0005期待と不安と

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起稿20240306
改稿20240518
0005期待と不安と
2月7日水曜日
グウゼン部長からメールが返ってきた。
まずは、エイユウ君の参加を歓迎してくれて、次回の打ち合わせにも同席するよう書かれていた。
部長達の目線からも問題児扱いではなかったのはホッとしたが、読み進めていくと、参加メンバーの窓口になるよう俺への要請も書かれていた。
今後は仮の代表者として活動させられるそうだ。
なんとも気が重いが仕方ない。
他のメンバーにメールが送られていないから、グウゼン部長からのメールをエイユウ君含むメンバー全員に転送しつつ、決まった内容を連絡して、窓口になることを承る返答をグウゼン部長に返した。
そのうちに、スンカ辺りから、からかいのコメントが返ってくるだろう。
次回の打ち合わせの日程も決まった。
来週の火曜日。02/13の14時。場所は前回同様、301会議室。
会議の日までに、今後の日程がある程度定まってくるらしい。
社長は今回不参加らしいが、グウゼンさんが近日中にインビテーション(会議の参加要請)を出してくれるらしい。
「また面倒な」
「どうした?ユキサキ」
思わず声に出てしまい。ヒアタリ課長に質問される。
「新プロジェクトの関係で色々動かされるらしくて」
「なるほどな。まぁ、若い内に経験できることは、何でもした方が良いぞ。」
「いや~面倒で」
「まったく相変わらずだな」
ヒアタリ課長に笑われて、こっちもつられて笑ってしまう。久々に長閑(のどか)な休憩時間の気がする。
メールチェックを済ませると、席を立ち、喫煙所へ、そして、また作業へと戻った。

昼休み。
定例のメールチェックをしていると、スンカからメール。からかいコメントだろうと開いてみる。
からかうコメントはあったが、エイユウ君のメンバー加入に対する歓迎会の提案をしてきた。
メンバー全員に送られている。また、ゲーム用で使っているグループチャットにエイユウ君も入らないかという問い合わせも書かれている。
エイユウ君もメンバー全員に返信していて、グループチャットへ参加するらしい。
日程はどうする?と俺の空いている希望日込みでメンバー全員宛に返信して、喫煙所へ歩き出したら、喫煙所にスンカがいた。
「メール見た?」
「おぉ、返信したよ。ありがとう気付いてなかった。」
「面倒くさかったからじゃなく?」
スンカが、からかうように聞き返す。
「グループチャットも歓迎会も気付いてないよ」
「ほほう。」
「エイユウ君も返信してたけど、後でグループチャットのアプリを教えてあげてくれる?」
「ゲーム用で良いんだよね」
「それが良いな。プライベートでの繋ぎが出来るし、ゲームの話はゲームの中で事足りるし、使ってなかったからな」
「了解。歓迎会いつやる?」
「メールで返信した。みんなの予定を合わせたいし。」
「そうだね。場所は日付が決まってからで良いよね」
「大丈夫だと思う。」
「わかった。じゃね」
「おぅ。ありがとな」
スンカは、サクサクッと話を済ませると、ササッと帰って行く。
さて、タバコを吸うかなとタバコを取り出すと、同僚が話しかけてきた。
「今週はお客が多いな」
「あぁ、新プロジェクト絡みだよ。足りないメンバーも補充出来そうで、今度歓迎会をしようかって話になってさ」
「おぉ。なんだっけ、あんまり話しちゃまずかったんだっけ?」
「いや、まだ公にしてないからだと思うよ。」
「なるほどね」
タバコを吸いながら、軽い会話を交わしつつ休憩時間を過ごし、午後からも仕事に励む。

特に問題も無く今日の仕事を終えると、いつものように帰宅。
ゆったり夕食と済ませつつ動画のチェックをしていたら、グループチャットから着信。
グループチャットを開いてみると、どうやら全然気付いてなかった内にメンバー間でやり取りが進み、話が進んでいたようだ。
チャット的にはこんな感じ。

