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ミニマリストとの対話で気づいた真の「ていねいな暮らし」

先日、作家の佐々木典士さんを私のVoicyにお招きし、インタビューを行いました。ミニマリストとして世界中に認知されている彼の書籍『ぼくたちに、もうモノは必要ない』を読んでから、私もいらないモノを捨て始めるようになり、考え方に影響を受けています。

同時に佐々木さんの「考えることを減らし、楽になる」という発想は、私の「素材をシンプルに味付けし、楽しめばいい」という考え方と合致しています。インタビューでは佐々木さんの自炊生活が、ミニマリストになったことでどう変化したかをお聞きしました。今回のnoteでは、そのダイジェスト版をお届けします。

ミニマリストになって変化した食生活

――まずは、佐々木さんの普段の生活について教えてください。
 
佐々木:出版社勤務を経て、現在はフリーランスで本を執筆しています。コロナで実家に戻ってきて、母と二人で生活をしているのですが、基本的には決まった時間に朝食と昼食を作って食べています。僕が朝食、母が昼食担当なんです。
 
――夕食は召し上がらないんですか?
 
佐々木:母はとても料理が上手なのですが、量は調整ができなくて作りすぎちゃうんです(笑)。なので、夜は抜いて、12〜16時間のプチ断食をしています。山口さんは三食しっかり食べていますか?
 
――以前は三食しっかり派でした。ただ、今年の夏までは味噌汁とご飯を朝食に摂っていたものの、だんだん味噌汁が重く感じてきて。最近では豆乳ヨーグルトにバナナとグラノーラ、玄米甘酒を混ぜて食べています。あと昼はしっかり食べますが、夜は寝るだけなので好きなレシピをつまむ程度にしています。
 
佐々木:なるほど。実は僕も、一人暮らしのときは玄米と糠漬けをベースとし、あと一品肉を焼いたものを足す、というシンプルな献立が多かったです。朝はパンとヨーグルトと目玉焼き。昼は糠漬けと玄米、卵焼きのお弁当が基本でした。

――佐々木さんはミニマリストになる前から自炊をしていたんですか?
 
佐々木:大学の頃からオレンジページの「基本シリーズ」を購入し、よく自炊していました。ハンバーグやオムライスなどの凝った料理も作っていたものの、あまり続かなくて。いろんな材料や料理道具を持て余し、洗い物も溜めていました。

特に料理道具はめちゃくちゃ持っていて、ケーキの型などもあったんですよ。一人暮らしの割には大きな食器棚を持っていて、趣味で食器も集めていました。
 
――ミニマリストになったことで、自炊にはどういった変化が現れましたか?
 
食器や調理器具も本当によく使うものだけに減らしていきました。そうすると、一度食事をして、きちんと洗い物をしないと次に使う食器がない(笑)。自然とシンプルな自炊生活になりまし、それで以前は洗い物も溜めてしまっていたのですが、すぐに洗い物に手を付けることができるようになりました。今では料理中も同時に洗い物をしたり、片付けを同時進行するようになりました。
 
何もない部屋に住んでいると、片付いていないモノが置いてあることに違和感をもつようになるんです。モノがポツーンと床に置かれているので、めちゃくちゃ目立ちます。そうしてモノを所定の位置に戻す習慣がついて、キッチンでもすぐに片付けるようになったんだと思います。

――食事に対する向き合い方にも変化が起こりそうです。
 
佐々木:ミニマリストになると寝転がっているだけでも「屋根があるのはありがたい」「壁もエアコンもあって満たされているな」と感謝をし始めたんですよね。同様に、目の前の食事がどういった経緯で自分の目の前までやってきたかを考えるようになったんです。禅宗に五観の偈という食事のお祈りがあるのですが、たとえば「この食事に値する行いをしてきたか」を自問するようになったり、ご飯があるだけでありがたい、と思うことが多くなりました。
 
そしてあまりグルメに走らなくなり、シンプルな食事に手を合わせるようになりました。都内に住んでいた頃は、食べログに1,500件くらいの飲食店情報を保存していたんですよ。
 
――1,500件はすごい!確かにシンプル料理を続けていると、自炊も継続できます。ミニマリストになってから、手放したレシピもあるのでは。
 
佐々木:ケーキなどの複雑な料理は作らなくなりました。ケーキの型を持っていた当時は、男でもケーキを焼く自分に酔っていたかもしれません(笑)。一周回って「また焼いてもいいかな」とも思うようになったのですが、見栄えだけを気にした料理は作らなくなりました。

「自炊」と「片付け」のプロセスはよく似ている
 

――佐々木さんは料理道具を含め、身の回りのモノを急に減らしたんですか?
 
