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引き出し詐欺撲滅ATM

 会社の給料日。ちょうど休みだったので俺は最寄りのATMで現金を引き出すことにした。ATMの前に立つと音声アナウンスが流れる。
 
『いらっしゃいませ。通帳、またはカードをお入れください』

 俺は通帳を入れた。

『お取引の内容を選択してください』

 「引き出し」を選択。

『暗証番号を入力してください』

 4桁の番号を入力して俺は引き出す金額を考える。さて、いくらにしようか。

『お引き出しの目的を入力してください』

 俺はしばらく言葉が出なかった。今までこんなのなかったぞ。引き出しの目的? 何でもよくない?

『最初からやり直してください』

 通帳が返却された。俺は何かの間違いだろうと再び通帳を入れて取引の内容、暗証番号を入力した。

『お引き出しの目的を入力してください』

 間違いではなかった。ええ……誰だよこんな項目追加した奴。ここ以外のATMだと歩いて十分以上はかかる。なるべくここで引き出したい。
 しかし引き出しの目的ねぇ。要は使い道だろ。俺は少し考え、文字を有力する。

『せいかつひ』

 普通はこれだろ。俺は確認ボタンを押した。

『本当ですか?』

 疑り深いATMだな。どっかで人間が操作してんじゃないだろうな。俺は『ほんとうです』と打ち込んだ。

『ファイナルアンサー?』

 めんどくせぇ……どっかのクイズ番組か。これ、『ふぁいなるあんさー』って打ち込めばいいのか? ひらがなしか入力できないようだし、そう打ち込むしかないよな。俺は恐る恐る『ふぁいなるあんさー』と打ち込んだ。

『正解です』

 何が? 俺、クイズやってるつもり一切ないんだけど……。

『引き出しますか?』

 そのために来てんだよ。何なんだこのATM。俺は『はい』と入力した。

『お引き出しの金額を入力してください』

 やっと引き出せる。手間がかかるATMだ。俺は「5」「万」「円」をそれぞれタッチし、間違いがないことを確かめて「確認」を押した。

『引き出し詐欺撲滅にご協力頂けますか?』

 初耳の言葉なんだが。なんだよ引き出し詐欺って……。画面には「協力する」「協力しない」の2つ表示されている。マジでなんなのこれ。俺はよくわからないまま「協力する」を押した。

『またのご利用、お待ちしております』

 結局、何にも特別なことは起きず通帳が返され、俺は現金を財布に入れた。変なATMだな。

「……あれ?」

 帰宅後、改めて通帳を確認すると、残高が本来の金額より少ないことに気づいた。10万円ほど少ない。一体なぜ。

「まさか」

 あの引き出し詐欺とかいうわけのわからん画面が出てきたとき、俺は「協力する」を選択した。あのときに何らかの遠隔操作で……え、つまり俺は……。

「やられたぁ!」

 

 
 


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