見出し画像

アイドルと契約

新番組「アイドルと法律」はじめました!
この記事はvol.1「アイドルと契約」の書き起こしです。番組の内容を文字でまとめています。
有料部分には、収録後の感想や補足情報を【ゆっふぃーからひとこと】、【深井先生からひとこと】として載せていますので、ご興味ある方は併せてお楽しみくださいませ。

Spotifyでの音声配信はこちらからどうぞ。

<参考資料>
日本加除出版「地下アイドルの法律相談」
深井剛志・姫乃たま・西島大介/著 
https://idol-horitsu.com

深井剛志 X アカウント @TSUYOSHIFUKAI
https://x.com/tsuyoshifukai

寺嶋由芙 Xアカウント
@yufu_0708
https://x.com/yufu_0708




寺嶋 podcast「アイドルと法律」!
皆さんはじめまして!始まりました、podcast「アイドルと法律」。この番組では、ソロアイドル10年目、フリーランスのアイドルとして働く、ゆっふぃーこと寺嶋由芙が、アイドルの労働問題に詳しい弁護士としてご活躍の、深井剛志先生から、アイドルが知っておくべき法律を学びます。
日本加除出版株式会社から発売されている「地下アイドルの法律相談」著者でもある深井先生が、働くアイドルゆっふぃーに、アイドルが直面しがちな労働問題を、わかりやすくご説明くださいます。

整えよう、あなたの推しの労働環境!

というわけで、改めまして皆さんよろしくお願いします。古き良き時代から来ました、まじめなアイドル、まじめにアイドル!ゆっふぃーこと寺嶋由芙です。おかげさまで2024年で私、デビュー10周年を迎えまして、フリーランスのソロアイドルとして楽しく活動しております。
これまでの活動の中で、いくつかの事務所さん、レーベルさんにお世話になりまして、その都度、移籍だったりとか、いろいろなことを経験してきました。
また、2020年以降はコロナ禍もあり、自分の仕事に関する契約を自分で把握しておくこととか、きちんと確認しておくことの大切さを改めて知りました。コロナ禍に発信した、持続化給付金に関するnote、そしてyoutubeをきっかけに、アイドルの労働環境について聞いていただく取材も受けました。

で、いろいろとまた考えなきゃなと思ってるとこなんですが、とはいえ、私もわからないことばかりで、何か問題が起きたらその都度慌てて対処して、えっちらおっちらやってきたという感じですので、ほんとは元々ちゃんと知識があったりとか、きちんと準備ができていたらよかったなと思う経験が、この10年たくさんありました。

そんな中、日本加除出版株式会社さんから出ている「地下アイドルの法律相談」という本を読みまして。この本は深井剛志先生と、そして私のお友達でもある、ライターで元地下アイドルの姫乃たまちゃんが書かれているんですが、この本を読ませていただいた時に、「万が一に備えて事前に勉強できるいい本だな」と思い、すごくこの本に励まされたというか、「こういう本があって心強いな」と思いました。
と同時に、「本を読むっていうこと自体にちょっとハードルを感じてしまう方もきっといるのかな」とか、「弁護士さんの本難しいかも」っていう先入観でまだ読めずにいる方もいらっしゃるかもと思ったので、選越ながら、音声だったらもっと気軽に聴いていただけるかもと思って、このpodcastを始めております。
podcastを通じて、そしてこの本を通じて、アイドルはもちろん、働くヲタクたちが自分の職場環境について考える、そんな助けになればなと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

では、ご説明が長くなりましたが、今回ご一緒してくださる深井先生をご紹介します。どうぞ。


深井 弁護士の深井です。どうぞよろしくお願いいたします。

寺嶋 お願いします。深井先生はpodcastはご経験…?

