAが作られます。DNAは細胞の核内にありましたが、核の中でDNAのコピーを作ります。
これをmRNAと言います。また、このDNA→mRNAの過程を転写と言います。
mRNAはmessenger RNAの略で、伝達RNAと呼ばれます。ワクチンでmRNAが取り上げられ、伝達RNAってどういう意味?ってなられた方もいるかもしれませんが、セントラルドグマの流れを見れば伝達の意味が理解できるでしょう。
そうです。mRNAはタンパク質作りの鋳型としてDNAの情報を伝達するんですね。
難しい方は、DNAを設計図の元データ、mRNAを設計図コピー、タンパク質を納品物と考えてください。
このことからも、いかに元データに傷がつかないことが大事かお分かりかと思います。
3. mRNAからタンパク質へ
さて、コピーされたDNA(つまりmRNA)は、核の外に出ていきます。
その後、タンパク質作りの鋳型となります。ここではタンパク質を作る詳細は省きますが、簡単に説明を入れておきます。
まず、RNAを構成する塩基ですが、DNAではATGCでしたが、RNAではAUGCとなります。(U: ウラシル)
mRNAの3つの塩基の並び(AUGCのどれかの組み合わせ、AAAやGCGなど)をコドンと言います。それに対応するようにtRNA(transfer RNA: 運搬RNA)というRNAがmRNAのもとにやってきます。AにはUがGにはCが対応するようにくっつきにきます(tRNA側の3塩基の並びをアンチコドンと言います)。
例えば、mRNAのAAAの並びにはUUUの並びを持ったtRNAがくっつきにきます。tRNAは運搬RNAと言われるように、決まったアミノ酸を一緒に連れてきます。例えばAAAの配列を持つmRNAはUUUという配列を持つtRNAがリシンというアミノ酸を連れてくることが決まっています。
そしてそれらのアミノ酸が連結したものをタンパク質と呼びます。
このmRNAを鋳型にしてタンパク質を作ること(mRNA→タンパク質)を翻訳と言います。
ここで重要なのは、「DNAの配列をコピーしたmRNAが作られ、そのコピーの配列によって連れてこられるアミノ酸が決まり、どんなアミノ酸がどんな順番で繋がるかでどんなタンパク質が作られるか決まる。」ということです。つまり、DNAの配列時点で、どのようなタンパク質が作られるか決まっているということです。
4. 一塩基多型について
一塩基多型(SNP:スニップ)という言葉があります。
DNAの配列でタンパク質が決まると前述しましたが、ヒトでは同じタンパク質を作るためには、同じ並びのDNAが必要です。
例えば飲酒後の毒素アルデヒドを分解するためのタンパク質ALDH2の遺伝子配列はみんな共通です。一方で、同じタンパク質を作るにしても、ヒト同士の間で、わずかに一部異なることがあります。このわずかな違いによって、タンパク質の活性(タンパク質の機能の強さ)が決定されたりします。この部分的な異なりのことをスニップと呼びます。
ALDH2で考えると、その一部の配列で塩基が「GG」となっているところがあります。この場合、GGだとALDH2の活性が強く、つまりアルデヒドをよく分解できるのでお酒に強い体質になります。一方、ここが、「AG」「AA」の配列になっている人もいます。それぞれ、体質としては普通、弱いとなります。ALDH2の機能の強弱がこのようなごく一部の配列で決まっているのは驚きではないでしょうか。もちろん、この配列自体DNA配列なので、遺伝します。自分の親や祖父母はお酒に強いですか?弱いですか?色々考えてみると面白そうですね。
基本的に遺伝子検査では、「検査項目に関わる遺伝子として報告されている遺伝子の配列のスニップがどんな配列になっているか」を調べています。
またどこかのタイミングで、遺伝子検査に関する記事も書こうと思いますが、遺伝子検査を受けるとき、価格や会社を気にするかと思います。もちろん私も気にします。一方、研究者の立場からみると、どのような遺伝子を検査しているのか、なぜその遺伝子を検査項目としたのか(例えばがんに関わる遺伝子は複数報告があるのに、なぜその遺伝子のみ検査しようとしたのか)、その遺伝子を選定した根拠となる論文を公表しているかなど気にしてしまいます。現実はそこまで詳細には公開されていないようですが、職業病ですね笑
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