0004スカウト

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起稿20240306
改稿20240516
0004スカウト
2月6日火曜日の昼休み
食事も終えて一息つきたいところだけれど、そうもいかない。
トウハとスンカと合流して、トウハと同じジムに通う3人にあったんだが…。
「悪いな、流石に難しい。」
「そうか。申し訳ない。守秘義務というものがあるらしいから、メカニカルアーマーリーグについては公になるまで黙っててくれ」
「分かった。」
「ありがとね」
「またジムで」
「おうナンロもな」
3人とも情報の少なさと、職場異動の可能性、参加しなくて良いならば、出来れば参加したくない等の意見をもらいそれぞれ辞退を選択した。
まぁ、解らない訳ではない。見通しの読めないものだと進みが遅くなるのは、なんとなく判る。
「全滅?」
「あぁ、他にもいるけど、ダイエット目的とか、そんな人が多いからなぁ」
「あぁまぁね」
「とりあえず今日はやめて出直そう。」
「そうねって、あ、」
諦めて職場に戻ろうかって時にスンカが立ち止まった。
「どうした?」
「確かボーリング大会で…。」
スンカが独り言を言いながらスタスタと前を行くと、一人の男性と話し始めて少し待っていると、眺めていると俺達を手招きする。確か彼は、エイユウ君だったと思う。
「急にどうした?」
「人材確保~!」
「人材確保って?」
エイユウ君は、意味が解らないらしくスンカに聞き返す。
「今話した新プロジェクトの話」
「あぁ。構わないよ。僕で良ければ」
「ホントか。助かるけど、部署異動があるかもしれないし、メンバーも定まってないぞ」
「あぁ、メカニカルアーマーリーグには興味があったんだ。ただほら、個人ではあれに参加できないからね。諦めていたんだ。」
「グッジョブっしょこれは」
「おぉ。グッジョブ。エイユウ君だったよね。守秘義務関係があるんだが、スンカから話は聞いたかい?」
「改めて、エイユウ ケンザンです。って、守秘義務の話はまだ聞いてませんが」
「おぉこれは丁寧に。俺はユキサキ リカイ。メカニカルアーマーリーグって軍事関係も絡んでいるから、何かとあるみたいでさ、それにまだ確定ではないところも多いみたいだから、あまり大っぴらに話せないんだよ。」
「そうなんですか?」
「俺達も守秘義務があるから参加者を打診する以外では、あまり話さないように念押しされてるんだ。」
「そうなんだ。ユキサキさん達はプロジェクトのメンバーってところ?」
「まだ、そこも曖昧でね。プロジェクトの初期参加メンバーにはなったけど、メカニカルアーマーリーグにまで参加するかどうかはまだ判らないんだ。一応、エイユウ君を参加希望者って形でグウゼン部長に連絡するけど問題ないかな」
「もちろん。出来ればメカニカルアーマーリーグの選手だと嬉しいかな。仕事の調整とか面倒かもしれないけど」
「まぁそこは会社に丸投げだね。会議とかでも同じだろうし」
「わかりました。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
エイユウ君がスッと手を伸ばし、一拍遅れて俺も手を出すと固い握手を交わす。握力がしっかりしてて若干痛い。
「じゃぁ進展があったら連絡したいんだけど、会社のメールで良いかな?」
「はい。それでお願いします。」
「あ。それと、まだ職場の人にも、このことは内密にしてくれないか。」
「さっきの守秘義務の話ですか?」
「そうそう。外部の人に話さないのはまぁ、基本的にそうなんだけど、社内向けの正式発表自体がまだだから、社長達から念押しされててね。口が軽いと参加自体が見合わせになるのではないかと個人的には感じているんだ。」
「なるほど。わかりました。とりあえず正式発表があるまでは、口外しないことにします。」
「よろしく」
ではではっという感じでエイユウ君と別れるとドヤ顔スンカが機嫌良く先頭を歩く。
「どうよ私の交渉力」
「流石スンカかな」
「見直した?」
「おぉ」
体ごと振り返って俺達に自慢すると、トウハの返答に素早く切り返し。無邪気に微笑む。トウハが少し後ずさりするほどの勢い。なかなかの上機嫌だな。
「でも交渉力もだが行動力もだな」
「お!リカイ。お目が高い。けどね、正確には記憶力かも」
「どうゆうこと?」
「ふ、ふ、ふぅ。何年か前にレクリエーションとかっていってボーリング大会あったじゃない」
「あったな。」
「その時、エイユウ君と同じチームだったのよ」
「ほうほう」
「そこでね。確かなんかのスポーツを高校時代頑張ってたんです。みたいな話をしたなって思い出せたの。で、打診したらヒット!」
「あぁなるほどね。」
エイユウ君との交渉が良好だったこともあり、だいぶ気が緩んだ俺達は、途中まで一緒に戻ると、それぞれの部署に向けて解散となった。
俺はとりあえずグウゼン部長に、エイユウ君を候補としてスカウトし、参加に前向きな意見だったことをメールで報告して、午後の仕事に向かった。