深井 はい、全く初めてで今日結構緊張して喋ってます。よろしくお願いします。

寺嶋 お願いします。ではまずプロフィールをご紹介しますが、 東京弁護士会に所属されて64期って書いてある。「64期」っていうのは、なんのことですか。

深井 弁護士になった順番ですね。戦後の弁護士、1年に1回試験があるので、その64年目の合格者ということになりますね。

寺嶋 なるほど。そして今は旬報法律事務所に所属され、労働問題や原発問題に取り組んでいらっしゃいます。
私は深井先生とはabemaプライムコロナ禍のアイドルの労働環境とか持続化給付金のことを発信していた頃に出演させていただいたabemaプライムで ニアミスしてるんですよね。

深井 そうですね。画面越しで共演したということです。

寺嶋 リモートで深井先生が出てらして、私はスタジオに出ててっていう、そういうご縁があるんですけれども、そんな先生とのお話。
どうしよう。私も弁護士の方とこうやって表で話すっていうのなかなかないので、何から仲良くなっていけるかなと。プロフィール拝見したら、 野球、そしてサンリオキャラクターのシナモンが大好きと伺いました。

深井 そうですね。はい。寺嶋さんもサンリオが大好きということなので、かなり共通点があるかなと思ってます。

寺嶋 シナモンのどんなところが好きなんですか?

深井 もうフォルムですね。

寺嶋 わかりて!

深井 2頭身のフォルムが非常に可愛いと思い。

寺嶋 可愛いですよね。うちのポムポムプリンはどうですか。

深井 うん、もちろん可愛いとは思うんですけどね、やっぱり僕の1番のシナモンにはちょっと敵わないかなという風に思ってます。

寺嶋 なかなかの強火のシナモン担…よろしくお願いいたします。
そんな深井先生、まずは、どうして弁護士になられたのか、ちょっとその辺も聞いてもいいですか。

深井 結構いろんな方にですね、「弁護士になんでなったんですか」って聞かれるんですけど、 そのたんびにいろいろ考えるんですが、やっぱり1番最初のきっかけっていうのは、高校でですね、 「日の丸君が代問題」っていうのがすごい問題になってる高校だったんですね。出身の高校。

寺嶋 そうなんだ。歌うか歌わないかっていう。

深井 そうですね、ちょうど、国旗国歌法ってのができた時に、僕高校生だったんですけど、 なので、学校でやるかやらないかってのが非常に問題になって。うん。それまでずっと何年間もやってなかったのに、急にやるかやらないかみたいな話が出て。
で、1番困ったのが先生だったんですね。先生はやらせないといけない、だけど生徒会はやりたくない。
そうすると、その先生の方が、思想、良心の自由とかっていうのに阻まれて非常に困っていた。そういうその憲法的なですね、人権問題みたいなものに非常に興味持って、で、法学部に行って弁護士になろうと考えて、 そういう経緯ですね。

寺嶋 それがどうして今アイドルの弁護士になっちゃった…なっちゃったとか言っちやった(笑)、なってらっしゃるんですか。

深井 ほんとに、自分でも結構ね、こういう方向に来たのは、 元々その人権問題とか、どっちかっていうと弱い立場の人のための仕事をしたいなと思っていて、で、労働問題をですね、メインにやってる事務所に入ったんですけど、その中でちょっとアイドルの案件を、アイドルの労働問題をやる機会があって。ちょっとしたきっかけでそのことをつぶやいたところ、いろんな人に目に留まってですね。ちょっと取材を受けたりとか。記事を書いたりとか。そういうことをしてるうちに、この「地下アイドルの法律相談」っていう本も書くようになり。で、いろんな方から依頼を受けていると。そういう流れですね。

寺嶋 じゃ、「元々アイドル好きだからアイドルのために何か一役買うぞ!」みたいな経緯ではなかった…?

深井 もうほとんどアイドルのこと全然知らない状況で、最初事件を受けたりしてたので、 アイドルの専門用語とか全然わからない状態でやってました。今でもなんか現場の 法律問題に関係ない用語とかは全然疎くて、本人に聞いたりとか、イベントの時にアイドルに聞いたりとかして。勉強しながらやってる状態です。

寺嶋 じゃあ推しは、別にいない…?

深井 推しは野球選手ですかね。ってことになっちゃいますね。

寺嶋 野球選手はアイドルと契約一緒ですか?

