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夏目漱石の「こころ」を読んだよ

読書感想文を提出します。夏目漱石の『こころ』。
高校生の現代文以来の読書でした。どの部分を扱っていたか忘れたけど。

青空文庫で読んだ ↓

どんな話だった?

時は明治末期の日本。学生たる主人公は、鎌倉の海岸でとある男性と出会い、親交を深め「先生」と呼び慕う仲になる。
先生は奥さんと二人暮らしをしていて、主人公はその家にお邪魔して食事するのが日常になっていた。
主人公は父親の病状悪化のために帰郷し、先生一家と別れを告げた。故郷にて先生に手紙を書くも、返事が来ない。さて父親がいよいよとなった時に、先生から長文の手紙が来る。

先生は、主人公に宛てた手紙の中で己の過去を明かす。そこに書かれていた物語とは___
人の心の動きあるあるを楽しめる一作。

・・・あらすじに挑戦しましたが難しいですね。

感想

私の知識があまりないので、長文でイイことがいえる感想は書けません。ざっくりです。

①全体的に口語なので読みやすい。
基本的に、主人公の「私」か、先生視点の語りで進行していくので馴染みやすかった。私はそういうのが好きだ。

②ギャグシーンがたまにあって楽しかった。
夏目漱石は文豪だから、終始お堅いだろう・・と先入観があるので、砕けたパートあるとくすっとなる。
一番好きなのはここ。主人公とその父親の会話。

「その先生は何をしているのかい」と父が聞いた。
「何にもしていないんです」と私が答えた。
~中略~
「何もしていないというのは、またどういう訳かね。お前がそれほど尊敬するくらいな人なら何かやっていそうなものだがね」

「こころ」両親と私 六 より抜粋

「なんにもしてないんです」って。事実を率直に言われると笑ってしまう。しかも、先生って言うくらいだから、なんか実績があるはずだ、というのも私も同じ感想あるので分かる。笑ってしまった・・

先生は東大を出てるんだけれど、仕事をしていません。高等遊民(ニート)です。それで暮らしていけちゃう人なんです。羨ましい。
漱石がここをギャグシーンの意図でいれたかは知らん。

③先生やKと、お嬢さんへの思慕描写とかが癒しだった。
私は男女カップルのロマンス期が好きです。お互い惹かれ合って・・っていうエピソードが。誰かに恋しちゃって浮かれるとか。

先生がお嬢さんのことをどう思っていたのか、その始まりと過程が丁寧に書かれていたので、その概念で幸せになれました。
好きな部分はここかな・・・

私はその人に対して、ほとんど信仰に近い愛をもっていたのです。
私が宗教だけに用いるこの言葉を、若い女に応用するのを見て、あなたは変に思うかも知れませんが、私は今でも固く信じているのです。
本当の愛は宗教心とそう違ったものでないという事を固く信じているのです。
私はお嬢さんの顔を見るたびに、自分が美しくなるような心持がしました。
お嬢さんの事を考えると、気高い気分がすぐ自分に乗り移って来るように思いました。
もし愛という不可思議なものに両端があって、その高い端には神聖な感じが働いて、低い端には性欲が動いているとすれば、私の愛はたしかにその高い極点を捕まえたものです。
私はもとより人間として肉を離れる事のできない身体でした。
けれどもお嬢さんを見る私の眼や、お嬢さんを考える私の心は、
全く肉の臭においを帯びていませんでした。

「こころ」先生と遺書 十四 より抜粋

先生はお嬢さんのこと、性欲で好きには至ってなくて、ただ、神聖な感覚でもって好きを抱きしめてる。これがいい。この丁寧な心情描写っていうのかな。「顔がいい」とか「おっぱい」じゃなくてさ。言語化されたこの、美しい気持ちの流れがいい。
これを読むと、先生の感性ってステキだな~って思います。そんな風に私も想いたいし、想われたいよな。

