変化する石油王国〜サウジ人の暮らしと母の愛の話。【サウジアラビア🇸🇦】16/54ヶ国目 | 世界一周ふりかえり
アラビア半島の大部分を治める巨大な王国、サウジアラビア。
イスラム教の二大聖地を擁する、イスラム世界の中心的な存在だ。
2019年に日本を含む49か国に初めて観光ビザが解禁されるまで、その姿は私たちのような一般市民に対しては謎に包まれていた。
足を踏み入れるまで、私のサウジアラビアへの印象は
・相当敬虔なイスラム教国家
・女性は皆両目以外の全身を真っ黒の布で隠している
・店や施設は男女の入り口が全て分かれている
といった厳しいイスラム教のイメージが強く、
他に知っていることといえば、石油の国ということくらいだった。
しかし、この一つ前に訪れたバーレーンで、友人のリームに
「きっとサウジアラビアの変化に驚くと思うわ」
と言われたので、どんな景色がみえるのだろうとワクワクして足を踏み入れた。
◇本当に感じたリベラルな風
サウジアラビアはダンマームのKing Fahd空港に到着。
入国審査時は、女性列と男性列に分かれる。
他のイスラム諸国の空港がどうだったか忘れてしまったのだが、サウジアラビアの空港では、女性の入国審査を担当する職員も全員女性だったのをよく覚えている。
女性はほとんどの人がニカブ(両目以外を覆う布)をかぶっているが、入国審査の時は顔のチェックがあるので、その時だけちらっとニカブをめくって顔を見せる。だから職員も皆女性なのだ。家族以外の異性に肌を見せてはいけないという文化だからである。
周囲を見渡すと男性ゾーンは皆正装のトーブを来ていて、女性ゾーンは皆ニカブとアバヤなので、エリア一帯が真っ白か真っ黒かでキッパリとわかれているのが印象的だった。
カタールがほぼお祭り状態だったのとは対照的に、サウジアラビアの空港の厳格な雰囲気が目に焼き付いている。
いざ入国し、街を歩いてみていると、意外にも黒色のアバヤばかりではないことに気づく。
ブルーやパープル、ピンクのようなカラフルなアバヤを着ている人も体感5~10%近くはいて、さらには髪をだしているような女性もかなり少数だが数名見かけた。
ショッピングモールには髪も顔も出した女性の大きなファッション広告が掲示されていたりもしたし、男女で入り口や食事スペースが分かれているようなお店も見かけなかった。
数年前まで女性は運転免許をとることもできなかったが、今は公道で一人で運転している女性も多く見かける。
男性も、中にはジーパンとパーカーといった洋装で外を歩いている人も複数見かけて、トーブを必ずしも着ているわけではなかった。
こういった光景は7~8年前から普通になっているらしい。
どうやら本当にサウジアラビアは変化しているらしかった。
◇変わる、石油の王国
サウジアラビアに入って一番初めに驚いたこと。
それは、ホントに石油の匂いがすること。笑
外に出ると、ガソリンの匂いがどこからともなくただよってくる。これにはほんとに驚いてしまった。
車で走っているとちょくちょく巨大な石油タンクをボコボコみかけた。
国内のガソリンは国によって同じ価格に統一して管理されていて、リッター78円。笑
数年前まではリッター25円くらいだったこともあるらしく、世界で見た中でも最も安かったように思う。
そんな石油国家の国有企業、世界最大の石油会社であるサウジアラムコ社は、時価総額でAppleと一位を常に争う企業。
そのサウジアラムコのエキシビジョンセンターに訪れると、はじめに目にした展示は、なんと石油ではなく「今、サウジアラムコが取り組む再生可能エネルギー」についてだった。
世界第2位の石油埋蔵量誇るこの国は、輸出総額の約9割、財政収入の約8割を石油に依存しているのが現状。
しかし、石油の枯渇や、需要減少に備え、経済の脱石油依存がサウジアラビアの最重要課題に位置付けられている。
サウジ政府からもサウジアラムコ社への原油生産拡張の停止が要求されており、天然ガスや再生可能エネルギーの生産が国家主導で急ピッチで進められているようだった。
国王および皇太子(政府)は「サウジ・ビジョン・2030」なるものを位置付けていて、産業の多角化を推し進めている。
2019年に観光ビザが解禁されたのもその流れだろう。
現在はスマートシティ計画があり、外国企業を誘致したいと考えていることも、サウジアラビアの友人が教えてくれた。
なんでも、現在実はサウジアラビアに支社をおく外資企業が少なく、どこもカタールに拠点を置いてしまうらしい。
一つの原因は国土の広さと移動のハードル。サウジアラビアは国土が広すぎて、公共交通機関も発達しておらず、基本は車移動。その移動のしずらさがネックになっているとか。
そういったハードルを乗り越え、石油依存から脱却できるか。
20年前石油王の国とならったこの国は、今急速に変わろうとしていた。
◇サウジ人男性と語り合う夜。男女は本当に平等を目指せる?