佐々木:一気に捨てたわけではなく、少しずつ減らしてはいました。「断捨離」という言葉が流行したり、こんまりさんがムーブメントを起こしたりと、ブームが何度かありましたよね。そういった時期には少しずつ持ち物を整理していたんです。
 
ただ、一番減ったのは「ミニマリスト」という存在を知った時のこと。当時モノを15点しか持っていないアンドリュー・ハイドというミニマリストの姿を見たときに、自分とは真逆の自由さを感じたのも大きかったですね。

 山口さんの本は3冊とも読んだのですが「調理道具を少なくする」というところに、僕の考えと通じるものがあるなと思いました。「気づいたら料理道具が増えていた」といった寄り道はしなかったんですか?
 
――実家にいるときは、やたらとボウルや鍋がありました。でもボウルが何個も必要なのは、お菓子作りのように複雑なプロセスがある料理だけ。シンプルな料理を作るときは必要ないですね。それにしてもお話を伺っている限り、佐々木さんは料理が得意そうだな、と感じました。
 
佐々木:料理ってレシピ通りに作れば完成するじゃないですか。それはできるのですが、だからといってそれで「料理が得意」と言えない気がずっとしています。レシピを再現し続けるのも一つの道かもしれませんが、もっと自由自在にアレンジしながら、残り物でもパッと何かを作れるような状態が「料理上手」ではないのかなと思ったりします。 
実はうちの母親が、レシピを見なくても、調味料を量らなくても次々に美味しく料理を作れるタイプなんですよ。テレビ番組なんかで何かの料理を見たら、適当にアレンジして美味しく作れるような人なんです。
 
――その感覚を身につけるには、経験が大事なんですよね。オムライスやハンバーグを作ることも動機の一つ。でもレシピからバリエーションを生み出せなくて。調理法と味付けの要素を抽象的に覚えていけば応用がしやすいのでは、と考えています。
 
佐々木:僕は「なぜモノが増えるのか、モノを手放すのはなぜこんなに難しいのか?」という理屈を理解し、それを乗り越える対策を立てることで、モノを手放せると考えています。ぼくは理屈で説得されたり、普遍的なルールを把握できないとと動けないタイプです。その意味で山口さんの「自炊を続ける」ために普遍的な料理の法則を提示する姿勢が、ぼくにもピンと来たのだと思います。

真の「ていねいな暮らし」を継続させるための心構え

――佐々木さんの本の中で面白いと感じたのが「意志力」という言葉です。「意志力が削がれるとやる気をなくす」というのは自炊にも通じるのですが、何かを継続させるためには、どういった心構えが必要だと思いますか?
 
佐々木:「何かをやっても意志力は減るものではない」という考え方をもつことが大事だと思います。何かを成し遂げることで、自分のことを肯定でき、その自信をもとに他のことも手を付けられるようになる。意志力が何かをすることで減るのではなく、増えるんです。料理を作ると洗い物は残るし食べれば消えるけれども、自分は「料理をした」という達成感が残り、自信が積み上がります。掃除も料理も、そういう意味でかかるお金や時間やエネルギー以上に自分を深いところで支えてくれる行為だと思います。
 
逆に「面倒だし疲れるし、栄養とれればいい」と適当な食事をしていると、自分のことを丁寧に扱っていない感覚も残り、達成感もなく自分のことは肯定できません。そうするとせっかく節約したはずのお金、時間、エネルギーをうまく使えなくなってしまうと思います。
 
――「自分のことを丁寧に扱う」というのは大事なキーワードだと思っています。この先、暮らし方も多様化していくでしょうし、家族と離別し一人で暮らすこともスタンダードになるはず。そうなると「自分で自分をケアする」ことができず、悩む人も増えると思うんです。佐々木さんならどうアドバイスしますか?
 
佐々木:ぼくは第一歩としては、やはりモノを減らすことを勧めます。僕はそれによって時間が増えました。買い物をする時間や掃除の時間、モノを探す時間も無くなって、余裕ができたんです。

逆にモノを持つと維持するために修繕や掃除の手間も必要になり、Todoリストが増えます。100均には便利そうな料理グッズもたくさん売られていますが、それを買うことで新たな置き場所も必要になれば、洗ったりする時間が必要になりますよね。
 
――モノを減らすと工夫が生まれ、自己肯定ポイントも増えるように感じます。最近、家でお菓子を作ろうとした時にケーキ型が無くて困ったのですが、iwakiの耐熱ガラスでできたタッパーで代用したらうまくいって(笑)。そういう工夫ができた時、人間としての能力が上がったような気分になります。
 
佐々木:まさにミニマリストのとき、そういった達成感を楽しんでいました。用途別に売られている洗剤も、よく見ると成分表は同じ石鹸だったということがありました。なので、ひとつの液体石鹸で自分の身体も食器も、服も洗っていました。そしてそれで何も問題がなかった。そうするとお仕着せではなく、自分で生活を選んでいる実感が湧きます。
 
――本当の「ていねいな暮らし」ってお金で買えないモノだな、とつくづく思います。ホウキやせいろ、きれいな調理道具って「ていねいな暮らし」がインストールされていないと活躍できないアプリなんですよね。決して手作りの料理が「ていねいな暮らし」に直結するわけではないんだな、と。
 
