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ミノ

川崎は自宅兼お店の自慢の中庭で炭火で肉を焼いていた。
炭の扱いは難しく、汗が滴り落ちる。
目の下の汗を拭う。目の下に黒い墨がつく。

質屋を営んでいる川崎だが、この時間帯に人が来る事はほとんどない。開店休業状態である。

だから少し早いがひとり焼肉を開始した。

片面づつ、じっくりと、網の目から充分に脂が滴り落ちたら食べ頃である。

ロース、ハラミ、タン、ミノ。。

この日の為に仕入れたお肉を所狭しと焼いていく。

タンはレモンを絞り、ミノはネギ塩で頂く。

ミノを口に放り込んだ瞬間、ピンポン~♪といたずらにインターホンが鳴る。

こんな時間に客が来た。

ふざけるな。

目の下の墨を隠す為サングラスを付ける。

ミノはまだ飲み込めない。

現れたのは片目青色の目充血男。

ポケットから取り出した女性物のネックレスや時計。
振られた腹いせか、盗んだ物か。

そんな事はどうでもいい。ミノはまだ飲み込めない。
商品をお預かりし、査定のフリをして、中庭の網の様子を見に行く。一度肉をひっくり返す。

普通なら少なくとも80万円を提示したい所だが、焼肉の邪魔をされたから3万4000円を提示した。
この時計の価値をわかってなさそうだし、なんかネックレスにお米付いてるし。
質屋の目利きは商品ではなく、まず客を見る。
俺のお師匠さんの佐々木さんの言葉だ。

男があっさり3万4000円を受け入れると小さくガッツポーズした。俺の勝ちだ。

さて、焼肉の続きだ。

ミノはまだ飲み込めない。





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