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その猫でさえ、秋。

 阿呆、と言いたくなるような冷たい風が建付けの悪い網戸をカタカタと揺らした。

 8月の木曜、連日の雨のせいでじめじめとした外。「雨、上がったし少し歩くか。」とはならないのが私だ。マイブームといえば、短編小説を壁にもたれて読むことだ。

下旬に差し掛かり、寒暖差の激しい日が続く。
なぜか、いつまでもカラカラと乾いた空気が循環する部屋に、じめじめを取り入れたくて窓を開けたところだ。


 不意に流れ込んできた秋に、心の中までカラカラになって、そのまま訳も分からず記憶を辿った。毎年、秋を感じるたびに「秋が好きな理由」を自分に問う。毎年、答えは出ずに、言葉にできないままカサカサの手を撫でている。


 違った。今年は、違った。

秋は、色んな感情がごった返す。だから、好き。

デスクライトの白い光が小さく灯る部屋で、自分のこと、アイツのこと、将来のこと、世の中のこと、今までのことを他人事のように見つめて、全てに当事者意識を持って飲み込んでみる。心を病む。

それこそ阿呆のようだが、それが心地良い季節なのだ。
ちょうど、受験を3ヶ月後に控えていたり18歳というひとつの区切りがすぐそこにあったりする。
世の中はコロナで溢れてたり、出来ないことを出来てた頃が恋しかったりする。
なぜか、寂しくなるし、なぜか、人肌恋しいし、なぜか、鬱混じりの朝を迎えるし、なぜか、読書の秋だし。


 頭の中も心の中も、縦横無尽にいろんな考えや感情が暴れる。そんな、余裕のない日々を生み出す秋が好きだ。

「じゃあユチャンはMの人間だー!」

「いいえ。」

余裕のない日々は、めんどくさがり屋さん店長のユチャンを奮い立たせる。行動に移せない人間を、突き動かす。



 「はやく手、カサカサしないかな」と思いながら、揺れるカーテンが読書の邪魔をするので窓を閉めた。

向かいの家の人が慌てて洗濯物を取り込んでいた。

向かいの家の猫の名前は「マロン」。最近産まれた。


 また雨が降り出したみたいだ。



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