佐々木:たとえカップ麺であっても、お湯の量や待ち時間などを調整し、自分の「好み」になるように選ぶことは、その始まりかもしれないですよね。指示通りにするのではなく「どうすれば自分にぴったりなものにできるか」を考えて工夫することが「ていねいな暮らし」なのかもしれないですね。
 
漬物や発酵食品を作るのは、いかにもていねいな暮らしなイメージがありますが、それらを作るには五感をフル活用しながら作らなければいけないから、自然とていねいにならざるを得ない、ということかもしれないですね。ぼくはお金を使うときでも、棋士が将棋の駒を指すようにゆっくり味わいながら500円玉を出すとか(笑)、そうしてお金の行き先に想いを馳せながら、集中してていねいに使うと値段以上のものが得られるんじゃないかなと思ったりします。

時給やコスパから離れたところで「自信」を培う

――佐々木さんは、次にどういった本を執筆される予定ですか?
 
佐々木:お金をテーマに書こうと思っています。「お金では買えない価値がある」とよく言われるのに、現代社会においてお金以上に大事だと思われているものもない。それは一体どういうことなのか、深く考えたいと思っています。ただ、現在トレンドにもなっているような「お金がどうすれば貯まるか」「どうすれば稼げるか」という向き合い方ではありません。ひとつ着目しているのは「お金を使わない代わりに手間をかけて、自信を身につける」という考え方です。

たとえば野菜の種や苗を大元と捉えた時、八百屋に並んでいる野菜は「種や苗を育てて成長させる」という手間分の値段が上乗せされています。さらに「その野菜を調理する」という手間賃が上乗せされているのが、スーパーやコンビニに陳列されている惣菜なんです。
 
商品というのは、一つ段階を下るたびに、その付加価値分のお金を払わなければいけない。今、「美味しいものを食べるにはお金を出さなきゃ」という考えは蔓延していると思います。身の回りの全てのモノやサービスはお金出して買わなきゃいけない、という強迫観念のような価値観が広まっているように感じます。しかし一つでも段階を遡って、自分自身でやってみることで自信もつき、その考えから少し離れられると思うんです。
 
実際、「野菜やお米を栽培してみたら自信がついた」という声を耳にすることがあります。食べるものができることは、生きることに直結するからです。自炊も、外食やお惣菜という商品の段階を一歩手前に戻す行為だと思います。自分でできることが増えていくとお金に頼らなくても済むことも多くなり、お金に対する不安も少し和らげることができると思います。
 
――そういった考え方に至るまでに、どういった経緯があったんですか?
 
佐々木:たとえば去年自分で生姜を育てていたんです。植えてから収穫までに半年もかかったんですよ! 正直、スーパーに行けば100円程度で購入できるので、コスパで考えるとまったく良くはありません。ただ、それ以上に「自分で生姜が作れたこと」への喜びがありました。

物事に対し時給換算する人は多いですが、それを考え始めるとどうしても損なことは多いので動けなくなります。そうしてお金に頼るしかなくなって、お金に対する不安は募ります。

 ――確かに、私も畑で野菜を育てていた時期があって「お金を使わなくても生活できるんだ!」という発見がありました。都会でお金を使い続けることに不安があったからこそ、それが自信のようなものに繋がった感覚はあったかもしれません。
お金を持つことが自信に直結してしまうと、どれだけ稼いでも不安に直結しますよね。代わりにお金を使って何かを経験することで、時間が経つほどその経験が貴重になるとも思いました。
 
佐々木:どこかでいい風景を見ただけでも、満たされることは多いですよね。美味しいモノをたくさん食べることも今の僕にはあまり必要ない。でも、それも都会に住んでいてそういう経験はやり切ったという思いがあるからだと思います。
 
ぼくは、ミニマリストの本を書きましたが、モノがたくさんあっても、きちんと管理できる人は持っていていいと思うんです。料理で言えば、苦もなく手間のかかる料理を作れる人は作っていいと思うし、苦手な人は簡単な自炊からでもいい。常識を一回外してみて、自分にとっての最適な選択をすることが重要だと思います。

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今回の取材を通し「ミニマリスト」と「料理家」というジャンルは違えど、佐々木さんとはメッセージが一緒であることを改めて感じました。「モノを持つべき」「完璧に実践すべき」というメディアのメッセージから、現代人は「やりすぎ」の傾向にあるのではないでしょうか。でも、人一人が生きていくうえで、実はそこまでモノは必要ありません。自炊も簡単な料理でいいし、100点満点の美味しさを求めるのは続かないですし、そんなに頑張っていたら疲れてしまいます。

佐々木さんも書籍の中で「モノを5個しか持ってない」のように数で競うのは意味がない、と書いていらっしゃいましたが、そうやって一人一人が本来の健やかな状態で生きていければ社会も心地よくなるし、関係性も豊かになると思いました。

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写真提供:佐々木典士さん
編集協力 高木望さん


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