0002参加要請

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起稿20240306
改稿20240503
・0002参加要請
2月5日月曜日13時50分。会議予定時刻10分前。
何故か会議室の前で井戸端会議をしているウチのメンバー。
遠めから見ると順番待ちに見えなくもないが、たぶん違うだろう。
何故中に入らないのか。一番分かり易いところだと、すでに社長が来ているのかもしれない。
ただそうなると、今回の案件にやる気がみなぎっているのか、かなり難解なのか、厄介事の可能性が高い可能性があるのだが、今考えても仕方ない。
「どうした?」
「おう。リカイ。なんとなく入り難くてよ」
トウハが体をやや縮めて答えるとドアに向けて顎をしゃくる。
「まだ前の会議が終わらないのか?」
「いや、社長」
「あぁ、なら行こうか」
「お?おぉ」
ここでとどまっていても仕方ないので、ウチのメンバーの間を通ってドアを開けると、諦めたのか他のメンバーたちもゾロゾロとついてくる。
「おぉ良く来た。早かったな。まずは座ってくれ、席は決まってないから適当にな」
何かの書類に目を通していたのか、タブレットから目を離すと、にこやかに出迎えてくれる社長。
隣には対照的に、何か苦いものでも食べたかのような営業部長のグウゼンさんが座ってる。
「んじゃ。失礼します。」
みんながなるべく遠くに座ろうとするのを横目に、前の方、社長の近くに座ると、他のメンバーも次々に座っていく。
机は円卓で、席順的には社長が一番奥で、左から俺(リカイ)、シコウ、トウハ、シクミ、スンカ。
ある意味で会議に慣れている順番になった。そして、社長の右隣に営業部長のグウゼンさん。
みんなが座ったものの、特に会話はない。時間としても開始時間までまだ少しある。ちょっと気まずく感じながらも、とりあえず待ちの姿勢でいると、シコウが口を開いた。
「他の方は、どんな方がいらっしゃるんですか?」
「今日は顔見せでな。これで全員だ。さて、時間は早いが始めようか」
社長がにこやかに話し始めると、皆、居住まいを正す。
「細かいことは色々とあるんだが、まずは単刀直入に。君たち5人にメカニカルアーマーリーグに参加してもらおうと考えている。」
「メカニカルアーマーリーグですか」
意外すぎる言葉に俺が聞き返すと、機嫌良くニマッと笑う社長。
「テレビやネットなどで、すでに試合を見たことがあるかもしれないが、色々とあってね。昨年で参加を取りやめたチームが出て、その枠が空き、我が社がその枠をいただいた。」
「参加チームを募集していたのは知っていたのですが、スゴいですね」
「残念ながらスゴくは無いんだ。コウゾウ君」
社長がシコウに答えながら少し苦笑いし、グウゼンさんが軽く手を挙げる。
「社長。そこは私が。」
「あぁ頼む。」
「まずは、メカニカルアーマーリーグというのを知らない人はいるかね。」
グウゼン部長の言葉に、トウハ、スンカ、シクミが手を挙げる。
「メカニカルアーマーという元々、軍事的に開発されたロボットがあり、そのロボットを使って競技をさせ、観客に披露する管理や運営を行う組織が誕生した。それが今回の話に出てきた、メカニカルアーマー協議会という、メカニカルアーマーの競技統括組織だ。そして、そのメカニカルアーマー協議会が運営しているメカニカルアーマーの競技大会をメカニカルアーマーリーグと呼んでいる。」
「メカニカルアーマーは武器なんですか?」
「武器かと問われると少し迷う。ラジコンヘリコプターもドローンだが、玩具か武器かと問われたら戸惑うのと大して変わらないのだが、」
「メカニカルアーマーは人型のロボットで、戦場の兵士の代わりに現地で戦闘を行うために開発されたと聞いています。」
シコウがメカニカルアーマーについて発言すると、スンカが首を傾げた。
「それって?」
「戦地における兵士の死傷を減らすのが目的だったみたいで、さっき部長のお話に出てきたドローンと同じように遠隔操作で戦闘を行う人型ロボットなんだ」
「今でも?」
「今もね。」
「コウゾウ君。説明してくれて助かった。ありがとう。その人型ロボットの基本的技術が限定的に公開され、操作技術を競う競技会を催すことになり誕生したのが、さっきの話に出たメカニカルアーマー協議会の主催するメカニカルアーマーリーグだ。」
「どんな競技があるんですか?」