深井 ちょっとかなり違うかなというとこですね。契約の形態はですね、後で話しますけれども、「労働契約ではない」っていうことになってますけれども、それでもやっぱりスポーツ選手とアイドルっていうのは、契約の形態かなり違うかなっていう風に思います。

寺嶋 ちょっとそういう素朴な疑問というか、私ほんと初心者なので、「今更そんなことを聞かれても」みたいなことも聞いちゃうかもしれないんですけど、疑問をいろいろとお伝えしながら、それにお答えいただきながら、この番組進めていけたらと思ってますので、よろしくお願いいたします。
ではですね、この番組、深井先生の著書でもある「地下アイドルの法律相談」の内容に沿いながら進めていきたいと思うんですが、この本、10章ありますよね。

深井 そうですね、10章。

寺嶋 ので、ざっくりこの章に添いながらお話しして、全10回くらいのシリーズにしていけたらなと 思っていますので、ちょっと全10回、長いお付き合いになりますが、よろしくお願いします。

深井 よろしくお願いします。

寺嶋 はい。で、第1章が「地下アイドルと契約書の話」っていうタイトルで、契約について書かれている章なんですけれども、 もうほんとにすごく基本的なことから聞いていいですか。

深井 はい、どうぞ。

寺嶋 契約ってなんですか。

深井 「契約ってなんですか」。確かに「契約」って日常用語でもあるんですけれども、じゃあ「なんですか」って言われると結構難しいです。

寺嶋 「約束」と違うんですか。

深井 「法的な義務とか権利とかが発生する約束事」というのが1番ぴったりくる説明かなと思いますね。

寺嶋 「法的な義務とか権利が発生する」。

深井 義務とか権利って言葉は当然聞いたことはあると思うんですけども、法的な義務、法的な権利、それが発生すると。
例え話の方が分かりやすいですかね。例えばですけど、もう本当に簡単な例で言うと、コンビニで100円のお菓子を買う、 これも実は契約なんですね。

寺嶋 ハンコ押してない(゚ω゚)

深井 押してないですけれども、契約は成立するんですね。これはどういう契約かっていうと、「お菓子をください」という申し込みをする。で、それに対して「100円で売りますよ」ということを店側が言う。で、「それでいいですよ」というの合意がですね、その場で成立している。ということになると、 お店は100円のお菓子をお客さんに渡さなきゃいけない。ん。お客さんは100円を払わなければならない。

寺嶋 そっか。「100円は払いたくないけど、お菓子だけください」っていうことはありえない。

深井 そうですね。お互いに権利と義務が発生する。なるほど。お客さんは100円払う義務、お店側はお菓子を渡す義務、逆に言うと、お菓子をもらう権利、100円もらう権利が発生すると。これが契約なんですね。

寺嶋 でも、その契約は、そのお買い物に関する契約を、別に私たちは書類を書いたりしてないけど成立するっていうのは、もうなんか暗黙の了解みたいなことなんですか。

深井 そうですね、暗黙の了解というか、「契約というのは双方の合意で成立する」というのが原則で、 それは別に口約束でもいいんですね。
口約束でも契約は成立すると聞いたことある人もいると思いますが、そういうものなんですね。だけど、口約束だけだと当然ね、どういう約束をしたのかってのが、さっきのコンビニの例だったら簡単でいいんですけど、難しい話になってくると…例えば「家を買いますよ」とか。

寺嶋 おおごとだ!

深井 そういう時にね、口約束だけだとさすがにまずいので、どういう約束したのかを書いときましょうというのが、それが契約書ということになりますね。

寺嶋 だからアイドルは仕事を始めるときに契約書を交わしといた方が安心だよっていうことなのか!
口約束とか、書面にしてない同意だけだと、後になって忘れちゃうこととか、 そこに書いてないことが発生した時に、どう対処したらいいかわからなくなっちゃうから、契約書を交わした方がいいねっていうことなんですね。きっと。

深井 そうですね。何を約束したのか、この契約でお互いが守らなければいけないことは一体何なのか、それがわからなくなってしまうので、書面にきちっと残しておきましょうというのが基本的な考え方ですね。

寺嶋 では、書面に残して、書面の場合はハンコとかをこう、同意のために押すじゃないですか。で、「双方の合意がそれで成立しました」ってなったら、もう取り消せない……?

深井 契約が成立した後に、一方的にその契約の内容を破棄するというのは基本的にはできないんですね。「契約は守られなければならない」というのが法律の一般的なルールということになっているので、相手に何かですね、責任が発生するとか、契約違反が発生するとか、そういうことがない限り、一方的に契約を破棄するということは、基本的にはできないということになる。

寺嶋 その契約書にどういうことが書いてあるのか、ちゃんと合意する前に確認しないと、「なんかとんでもないことが書いてあるのに押しちゃって取り消せない!」とかっていうことが起こる?

