世界自閉症啓発デー記念講演会が無事終了。見逃した方へアーカイブ配信します
4月2日の世界自閉症啓発デー記念講演会in神戸、無事に終わりました。
講演のタイトルは「声を出せる社会に―自閉症スペクトラム当事者として生きてきた思い」。
参加された方々、会場のスタッフの方々、告知にご協力いただいた方々、誠にありがとうございました。
早速、リンクトインに感想が上がってきました。
(2024年8月22日追記)
4月10日、神戸新聞に掲載されました。
※筆者は外資系企業の障害者雇用枠で、ある日突然能力不足で雇い止めを告げられ、そのままオフィスから追い出されるという体験をした。2017年12月、筆者は米国系経済通信社(ブルームバーグ)に障害者雇用枠(会社ではDiversity Hiringと呼んでいた)の契約社員(3か月更新)のニュース翻訳記者(月給30万円)として入社。発達障害の診断書や合理的配慮事項を提出して、ジョブコーチの定着支援を受けていた。当時は翻訳は未経験であり、最初は上司から「自分のペースで慣れていけばいい」と言われていた。しかし、採用でお世話になった障害者雇用専門人事担当者が退社して、人事担当者が障害者雇用のノウハウがないとみられる人物に変更になってから、それまでよりはるかに速いペースでの成長を求められるようになり、仕事を覚えて長く続けていけるための合理的配慮の検討はされなくなった。勤怠は安定していたが、6~7か月した2018年6月に上司に呼び出され、「仕事を覚えるのに時間がかかる」という理由で雇い止めを告げられ、オフィスから強制的に追い出される「ロックアウト解雇」に遭った。(その日のうちに社内システムへのアクセスを遮断、チームの同僚への挨拶も自席に戻っての机の整理も許されず、机の引き出しに入れていた物は勝手に処分され、机の上にあったわずかな私物を後日自宅に送り返されるというものだった。契約期間が2か月9日残っていたが、出社禁止され、給与は出るガーデンリーブ扱いに)
米系外資IT・セールスフォースの発達障害者雇用の雇い止め訴訟の調査報道は、こうして始まりました(裁判は2023年9月に和解。和解内容は口外禁止だが、解決金約200万円と推定)。日本の当事者をめぐる環境改善へのコミットメント。同じような体験があるからこその当事者知、拾える声、見える世界がある。発信していくうちに、他にもパワハラや違法な退職勧奨にあっているという当事者が「私も」と名乗り出てくるようになりました。そこから、さらなる違法な実態(セールスフォースの技術者が上司との人間関係で理解されず仕事を外され、PIP解雇されそうになってうつを病んだうえ、相場以下の割増退職金を口止め料に広範囲の誹謗禁止・秘密保持・競合転職禁止などを求める退職合意書にサインさせられそうになり、「日本では到底容認されない」と拒否。この技術者は一般雇用での中途入社で、IQ180・ASD・ADHDの診断をされていた)の情報発信につながりました。私はこれを「ピア・ジャーナリズム」と名付けました。これには、映画界や巨大企業でのセクハラ被害を訴える #MeToo 運動からの影響もあります。
ここには、海外企業での盛り上がりが日本にも紹介され、経済産業省の推進事業にもなったニューロダイバーシティが、当事者不在で企業の利益優先に傾くことへの警鐘のメッセージもあります。これまで日本の障害者の多くが、健常者と分離され、最低賃金で単純作業という雇用に偏ってきた事実がありました。そんななか、自閉症や発達障害と診断されても何か優れた部分のある人が、資本主義のなかで活路を見出し、健常者と同等かそれ以上のキャリア・対価を得られる可能性が出てきたのは画期的ではあります。ですが、ニューロダイバーシティをうたう企業が、一部の能力の突き抜けた(高IQのIT技術者のような)当事者のみをすくい上げるように見られ、突き抜けた自信のない当事者は疎外感を持つようにもなっています。そして、ダイバーシティと名のついた取り組みが当事者の実情を無視したものに、「(その時の既得権側目線での)生産性で人を選別し、生産性のない者は一方的に排除してよい」とする優生思想(もっと直接的に言うと「早く成果を出せ、できない奴は即クビ!」のような)に結びつくと、私のブルームバーグでの体験や、セールスフォースであったようなことが起きるということです。
企業の生産活動を否定するのではありません。何かの能力の突き抜けた当事者が企業から「自社事業に役に立つ」と評価されて受け入れられ、当事者が能力を発揮して貢献すれば双方にとって満足いくことになります。ですが、当事者が能力を発揮して企業の生産性や利益につながることがあるにしても、それは日本の労働法や障害者雇用促進法、「ビジネスと人権」に沿った合理的配慮やガバナンスがあるのが前提でのこと。能力の突き抜けた当事者でも、何かの行動が「奇異」「逸脱」「迷惑」「期待外れ」と判断され、それらのデメリットが「役に立つ」メリットを上回ると評価されれば、すぐに「ローパフォーマー」扱いされて排除されてしまうのでしょうか。また、当事者が得られる対価が画期的な水準であったとしても、合理的配慮に無理解で、結果として要求水準や解雇リスクが不均衡に高いのであれば、むしろ質の悪い雇用といえます。本来D&Iは能力の多様性包摂を含むにもかかわらず、キラキラしたお題目の裏で、能力主義的な人員使い捨てが現に起きており、当事者や家族が追い詰められています。看板とかけ離れた実態を知らずにキラキラした企業発信に惹かれて入った人が、パワハラや違法な退職勧奨の被害を告発しています。それでは結局、大半の当事者はそんな職場には居られず、障害者向けに用意された特別な職場に行くか、家族や福祉に支えられて生きる、ということを考えざるを得ないのです。こうして健常者と障害者の分断は広がっていくのでしょう。
「私たちのことを、私たち抜きで決めないで」という、障害者の権利擁護運動の合言葉にあるような原則を置き去りにした政策は、本質的なものになりえない以上に、マイナスの影響になるのです。当事者が声を出せる(口を塞がない)社会にしていくことを呼びかけています。
生きづらさを抱える人の多くは、“支えられる側”として生活しています。「社会の中で役割を果たせなくなった」と自信を失っている人もいます。私も、不本意な雇い止め(講演会では「ロックアウト」と言いました)に遭い、転職先が見つからずにフリーライターを名乗りながら、家族や福祉に支えられて生きてきました。そんな人が、実体験を基に、今度は“支える側”に立つという試みがピア・サポートです。それが辛いものであっても自らの体験や生活を見せたり、相手の声に耳を傾けたりすることで、誰かの心の支えになったり何かが変わることがあります。そうした経験を通じて、失った役割を自らの力で取り戻す。そんなピア・サポートに通じるピア・ジャーナリスム。傷つき、生きていく道を失った自分が、誰かを支える側に立つことで、もう一度自らの力を信じ、社会とつながり役割を持って生きていく第一歩となったといえます。講演会では、そんなストーリーを語りました。
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