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Tech Structureで関係者間の認識を共通化する

これまで、Tech Structureを通じてモノづくりを考えるということをマーケットインとプロダクトアウトのそれぞれの流れで行ってきました。

Tech Structureで課題を整理・明確化する:
https://note.mu/yugo_chikata/n/n190cc57d9704
Tech Structureで製品・技術の強みや特徴を把握する:
https://note.mu/yugo_chikata/n/nb1ec971a5f6b

読者の皆様には、モノづくりを考える際にTech Structureを用いることの効果を感じていただけたかと思いますが、今回はその過程で発生するもう一つの効果についてお話ししたいと思います。その効果とは、関係者間の認識を共通化できることです。Tech Structureにより各種情報が見える化されることで、顧客ニーズを正確に反映した製品開発、部署間におけるコミュニケーションの円滑化、明確なビジョンに基づいた他社との共同開発、などを期待することができます。
このような課題にご興味のある方は、今回の記事をぜひご覧ください。

顧客ニーズを反映させながら製品のコンセプトを発展させる(コンセプトアウト型の製品開発)

本題に入る前に、まずはコンセプトアウトという製品開発の方法についてご説明したいと思います。コンセプトアウトというのは、開発の初期段階から顧客を巻き込み、企業と顧客とが一緒になって製品のコンセプトや世界観を発展させていくという考え方です。マーケットインとプロダクトアウトの中間に相当する考え方とも言え、変化の激しい社会に対して常に最適な価値を提供し続けるために近年では特に重要視されている考え方でもあります。

コンセプトアウト型の製品開発をTech Structureで考えると、市場ニーズ側と技術シーズ側の情報を同時にブラッシュアップしていくことになります。実はTech Structureを作成する醍醐味もコンセプトアウトの開発を促進させることができることにあるのではないか、と私は考えています。

例として、フィットネスやヘルスケアの分野で話題となっているEMS機器の開発を考えてみましょう。EMSというのはElectrical Muscle Stimulationの略で、電気刺激を与えることにより筋肉を動かすことを指します。運動をしなくても筋肉を鍛えることができることに注目が集まり、現在はMTG社のSIXPADをはじめ、多数のEMS製品が家電量販店に並んでいます。

図1

さて、それではこのEMS機器を取り扱うメーカーの立場で、どのように製品価値を高めていくかを考えてみましょう。

まずは基本的なEMS機器のTech Structureを作成してみました。

図2

こちらの機器を販売したところ、ユーザーからは、「もっと手軽に使えたらいいのに・・・」とか「もっと楽しければいいのに・・・」という声が多く挙がってきました。そこで、Tech Structureに市場ニーズとして「手軽に使える」と「楽しく使える」を追加し、その実現手段を考えることにします。

「手軽に使える」ためには、「ユーザーの移動を制限しない」や「取り付け位置がずれない」といった機能が求められます。また、「楽しく使える」ための方法として、今回は「トレーニング結果を記録する」といった機能を追加してみました。

図3

次に、これらの機能の実現手段を検討してみましょう。「ユーザーの移動を制限しない」ためには邪魔な電源コードを排除する必要があります。そこで、「コードレスで動く」ように「電源」を「バッテリ」に変えることにしました。また、「取り付け位置がずれない」ために「ベルト」、「トレーニング結果を記録する」ために「専用アプリ」を開発し、機器本体と一緒に展開にすることにします。これにより、単なる機器をユーザーの声に応えた製品に仕上げることができました。

図4

さらにユーザーの声を取り入れながら、製品の付加価値を高めていきましょう。どうやら、もっと「楽しく使える」ようにするためには、「他ユーザーと交流できる」という機能を持たせることが有効なようです。これを実現するためには、専用アプリにSNS機能を搭載するといった仕様改善でも対応できそうですが、今回はそれに加えて、「トレーニングセンター」というリアルな交流の場を用意することにしました。

図5

以上により、「手軽に楽しく筋トレできる」といったコンセプトの実現に向けて、ユーザーにはEMS製品とトレーニングセンターを組み合わせたものを提供することになりました。Tech Structureの内容がブラッシュアップされていくことで、提供すべき価値やその世界観も強固なものになったと思います。また、今回の例では、元々は機器の販売を想定していたものが、最終的には「フィットネスサービス」という形のビジネスに発展しました。企業側にとってもビジネスモデルの検討の幅を拡げやすくなったのではないでしょうか。

図6

このように顧客の声すなわち市場ニーズと、自社が開発すべき製品や技術シーズとの関係性を見える化することで、開発すべき製品またはサービスのコンセプトをブラッシュアップし続けることができ、さらなる価値の提供が可能になります。

部署間でのコミュニケーションを円滑化させる

Tech Structureにおける市場ニーズの保有者は、必ずしも顧客である必要はありません。例えば、社内の営業サイドと開発サイドの目線を揃えるためにもTech Structureは有効です。

色々な企業からよく聞く話の一つに、営業サイドがリクエストした内容やニュアンスが開発サイドに正確に伝わっておらず、意図していたものとは違う製品が出来上がってしまう、といった話があります。このような問題を防止するためにも、Tech Structureを活用してみてはいかがでしょうか。

図7

例えば、「カッコがよい」と一言で言われたとしても、その定義は人によって異なるでしょう。そのため、営業サイドは、求められる色・形状・質感など、カッコがよいとはどういうことなのか、を具体的な情報に落とし込む必要があります。この情報があれば、開発サイドはどのような技術やパーツを選択すればよいのかを明確に決定することができるでしょう。また、「カッコはよいが、重くなってしまう」など、営業サイドが気付いていなかった問題についても議論できるようになります。このように、営業サイドと開発サイドがニーズ側およびシーズ側の情報を一緒に精査していけば、お互いの認識のズレを防止し、コミュニケーションを円滑化することができるでしょう。このようにチームの中に共通のTech Structureがあると、ぶれない議論、ビジョンの浸透、チームワークの醸成といった効果を図ることができます

また、例では営業サイドと開発サイドという社内部署間のやり取りを想定してお話ししましたが、同じ考え方は企業と企業の共同開発にも当てはめることができます。明確なビジョンに基づく共同開発や連携を実現するためにも、ぜひTech Structureで議論の空中戦を地上戦に落とし込んでみてください。

ちなみに、今回ご説明したような効果を最大化するためには、Tech Structureの考え方を身に着けることに加えて、チームをファシリテーションするスキルが重要になります。こちらについては、また別の機会に詳しくお話しできればと思います。


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