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~恋~を落として失くした女の子がこぼした涙は---真っ白い雪の中に---。【後編】名前は咲希ちゃん。 〈カフェ3 咲希1後〉

---大切な恋を落として失くしちゃったみたいなの。そう言って目を赤くして涙をいっぱいにした女の子。窓の外ではずっと雪が降っていたというのに、気づかないほど窓の外を見ながら何を見つめていたのだろう。大切な恋を落として半年が過ぎたと言った。女の子なりに淋しく悲しく辛かったのだろう。まだ涙を素直に流せないのだろう。

「泣いていいのよ。今は私しか居ないから。泣いていいのよ」

今の私には、そう言うのが精一杯だった。

すると、女の子は唇を震わせたかと思うと、目からいっぱいだった涙がただただ溢れて流れ落ちた。

泣いて女の子の気持ちが癒されるのかはわからない。だけど泣く事で淋しさ悲しみ辛さが少しでも癒えるなら、あんなに我慢して溢れそうな涙を素直に流させてあげたかった。

初めて逢った女の子。目の前の女の子しか知らない私。何があってどうしたのかも私にはわからない。

だけど、女の子が半年という時間の中で女の子なりに自分と戦って来たのだろう。

私は、ただ黙ってそこに居た。

窓の外の雪は更に降り積もる。

どのくらいの時間が過ぎたのだろう。女の子がバックからハンカチを取り出して流れる涙を拭っていた。その水色のハンカチが涙で重そうになっている。


その時だった。

「ママ、ありがとう。いっぱい泣いたら何かすっきりしちゃった」

女の子は、何かを吹っ切ったかのようにそう言って私に微笑んだ。

「私ね、もう大好きだった彼と終わったのはわかっていたの。だけどやっぱり淋しくて悲しくて、友達も心配してくれました。励ましてもくれました。だけど何かやっぱり、どうしてって励まして貰えば貰うほど思ってしまう。だけど、ママは黙ってずっと私の傍に居てくれた。こんな初めての私なのに。---いっぱい泣いたら何かすっきりしました」

そして、また女の子は窓の外を見た。

「ママ、ママといっぱい話したい事があるの。彼の事とか。いいですか」

女の子は言った。

「いいわよ、私なんかでいいの」

「ううん。ママに話したいの。聞いて貰いたいの」

ただただ、何か嬉しかった。

「だけど、ママ。私もう帰らないと。また来てもいいですか」

「もちろん。待ってるわ」

本当に女の子が元気になってくれたのかはわからない。

だけど、今の女の子の笑顔とまた来たいと言ってくれた言葉を信じたい。

私なんかで女の子が少しでも笑顔になってくれるなら。

「ママ、ありがとう。可愛いコーヒーカップ。私コーヒー飲めるようになりたいな。ママの入れてくれたコーヒー飲みたいから。それまでは、ママが一緒に飲んでね」

こんなに可愛いお客さんが、開店して初めてのお客さんだなんて。

私の方が涙ぐんでしまう。

「ありがとう。待ってるわ。外は雪よ。大丈夫?」

窓の外はまだ雪が降っている。

「傘はあるの。ビニール傘で良かったらあるから使って」

そう言いながら私は奥にビニール傘を取りに行った。

その間に女の子はコートを着てマフラーを巻いていた。

私が傘を差し出すと。

「いいんですか。ありがとうございます。必ず返しに来ますから」

女の子は嬉しそうに言ってくれた。

「気にしなくて大丈夫よ。いつでもいいから」

別に返して貰わなくても困りはしなかった。だけど、また来て欲しかったから返さなくてもいいわよ---とは言わなかった。

女の子は、バックから可愛いピンク色の財布を出してコーヒー代380円を支払ってくれた。

「私、ピンク色好きなんです。だからあのコーヒーカップ嬉しかったんです」

女の子は、ドアを開けて傘を開いた。

「ゎぁ、雪凄いね。ママ、観葉植物寒そうだよ」

そう言うと女の子は、私に振り返ってにこっと笑って歩き出して行った。

私もドアに行き、女の子を見送った。

「ありがとう。また来てね」

女の子は、度々振り返っては手を振ってくれた。曲がり角で見えなくなるまで。

私も、ずっと手を振っていた。


雪は、降り続いている。

女の子が言ったようにドアの外にあった観葉植物に少し雪が積もって寒そうだった。私は観葉植物を店の中に入れた。すると、観葉植物が嬉しそうに見えた。

---優しい子だなぁ。

そう思った。

私は、誰も居なくなって静かになった店のテーブルに残ったコーヒーカップを片付けようとした。

桃色のコーヒーカップを上げた時だった。

淡い桃色のコースターに何か書いてある。

--- ん。

桃色の色鉛筆で

--- [ママ、ありがとう。咲希]

そう書かれていた。

本当に、嬉しかった。私が傘を取りに行ってた時に書いたのだろう。

--- ありがとうって。私の方がありがとうなのに。咲希ちゃんって言うんだね。可愛い名前。また来てくれたらいいな。

私は、ずっと窓の外を見ていた咲希ちゃんの姿が忘れられなかった。

窓の外はまだ雪が降っている。

咲希ちゃんが落として失くしてしまった恋を、この真っ白い雪はどうしてくれるのだろう。淋しさや悲しみを真っ白にしてくれるのだろうか。落として失くしてしまった恋をまた見つけられるのだろうか。

やがて暖かくなって、真っ白い雪が溶けたら新しい可愛い花が咲くかもしれない。

咲希ちゃんの名前のように。

可愛い花が咲いて、希望がきっと輝きますように。

ただ自然に微笑んでいる私がいた。

開店初日初めてのお客さんは、可愛い女の子だった。私は、女の子が書いてくれたコースターを大切に私の宝石箱に入れた。

今日は、雪が多い。

もう、お客さんは来ないかな。

まだまだ、雪は降り続いている。


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 ストーリーは、すべてフィクションです。


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