0003作戦会議

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起稿20240306
改稿20240513
0003作戦会議
2月5日終業直前
「んじや。お先~」
「おぉ。お疲れさん。あ、おいユキサキ。」
「はい」
「今日のは何だったんだ?」
ヒアタリ課長が帰りかけの俺を呼び止めて、珍しく話しかけてきた。”今日のは”というのは、社長とグウゼン部長との会議についてだろう。
「あぁ。守秘義務があるとかで、詳しくは営業のグウゼン部長に聞くように言われてます。」
「グウゼン部長?守秘義務?なんだ。一大事か?」
「そこまでではないと思いますよ。まぁそのうち公表とかするんじゃないっすか」
俺がすっとぼけた返答をすると、ヒアタリ課長は妙にホッとした表情になる。
「だと良いがな。そうか呼び止めて悪かった。あがってくれ」
「うす。お疲れさんで~す」
まあ、社長の呼び出しだから気になるわな。
みんなも上手く躱してれば良いんだが、まぁ考えても仕方ない。
サクサクと歩いて車に乗り込みエンジンをかける。
「行きますかね」
その後は順調に帰宅渋滞に巻き込まれつつ、家に帰宅。
流石に料理をしながらVRはできないので、サクサクと夕飯を作って食べると、ヘッドセットとグローブコントローラーを身につけて椅子に腰掛けた。
「アクセスログイン。」
「音声確認、認証クリア、網膜確認、認証クリア、コントローラー接続確認、クリア。お帰りなさい。リカイ。」
VRセットの女性音声が流れる。
「サバイバルネット、オープン。ログイン。」
「サバイバルネット、オープン。ログイン…。クリア」
俺が呟くと、VRセットの女性の音声が復唱し、目の前にゲームの世界が現れる。
「ようこそ、お帰りなさいませバウト様。」
今度はゲームの女性音声が入り、大勢の人が行き交う街中に視界が変わり、今日はギルドルームまでショートカットだ。
「ギルドアイテム ワープゲート 帰還」
目の前の景色が雑踏の街並みから、ギルドルームの部屋の中に変わる。
「お、来たな」
「おぉ。トウハ。あれ、みんなは?」
「いったんシコウが顔出ししたんだがな。すぐにログアウトしてな。そっからは、俺だけだな」
「そっか早かったんだな」
「流石にジムに行かなければ家が近いからな」
「あぁそれな。」
客間の円卓に座るトウハの横に俺も移動して座る。
「会議の話聞かれたか?」
「あぁ。会議に出ること自体殆ど無いからな。守秘義務と営業部長へ聞いてくれでなんとかなったよ」
「よかった。しつこく聞かれたわけでもないなら何よりだ」
「お、リカイも来たね」
「おかえり、シコウ」
トウハと話していたら、シコウが姿を現した。
「とりあえず調べてみたけど、プレイヤーもガードが堅いね。公開情報以外ほぼ無し」
「いやいや、助かるよ」
「話は後の方が良いかな」
「そうだな。全員で共有しときたいし」
「そんなに情報が無いのか?」
不安そうにトウハが聞くと、シコウが首を横に振り否定する。相変わらずエモーションが手慣れてる。
「守秘義務関係がどこまで徹底しているかにもよるけど、公開情報だけでもかなり多いよ」
「肝心なとこがないパターンか?」
「そうなるね」
「どう。なんか判った?」
俺がガッカリしていると、スンカとシクミが姿を現して、スンカが問いかけてきた。
「公開情報以外ほぼ無しだったけど、量が多いかな」
「もう公開情報確認したの?流石シコウって感じ?」
「まだまだだよ、もうちょっと情報があるものと思ったし」
「またまたぁ。謙遜しない。」
「ありがとう」
スンカに褒められて照れた声を出すシコウ。スンカの後ろにいるシクミが微笑ましく見守っているように見える。
「さて、みんな集まったし、奥の部屋行こうか」
「ここじゃなくて?」
「あぁ。ちょっと制限をかけたくてね」
「制限?」
「ここはメンバー外でも許可さえあれば入れるからな」
「あぁ。それで奥の設定だけ変えるの?」
「そうするつもり。あんまり意味ないけどね」
「そうなの?」
「それよりも、今みんな部屋に一人か?そっちの方が大事かな」
「大丈夫!」
