複数のカードをスマホでひとまとめにするウォレットアプリ「Curve」
こんにちは!Z Venture Capitalの湯田です。
みなさんは、支払いの際にクレジットカードを利用していますか?
一般社団法人日本クレジットカード協会が調査した「クレジットカード発行枚数調査結果の公表について」によれば、日本人は、成人一人当たり約3枚のクレジットカードを保有しています。各種使い分けでお得な特典が得られる一方、何枚も持ち歩くのが面倒だと感じたことはありませんか?また、正確な利用額が把握できず使いすぎてしまったり、間違って本来使うべきカードでない他のカードで決済してしまう、といった不都合な経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。
Fintech先進国と言われるイギリスでは、クレジットカードやデビットカードなど、複数のカードをスマホでひとまとめにできるアプリ「Curve」が人気です。
先日のシリーズCエクステンションラウンドで£5,800万を調達し、総額£1億3,300万ラウンドを完了したことが発表されました。これは今年のFintech領域における最大規模の調達の一つです。すでにユーザー数は450万人を超えており、2024年頭に黒字化を見込んでいるという「Curve」。今回は彼らの人気の理由に迫りたいと思います。
今回の記事も現在Z Venture Capitalでインターンをしているmomokaさんに調査の協力を頂いています。スタートアップに関する発信を行っていますのでこちらのTwitterもぜひフォローください。
Curveの基本情報
設立:2015/United Kingdom
累計調達金額:$330.47M/シリーズC
主要投資家:IDC Ventures, Fuel Venture Capital, Vulcan Capital, Britannia Financial Group, Cohen Circle, Cercano Managementなど
従業員数:約380人
CEO Shachar Bialick氏の経歴
Curveはイスラエル出身のShachar Bialickが創業したスタートアップです。
Bialickの経歴は非常に印象的で学歴、職歴ともに幅広い経験を持っているので最初に少し触れておきます。
彼は16歳のときに高校から飛び級でTel Aviv Universityに入学し、そこで経済学、法学の学士、さらにBar-Ilan Universityでコンピュータサイエンスの学士を取得しました。そして数年後、世界有数のビジネススクールであるINSEADでMBAを取得した際に、Curveの共同設立者であるMostyn-WilliamsとFoster-Carterと出会っています。(※Mostyn-WilliamsはCurveに参加した後1年で離れ、Foster-Carterは2017年にMonzoのCOOとして参画)
Bialickは大学卒業後はイスラエル国防軍のチームリーダーを務めた後、テクノロジー及び通信領域でSMS-SalesやDoorCenter I Ltd.というスタートアップを創業しました。また、法律の分野でもジュニアアソシエイトとして働き、幅広い知識と専門知識を獲得しています。その後、Machshavot SmartJOBやSmartEQという会社を設立し、HRサービスを提供し、幅広い経験を積んでいます。Curveを創業する直前には、国際送金のフィンテック企業として知られるCheckout.comでのHead of Productを務めており、その経験も彼のキャリアにおいて重要な役割を果たしていることが伺えます。
そんな彼が作る「Curve」。
ここからは特徴的な機能に触れながら、人気の秘密に迫っていきたいと思います。
Curveが提供する5つの機能
Curveは、独自のテクノロジーを活かして「Layer3(Over The Top)」と呼ばれるアプローチを取っています。既存の決済事業者の一つ上のレイヤーで決済取引をひとまとめにしてコントロールするポジションを取っているということです。これにより、下記に挙げるような特徴的な機能を実現し、ユーザーエクスペリエンスを大幅に向上させることができているのです。
1. Go Back in Time:支払いカードを後から切り替えられる
この機能はCurveの最も特徴的な機能と言っても良いでしょう。「Go Back in Time」はその名の通り、支払いを誤って行ってしまった際に、最大30日以内であれば、支払い元を後から別のカードに切り替えることができる機能です。無料で使用でき、信用スコアに影響を与えないため、ユーザーはCurveを通じて気軽に決済をすることができます。Curveは「Go Back in Time」を商標登録しており、他のサービスにない機能として強く打ち出しています。「Go Back in Time」は、誤って支払った取引の修正だけでなく、クレジットカードの0%の無利子期間を活用する機能として、デビットカードから取引を切り替えて手元のキャッシュを確保する手段としても使われています。
2. Anti-embarrassment mode:カードの支払い拒否を防げる