深井 そうですね。やっぱりアイドルの問題でもよくそういうことは聞く話で、アイドルとして活動したいから、契約はしたんだけれども、後になって見てみたらとんでもないことが書いてあるということで相談に来るケースが結構ありますね。

寺嶋 なるほど。でも、アイドルになりたいなって思って、いろいろとオーディション受けたりとかチャンスを伺ってる側からすると、「ちょっともう細かいことは後で考えよう、とりあえずこのチャンスを掴もう!」みたいな気持ちで、ハンコ押しちゃうなり、スタートを切っちゃう。あるいは、「書面を交わしてないけど、そういうのはおいおいちょっと作るからとりあえず活動を始めてみようよ」みたいな パターンもあるじゃないですか。そういうことが起きちゃった時に、何を気をつけたらいいんですかね。

深井 前半の質問は、契約書を交わす時にきちんと読ませてくれとか、そういうことだと思うんですよね。それはやっぱり、ちゃんと読むということ。それから、契約早くしたいと急ぎたい気持ちはわかるんですけど、やっぱり1回持って帰って、わかる人に読んでもらうとか、未成年の方だったらきちんと親御さんに見てもらってきちんと判断してもらうとか、そういうことは絶対に必要じゃないかなと 思います。
でも、たまにですね、「持って帰んのダメ」っていう風に言う人もいるんですよね。
ちょうどですね。昨日相談を受けた のがまさにそれで。「契約書を持って帰らせてくれ」と言ったら、ダメだと言われたと。どうすればいいですかと。理由はよくわかんないんですけどね。やっぱり不利益な条項が入ってるから、もうそれをなし崩し的に合意させたいのかなっていう気はしますけれども。

寺嶋 でも、そっか。後ろめたいことがなければ、別にそんなことダメって言わないから。結構それが1つの判断基準になるのか。

深井 そうですね。やっぱりそういうこと言う事務所だと、後々トラブルになる可能性非常に高いので、ちょっと契約すること自体もですね、考え直してはどうかというアドバイスはしましたけど。

寺嶋 そうなんだよー、冷静になれば今ならわかるっていうこといっぱいあるんですけど、なんかその時は「それを逃したらもう次がないかも」とか、「せっかくこんなふうに自分に声をかけてくれたのに」とか思っちゃうアイドル側の気持ちも、私は分かるから、そういう人がこの番組聞いてるといいなと思って喋ってるんですけど。

深井 あとは、契約書を作ってくれないっていうケース、後半の質問がありましたけど、それはやっぱり作ってくれときちんとまず言うことですよね。それでも作んないというケースもですね、やっぱり結構あって、 相談に来たアイドルが、「いや、契約書ないんです」っていうケースも確かにありました。でも最近はですね、その「契約書を作らない」ということが結構、4、5年前かな、ちょっとニュースになって問題になって。国の機関である公正取引委員会というですね。きちんとした取引を監視する機関が国にあるんですけど、その機関も「契約書作んないのはダメですよ」というですね、意見を出していたりとかして、最近では結構、契約書を作ってくれてるというケースが多いと思います。

寺嶋 じゃ、まずは作ってもらうこと。作ってもらったなら内容を確認すること。でも「自分じゃ難しくてよくわからない、しかし分かる人が周りにいない」みたいな場合はどうしたらいいですか?

深井 その時は僕にください。

寺嶋 どうやって連絡したらいいんですか?

深井 僕twitterのアカウントをですね、DM開いてますので。DMで連絡くれれば、アイドルさんからの質問には、気付いたらちゃんと返してます。ちょっとたまに気づかないで放置しちゃう時があったりするんで、繰り返しいただいた方がいいと思うんですけど、 いただいた質問には可能な限り答えてるので、連絡くれればと思います。

寺嶋 すごい開かれている!実際来ますか?