帰りがけ、どういう訳か、女性に呼び止められて、スンカとエイユウ君の関係を聞かれるという珍事が1件。
それ以外は、ほぼ平常運転で帰宅できた。
目立つつもりはなかったものの、意外に人に見られていたことを痛感する。
まぁそれにしても、美形な人は色々大変なんだなとは思う。

グウゼン部長からの返信は無かったが、まぁ期限までだいぶあるし、慌てなくても良いだろう。
とりあえず、夕飯を食べてから、メカニカルアーマーリーグ関連の情報を探し、よくあるメカニカルアーマーリーグの関連本の電子書籍を買って読んでみる。非公式本と銘打たれたものだが、過去の対戦成績や使用武器種、作戦というか試合の流れなどが載っていて結構楽しめた。
「まずは、免許が取れるかなんだよな」
色々見たり、考えても、本当に参加できる状態にならないと意味が無い。
独り言を口にしてから、時間を見ると結構な時間だった。
「ログインだけでもしておくか」
また独り言わを呟きつつ、ヘッドセットとグローブコントローラーを手にして、椅子に腰掛ける。
「アクセスログイン。」
「音声確認、認証クリア、網膜確認、認証クリア、コントローラー接続確認、クリア。お帰りなさい。リカイ。」
VRセットの女性音声が流れる。
「サバイバルネット、オープン。ログイン。」
「サバイバルネット、オープン。ログイン…。クリア」
俺が呟くと、VRセットの女性の音声が復唱し、目の前にゲームの世界が現れる。
「ようこそ、お帰りなさいませバウト様。」
今度はゲームの女性音声が入り、大勢の人が行き交う街中に視界が変わる。
「ギルドアイテム ワープゲート 帰還」
目の前の景色が雑踏の街並みから、ギルドルームの部屋の中に変わる。
部屋には、トウハとスンカとシクミ。シコウは今日出張だからログインしてないのだろう。
「おつかれ」
「おつかれリカイ。」
「ミッション受けた?」
「いや、受けてない」
「今回の件が落ち着くまでは俺は難しいかな」
「だな」
ちょっとお疲れ気味の声でお互い答え、なんとなく場が静かになる。
「今日の帰りがけ、リカイも事情聴取された?」
「事情聴取?警察には会ってないけど」
「違う違う。ウチの会社の女性社員。」
「あぁ、事情聴取というよりか確認かな」
「リカイも突撃されたんだ」
帰宅しようとして女性社員に呼び止められて、エイユウ君とスンカの仲だとか、エイユウ君の話を聞かれたのを思い出して、答えると、スンカが、一気に疲れたのか、ガックリ肩を落としたような声を出す。
「あぁ、スンカが色々聞かれて大変だったらしい。」
「エイユウさんは、かなり人気。私も困る」
「シクミにも問い詰めてきたのか?」
「私はエイユウさんを誘ったの知らなかったから、まだ大丈夫」
「あぁ、なんかご苦労さん」
トウハはシクミの返答を聞いて何かを察したのか珍しく労いの言葉をかけている。
「熱烈なファンでもいるのか?」
「判らない。休憩時間によく話に出る」
「そうね。遠くから観ていたいだけなんだろうけど…」
「アイドル的ななんかかって…。あぁ、ちょっと面倒なんだな」
「うん。守秘義務関係があるから詳しく話せないし、それでなくても話すのに躊躇うような人だったから」
「なんだ?強引に聞き出されそうだったのか?」
「違う違う。なんて言うの、あれよ」
俺がちょっと慌てた声を出すと、スンカも慌てて否定するが、やけに言葉を濁そうとしている。なかなか珍しい。
「口が軽くて有名だからな。話せば一気に広まる。」
「言葉を選んでたのに」
「難しい言葉にしたって同じだろ」
「わかった。二人とも落ち着く。とりあえず、そういう人なら俺達の新プロジェクトの参加は広まる訳だ。たぶんエイユウ君も含めて」
「たぶんね。あ、シコウにも気をつけるようにメール入れとく」
「よろしく」
「気分転換にミッション行くか?」
俺もなんか疲れてきた気がするな、なんて思っていたら、トウハからの誘い。

