「直感」文学 *遠回しな口実*
「風邪をひいたの」
彼女からの電話を取ると、唐突にそのように告げた。
「あ、うん、え?大丈夫?」
僕は唐突にそのように返し、どの動向を伺う。
「ううん、風邪をひいたの」
彼女はそれを繰り返すばかりで、それ以上先に会話を進めようとしない。
「あ、うん……」
僕は曖昧な返事を返す。核心から遠ざかるように、遠ざかるように。
「え?聞こえてる?私、風邪をひいているの」
「聞こえてるよ」
僕は一つ溜め息をした。
「今溜め息吐いたでしょ?電話でも聞こえるんだから」
少し尖った声を向ける。それは電話でも、心にぐさりとささるくらいの威力。
「分かった、分かった。仕事終わったら行くから」
僕は”もうお手上げ”という姿勢のままそう言った。
「別に来て、なんて言ってないけど。心配なら来てもいいわ。……あ、そうそう、何かフルーツが食べたいの」
「分かりました。何か買っていけばいいのね?」
「よろしい」
「はいはい、お姫様」
そう言って、僕は電話を切った。
来て欲しいって素直に言えない彼女の、そんなところが僕にとってはタイプなのかもしれない。
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