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ヘタな自分に、どうやって耐えるか

「スケッチは上手く描けない時期が必ずあるんです。ヘタな自分に耐えないと、上手くはならないんですよね」
先日我が家に訪れた、大学でスケッチを教えるプロダクトデザイナーの檜垣 万里子さんがそうおっしゃった。

その時、私はピーンときた。料理も同じだ。

最初の頃は上手くできない。おいしくない時もあるし、焦がしちゃうこともある。日持ちすると思っていたものが意外と早くダメになってしまい、泣く泣く捨ててしまうことだって、料理ができる誰しもが経験していることだろう。この時期をなんとか乗り越えないと、料理だってなんだって上手くならない。

でも、このヘタな自分に耐えるのは、昔に比べてもっと苦行になってきているように思う。手元のスマホを開き、SNSで調べれば、料理、インテリア、ファッション、プレゼンの方法から投資の仕方まで、なんでも先人がいる。自分よりずっと先に始めていて、上手にそれらをこなす人が、いっぱいいるのだ。さらに、chatGPTまで出てきて、そっちを使ったほうが人力でやるより調べるのが早くて、なんなら文章を書くもうまい。何をやっても無駄だ、と無力感を感じてしまうのも無理はない。

私は絵がヘタで、いつか上手くなりたいと思っている。自分が作っている本の挿絵に、ちょっとしたイラストを描いて載せたいと何度思ったことだろう。けれど、実際に手を動かして描いてみる勇気が出ず、ずっと後回しにしている。たぶん、上手な絵をたくさん見てきたからだと思う。Aさんが描く絵と、私が描く絵は違うものだし、別に評価もいらないはずなのに、最初からあきらめてしまう感じが確かにある。

一方で、私は料理ができるし、料理を教えることを仕事にしている。7歳の頃から料理を始めて、(正直もう覚えていないが)失敗も数え切れないほどやってきた。それでもあきらめずに上達できたのは、もちろん料理が好きだからであるが、同じくらいに幼い頃に始めたことも理由の一つかもしれない。
子どもは、文字の書き方、時計の読み方、泳ぎのやり方、体験すること全てが始めてであり、「何かができないこと」に慣れている。すぐに上手になろうとしない。小学生の子どもたちに料理を教えていて、少しずつ料理が上手くなることに対する胆力は見事なものだ。牛歩の成長を、飛び跳ねるように喜ぶ様子は、すごく眩しくて、ちょっと羨ましい。

せっかちで、待てなくて、なんでもすぐできるようになりたい。そう思ってしまう私の早歩きな気持ちを、子どもたちの姿がもっとゆっくりでいいじゃないと、もとに戻してくれる気がする。何事も上手になってしまったら、小さい成長の喜びはもうやってこない。始めたばかりのヘタな時期は、その時にしかできない体験がある。それは大人も子どもも変わらない。

これからの自分へ。ヘタな自分を愛でて、できるようになるプロセスをしみじみと、味わってください。そしてそのことを、できるだけ忘れないでください。


このnoteは、こちらのnoteからインスピレーションをもらいました。素晴らしい記事なのでぜひ読んでみてください。


声でも読んでみました。


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