スンカもシクミも乗り気になって、一度ミッションをやってから、今日はお開きにすることになった。

「で、何やるか」
「狩猟採集ミッションをやらないか」
「ん。頑張る」
シクミがなんかやる気だ。シクミはスナイパーライフルを好んで使っているので、スナイパーライフルが活躍しやすいこのミッションなら張り切る気持ちは解らなくも無い。
狩猟採集ミッションは、チームでも個人でも受けることが出来るミッションで、どちらかというとチームで受けた方が効率は良いが、指定数以上に得たアイテムは、まとめられ、参加した人数分に分配される。
ちなみに狩猟ミッションと採集ミッションというものもあり、狩猟採集ミッションは、狩猟と採集両方のミッションをこなすような感じになる。
狩猟ミッションについては、指定された動物を指定数倒す。指定される動物は、鹿、猪、ウサギ。
体が小さいウサギは、難易度が他に比べると高い。
採集ミッションについては、動物に気をつけながら薬草や石を採集する。これも指定されたものを、指定された量を手に入れる必要があるのだけれども、親切設計になっていて、薬草は黄色の輪が薬草の周りで点灯して教えてくれて、石は岩肌が出ているところをガンガン撃ちまくると勝手に採集出来てしまう。
またゲームということもあり、現実ではありえないし、指定されてもいないが、浮遊して移動する石があり、それに弾を当てると、ランダムだが宝石が手に入る。これは売ると結構良い収入になる。
「チーム分けは?」
「シクミとスンカで狩猟かな」
「俺とリカイなら、宝石はどうする?」
「余裕があればやろうか」
「そうだな。」
「んじゃぁ、ミッション立ち上げるぞ」
「よろしく~」
ミッションは、先週末の砦の防衛戦のような現地で参加するタイプと、メニューから選べるタイプと2通りあり、狩猟採集ミッションは、メニューから選べるタイプで、ミッションを選ぶ時に、何点か選択肢を選ぶことが出来る。
参加者をチームでやるか、個人でやるか、フィールドをどんな場所にするか、乱入を許可するかしないかなど、今回はチーム参加で乱入却下で山野フィールドにしてみた。
「パスを送るぞ」
「はいよ~」
パスをスンカ、シクミ、トウハに送り、俺はフィールドへの移動をグローブコントローラーで選択する。

景色がギルドルームから森の中に切り替わり、少し待つとスンカ達もやって来た。
「さ、行ってみよう!」
スンカの掛け声とシクミのエモーションで、今回のミッションがスタートした。
「よし、トウハ、宝石は南西側だったか?」
「先に薬草系を済ませちまおうぜ」
「シクミちゃん。私ドローン出すから先に索敵してくれる」
「解った」
それぞれの担当に合わせて準備を進める。俺もトウハもこのミッションは何度も繰り返しやっているので、目当てになる薬草や採石の採れる場所はある程度知っている。手分けしてもいいが、採取中に狩猟相手の動物達が、こちらに攻撃を仕掛ける可能性があるので用心のため、一緒に行動している。本物は知らないが、このゲームの動物達は比較的好戦的だ。こちらを見つけ、一定の距離より近付くと率先して攻撃してくる。部位によりダメージも大きくなるため警戒は必要だ。
さて、移動さえしてしまえば、手馴れた作業だ。薬草さえ掴めばバックパックに入る。サクサクッと薬草系をこなしていくと、辺りの薬草は採り終え、ミッションの指定数も満たしたようだ。
「よし次だな。」
「おう」
トウハが仕切って切り上げると今度は南西に足を向ける。そちら側に岩山があり、宝石が採れる浮遊する石もその辺をフラフラ、いやスイスイとしているだろう。
「この前のミッション。赤字だったか?」
「いや、ギリギリプラスだな。損傷率がそこまで高くなかったから助かった。」
「そうだったんだ」
「今回の砦の扉が硬かっただろ」
「あぁ。いつもよりな」
「石と武器の納品が多ければ、防衛強度が上がりやすいらしくてさ」
「攻略動画か」
「おう。この前見てな、今までさ、なんとなく宝石狙いで来てたけど、そっちもちゃんとやらないとなって思ったってところさ」
「なるほどね。なら指定数以上にガツッと採取しようか」
「リカイは指定数超えたら宝石を頼むよ。スナイパーライフルは苦手だからさ」
「おう。任された」
そんなこんな会話をしながら採石出来る岩山に到着。装備しているショットガンでガンガン撃ちまくって指定数を超えるとトウハと手分けして、俺は岩山の頂上まで登り、浮遊する石を探し始めた。