「メカニカルアーマーは、既存の銃などの武器が流用出来るように、人の体格に近いものが採用されているが重量が重くてね。走ったり跳躍したりが出来ない。オリンピックのような競技はほぼ難しく、人に敵わないことが多い。身軽さでは人の方が優れていると言っても過言ではないが、頑丈さや防護性能に特化して優れていてね。プロジェクターで見てもらおうか。」
いそいそとプロジェクターの電源を入れるグウゼン部長。それに合わせるかのようにシクミが部屋の明かりを一部分消してくれた。
グウゼン部長はスクリーンの脇に立つ。
なぜだろう。グウゼン部長が楽しそうに感じる。
「ありがとうショサ君。さて続けよう。競技としては、今ここに映している四つの大まかな競技があり、それぞれに競技設定を細分化した競技が存在する。
・宝探し、トレジャーハンティングとも呼ばれる団体競技。
・格闘技、ファイティングとも呼ばれる個人競技。
・武器闘技、グラディエイトとも呼ばれる個人競技。
・精密射撃競技、スナイプとも呼ばれる個人競技だ。」
言葉を切るとプロジェクターに映された文字も次のものに変わる。
「想像しやすいものから説明させてもらうとして、格闘技。ファイティングは、文字のままだ。メカニカルアーマーによる格闘技。メカニカルアーマーにグローブと呼ばれる指関節防護を取り付けて、殴り、投げ、関節を決め戦う。」
「総合格闘技のような感じでしょうか」
「近いな。身軽さが低い分、寝技勝負は少ない。また勝敗は損傷率と行動不能状態でみるようだ。さて次に行こう。武器闘技、グラディエイトは、近接武器を使用した戦いだ。グローブ、メイス、警棒、ハンマーを扱いながら、損傷率、行動不能状態で競う。次は精密射撃競技、スナイプは、フィールドターゲットという、指定された通路を歩きながらフィールドに設置した的にに当てるもの、スナイプターゲットという、正確性と構えから的に当たるまでの時間で勝敗が決まるものがある。そして次がメカニカルアーマーリーグでは比較的人気が高いのだが、宝探し、トレジャーハンティングとも呼ばれる団体競技だ。」
「団体競技ですか?」
「あぁ、君達は、サバイバルゲームをやっていると同好会申請を見させてもらったのでイメージがしやすいかもしれないが、かなり広い競技場に設置した宝を奪い合うゲームだ。勝敗は宝を自分たちの陣地に持ち帰ること。率先して宝を取りに行ったり、宝を取らせて退避していく敵から奪ったりと作戦や駆け引きが必要とされる。ここでは、近接武器での攻撃、射撃による遠距離攻撃も行われる中で、宝を守りながら持ち帰る。いつみてもなかなか興奮させてくれるものがある」
「グウゼン君」
社長がグウゼン部長を呼ぶと、グウゼン部長がピッと難しい顔に戻る。
「競技については、テレビやネットでの動画が配信されているので、そちらを見てもらえればイメージが掴みやすいと思う。ここまでいいかな。」
グウゼン部長が俺達に問いかけ、それぞれが頷いたりして肯定すると、スクリーンの前から席に戻り、シクミが照明をつけてくれた。
「ありがとうショサ君。さて、メカニカルアーマーリーグに参加するに至った経緯自体は、社長とも話すかどうか迷っていたんだが話のついでで聞いてもらおう。」
険しい顔が更に眉間にしわを寄せるもんだから更に険しい表情になるグウゼンさん。
「ウチの取引先企業は何社もあるが、メカニカルアーマーの部品の納品も手がけているのは知ってるな。」
「実際にどんな風に使うかまでは判りません」
「まぁ細かい部品が多いからな。我が社で組立している製品も少ない。」
トウハが分からないと頭をかき、グウゼンさんが然もありなんと受ける。
「ナンロさんの部署だとそうかもしれません。ですが、盾や装甲関係は、それなりに想像できるから、ユキサキさんは馴染みがあるんじゃないかな」
「あぁ。シンプルなシールドなら、見たまんまだしな」
「そうなんだ」
「続けていいか?」
「はい。お願いします。」
シコウと俺、トウハが内輪で話し始めたのをグウゼンさんが諫めて、俺達も姿勢を正す。
「主要なメカニカルアーマーメーカーは三社。いずれもメカニカルアーマーリーグに参加している大手だが、その内の一つの会社からの依頼で、今回参加せざるをえなくなった。」
「抽選とかそういうのではなく」
「実際は、募集をかけて参加を希望する企業があっても、国が制限をかけているところもあるから、参加要項に当てはまることが難しいというのがある。」