スンカ「とりあえず、みんなの都合の良い日と言うことで、2/17(土)にしようと思うんだけど、どこにする?」
シコウ「何を食べます?」
トウハ「肉」
シクミ「お鍋も捨てがたいと思う」
ケンザン「焼き肉がいいかな」
シコウ「僕はどちらも嬉しいんですが」
スンカ「お酒は?」
トウハ「もちろん吞むよ。誰か迎えに来てくれれば助かる」
スンカ「じゃ多数決で焼き肉屋さんにするとして、焼き肉屋さんの良いお店知らない?」
トウハ「俺、探そうか?」
スンカ「任せて良いならお願い」
トウハ「OK。時間は?19時とかでとっとくか?」
スンカ「行けそうなら、もう少し早くても良いけど、みんなは?」
シコウ「19時がいいかな」
ケンザン「19時で」
シクミ「いつでも」
スンカ「じゃ、19時でトウハお願い」
トウハ「了解。店探しとく。みんな吞むのか?」
シコウ「たぶん。」
スンカ「場所次第でちょっと考えましょ。代行って方法もあるんだし」
トウハ「そうだな。店探すよ」
スンカ「よろしく~」

全然気付いてなかったけれど、サクサク決めてくれてたみたいだ。ケンザンというのは、エイユウ君だろう。無事に参加しているみたいだ。
俺もトウハに、店探しよろしくと書いて、見ましたアピールをして、アプリを閉じる。
鍋物もたしかに捨てがたい。そんなことを思いながら…。

グループチャットを見た後になんとなく、メカニカルアーマーリーグのことを調べる気になれなくて、サバイバルネットへログイン。ギルドルームに顔を出す。
「まだ誰も来てないか」
ログインしたけれども、ギルドルームには誰もいないし、フレンドのログインをチェックしてみたが、ログインしていない。
もしかしたら、久々のグループチャットで、まだ盛り上がっているかもしれない。
なんとなく外に単独で行こうと思い立ち、ギルドルームを後にする。

サバイバルネットは、比較的自由度が高い。
戦闘地域と非戦闘地域はハッキリと分けられているので、非戦闘地域を移動する分には危険はほぼ無い。
昨日のようなミッションならば、食料確保が手軽だし、それを好んでプレイする人もいる。
指定外のレアものを求めれば、かなり難度が高くなるというものもある。
ミッション自体も豊富で、それぞれの遊び方があったりするが、タイミング良く砦の防衛戦が始まったらしい。
ヘリポートまで距離も近いし行ってみようかと思ったら、無線が繋がった。
『もしもし』
俺は音声操作で着信を繋ぐと、シコウの声が聞こえる。
『もしもし。ログインしてたんだ』
『うん。グループチャットも一段落したし、こっち来た。今どこ?』
『砦の防衛戦に行こうかなとは思ったけど、まだ街中で回復系を調達しようとしてた。』
『そうなんだ。』
『もしかして、みんな来た?』
『スンカとシクミはまだかな』
『砦の防衛戦始まるけど行く?』
『あぁ、その前にちょっと話したいかな』
『新プロジェクト関係か』
『そっち』
『了解。戻るよ』
『悪い』
『いや、暇つぶしだから大丈夫。すぐ行く』
『了解。』
申し訳なさそうにするシコウに問題ないことを伝えつつ、ギルドアイテムを使う。
「ギルドアイテム ワープゲート 帰還」
目の前の景色が雑踏の街並みから、ギルドルームの部屋の中に変わる。
ギルドルームには、シコウとトウハがソファで寛いでいる。