浮遊する石はレーダーに反応しない。なので、目視で探さねばならないし、それなりのスピードで移動する。直接的に動いてくれるので、その点だけは助かるんだが、スコープで見続けていると、自分の周りが見えなくなる。浮遊する石を狙っている時に周りに気を配ることは難しいので、目視で確認、構えてスコープの枠に収まっているかどうかで撃つ判断をしている。おっと、早速お出ましだ。

北の空から、かなりのスピードで南に向かっている。一瞬、隕石を連想するけれども、あれは落ちてこない。
まだかなり遠いが、そろそろ射程圏内だろう。
かなりのスピードになっているのは、大きさの問題かもしれないと解説動画で見た気がするが、今はどうでも良い。
スッと構え、スコープに収まっている。
移動しているので、合わせて動かしつつ撃つ。
感覚だけれども、気持ちだけ進路の先に向けて。
音がないけれども、所持アイテムに宝石。幸先良くダイアモンドが加わった。無事に当たったらしい。
さぁ続けよう。
もう一回狙えるかと思ったが、所持アイテムを見ている隙に見失ってしまった。
その後、4つの浮遊する石を発見して、外したのは8発中1発。なかなかの命中率に満足していると、スンカから無線連絡が入った。
『そっちはどう?』
『ミッションの指定数なら終わってるよ』
『ならそろそろ上がらない?こっちも指定数超えたから』
『了解、トウハにも伝えるよ』
『お願い』
スンカとの無線を切ると、トウハと繋ぐ。
『もしもし。』
『もしもし。リカイ。そろそろ上がるか』
『おぉ。スンカから連絡があってな。スンカとシクミの方も満足したみたいだ』
『了解』
『ミッションの終了操作するぞ』
『おう。任せた』
グローブコントローラーで、ミッションの終了操作をすると、強制退室カウントが始まり、俺はそのまま退室した。
目の前の景色が岩山からギルドルームに変わる。
「さてと」
みんなも少しすればこちらに戻ってくるだろうしと、ミッションの成績を確認しておく、スンカ達も大量だったのか、だいぶ分配されていた指定数以上の品物が結構ある。このままだとすぐにバックパックがいっぱいになってしまうので、街で売り払ってゲーム内通過にしてしまう。ログアウト前に済まそう。
俺がミッションの成績確認をしている間に、みんなも戻った来たようだ。
「今日は大猟!」
「命中率96.4%」
「やるなぁシクミ。スンカは?」
「久々にウサギをゲット!」
「スゴいじゃんか。腕を上げたな」
「でしょでしょぅ。トウハ達は?」
「俺は採石に専念してたからなぁ。」
「うわ。なんかいつもよりスゴく多くない」
「薬草の後、ショットガンで撃ちまくって、マシンガンに持ち替えたら、やたらと捗ったんだ」
「リカイは?」
「俺は指定数以外は宝石7個その内1個はダイヤだ」
「お!懐が潤うな」
「助かるぅ」
「上手い具合に当たってラッキーだったよ」
それぞれ戦果を話してひと段落。
「んじゃ、アイテムを売ったらログアウトするよ。明日もあるし」
「おつかれ」
「おつかれ」
俺はギルドルームを後にすると、そのまま街中にいって、不要アイテムを売り払い、ログアウトした。

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