「そうなんですか?」
「メカニカルアーマーリーグ自体は盛況らしく、そのお蔭で、メカニカルアーマーリーグが開催する度に需要が生まれるからありがたいのだが、参加するとなると維持費がかなりかかる。宣伝費にしては経費が大きすぎる。というのもあるが、国家機密関係も多く、守秘義務に関する調査や外部に情報を漏らさない仕組みというのを求められる。ここが一番厄介だと先方からは聞いている。」
「でも参加せざるを得ないと」
「そうだ。」
グウゼンさんが重々しく頷いていると、話したそうに社長が前傾姿勢になっている。
「そこでだ。どうせ参加するならば、我が社の利益になるようにということでな。独自部品の開発やテストも行うつもりでいる。」
「何か目星をつけているのですか」
俺の質問にやる気満々の笑顔だった社長が少し苦い顔をする。
「残念ながらこれからだ。さっき話に出た盾や装甲関係は、幸いにして、ウチのシェアが比較的大きいから、その辺りから手を入れることになるだろう。」
「他のメカニカルアーマーメーカーのように、ウチの製品の性能が高いことを見せつけると」
「そうなるな。まぁこの辺りになると投資になるから細かくは別にしよう。ウチはメカニカルアーマーリーグ自体は新規参入だ。最初から無理をするつもりもない。」
「助かります」
「呑気にしていられんがな、君たち5人には、先程グウゼン部長が説明した中のトレジャーハンティングの一番小さな人数のグループになる班クラスに参加してもらい。実績を重ねる。まずはそこが目標だな。個人競技については、個々の適正や運営事務局がどこまで求めてくるかで判断する。」
「順位を求められることはあるんでしょうか?」
シコウの質問にグウゼンさんが、どこか悪巧みでもしていそうにニヤッと顔を歪める。
「未知数の出来事に何処まで求めるかは悩むな。確実に段階を踏みたいところだが、そこまでの余裕もないのが実状だ。前年よりも高くというのを現段階の目標とするのが妥当だと我々は考えている。まぁ今年は様子見だ。色々なサンプルをひたすら集めるのが目標だな」
「なるほど。では我々の現在従事する仕事はどういたしますか」
次の質問を俺がすると、社長が腕組みしだした。
「今回のメカニカルアーマーリーグの参加による準備もそうだが、本格的に参加してからも、仕事を抜けることは想定できる。だが、どの程度になるかが判らないんだ。おおよそのという予想レベルでね」
「バイトか何かで穴埋めするような感じでしょうか?」
「案件を抱えた状態ですと、両方ともに中途半端になる可能性もありますが」
「そうだな。お客様に迷惑をかける事態も避けたい。その辺りを考慮して部署異動や働き方を見直すつもりだが、すぐにどうこうするというのは難しい。君たちの抜けるところを、人事に依頼して人材の募集をかけて補充することは決めた。君たちの後任を募集する形でね。」
「通常業務では余剰人員になってしまうということですか」
「今回のプロジェクトに向けた人員配置として新たな仕事が加わる。通常業務も合わせれば確実なオーバーワークだ。社長とも相談させていただいたが、これを放置した方が後々事故に繋がるとみている。それを考慮して、新たな業務に集中してもらうことになるな。」
「判りました。ご配慮ありがとうございます。後は気持ち次第ということでしょうか。」
「細かいことはあると思うけど、私が思い浮かぶところではそうだね」
諸々聞いて俺が返答すると、社長も満足げに頷く。
「みんなはどうする。」
「即決?」
スンカがニタッと笑うと、ウチのメンバー全員がクスッと笑う。まだ参加するとは言ってないんだが、この場面で弄るのはどうかと思う…。
「どうせ誰かが参加するんだから。俺達でも良いだろ?」
「すみません。メンバーの選考基準は、どんなところから決めたのでしょうか」
俺がスンカに反論していると、消え入りそうな、
か細い声でシクミが社長とグウゼンさんを見つめて問いかける。
「君たちの同好会申請がきっかけなんだが。VRゲームの大会にも参加している実績がある。高戦績はまだのようだが、過去三年続けていけるチームというところとVRに少しでも適正のある人材を探す意味でも一致してね。ゲームの内容もサバイバルゲームだとあったから尚更かな」
「ありがとうございます。私はこのチームでなら参加したいです。」
「ありがとうショサ君。」
「そうなると情報収集だね」
「うっ。シコウ先生に任せる。」
「ナンロは試験勉強からね。」