深井 そうですね。DMで相談を受けるルートが1番多いですね。ただ、契約する段階での相談ってやっぱりあんまりないんですよね。やっぱりその時には浮き足立っちゃってるのかわかんないけども、サインしちゃってからの相談がやっぱり多いです。

寺嶋 そうですよね。では、なるべくそれを防ぐために、契約の時点できちんと書面を読みましょう!ということですね。読めなかったら、深井先生に相談をする!
で、あと私、1個気になったというか、この場合どうなのかなって思ったのが、契約書を作ってくれないけど、例えば「契約書ちょっと後から作るんですけど、月にいくらのお給料で活動しましょうね」とか、「契約書は作ってないけど、こんな仕事をやってください、こんなことはしちゃダメですよ」っていうLINEかメールとかが残ってたら、それって何か効力はあるんですか?

深井 そうですね、さっき言ったように、お互いでどういう約束をしたのかってことで契約が決まるので。そのLINEとかメールのやり取りで、お互いでこういう約束をしたということがきちんとメールで証明できるんであれば、「この約束は確かにありましたよね」とか、「この約束はなかったよね」ということが証明できれば、それも契約の内容になります。だから、「お給料これだけ払うよ」っていうLINEがあるんであれば、それが契約の内容になるということになりますね。

寺嶋 じゃ、そういうのはちゃんとっておいた方がいいんですね。

深井 そうですね。LINEは絶対消さないでください。「LINE消しちゃった」っていうアイドル、ほんとに多いんですけど。

寺嶋 そうなんだ!なんでだろう!?

深井 多分ね、「あんまり思い出したくないから消しちゃった」っていう子もいるんですが。LINEは絶対消さないようにしてもらった方がいいと思います。

寺嶋 それは切ない話だな……。では、そういった契約書、あるいはLINEなりメールなり、何か書面で残っていたとして、でも、そんな中、問題が起きてしまいました、となった時によく問題になるのは、どういう条項ですかね。

深井 うん、そうですね。1番相談で多いのは、やっぱり辞める時の違約金とか賠償金とか、そういう問題ですかね。

寺嶋 それは私も聞いたことがあります。

深井 途中で辞めたいとかですね。そういう人が非常に多いんですけど、「契約の期間はまだあと1年残ってるんだけど、途中で辞めたいと。そういった場合には違約金請求するよ」とか、そういうのが非常に多いですね。

寺嶋 それは契約書に書いてあるんですか。「途中で辞めたら1000万円!」みたいな。

深井 そうですね、1000万、ちょっと高いですけど、そういうことが書いてあります。

寺嶋 あと、私が直接聞いたっていうか、噂で聞いたり、本で書いてあった例で見たのは、「あなたが活動してたら本来このくらい稼げたはずなのに、途中で辞めるんだったら、その分を払ってもらいますよ」みたいな違約金。

深井 そういう風に書いてある契約書も結構よく見ますね。将来的なね、利益全部賠償してくださいとか。で、これは結構謎なんですけど、途中でやめたら、これまで払ってきた報酬とか、交通費とか全部返せっていう、そういう違約金条項になってる契約書も見ました。それは本当に意味がわからないです。

寺嶋 意味わからんな!
ちょっと話逸れるんですけど。時々SNSで話題になる、カップルが付き合ってて、別れるときに「今まであなたに奢った分全部お金返せ」とか、「あなたにプレゼントした分返せ」とかって言われましたみたいなこと、バズる時あるじゃないですか。あれって成立するんですか?

深井 すごく厳密な法律の話をすると、カップルが、そのどっちかがどっちかにプレゼントをしたと。これも契約なんですね、実は。契約の名前としては「贈与」というもので。

寺嶋 はい。

深井 「ものをあげる」、「プレゼントする」。で、その贈与は、もうあげた時点で成立してますので、 それを後から取り消すことはできない、ということになってますね。

寺嶋 じゃあ、もうあげた時点で、契約は終わりだから、後から「いくら奢ったんだ」とか、「プレゼント返せ」とかっていうことにはならない。主張できない!そうなんだ!それは教えてあげたい!(誰に?)
ちょっと話が逸れちゃいましたが、他にはどんな条項が問題になりがちですか。

深井 そうですね、やっぱり多い相談としては、「お給料が払われない」ということで。すごく低額のお給料しか払われないという話とか、その低額のお給料ですら払われない、交通費も払われないというお金の話ですとか。あとは移籍するときですね、事務所辞めた後に、活動を制限する。「2年間は活動しちゃいけませんよ」とか。

寺嶋 それはよく聞きますね。芸名使っちゃいけませんよとか?

