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『自分のために料理を作るー自炊からはじまる「ケア」の話』の【まえがき】を公開します 

タイトルの通りなのですが、今週発売される『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』の「まえがき」を公開します!この本で伝えたいことのエッセンスをギュッと詰め込んだ文章です。それではどうぞ。


まえがき――料理は大変だと思っているあなたに


 この本を手に取ってくださったあなたにとって、「自分のために料理を作る」ことは当たり前のことでしょうか? それとも特別なこと?

というのも、私の元には料理初心者や料理が苦手とおっしゃる方から、日々「自分のために料理が作れない」という声が寄せられているからです。
「作れない」の理由としては、料理初心者なので何をしたらよいかわからない、というより、どちらかというとすでに、お味噌汁や炒め物など自炊には困らない程度に料理ができるにもかかわらず、
「何を食べたいかわからないから作れない」
「どうせ私しか食べないと思うと、作る気力が湧かない」
「誰からも感想をもらえず、張り合いがない。ゆえに、自分のために作るのがもったいなく感じる」

ということで、手が止まってしまうそうなのです。
作れるけど、作れない。
一体これはどういうことなのでしょう。
 

自己紹介が遅れました。はじめまして、山口祐加です。
私は「自炊料理家」という肩書きで料理初心者向けに料理を教えています。「自分のために料理が作れない」という声が届くのはそのためでした。
私は幼い頃から料理が大好きで、こんなに楽しい行為を誰かに任せてしまうのはもったいない、料理が好きになる人を一人でも増やしたいと思ってこの仕事を始めました。その一環で初心者でも作りやすいレシピを考え、時間がないなら時短レシピ、手間が多いのが苦手であれば切って焼くだけのような簡単なレシピを、と頭をひねりながらレシピを提案しています。

しかし、そういったレシピを作り続けているなかで、なぜか実際に作ってくださる方との間にどこか埋まらない溝があることを感じていました。その溝を少し照らしてくれたのが、「自分のために料理が作れない」という声だったのです。

その声に耳を傾けたとき、本当にこのまま簡単レシピを作り続けていていいのだろうか? この状況に必要なのは、一人分の簡単で時短できるレシピ以上に、「料理をしてみようかな」という気持ちが湧き出てくるようなケアであり、料理をするということの意味をあらためて考え、実践してみる時間ではないか、と思うようになりました。そんな自分にとっての問題と、みなさんが抱えられている問題が重なったところから生まれたのが本書です。

この本では、「自分のために料理が作れない」と悩んでいる方と一緒に、料理をする意味をあらためて考えることで、「料理したい」という気持ちが湧き出てくるといいな、ということを実践的に目指しています。
 
前半では「料理する」という行為を分解して考えることで、なぜ料理が複雑で手に負えない、煩わしいものと私たちが思い込んでしまうのかを解説します。こうした「因数分解」をすることで、その複雑さこそ料理の魅力でもあるということを感じてもらえたらと思います。

一度こんがらがってしまった毛糸も、丁寧にほどいたら新たにセーターを編むことができます。料理も同様に、一度シンプルな感覚がつかめたら、そこからご自身が作りたい料理を、楽しめるやり方でトライできるはずです。そんなことにつながるヒントをお届けできたらと思っています。

後半では実際に「自分のために料理できない」と悩む性別や年齢がバラバラな六名の参加者たちに対し、私が三ヵ月間「自炊コーチ」を担当しました。その時の気持ちの変化やインタビューを行った記録をご紹介いたします。

インタビューでは精神科医の星野概念さんにも加わってもらい、三人でお話ししました。星野さんの的確なアテンドにより、こんなことも料理に関係あるの!?と思われるような出来事が、意外と料理を作ることや自分を振り返るということにつながっている―ということがライブ感覚で楽しんでいただけると思います。

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忙しい毎日の中で、これからますます料理は「自分でやらなくていい家事」になっていくのかもしれません。便利な現代では自分で作らなくても、外食したり買ってきて食べたりして生活していくことは十分可能です。もちろん、それでも問題はないと思います。

ただ、もし、調理されたものを買って生きていくことはできるけど、心のどこかでは「自分で作ることを手放したくない」と思っている人がこの本を手に取ってくれたら、それは私にとってとても大きな希望になります。
自分で作って食べる行為は、買ってきたものを食べるということとはまったく違った行為です。自炊ができるということは、自分の体調の移り変わりや生活の変化に合わせて、自分を労いたわり養っていけるということです。この力があれば、ちょっとやそっとのことでは倒れないで生きていけます。

自分の人生の主役は自分です。
大切な自分を養い、励まし、喜ばせることができるのが料理なんです。
そしてそれを提供できるのが「自分」だとしたら、人生にとって「自炊」ほど強い味方はいないと思います。
それでは、「自分のために料理が作れる」ようになる(かもしれない)扉をちょっと開いてみませんか?


本は8月25日(金)に発売です!ぜひお手に取っていただけますと幸いです!

そして、買ったよ・読んだよの感想は「 #自分のために料理を作る 」でご投稿いただけたら全力で見に行きます。ここから、料理にまつわる語られていなかった言葉たちにきっと出会えると思っています。

そして、このプロジェクトに参加いただいた方がさっそく読んだ感想をnoteに書いてくださいました。

心に刺さった言葉を引用します。

料理が好きではない人や、得意ではない人たちの言葉。それらは「SNSの声」のように背景や文脈の剥奪された言葉ではなく、その人の生活や人生が透けて見えてくるような対話の言葉。そういった言葉でなければ語ることのできなかったことが、この本には書かれています。そんな参加者や星野さんとの対話を受けて、山口さんの思考が走っていきます。

本書を通して、料理にこんな悩みがあったんだ、こんなことを考えてもよかったんだと感じられるのではないかと思います。たぶんそれは、別に好きではないけれど料理をつくる必要のある人にとって、ある種の救いになると思うのです。

「きっと、料理が好きじゃないから語れる言葉がある。」Fujii Ryoichi

そうそう「こんなこと考えちゃダメだ」じゃなくて、そう思うのは自然なこと。その上で、どうやったら今より心地良くなれるかを考えるきっかけにこの本がなればいいなと願っています。

カバー写真:土田凌

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