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いつぞやの誰かが置いていった話

事務所のデスクの引き出しの中を掃除しようとしたら、小説が4冊も出てきた。小説好きとしては感動である。今回も出発前にドタバタしていてお気に入りの小説を入れるのを忘れ、空港で買おうと思ったら遅れて搭乗ゲートまで激走する羽目になり(直らない)、あぁ数か月小説なしか、と思ってたらまさかのデスクから。

本のチョイス的に、おそらく私の苦手な直接の前任者の忘れ物ではなく、その前の人(この人は好き)、もしくは全然知らないもっと前の人の忘れ物と思われる。直接の前任者でなければとりあえずOKである。え、嫌いだから。

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1冊目は、恩田陸さんの「木洩れ日に泳ぐ魚」

舞台がアパートの一室で、登場人物は二人(男女)で、二人の会話に回想が入ってくる感じなのだけど、面白い。お互い腹の探り合いだったり、見え隠れする本音だったり、同じ気持ちなのだけど共有しきらない感じだったり。

女性の主人公が大事な記憶をふっと思い出す瞬間があって、その時の彼女の思い出し方や、思い出すことによって過去に感じていた違和感が解けていく感じが印象的だった。

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2冊目は、芹沢央さんの「悪いものが、来ませんように」

こちらは帯に書いてある通り、衝撃のラスト25ページ。ほんまにね。ところどころで「ん?どういうこと?」と違和感と疑問があったのが一気に解消される瞬間があり、解消されたら逆に怖くなる、そんな感じだった。

この話は母娘の関係性のことであり、読めば読むほどに自分と母親のことを思い出してしまった。私も言われたな、私もされたな、その圧かけられたな、、、途中自分の話されてるのかと思う瞬間すらあった。そして怖いのは、なんだかんだと親の影響を受けて、親をなぞってしまっている部分があること。こればっかりは避けられないのかもと実感し、やっぱり私は子どもは欲しくない、特に娘は絶対に嫌だと思った。

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恩田陸さんの小説は読んだことがあったけど、自分では積極的に手に取らないため、いつぞやかの前任者が置いていかなければきっと出会わなかったであろう本。そう考えると、運命的である。

芹沢央さんは初めて読んだ。そして別の本も読んでみたいと思った。あとがきで「騙される快感」とあったけど、まさにミステリーの大どんでん返しってこういうのだよなぁと思いながら最後まで駆け抜けるように読み切った。そしてところどころの描写がリアルで、たまにリアルすぎて、吐き気を感じたり、不快に感じたり、そして最後に恐怖。種明かし後にもう一度最初から読みたい本だと思った。

やっぱり小説はいい。

最近ずーーーーーーーっとTverさんにお世話になりっぱなしで、今クールのドラマを観まくっていて、また冬休みの大量配信で昔のドラマを観てたけど、映像と同じくらい私は本が好きなのだ。顔が見えない、声も聞こえないけど、たしかに登場人物の感情を感じられるってやっぱりすごい。

本を置いて行ってくれた、いつぞやかの前任の方。ありがとうございます。

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