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『短編』突然に、さも跡形もなく 第3回 /全7回

俺は電話を切り、まだパソコンのスイッチを入れていなかったことと、ドリンクバーを頼んだのに何も取りに行っていないことを思い出した。

……いや、そもそもここに何をしにきたのかもよく分からない。真木が突然バンドをやめるなんて言い出して、少し気が動転していたのかもしれない。動転していたからといって近所のファミレスに来るなんて、俺の行動範囲もほとほと大したものじゃないのだと思い知らされる。それに、落ち着くためにファミレスって……。

 スイッチを入れたパソコンから起動音が流れ、なんとなく居心地の悪さを感じた。昼に比べたら大したことないが、夜と言えどそれなりの賑やかさがあった。それに、途中から入ってきた大学生のグループはとにかく賑やかで、俺は途中からヘッドフォンを耳に当て、周りの音を遮断した。

バンドメンバー募集の掲示板をいくつか回り、そのいくつかに投稿した。時期尚早な気もしたが、真木の声を聞く限り、それは本気の口調だった。突然いなくなってから動いたんじゃ遅いということは、もう随分前に何度か学んでいたし、行動は早いに越したことはないのだった。

……そう、今まで何人もが俺の前を去っていった。皆理由はそれぞれだったが、やめるというその意思の強さだけは誰しも同じだ。分からないことはない。こんなにも不安定なことをやり、仕事なのか趣味なのかも分からない、ましてやバイトをしていないと食いつなぐことも出来ない〝遊び〟に誰だっていつまでも付き合えないだろう。

俺ももうすぐ三十になる。人のことばかりじゃなく、自分のことをもっと考えないといけないのかもしれない。……そういう思いは、別に今に始まったことじゃない。今までだって、何度だって考えてきた。考えて、考えて、考えた結果、俺はまだバンドを続けていた。誰にやめるなと言われた訳でもない、むしろ皆が「まともになった方がいい」と言った。それなのに、俺はずっとこの場所にいる。好きなのか嫌いなのかももう分からない。だけど別に意地を張ってる訳でもない。俺はただ、他に選択肢がないだけだった。

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