「たぶん大丈夫だ」
「まぁ部屋に入ってくることはないかな」
「だいじょうぶ」
「OK。じゃあ奥の応接間に行こう」
みんなの状況を確認して、ぞろぞろと奥にあるギルドの応接間に入ると、各々の席に座る。
まぁいつもの場所というのがあって、迷う必要がない感じ。
ちなみに入口に一番近いところに陣取っているトウハから右にシクミ、スンカ、俺、シコウ。とここを使う時はいつも座っている。それぞれ等間隔に円卓を囲んでいる感じだ。ちなみに席は入室者の人数に応じて増えたり減ったりする不思議仕様になっている。
俺はギルドの設定で、応接間をギルドメンバーのみ入室可能にしてから、いつもの場所に腰掛けた。
「さて、シコウの調べてくれた話を頼むよ」
「了解。メカニカルアーマーリーグの公式サイトと代表的な企業のホームページを見てきたけど、開催日程とか、メンバーの簡易的なプロフィールとかはあったかな。守秘義務関係だろうけど、名前はコードネーム。顔写真は無しだった。それでも、たぶんだけどファン向けのアピールかな。流石に上位チームのところはファンが多いね。ホームページに貼り付けてあった動画は結構回ってたよ」
「どんな動画?」
「サブネイルを眺めただけだけど、選手目線の試合の様子が多いみたい。流石に時間が無くて中身までは見てないけど、タイトル的にも各試合の名場面か何かだと思う。」
「他には」
「参加企業の方だと、メカニカルアーマー、動かしている機体の説明とかはないかな。公式サイトで出ている情報以上ではないかな。よく使用する武器関係はあったけど、防具系の装備についてはどういう訳か全く載ってなかった。」
シコウが少しすねた声を出すと、気を取り直したのか続けて話し出す。
「公式サイトだと、参加チームを募集しているとあったけど、直接問い合わせないとダメみたい。募集要項とかも探したけど載ってなかったなぁ。そうそう。各試合のルールとかは細かく書かれていたね。これも観客向けなのかなとも思ったけど、使用できる武器と防具は載ってたよ。」
「例えば?」
「銃関係だと、ハンドガン、マシンガン、ショットガン、グレネードランチャー、アサルトライフル、スナイパーライフルだったと思う。ここら辺はゲームでも定番武器種だね。近接関係だと、警棒、ハンマー、メイス、グローブ。グローブ以外は長さが長短あるみたい。」
「私、マシンガン一択」
「こらこら」
「ショットガンかグレネードランチャーだな」
「アサルトライフルか、グレネードランチャーも捨てがたいと思うよ。」
「スナイパーライフル」
「ブレないなぁ。シクミは」
「これは譲れない」
「うんうん。あるよね、そういうの。リカイは?」
「適正次第かな。今決めても作戦がなぁ」
「幅が狭くなるからね」
俺の返事にシコウだけが賛同してくれるが、みんなの好みは、このサバイバルネット基準なのだろう。
「自由に選べるならってことでどう?」
「ならグレネードランチャーかスナイパーライフルかな。」
「ん。スナイパーライフルはカッコいい」
「確かに。僕らのプレイスタイルが通じるなら、ここのサバイバルネットで使ってる装備関係を使いたいよね。作戦も立てやすくなる」
「いや、補助系のアイテム次第だな。グレネード、手榴弾関係や罠各種。ロープ。リペア(修復)とかリカバリー(回復)関係は出来るのか、ドローンは使えるのか、そこら辺が無いとかなりキツイ。」
「そこら辺は書いてなかったなぁ。ゲームのようなリペア(修復)は現実的には難しいだろうし、他も試合では見てないかも。閃光弾とかはありそうなのにね」
「観客の有無で派手さが変わるからなぁ」
「爆発だと被害が出るんじゃない?」
「ショットガンは間近で喰らいたくないぞ」
「確かに」
「話が逸れたけど、ここら辺はもう少しちゃんと調べたいね。補助系アイテムも含めて」
「だな。グループの人数は欠けたらダメなのかな」
「ダメではないと思うよ。でも、会社的には人数は揃えたいってところじゃないかな。最小グループは班とされていて、え~と、あった4人から6人になってるね」
「なるほどね。シコウ。公式サイトのURL。後でメールしてくれる?」