「おつかれ」
「おつかれ。話って」
「あぁ、メカニカルアーマーリーグなんだけど、体力的に結構きついかも。」
「なんかわかったのか?」
「断片的な話ばかりなんだけどね。初期のメカニカルアーマーの戦地利用とかの資料があってさ、それを見たり、海外の選手って、プロスポーツ選手のように顔も名前も出してるから、その辺りを調べたりしていたんだけど。」
「可能性として、かなり体力が必要そうだなって結論になったと」
「う~ん。有名選手だけかもしれないけど、体格も運動も得意な人ばかりでさ。それに偏見かもしれないけど、軍事関係って、スゴく体力が必要なイメージが強いんだよね」
「下手すると訓練とか始まっちゃいそうだもんな」
何故だろう。大変そうな話をしているのに、トウハがスゴく。物凄く嬉しそうな声を出している。
「訓練か~何やるか全然想像出来ないな」
「そうだね。VR操作ができるらしいけど、市販のVRセットとの違いが判ららないから、操作に対する体への負荷が判らないんだよね」
「実機演習はあるかもしれないけど、そこまで過酷になるとは限らないぞ」
「杞憂に終われば良いなとは思うんだけどさ、スポーツ系って僕は苦手だし」
「俺も得意ではないよ」
「そうなのか?」
「多少やってたけど強かったり、上手ってわけじゃないよ」
「僕はまったくかな。学校の授業以上にはやったことない」
「ガンガンやって門前払いなんかしないだろう?」
「無いとは思うけど、体力が無くて脱落っていうのは避けたいかな」
「あぁなるほどな。」
シコウの悩む声を聞いて、トウハも口を閉じてしまった。
「なんか話し合い?」
俺達が話しているところで、スンカが会話に混ざる。ログインしたらしい。
「あぁ、メカニカルアーマーリーグは、結構体力が要るかもしれないって話していたんだ。」
「そうなの?VRでしょ?」
「メカニカルアーマーはVR操作だっていうのは知ったんだけど、VRでしか操作できないのか、着込むようにメカニカルアーマーを装着出来るのかは判らない状態なんだよ。免許を取るという話もあるように、実際のメカニカルアーマーがどう動くのかを知ることは大事だと思うんだ。無理な操作をしないで済むし、効率良く動かすのにも実際に動かしているのと、リモートで周辺情報が制限されているのでは大きく異なると思うんだ。」
「体力ねぇ」
「スンカもスポーツ系は全くか?」
「中高で剣道はやってたけど、部活だけかな」
「僕より体力あるかも」
「シコウ」
「いやいや、他意はないって」
スンカの凄味を感じる声にシコウが慌てて訂正する。
「とりあえずトレーニングメニューでも考えてみるか?俺で良ければ作るけど」
「頼めるならお願いしたいかな。」
「おう任せてくれ」
シコウが依頼するとトウハがご機嫌で請け負う。
「トウハ。」
「ん」
「トレーニングメニュー。自分基準でやるなよ。普段運動していない俺達がやるんだから」
「大丈夫。任せとけって」
「ジムとかでトレーニングしてるんだし、それなりに他の人にも相談しやすいでしょ」
「そうだな。全く手がつけられなかったら、ジムのトレーナー辺りに聞いても良いし」
「ちょっと心配だっただけさ」
「んじゃ、ちょっと考えてみるよ、今日は先に上がる」
「ん。おぉおつかれ」
「おぉ、じゃな」
俺の心配を余所に、いそいそとログアウトするトウハ。好きな方面の話だし、暴走しそうな気がしてならない。
「大丈夫、大丈夫。」
「言い聞かせてもダメだぞ。」
シコウがブツブツと小声で大丈夫と繰り返しているので、とりあえず突っ込んでおく。
「バレた?」
「バレるだろ」
「お手柔らかにって感じだね」
まぁトウハが暴走しそうなのを感じたのは俺だけではなかったらしい。
「作ってくれたのを見てからだな」
「そう言えばシクミちゃんは?」
「今日はまだ来てないかな」
「そうなの?グループチャットでもこっちにログインするみたいなこと書いていたけど」
「まぁ、その内来るだろ」
「まぁそうね。もし来なくても、とりあえず後で情報共有しとかないとかな」
「エイユウ君も含めてな」
「そうね。いっそこっちも勧誘する?」
「ゲームの方ですか?」
「うん。」
「ゲーム自体やるのかな」
「そう言えば、どんな人なんです。エイユウ君て、僕も部署が違うし、あまり知らないんですよね」
「あぁ、俺もよく知らない」
「噂話ばかりになっちゃうけど、スポーツ万能で、頭が良くて~って聞いてる。実際に話した感じも悪い印象はないかな」
「そうだな、誠実そうな感じだったかな。」
「そっかあ。悪い人じゃなければ大丈夫かな」
「うん。悪い人ではないと思う」
「スポーツ系も強いなら、今回のチーム加入は良い感じかもね」
「だと良いな」
「ゲームの方の勧誘は、ゲームをやるのか確認してからかな」
「そうね。とりあえず歓迎会とかで仲良くなれたら良いかな」
「だな。さて、俺もそろそろあがるかな」
「今日はなんか用事?」
「いや別に、ちょっとこの前買ったメカニカルアーマーリーグの非公式本を、もう一回見ようかなってね。有名選手とか書いてあったか気になってさ」
「そうなんだ。じゃ、シクミちゃんに会えたら体力作りが必要かもって話しとく」
「あぁお願い。んじゃ」
「おつかれ」
「おつかれ」