深井 そういう移籍する時の話ですとか。あとは、あんまり最近見かけなくなりましたけど、過去にあった相談としては、よく アイドルの契約では問題になる、恋愛禁止ですね。恋愛禁止条項の問題なんかがたまに、法律上問題になることがあります。

寺嶋 書面を作ったからといって安心ではないんですね。

深井 そうですね。書面の中にはですね、結構、アイドル側に不利な条項とか非常に多く入ってることが多いので、そういった 書面を作った後に起こってしまった問題をどう解決するのか、そういう時に弁護士のとこに相談に来る方が多いですね。

寺嶋 それはすごく頻発してるじゃないですか、そういう問題が。アイドルと事務所で、書面に書いてあったことがアイドルに不利でしたとか、そういうこと。私が聞いた今までの話とか、この本で読んだ話とかも、どうしてもこう、悪い事務所…"アイドルにとって不利なことをしてくる悪い事務所"VS"かわいそうな搾取されアイドル"みたいな話を聞くことが多いんですけど。実際それはすごい多くて問題なんですけど、 逆はありますか。事務所側が「手に負えない」みたいになって相談してくること。

深井 そうですね。僕のところに相談に来るアイドルさんの話をちゃんと聞いて、 「やっぱりこれちょっと事務所側に問題あるな」という風に判断するケースが多いんですけど。

寺嶋 なんでそうなっちゃうんだろう〜。

深井 一方で、その、もちろん事務所側からの相談も受けたことがあるんですね。何回か、「事務所の経営者なんですけど」っていう方の相談を受けましたけれども、その人の話聞いて、もちろん一方的な話だけじゃあれなんで、証拠とかを見せてもらって?その話を総合すると、やっぱちょっとアイドルに問題があるよねっていう風に判断せざるを得ない案件もやっぱりあったし。 
あとは、報道されてる事実とかで、その報道されてる事実が本当なのであれば、確かにちょっとアイドルも問題なんじゃないかなって思われるような案件もやっぱありますよね。だから、 僕自身はどっちかというとアイドルさんの味方することが多いですけれども、「必ずしもアイドル側が必ず善で事務所が悪で」っていうような構造はさすがに考えてはいない。

寺嶋 そうですよね。それはケースバイケースですよね。なんかこういうお話をしてると、私すごくアイドルの労働環境に興味あるし、改善していきたいし、自分もいい場所でこれからも仕事していきたいなと思っているけど、なんかすごくアイドルとして、 「事務所の人たちに物申す!」みたいな見え方になっちゃうのが割と不本意で。
悪い人たちには物申したいけど、いい人もいっぱいいるじゃないですか。考えてくれる人とか、改善しようと してくれてる人とか。なのに、「アイドルの労働環境のこと話したいんです」って言うと、にそうだよね、アイドルっていっつも搾取されてて、地下アイドルって怖いよね」みたいな、 そういう見え方になっちゃうのも嫌だなと思っているんですよね。

深井 弁護士の仕事はですね、やっぱり依頼者から話聞いて、依頼者のためになることをしてあげると。で、僕の依頼者はもう圧倒的にアイドル側なので、どうしてもアイドルの言い分、事務所の問題点みたいなのがね、僕にとっては目立ってしまいますけれども、 必ずしもね、そうじゃない案件ももちろんあると思いますから、それについてはしっかり証拠と法律を持って臨みたいとは思って。

寺嶋 なるほど。これもまた違う話っていうか、それるんですけど、アイドルに限らず、依頼者の方がめちゃくちゃな時ってあるんですか。「弁護士さんに助けてもらいたいんです」って言ってきたけど、「それはちょっとあなたの主張が無理じゃない?」みたいな。

深井 「本人の解釈とか、本人が受けた事実、もしくは認識している事実からしたらこうなるんだ」という主張をしてくるも依頼者もいますけど、 やっぱりそれはちょっと法律的には難しいですよねっていう。法律のプロから見るとそれは難しいし、「あなたの言ってるその事実、確かにその通りなのかもしんないけど、証拠がないよね」っていうような場合とかで、「ちょっとその請求はなかなか難しいですよね」っていうふうにお断りすることはもちろんありますよね。