先生は喜んでお嬢さんの下手なお琴や歌を聴いていた。廊下から障子越しに会いに行ったり、部屋で会話などしていた。

想像して和んだ。幸せもらえた。これが恋。

④さりげない当時の暮らしを楽しんだ

序盤の「先生と奥さん&主人公」
中盤の「主人公とその両親」
終盤の「先生とK&お嬢さんと奥さん」
の、なんてことはない、平凡な日常の描写を楽しめた。明治時代だけど、現代と感覚変わらなかった。下女っていう存在感が良く分からなかったけど・・
主人公は、先生夫妻の子供的なポジションでなんかいい味だしてたんじゃないかな。

⑤先生の過ちについて所感
先生は、親友Kからお嬢さんへの恋心を打ち明けられたにも関わらず、Kに「俺もお嬢が好きだ」と言わなかったし、更に裏でお嬢さんと婚約してしまった。

日本人の悪いところが全部出てるよな~・・・と思った。こんな。

・物事を先延ばしにする(結婚したいけど彼女の母親にさっさと言わない)

・ちゃんと大事なことに向き合わない(Kと各所で話し合わない)

・できるだけ楽しようと決め込む(Kに婚約の件の報告も、事後の謝罪もなし)

Kから「俺お嬢が好きだ」と打ち明けられたのに、その上で「俺が先に行くぜ」も「ごめん」も言わないのは、そりゃあないだろ。と思った。無理やり下宿に引き込んだくらいの仲ならなおさら。確かにKときちんと話すのはしんどいけど、そこをやらないで、極めてダマを決め込むのは、そりゃあよくないよ。若いから難しかったのかもしれないけど・・・

私が先生だったら、奥さん(お嬢の母親)に結婚の相談をするときに、「でもKもお嬢が好きっぽいんですよね。どうしたらいいでしょう」って相談してしまうと思います。確かに自分の結婚に障りが出るかもしれないけど、黙っているよりは、第三者を挟んで、重荷を軽くした方がマシかなと判断します。逆にダマで全部きれいに進むのが一番トクだな・・という思考になるのは、ちょっと虫が良すぎるというか。親友のKに悪いし。それだけお嬢さんに執着していて、失恋するよりは、確実な方を選んだって感じかな。私だったら母親に話しますね。

その結果、先生はお嬢と結婚できたけれども、今回の件が元でその後の生活、悩ましいものになった。そりゃそうだよね、人生に1回しかない結婚なのに、誰にも話せない思い出を作ってしまったから。やましいことは、その時その瞬間はメリットあるけど、後々苦しい時間がエンドレスなんだよね。

先生が、妻であるお嬢さんに事の真相を話さないのは、「妻を穢したくない」といってたけど、私は、先生がそれをしたくないからだと思った。生前のKとすら、大事な話ができなかった彼だから、妻にだって、こういうシリアスな話できないに決まってる。自分の弱みを明かしたら、相手のマイナス反応を受け止めることになる。そしたらもっと自分が苦しくなる。お嬢さんを悲しませたのは自分なんだって責め苦を浴びたくない。お嬢さんではなく、自分のために隠しているのだと思う。相手と向き合って、自分を晒す。その結果を受け止める。それを孤独よりも、死よりも恐れたのだ。

逆に考えて、Kと先生が「お嬢が好きだ」を公表したら、この話、ただの少女漫画になってしまいますね。男2人どっち選ぼうかな♪って話になっちゃう。やりたいことはそうじゃない。

ちなみに、ドラマ:オスマン帝国外伝だったら「俺もお嬢が好きなんだよ!」と主張しあって殴り合いになってると思います。(分かる人しか分からん話

日本人だから、黙って始まって話し合いもせずに、1人で結論づけて勝手に終わってしまうのだ。確かに和は成されるけど、ちゃんと向き合わないのはお互いのためによくないと思う。


⑥なぜKは自殺してしまったか
これも諸説あるっぽいんだけど、私なりにざっくり考えたこと。
先生も言ってたけど、「自分と周りに押しつぶされて、誰にも相談できず、ひとりぼっちになってしまい、辛さに耐え兼ねてしまった」・・・孤独感、からなのかな。

