マガジンのカバー画像

「直感」文学

133
「直感的」な文学作品を掲載した、ショートショート小説です。
運営しているクリエイター

2017年5月の記事一覧

「直感」文学 *どこまでも、夢の中にいて*

「直感」文学 *どこまでも、夢の中にいて*

 目は、醒めないで欲しい。

 私はただそう思うだけなのに、それはいつだって絶対に叶わない。

 そう思った瞬間に目は開かれて、現実の世界へと戻されていくのは、私だけ。

 〝あの人〟は夢の中に残ったままで、私だけ、この場所へ。

 そうして待ち受ける現実では、私はただ息をするだけの生き物。

 そうして夜になって、また〝あの人〟に会いにいく。

 ……夜がいつまで続けばいい。

 そう思うのに、

もっとみる
「直感」文学 *深夜に鳴り響く轟音*

「直感」文学 *深夜に鳴り響く轟音*

 轟音が鳴り響く。

 どこかで、だれかが、大きな音で何かを訴えているのだ。

 強い音とは裏腹に、随分と繊細な言葉を口走っては、その暗闇の中に儚くも消えていってしまった。

 僕の部屋まで微かに届くそれらの音は、決して僕の心までは届かない。

 ここまで届くには、もうほんの少しだけの説得力が必要なのだと思う。僕は他人の言葉をそう簡単には受け入れられないから。

 
 どこかで、だれかが、轟音を鳴

もっとみる
「直感」文学 *静寂の夢*

「直感」文学 *静寂の夢*

 「そうね、もうちょっと落ち着いたらにしよう。その時まで電話待ってるから」

 電話口から聞こえてくるサユの声は、嫌なくらいに落ち着いていて、なんだかその声に隠された真意みたいなものに、僕は少しだけ不安になった。

 「うん、ごめん。今はまだ……」

 「いいの。急ぐ必要なんてないんだから。……大丈夫。大丈夫だから」

 いくら彼女が「大丈夫」と言ったところで、僕は一切安堵の念を抱くことなんて出来

もっとみる
「直感」文学 *お久しぶりです。*

「直感」文学 *お久しぶりです。*

 今日、衣替えをした。

 クローゼットの中に押し込まれていた洋服の数々は、随分と久しぶりに外の空気を吸って「さあ、出番だ!」とでも言っているようで、私はなんだか嬉しく思えた。

 「お久しぶりです」

 なんて声を掛けてみて、

 でももちろん洋服が喋ることなんてない。

 私はただ心の中で、「お待たせしました。今季もあなたから寒さを守ります」と洋服の声を真似て返答する。

 ……洋服の声?

もっとみる
「直感」文学 *春の唄*

「直感」文学 *春の唄*

 マドカはこの時季になると、決まって同じ唄を口ずさんだ。

 「また?って顔してるね」

 僕が見つめていたことに気付くと、そう言って一度笑ってから、またその続きを唄った。

 「どうしてその唄なんだ?……っていうか、そんな唄聞いたことないよ」

 僕がそう問いかけても、マドカはその唄を口ずさみながら、僕の顔をチラッと見やるだけだった。

 
 気候は次第に緩やかになり、もうほんの少しだけ春が顔を

もっとみる