Curveにはもう一つ、ユーザーにとって安心して利用できる優れた機能があります。それがAnti-embarrassment mode(恥ずかしさ防止モード)です。
「レジでクレジットカードが使えない!」みなさんそういった経験が一度や二度はあると思います。このような状況はとても困りますし、恥ずかしくもありますよね。様々な要因がありますが、よくあるのはカードの有効期限切れや、支払いに使いすぎてしまって利用限度額を超えた時などです。このように支払いを拒否されてしまった時に役立つのがこの機能です。
ユーザーは万が一支払いが拒否された時に備えて、事前にバックアップカードを選択しておきます。この機能を有効にすると、支払いが失敗した際にバックアップカードが自動的にアクティブになり、代わりに支払いが行われます。動作は裏側で行われており、レジ係の人や一緒にいる友人に気づかれることはありません。よって恥ずかしい状況に陥るのを防げるというわけです。まさに、複数のカードを一つにまとめるCurveだから提供できる機能です。
3. Travel with Curve:為替手数料を節約できる
日本国内でクレジットカードの1回払いをしている方は感じないかもしれませんが、海外でクレジットカード決済をすると、1回ごとに海外手数料が発生しています。これはカード会社から加盟店に対して料金を支払う際に、現地通貨に変換するための事務処理のためのコストです。両替は為替レートを基準に行われますが、さらに独自の海外手数料が上乗せされた金額が請求されるのが一般的であり、その料率はブランドによって異なります。wiseの記事によると平均で約2%の手数料が発生しています。Curveはこのように煩雑な海外手数料をゼロにして、為替レートも安くすることで、海外旅行時に節約できる点も特徴の一つです。
外貨取引手数料不要: Curveを使用すると、海外で使用するすべてのカードに対して外貨取引手数料がかからなくなります。クレジットカードを含め、どのカードでも外貨で支出できます。ただし外貨取引手数料には利用制限があり、1か月あたり€1,000です。
ATM手数料を回避: 海外での現金引き出し時にも手数料を支払う必要がありません。旅行中、どうしても現金が必要となった際に便利です。1か月あたり€200までは無料です。
盗難防止: アプリ内でカードを即座にロック/アンロックできるため、カードが盗まれた場合でも他の誰もそれを使用できなくなります。また、リアルタイムのアラートを受け取り、現地通貨および自国通貨で支出内容を確認できます。
低い為替レート: Curveの為替レートは一般的に大手銀行よりも低いマークアップを提供します。これは、Curveが卸売レートを使用しているためです。Curveに追加したすべてのカードは自動的にこの為替レートを採用するため、銀行による高額な手数料を心配する必要はありません。
4. Get Rewards:報酬が獲得できる、それも二重で
Curveの「Earn as you spend」機能は、支払いに応じてキャッシュバックを獲得できる機能です。 キャッシュバックはすぐに利用することも、特別なご褒美のために貯めることもできます。リワード機能自体は他のカードにも多くありますが、Curveを使うと、決済元のカードのキャッシュバックとCurveのキャッシュバックを2重取りが可能となります。(Double Dip Rewards)また、Curve Black(€9.99)やCurve Metal(€14.99)といったサブスクリプションプランに加入している場合、自分がよく買い物をする場所をいくつか指定して、1%のキャッシュバックをいつでも獲得できるように設定できます。Curve Blackでは3つ、Curve Metalでは6つの小売業者で1%のキャッシュバックを永遠に受け取る設定が可能です。日々多くの支払いを行う人にとってはキャッシュバックによって月額費用をペイできる設計になっていると思われます。
5. Curve Flex:柔軟な後払い
「Curve Flex」は過去1年以内の支払いを分割で後払いできるようにする機能です。後払い自体は一般的な機能ではありますが、クレジットカードや当座貸越は金利の高さや返済額が把握しにくいという課題があります。また、カードや支払い先ごとに異なる返済条件であり、複数を管理するのはさらに大変です。Curveではそれらを取りまとめる立場としてほぼ全ての取引に対して3、6、9、または 11 か月の低金利の分割払いの適用を可能としています。
ビジネスモデル
Curveは、サブスクリプション、インターチェンジ手数料、各種支払手数料、ローンの利息、提携によって収益を上げているようです。
サブスクリプション: Curveは無料でも使えますが、有料プランには、登録するカードの枚数を増やせたり、キャッシュバックを強化できたり、海外保険が付帯するなど、様々な特典が含まれています。
インターチェンジ手数料: Curveは取引の際に発生するインターチェンジ手数料の一部を得ています。これはカード決済を受け入れる加盟店からの手数料であり、一般的な収入源です。
支払手数料: Curveは一部の取引に対して手数料を課しており、これにより外貨送金や通貨の変換に関連するコストを補います。また、ATM引き出しにも手数料が発生します。