「あぁ、みんなに送るよ。最低限ルールは知らないとね」
「どんなゲームがあるかだけでも知っとかないとな」
「トウハ、ルールも見とけよ」
「大丈夫。ちゃんと眺めるから」
「読む気ねぇな」
「ナハハハハハ」
トウハの乾いた笑いに皆苦笑しつつ、話が途切れる。
「操作方法がどうなんだろうな」
「う~ん。こればっかりはね。全く判んない。どこにも載ってなかった。前に見た試合は結構ハードに動いているし、結構身軽だった気がするんだよね。近接戦闘とかそういう意味で。定型動作にしてはバリエーションが豊富なんだよね。」
「ゲームと比べるしかないけど、こればっかりはなぁ」
「可能性としてだけど、プレイヤーの動きをそのまま反映しているように見えるかな」
「実際に乗ってるようにか?」
「うん。回避方法もバリエーション豊富だった記憶があるし、姿勢射撃も坂道に合わせて動いていたから」
「まぁ、実際に機体を動かしているからなぁ」
「どういうこと?」
シコウの説明に納得の声を上げたところで、スンカから疑問の声が投げられる。
「ゲームだと、絵で誤魔化せるけど、実際に動く現実の機体を動かしているから、地形とかに合わせた動きが出来ないといけないんだよね。傾斜や段差があるから固定された動きだけだと姿勢が保てなくて転んじゃうから、姿勢制御だけなのかプレイヤーの技術なのかが判んないんだ。」
「そうなると操作に影響が出るの?オートで補正とかしてくれないの?」
「その知りたい部分が非公開なんだよ」
「困る?」
「いや。まだ知らなくて良いかな。どうせ免許を取らなきゃならないし、気になるけど、教えてくれるだろ」
「そういえば、メンバーを増やすのはどうするんだ?」
トウハが問いかけるが、皆顔を見合わせる。
「操作関係がよく判らないから、基本的には運動神経の良い人で心当たりがないか。」
「ウチの会社の人でだろう?」
「そうですね。それが最低条件です。」
「VRは?」
「探すのが難しいかな。それこそ会社で募集をかけて欲しいくらいだよ」
「趣味を聞いて回るのはね」
社長達との会議で念押しされてるから、大々的に発表するときに、募集をかけるという手段は社長達にお伺いを立てる必要がある。ダメだった場合の手段にはしたい。
「VRゲームも種類があるからね。トウハさん、同じジムに通う人とかで若い人はいませんか?」
「若いのかぁ」
「同世代から下あたりかな」
俺がシコウの提案に付け加えると、トウハは首を捻ってジムに通う人でも思い出しているのか唸っている。
「何人かいるけど、そんなに話したことが無いからなぁ」
「スポーツをやってる人とかは?」
「ここ最近、スポーツ系のイベント無いからなぁ。俺は分からない。」
「僕もスポーツ系自体触れてないからなぁ」
「ウチの会社以外なら、道場の後輩とかに声をかけれるけど、ダメなんだろう?」
「あぁ、ウチの会社に所属してないとなぁ」
「じゃあ。まずはダメ元でトウハと同じジムの人に当たるってことで、私、昼休みぐらいしか空いてないけど」
「明日は僕、出張でいません。」
「休み時間がズレる日」
「となると、俺、トウハ、スンカで当たる感じかな。トウハは昼は?」
「大丈夫。合わせるよ。食べてからで良いだろ?」
「もちろん。そうしてくれ。スンカも」
「OK。大丈夫。」
「じゃあ、僕はこの辺で、出張の準備は出来てるけど、もうちょっと調べたいかな」
「あぁ、俺も調べるよ。公式サイトの内容も見ておきたい」
「じゃあ解散?」
「そうしようか」
「じゃ、また明日」
「おう、お疲れ。さて俺も、明日よろしく」
「はいはい」
「おう」
グローブコントローラーでログアウトを選択すると画面が部屋に戻る。
「アクセス設定、ログアウト」
「アクセス設定、ログアウト、お疲れ様でした。リカイ」
俺が呟くと、VRセットの女性の音声が復唱し、画面が暗くなる。
「さてと」
VRのヘッドセットとグローブコントローラーを片付けると、俺はメカニカルアーマーリーグの噂やルールの確認、過去の対戦成績記録の捜索なんかをして過ごした。

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