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エビデンスを使う人とエビデンスに使われる人

今回は、リハビリテーションの臨床におけるエビデンスの使い方について、僕の考えをお伝えします。

リハビリテーションにはエビデンスが大事だとよく言われます。確かに公的な保険を使って対象者さんに提供するものであり、そこにエビデンスは必要です。

しかし、エビデンスがあればいいってもんでもないのがリハビリテーションです。どれだけ高いレベルのエビデンスを積み上げたリハを提供出来ていても、それが必ずしもその患者さんにとって最適な方法ではないのです。

ここに、リハビリテーションとその他の医療との違いがあります。大切なのは、エビデンスをどう臨床に適応するか、エビデンスの使い方だと思っています。

エビデンスがどのようにして生み出されているのか

ここを理解するためには、まず、「エビデンスがどのようにして作られているか」を知っておく必要があります。いわゆるエビデンスとは、多くの場合、論文で明らかにされた事です。そしてそれは、多くの場合、研究(実験)によって明らかにされています。

ここで重要なのは、一つのことを研究で明らかにするためには、その研究中に様々な条件を整えておく必要があるということです。
例えば、「片麻痺者の歩行獲得には長下肢装具を使用した歩行トレーニングが有効だ」ということを示すための研究では、以下のようなことを条件として整えておく必要があります。それは、被験者となる患者さんの年齢、運動麻痺のレベル、発症からの期間、それに長下肢装具を使用して歩行練習する期間や歩行練習の仕方などです。
さらに、「長下肢装具を使用した歩行トレーニングが有効だ」ということを示すために、どのようなものを結果として採用しているのか、というのも研究中の条件に入ります。それは、歩行速度であったり、歩行中の下肢の左右対称性であったり、歩行中の身体の動揺であったりします。

このように、研究によって明らかにされたことは、非常に多くの縛りの中で生み出されたものなのです。
これは、患者さんを対象にした臨床研究であっても、健常者や動物を対象にした基礎研究であっても同じことで、客観的にある事象を証明するためには、誰がその研究をやっても同じ結果になるように実験環境の条件を限定しなければならないという、学術研究の宿命です。逆に言うと、このように厳しく条件を付けては実験出来ないような事柄は、エビデンスとして証明されないということです。

「エビデンスに使われる人」

この、エビデンスが生み出されるまでの仕組みを理解せずに、完成されたエビデンスの形だけに目を向けて、それをそのまま臨床に応用しようとすると、非常に限定された患者さんに、非常に限定されたリハの方法を提供することになり、狭く浅い臨床を展開することになります。

例えば、先ほどの「片麻痺者の歩行獲得には長下肢装具を使用した歩行トレーニングが有効だ」というエビデンスを知って、片麻痺の患者さんには、誰でもとにかく長下肢装具を使って歩行練習しちゃうことになります。しかし、これでは、本当に最適なリハを提供しているとは思えません。エビデンスの元になった研究の被験者の患者さんと、今目の前にいる患者さんは別の人間だからです。そのエビデンスが、全ての患者さんに最高の効果があることを示すものでない限り、臨床の現場でそのままそのエビデンスを適応することは、きっと最適解ではありません。僕は、そのようにして完成されたエビデンスをそのまま目の前の患者さんに盲目的に応用してしまうことを「エビデンスに使われる」と言ってます。(今日からそう言うことにします)

「エビデンスを使う人」

それでは、「エビデンスを使う」とはどういうことなのか、です。それは、エビデンスを構成する要素に分解して、それを目の前の患者さんに適した形に組み替えて適応するということだと思います。

めちゃ分かりにくいので、また、上の「片麻痺者の歩行獲得には長下肢装具を使用した歩行トレーニングが有効だ」というエビデンスを例にして考えます。
このエビデンスには、「膝や股関節をしっかり進展位にした状態で、荷重することが有効だ」という要素を含んでいます。すると、歩行中、膝や股関節が屈曲位になってしまっている患者さんに対して、進展を促しながら歩行練習することで歩行能力の向上を図れます。また別の視点から見ると「機械的にでもリズミカルに歩行様の感覚を下肢に入力することが有効だ」という要素を含んでいます。すると、左右非対称の歩行になり一歩一歩ゆっくりでしか歩けない患者さんに対して、後方から患者さんを介助してリズミカルに足を出しながら歩く練習をすることで歩行能力の向上を図れます。(どちらも今僕が勝手にでっちあげた例です)

これらのどちらも、エビデンス自体は長下肢装具を使用した歩行練習の効果を示したものですが、臨床に応用する段階では、目の前の患者さんに合わせて、必ずしも長下肢装具を使用しない形に変換されて応用されています。これが、「エビデンスを使う」ということだと思っています。これには、そのエビデンスが持つメッセージを理解することが大切です。

臨床において、エビデンスを使うことは、料理に例えることが出来ます。
料理の素材は「エビデンス」です。その素材を、切ったり煮たり、他の素材と混ぜ合わせ、最後は味付けして、目の前のお客さんが一番おいしいと思う形に仕上げて提供することが、リハビリテーションの臨床だと思っています。

いい素材を提供するのは、研究者の役割です。そして、その素材をいかに目の前の患者さんに適した形に料理して提供するかが、僕たち臨床家の役割であり腕の見せ所です。

まとめると、エビデンスはその形をそのまま臨床に適応させるのではなく、そのエビデンスを構成する要素に分解して、目の前の患者さんにより適した形に料理して提供する方が良くて、その料理の仕方こそが臨床家の腕の見せ所、という話でした。

職場の壁にアートが描かれています
(職場は役所です)

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