実際には石油は国家(王)に管理されているので、石油王なんてものは存在しない。
「石油王じゃない普通の俺の生活を見てくれよ」
そんな冗談で迎え入れてくれたのは、フィンランド系企業でエンジニアをしているサウジアラビア人のジヤッド。
サウジアラビアは他国と比べるとUberも宿も高くつき、バックパッカーには厳しい国だと思っていた最中、ギリギリのタイミングでカウチサーフィンでマッチングして、ダンマームでホストしてくれることになったのが彼だった。
お家にいくと、至って普通の一人暮らしの男性の家で、確かに想像しているような石油王の家とはまったく違った。笑
弟が泊まりにきていたので、リビングのソファー1台がわたしたち二人の寝床となったが、泊めてもらえただけでも十分ありがたく、これも逆に究極のローカル体験だなあなどと感じながら、L字ソファーの短い方で足をおりまげながら二晩を過ごした。
ジヤッドは自宅ではTシャツにジーパンでボサボサ髪のエンジニアだったが、彼ももちろんムスリムだ。
ご飯を食べながら、どういう経緯だったか、男女は本当にEqual(平等)になれると思うか?という議題になった。
彼はフィンランド系企業で働いているのもあり結構リベラル派な感じはしたが、それでも彼はEqualityって無理じゃないかという考えだった。だって男女ってそもそも違う生き物じゃない?という前提での意見だったと記憶している。(それは生物学的な違いでもあれば、宗教的にも違うものとしての捉え方だった)
結果的にその議論は、Equality(平等)じゃなくてFairness(公平)を目指すべきだよねという結論で収束し、すごくよい話し合いだった。しかし議論の過程で価値観の違いに心がちょっぴりざわざわしたのを覚えている。
それでも、そうやって宗教的背景の違う人と、喧嘩や対立ではなく、考えを交換し合えたことは私にとってはとても大事な経験で、こういうことがきっと大事なんだよ、世界平和には、と思った。
石油王の家に泊まるよりも大事な経験をくれたジヤッドに感謝。
◇全てはアッラーによって。宗教を超えたサウジの母の愛
ダンマームから首都のリヤドに移動すると、
うってかわって、今度は想像通りのザ・豪邸にお出迎えされることになった。
泊まらせてくれたのは、日本への留学経験もあるサードさん。
お母さんと奥さんと1才の息子さん、お手伝いさんと暮らす大きなお家のゲストルームを、私たちに使わせてくれた。
ゲストルームでサードさんと友人のユーセフさんと談笑していると、サードさんのお母さんが部屋に来てくれた。
家族以外の男性がいる場なので、ニカブで顔を隠し、黒いアバヤで全身を覆っていた。
お母さんは英語を話さないのでサードさんが通訳してくれた。
お母さんは嬉しそうにサードさんや兄弟のことを語りながら、度々アッラーの名を口にした。子どもとこうして暮らせていることも、こうして大きな家に住めていることも、全てアッラーのおかげなのよと。
そして、お母さんはこう問いかけた。
あなたたちは子どもが欲しいの?何人くらい欲しいの?と。
子どもを産むことが良いこととされているイスラムの世界。彼らはなんの悪気もなくその質問をしていることを理解し受け止めながら、私たちはお母さんとの会話を楽しんだ。
ゲストルームでの団欒のあと、わたしだけがお母さんの部屋に招待された。
中に入ると、さっきまで真っ黒なニカブ姿だったお母さんが、顔も髪も出して、半袖の花柄のワンピースを着ている。
そこはたくさんのジュエリーやアバヤが並ぶ、まさにガールズルーム。
家族以外の男性には絶対に見せない姿を、女性であるわたしには見せてくれたのだとわかり、なんだか秘密を知ってしまったようなドキドキした気持ちになった。
お別れの日。
私たちはいつもお礼に写真をプリントして、日本のお箸と一緒に渡しているのだが、お母さんはそれを見てとても喜んで、私を再び部屋に招いてくれた。
そして両手を出してと言われ、ブレスレットや指輪、時計などが次々と私の両腕にはめられていき、全てプレゼントしてくれた。
お箸一膳に到底釣り合わない宝石の数々にとても申し訳ない気持ちがしたが、ホスピタリティとしてありがたく受け取った。
初めて会う私たちに対し、
「あなたたちが来てくれて嬉しい。家族のように思っています」
と愛をもって伝えてくれたお母さん。
インシャ・アッラー*、あなたたちが子宝に恵まれますように。
インシャ・アッラー、あなたたちがまたこの場に戻ってきてくれますように。
お母さんはそう繰り返し、私たちへ最大限の愛を送ってくれた。
*インシャ・アッラー:神(アッラー)が望むならば/神の思し召しのままに、の意。
***
変わる王国でいただいた、変わらない愛情。
サウジアラビアでの友、そして家族との出会いは、旅の忘られない記憶のひとつだ。
結婚すること、子どもができること、家を持つこと、仕事があること、
人生における価値観の前提が違う人がいることをまず知ることが、どれほど大切か。
違いを超えて、愛を注いでくれることが、どれほど尊いことか。
彼らとの思い出が蘇るたび、そんな大切な教えを思い返している。
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