[読書]花のれん

吉本興業の祖、吉本せいさんをモデルにした小説です。作者は山崎豊子さん。私の親世代にファンが多い骨太の作品群が有名。私の父も大好きだった作家ですが、女性を主人公に描かれていたとは、知りませんでした。

押し寄せる情報量の多さにたじろぎます。
さらっと描くのではなく、一文字一文字に意味がある小説。初読では“元”本の虫の私では読みきれませんでした。
物語自体が激しく転回する上、全てのディテールが克明に綴られ、迫ってくるのです。

例えば、ご主人が亡くなった後、下足番の仕事にまで気を配り、商売に邁進する姿。

客の脱いだ履物を受け取って、合札を渡す。下駄は、鼻緒をすげた表側同士の上合せ、靴は底合せにして、下足札のついた紐でくるっと、廻しにしてくくる。この場合、下足紐は履物を吊る掛釘にかかるだけのワサ分を残して結ぶことと、履物を掛釘に吊った時すぽっと脱け落ちぬよう、履物の中程をうまい工合にくくり込むことが下足取りのコツだった。

もうこれだけで、下足番見習いが出来そうです。
この圧倒的な質量備えた情報が、多くの読み手の心をとらえ続けている1つの理由でしょう。さすが文豪。。と思いましたが、本作は直木賞授賞作品とのこと、作者にとっても気合いの入った作品なのかもしれません。

物語の感想は?というと。。
NHK朝ドラマ「わろてんか」の印象が強く、実はもっと明るいお話を期待していました。が、全体曇天のような場面が続きます。

皆を笑かす吉本興行の創業者が、こんなに真面目な人だなんて。。
報われずとも、ひたむきに努力する、昔の日本女性の一代記でした。


クオリティが高い作品であることは、間違いありません。でも、主人公の桁外れの忍耐力と勤勉さは、正直重たい。。
自分自身のコンディションと相談してから、読むことをお勧めします。

☆☆☆

著者 山崎豊子
刊行 新潮社
刊行年 2016年(文庫)1958年(単行本)
https://www.shinchosha.co.jp/sp/book/110403/

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