ローンの利息: 分割払いや遅延支払いに関連する収益です。
提携: Curveは他のブランドやサービス提供者と提携しており、提携からも収益を得ています。特典やキャッシュバックなどが提供される代わりに、提携先から紹介手数料を受け取ることがあるとのことです。
Curveの発表によれば、2024年初めに黒字化を目指す、と述べています。それが本当だとすると、黒字化が難しいと言われるFintechスタートアップとしては特筆すべき存在と言えるでしょう。しかし彼らの収益規模やその内容について、現時点では非公表のため、今回の調査からはその実態はわかりませんでした。
Curveの歴史
Curveはスタートアップとしては新しい企業ではありません。そこでCurveのこれまでの成長の歴史をまとめてみました。現在に至るまで、多くの地道な施策が積み重ねられてきたことがわかります。何より、Fintech先進国であるイギリスとはいえ、2015年時点から変わらない今のサービス構想を描いていたというのは驚きですね。
2015年:創業
当初から一つのカードを持つことですべてのクレジットカードとデビットカードへのアクセスを提供することを目標に創業
3人の共同設立者全員が印象的な実績を持っていたこともあり、Curveはローンチ前の状態で$200万のSeed資金の調達をすることに成功
2016年:β版リリース
β版で「Curveカード」と支払いにカードを自由に選択できるモバイルアプリを発表
10万人の顧客を獲得
特に、収支管理ニーズが強い起業家やフリーランサー、海外旅行先での為替手数料の課題が大きい旅行者、といった特定のセグメントをターゲットとして顧客獲得
2018年:正式リリース
2018年4月の正式リリース時点で、ウェイティングリストに追加で5万人が登録
このリリース時に、カードのロック機能や即時通知機能、それに加えて外貨両替手数料を削減する機能を追加。また、"Go Back in Time"機能も追加。
また同年、Curveは3つの小売業者で1%のリアルタイムキャッシュバックを提供開始
Curveコミュニティを作成、顧客数は30万以上に増加
2019年:資金調達キャンペーン
31カ国に進出
2度目の資金調達で$5,500万を調達し、評価額は$2億5,000万に上昇
調達発表から3か月後、クラウドファンディングで£600万を調達
顧客数は50万人に到達
Monzo、Revolut、Starling Bankなどのデジタルバンクらのマーケティング活動に対抗して、下記の広告を1か月間、ロンドン地下鉄の200駅と4,000の車両に掲載するというブランディング施策を打ち出した
2020年:提携・統合
オープンバンキングAPIを提供するPlaidと提携しイギリスのすべての顧客口座にアクセス可能となり、顧客はカードだけでなく、銀行口座もCurveに統合できるように
Curve Creditという新しい機能もβ版として導入され、顧客はCurveカードを使用して購入時にクレジットを利用できるようになる
さらに、Apple PayおよびGoogle Payとの統合を全市場で開始、顧客はスマートフォンを使用して支払いを行う際にApple PayやGoogle PayでCurveカードを利用できるように
2020年時点で、顧客数100万人の大台に到達
2022年:Curve Flexの拡大
Credit Suisseからの$10億の資金調達により、レンディング事業「Curve Flex」を拡大開始。これはいわゆる「Buy Now, Pay Later(BNPL)」機能であり、顧客が世界中のどの店舗で、どのカードを使用しても、任意の取引を分割払いにできる機能。このサービスは、イギリス、アメリカ、およびほとんどのヨーロッパを含む30カ国以上で利用できる。
イギリスではCurve Flexの一環として、「SNPL(Swipe Now to Pay Later)」というプロダクトが導入され、Curveカードで行った取引を3、6、9、または12回の月々の分割払いに分割できるように
400万人以上の顧客を獲得し、グローバルにプレゼンスを拡大
最後に
最近、Apple PayもオープンバンキングAPIの仕組みを利用して、Walletアプリ上で銀行の口座残高や各種入出金履歴が見られるβ版の機能をイギリスでリリースしました。Googleも同様に決済だけでなくウォレット機能を強化する流れが進んでいます。スマートフォンという現代最強のプラットフォーマーにこのような動きがある中、Curveが今後どのように進化していくのかは注目です。
残念ながら現時点ではCurveを日本では利用することはできません。
日本でも今、キャッシュレス化が進む中で増える決済手段に不便さを感じている人は多いと思います。ガラパゴスとも言われる日本の決済市場。お国柄、特有の技術的・ビジネス的ハードルはあると思われますが、今後同様のサービスが生まれることに期待したいです。
Z Venture CapitalはFintech企業へ積極的に投資しています。今回の記事の内容に興味をお持ちの起業家の方とはぜひお話できればと思いますので、TwitterのDMなどでお気軽にご連絡ください。
参考:
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