寺嶋 そうなんだ。

深井 あとはもう、「言ってることが仮に事実だったとしても、それは全然法的には問題ないことですよ」っていうこと、もちろんありますけどね。

寺嶋 それを法律に照らして(判断するんですね)。
でも「助けてください」って言ってくる人って、結構切羽詰まってるわけじゃないですか。その人に 冷静な事実をお伝えするって、結構大変なお仕事ですね。

深井 確かにそうですね。それで ね、弁護士が恨まれたりとか、役に立たない弁護士だったみたいなことをね、言われてしまったりすることもあります。それはそれで大変ですね。

寺嶋 大変だ!これ聴いてる方がどんなお仕事の方かわからないけど、 弁護士さんの話を聞くって、それこそ自分が相談に行く時ぐらいしかないじゃないですか、基本的には。だから私、これを機にどんどん「弁護士とはなんぞや」ってこともちょっと聞きたくなってしまっているんですが、アイドルの話に戻りますと、あとは「アイドルの契約形態について」っていうのも1つ気になっていて。
よく「アイドルは個人事業主ですよ。だから自分で経理やって確定申告して」とか、「業務委託契約だから残業代とかボーナスとかないよ」とかいう話はだんだん、自分たちも理解するようになってきてるし、そういう話題がアイドル界隈で出ることも増えてきたんですが、そこを一旦整理したいです。

深井 そうですね、業務委託契約という風によく言われてます。アイドルの契約って、契約書には「マネジメント契約」とか、そういう風に書いてあることが多いんですけど、その法的性質は業務委託契約だっていう風に言われていることが多いです。「業務委託」って結構聞き慣れない言葉かもしれませんけど、「ある仕事を誰かにお願いして、それをやってもらう」、そういう契約の総称ですね。例えばですけど、今録音してますけど、じゃあこのテープ起こしをですね、業者さんに頼むと。「じゃあこのテープ起こしをお願いします」って頼んだら、業者さんがやってくれる。それも業務委託。

寺嶋 私なり、深井先生なりが、業者さんにテープ起こしの業務を委託した、っていうことですよね。アイドルとその事務所の関係も「業務委託」ってことになると。

深井 さっき言ったように、契約が成立すると、権利と義務が発生するっていうことですよね。じゃあ、そうすると、アイドルがここで負う義務って何なのかっていうと、事務所が取ってきた仕事をアイドルに業務として事務所が委託するわけですね。それを行わなければいけない義務。
例えばですけど、ライブを予約してきたよと。うんうん。じゃあそこのライブ出てねという風にアイドルに委託したら、それに応じてそのライブに出演しないといけない。そういう義務がアイドル側に生じると。それが「アイドル側がやらなければいけない義務」。逆に言うと、「事務所がアイドルに委託する業務」ということになるわけですね。

寺嶋 はい。

深井 ただ、事務所側もやらなきゃいけない仕事はもちろんあって。事務所側がやる仕事っていうのは、今言ったように、仕事を取ってくるですとか、 あとはマネジメント、広報。衣装の作成だったり、レコーディングの手配をしたりとか、そういう事務作業はアイドルやらないですよね。全部事務所が、本来はやることになっていると。それはアイドル側が、「やるべき内容を事務所に委託する」という風なかたちになっているわけです。ですので、どこまでやるかってのはね、契約書に書いてあることだと思うんですけど、アイドルは、ライブとかイベントに出て活動する、そういう業務を委託される。事務所側はマネージメントですかね、広報とかそういうものをアイドルから委託される、お互いに委託される関係になってるということです。

寺嶋 なるほど。じゃあ、「業務委託だから、 言われた仕事をやらなきゃいけないんだ」とかいうアイドル側の気持ちが問題になることも多いけど、マネージメント側、 運営側が例えば仕事をなかなか取ってきてくれないとか、あとはこう人数多いグループだと、例えばソロ仕事とかがたまたま入っても、マネージャーさんが忙しすぎて捌けないうちに流れてしまったとかいう話を聞いたことがあるんですけど、そういうのは運営側が業務委託で負ってる義務をちゃんと遂行してない、ってことになっちゃう。

深井 僕はそう思いますよ。だから、 集客ができてないことをアイドルのせいにする事務所とかありますけど、それはちょっと僕は話が違うんじゃないかなと思ってて。
やっぱマネジメントは事務所の仕事なわけなので、そういったことをする、イベント取ってきたりとか、集客したりとか、あとは事務仕事を捌くってのは、事務所側が負ってる業務だと思いますので、そういうことができてないのであれば、どっちかって言うと事務所の方の義務違反というか、そういうことになりますよ。