俺はログアウトすると、昨日買ったメカニカルアーマーリーグの非公式本を見ようとベッドに横たわる。電子書籍はいつでも読めるが、読もうとしないと読めない現実がある。たまに必要知識が必要なときに出てきてくれないものかと思う。
本の中身は昨日のうちにサラッとは眺めたが、覚えているかと言われるとあやしい。それに読んでいる途中で眠くなってしまったので、最後までは読めていないので、冒頭からちゃんと読んで見ようかと、ページを表紙まで戻した。

最初の方は基礎知識として、メカニカルアーマーが開発されたきっかけやらの噂を基に書かれている。噂がもととなる話だという注釈で、運動補助器具説。ロボット開発からの派生説。ゲームからの発案説など興味深かった。実際はわからないのが楽しいところだと思う。
いろいろな経緯を下手であろうメカニカルアーマーは、いくつかの紛争を経て、無人機。代表的なドローンの戦時利用のように、人のサポートや攻撃手段として変化。そこから人の代わりが出来るようにと現在利用の変化が続いているとある。将来的にはAIによる完全独立型になるのではないかと本では予想されているが、懸念材料として、某有名映画のような、人とロボットの戦争へと発展するのではと力説していて、思わず笑ってしまった。

次にメカニカルアーマーリーグの競技の解説。ざっくり説明すると。
観客が入るメカニカルアーマーリーグの競技は射撃を使わない競技のみで、武器無し格闘技のファイティングと武器有り格闘技のグラディエイトの2競技。
ネットなどで、映像のみを配信しているのは、精密射撃競技のスナイプと宝探しという競技名のトレジャーハンティング。
この四競技を基本として競っている大会となっている。
ファイティングとグラディエイトは相手が降参するか、戦闘不能に近づける競技。
精密射撃競技のスナイプは、他の競技とは異なり、フィールドターゲットという動いている的に当てる競技とスナイプターゲットという動かない的に当てる競技がある。また、動かない的については、的が一つのシングルターゲット。的が三つのトライアングルターゲット。的が六つのヘキサゴンターゲットというのがあるそうで、総合得点で競う競技。
トレジャーハンティングは、今までの個人競技と違い団体競技で、編成人数は6人と12人とある。最大4チームがそれぞれの決められた陣地から地図上の中点にある宝を取りに行き、自分の陣地に宝を持ち帰れば勝つという勝利条件。それ以外に勝利条件はない。銃や近接武器が使用でき、相手と宝の取り合う。
メカニカルアーマーリーグは、偶数月に開催される大会とあり、流石に観ないと駄目かなと思っている。思ってはいる。

最後に武器や防具関連。
銃は、銃の名前、射程距離や基本命中精度、連射性、マガジンなどの補充方法の解説。銃の仕組みや弾の種類。かなり細かく書かれていたが、継続的な読み返しが必要だと感じた。サラッと読んだだけでは覚えることは難しいだろうと思う。
これは近接武器と防具も同様で種類、名前などなかなか覚えきれると思える量ではなかった。

ゲームなどで登場するよくある銃器、有名なものならば名前だけは聞いたことがあるとか、なんとなくわかるものもあるかもしれないが、ガッツリのめり込んでという感じではないだけに、データ量が増えるほど調べるのに萎えてきてしまっている。
少し気分転換が必要かなと思って、気晴らしの動画を観ていたら眠ってしまったらしいことを、翌日の朝に知ることとなった。

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