「べ、勉強は」
「イクンさん。からかい過ぎ。ナンロさんも焦る必要は無いから。」
「そ、そうだな」
スンカとトウハに声掛けして落ち着かせていると、社長がニコッと口角を上げて腕組みを解いた。
「参加で問題ないかな」
「よろしくお願いいたします。」
「君たちのまとめ役兼責任者として、営業部長のグウゼン君に委ねることにする。これから募集をかけるが、後任への指導をしながらという環境下で今年は進めて欲しい。それと、もう一つ頼みがある。」
「なんでしょう」
「メカニカルアーマーリーグの最小グループ。班の人数は6人編成でね。メンバーが一人足りないんだ。社内から一人誰か見つけてグウゼン君に連絡を入れてくれ」
「期限はいつ頃まででしょうか」
「出来れば早い方が良いが、今月中、あと3週間以内にしてもらえると助かる。」
「見つかり次第、グウゼン部長に連絡します。」
「そうしてくれ。さて、ここからが問題なんだが、守秘義務がある。」
「まだ、メカニカルアーマーリーグの参加は伏せる形ですか。」
「いや、メンバーを集める上で必要な情報だから、派手にやらなければ問題ない。とりあえず君たちの職場異動についてと、君たちがメカニカルアーマーリーグに参加することは伏せておいて欲しいがね」
「判りました。」
「他のメンバー諸君はどうかな」
社長の問いかけに声を出さずにいると、社長は頷く。
「異論は無さそうだね」
「もし不安なことがあれば、上司となる私に相談してくれ」
「ありがとうございます」
「ではこの辺にしておこうか。」
「これからよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、この難局を乗り切ろう」
こうやって、短い時間の長く感じる会議が終わった。
会議が終わって、社長達より先に退室すると、トウハが苦い顔をして、俺の肩を軽く叩いた。
「どうするつもりなんだ。」
「何が?」
「周りにどんな打ち合わせだと聞かれたら、どうすればいい?」
「あぁ。守秘義務があるらしくて、話すことが出来ないんですよって言うか。営業のグウゼン部長に聞いてもらえるように言うのが一番かな」
「うん。知ったかぶりして話しちゃうと、今回の件自体無かったことになるかもしれないからね」
「どういうこと?」
シコウが付け足しで説明すると、スンカが驚いて問いかけてくる。
「あれは守秘義務があるからさ、その練習かもしれないし、実際に話が拡がると困ることもあるかもしれない。少なくとも情報を伏せろというものは、話しては駄目だと思う。試されていないとしても、話して欲しくないって念押ししてるのに、それを話したら信用できないと思うよ」
「それもそうね」
シコウの説明で、スンカだけでなく、トウハもシクミも納得顔だ。
「まぁ、ベラベラさっきの話を外部に話したら、メンバーからは外されるだろうなぁ。簡単な内容の守秘義務が守れないのに、大事な内容の守秘義務が守れるとは思えない。少なくとも、守れない可能性が高いと思われても仕方ない。」
「もしくは、情報を絞られるかもね。」
「情報を絞るって?」
「知らなければ話すことはできないし。話してしまう前提で偽情報を持たせるかもしれない。どちらにしても信用はされてない証になるね」
「それは悲しい」
「だな。だから気を張る必要は無いけど、さっきの部屋での話はしない。守秘義務で話せないことと、グウゼン部長に丸投げで大丈夫。意地になって聞いてくる奴がいたら、別意味で危ないから、それもグウゼン部長に丸投げだな」
「気をつけないとな」
「あぁ、無理しない程度な」
守秘義務に関してひと段落すると、一階まで来てしまった。
「今日、みんな予定あるか」
「僕は特別無いけど」
「アタシも大丈夫」
コクコクコクコクとシクミも頷いている。
「今日はジムを休むことにするよ」
「なら、久々にギルドルームに早めに集合と行こうか。」
「情報は集められたら集めとく」
「あぁ無理しなくて良いぞ」
「いや、気になるから。じゃ後で」
シコウが苦笑いすると、小走りで戻っていく。
「んじゃ解散」
「じゃあね~」
「また後で」
「おぉ、また後で」
それぞれがそれぞれの作業場所に戻って行くのをなんとなく見送り。自分も気持ち早めに足を動かしながら歩く。
さて、これからどうなることやら。

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