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逆噴射小説大賞2020に応募したもの

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タイトル通りの物です
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年に一度の先着15食限定特別シークレットラーメンとラーメン大好き細屋さん

年に一度の先着15食限定特別シークレットラーメンとラーメン大好き細屋さん

「きたぁ!今年もあの限定ラーメンがきたあ!」
私はラーメン大好きOLの細屋さん。お気に入りのお店の限定メニューのお知らせを読んで小躍りしてる。

そのラーメンは煮干し出汁にさらに干しアジを加え、スダチのスライスを添えた、濃くも後味さっぱりおいしいラーメン。その旨味深い味を思い出すだけで私はヘヴンナウ!
但し限定ものだけあって、今夜先着15名様までというシビアな数だ。これを食べるには定時で仕事を終わ

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海王星コロニーの地下埋蔵物探査 ~46億キロ先の宝探し~

海王星コロニーの地下埋蔵物探査 ~46億キロ先の宝探し~

二人の男女が薄暗い地下通路を歩いている。用途不明の謎のコードが蜘蛛の巣のように壁を這い、剥げて落ちた塗装が散らばっている。錆の臭いが二人の鼻につく。
ひとりは長い睫毛、緑の目の女。彼女は手足と腰の後ろに板のようなものを括り付け銃を背負っていた。
もう一人は短く刈った黒髪、眠たげな目の男。作業着下から見える彼の首の付け根から顎先まで流水状のタトゥーが覆い、その顔には古の視力矯正器具“眼鏡”を模したス

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元治元年の狼退治始末

元治元年の狼退治始末

「狼ノ群れ所々村々へ出る。都合二十名余リ、喰殺す。」

時は幕末、元治元年の秋。尾張藩東部の村々に狼の群れが現れ、子供含む二十余名の犠牲者が出たと藩に報告が上がった。
尾張藩は御触れを出し、尾張東部を管理する水野代官所の統括下の村々から猟師を集めた。
そしてある村の崖下にある空き長屋を中心にコの字型に土塁を築き、狼どもをそこへおびき寄せ、退治することとなった。

濃い灰色の雲が崖の下の村を重苦しく

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人食いの怪物は紺色の月の下で啼く

人食いの怪物は紺色の月の下で啼く

軌道エレベーターから見下ろした“仮寓の星”の地表は白緑のオーロラの夜に染まっていた。窓に映るおれの黄色と白の毛に包まれた長い耳の先に、おれの目の色と同じ紺色の月が3本のリングを纏って地平線の上に浮かんでいる。
あれが浮かんでいるってことは今は深夜か。
「帰りがだいぶ遅くなってしまったなあ」

円柱型の住宅が立ち並ぶ街をおれは一人歩く。3輪の紺色の月が真上に輝いて足元を照らし、神秘的な影を作っている

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黒髪を抱いて沈む

黒髪を抱いて沈む

高校生の高濱夏帆が、自分には潤一郎という10歳年上の兄がいたことと、その死を知ったのは同時だった。
母親が違う兄は夏帆たち一家を避けていたからだ。

いま夏帆は葬儀会場の親族控室でひとり棺のそばにいる。棺の前の渦巻き状のお香は細い煙を漂わせている。
初めて見る兄は花に囲まれて静かに眠っているように見えた。それでも土気色の顔と色のない唇が彼が死んだと突きつける。兄は死後数日経って発見されたらしいがと

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