寺嶋 そういうことは多分すごくいろんなところで起きていて、でもやっぱりアイドル側も「お世話になってるしな」とか、「マネージャーさん忙しそうだしな」とか思うと、そこ強く言えなかったり。あと、「集客ないからお給料ないよ」みたいな話の時とかも、「そうだよな」って思って、「自分のせいだな」で終わっちゃう子が結構多い気がしていて。でもなんかそこで、「全部事務所のせいなんだから事務所がちゃんとやってよ!」っていうのも違う気がするし。難しいですね。

深井 そうですね。ちょっと、どこまでが事務所の仕事で、どこまでがね、アイドルの仕事なのか。集客は確かにアイドルもやんなきゃいけないってのはね、それはあると思うので 難しいとは思うんですけれども。ただ、やっぱりどうしてもね、アイドルだけではできないようなことも事務所と一緒にやってアイドル業を営んでいくわけですから、やっぱりお互いにやらなきゃいけないことをやっていかないといけないと思うんですけども。やっぱり1番問題なのは、何か事務所の方がやってくれてない時に、アイドルの方が立場が弱いので事務所に強く言えない、そういうことで改善されない。それはやっぱ問題かなと思いますね。

寺嶋 アイドル側が「自分のせいかな」とか、「ここまで言っていいのかな」みたいに悩んでることって多分いっぱいあると思うんですよ。で、実際、自分の力不足を日々痛感する仕事でもあるから、「 なんかもっとこういうことができたらな」とか、「もっと自分に人気があれば」とかっていうその軸と、仕事としてお互いやらなきゃいけないことの軸を、混同させないようにするためにも、アイドル同士とか、運営さん交えてでも、もっと情報交換できる場があったらいいなと日々思っているのが今です。

深井 そうですね。この番組をね、始めたきっかけもそういうね、寺嶋さんの問題意識だったと思ってますので、これをきっかけにちょっとそういうのを考える機会にしてもらえればなと思います。

寺嶋 みんなで頑張りましょう!
というわけで第1回、いかがだったでしょうか。

こんな感じで、私がどんどん質問をしながら、「 地下アイドルの法律相談」という本に基づきつつ、アイドルと法律についてお話ししていく番組です。

この番組のご感想は「#アイドルと法律」でぜひツイート…ツイートじゃないんだ、もう!ポストですよね。ポストしてください。よろしくお願いします。そして、「この番組で取り上げてもらいたい、でもちょっとXに書き込むのは気が引ける」という匿名相談がもしございましたら、深井先生にDMしていいそうです。

深井 はい、DM開いてますので、いただいたらこの番組で取り上げたり、もしくは直接答えたりね。可能であればしたいと思いますので。質問があればぜひお寄せください。

寺嶋 もちろん、「番組で取り上げてほしくないけど深井先生に相談したい」っていうアイドルの方もぜひ、ご連絡していいんですよね。

深井 そうですね。はい、ぜひどうぞ。

寺嶋 なんて親切!そして万一、役に立つかはわかりませんが、ゆっふぃーと話したいって思ってくれたアイドルの方は、私のお仕事依頼のフォームがありますので、そちらから何かしらご連絡いただければ。私、ごめんなさいDMとか開いてないんですけど、infoからご連絡いただければと思いますので、何かお力になれたら嬉しく思っております。
そして、この番組でお話したことは後日noteで公開予定です。寺嶋由芙のnoteに、文章にして公開する予定ですので、そちらにコメントなどいただくのもぜひよろしくお願いいたします!

podcast「アイドルと法律」初回は「アイドルと契約書の話」お送りしました。
次回第2回は「アイドルとお金の話」をテーマにお送りします。ここまでのお相手は、ゆっふぃーこと寺嶋由芙と

深井 弁護士の深井剛志でした。

深井・寺嶋 ありがとうございました!




↓以下、有料部分では、深井先生からの補足情報やゆっふぃーの感想コラムをお読みいただけます。(1163文字)


ここから先は

1,163字

¥ 300

この記事が参加している募集

仕事について話そう

応援ありがとうございます(゚ω゚)更新頑張ります!