Kっていろんなものを抱えていたよね。神経衰弱になってたっていうし。

・養子に出た先で医者になるように期待されていたが、断って自活の道を選んだ。その結果実家から勘当された。

・自身の夢のためにたゆまぬ努力をし、日銭を稼ぎ、学校で高成績を修めてきた。

・お嬢さんに恋をしてしまい、夢に対する思いが揺らいでいる。

この状態で、先生に「自分の過去発言を突きつけられる体験」、「信頼していた先生にしれっと裏切られる体験」をしたらどうなるか。
自分の在り方と、失恋と、信頼が破られた事件に心病むよね。

理想とする自分の生き方になれなかったことに絶望したのかな。自分はこうありたかったけど、恋によって揺らぎ、人の裏切りに遭い更に波立って、弱い自分を知った。そんな自分を受け入れられなかったし、縋った先生ですら、自分を追い込む。過去の自分を突きつけられるだけ。かといって、過去の自分にはもう戻れない、しんどい。
弱い自分を受け入れてくれる人はどこにもいない。実家も頼れないし他に頼れる友達もいない。お嬢さんや奥さんには迷惑をかけたくない。ひとりぼっちで戦うしかない。とても苦しい。

孤独に押しつぶされて死を選んだと思われる。
先生のことは恨んではいないと思う。彼は頭いいし、簡単に嫌いになれる仲でもないでしょう。失恋したから死んだとかでもないと思う。たかがちょっと振られたくらいで、東大エリートが人生諦めるなんてそれは考えられない。
彼の頑固な思想と周りの環境が、彼を追い込んでそうさせてしまったのかなあと考えました。1人で考えて、1人で結論づけて、誰にも助けを求められず死に向かってしまったのだ。

私がKだったら、婚約発表の際に先生に殴りかかるくらいのことはしちゃうと思います笑 お前ふざけんなよってね。

⑦先生が死ぬ理由について

「生きる理由がなくなったから死ぬことにした」のかな。
先生って、生きる義務的なものがない。それは、この要素から。

・奥さんとの間に子供がいない
・労働をしていない
・人生をかけてやりたいことが特にない。

この3つのうち、どれか1個でもあれば。子供の養育なり、生活のために労働したり、命かけて成し遂げたい活動があるとか、そういうのがあれば、生きていかなければいけないので、悩んだり死を考える暇はないだろう。
先生にとっては、現実世界で頑張る理由がなにひとつないんだ。

せっかく手に入れた奥さんは、大事なのは変わりないが時間経過で想いは冷めていく。その隙に過去の過ちとKのことで頭がいっぱいになってしまう。奥さんにも誰にも話せないので、1人で考えて自虐的な方向に思想が進んでしまう。孤独である。

彼の人柄も影響してる。先生がもし、Kのことなんかスッパリ忘れて、人生の幸せを謳歌する感性を備えていたら。こんなことにはならない。ここが彼の律義さ?弱さで魅力だと思う。
先生は、生きる理由がないなかで時間を過ごし、自分の罪と向き合い、苦しみ続けることに耐えられなくなったのではないか。

Kへの罪悪感から自分の人生を充実させられなかったのか?とも考えられる。Kのことが浮かぶから奥さんと子供作れないし、稼ぐ気にもなれないとか・・うーん。Kに支配されているよりは、先生の元々の人格に起因していた方が面白いので、私はそっちを取ります。新婚時は楽しんでいたが、日々を過ごすうちに元々の厭世的な性格が表れてきて、いまいち人生楽しめなくなってしまった。のかなと。

人間って、心だけでは生きていけないのかもしれない。先生の状態みたいに、外部的な義務(子供の養育や労働)、使命的なこと(趣味)がなにもないと、自分の心と向き合うだけになって、現実社会との縁が途切れる。未練がなくなる。肉体的な生命を維持することから解放されすぎると、心だけになってしまう。それだと人の心身としてバランス悪くなって不健康になる・・・みたいな。

対するKは、確かに使命感があって勉学に労働に励んでいたけど、それだけでは乗り越えられなかった。外部の刺激に揺さぶられて折れた。

使命があろうとなかろうと、「こころ」のままに生きようとすれば、孤独になり、死にたくなってしまう。こころは自分だけのもので、そこは配偶者ですらも踏み込めない聖域。

「心のままに行動した」点はKも先生も共通なんだよね。誰かのために現実社会で生き残り続ける理由がない。Kは実家を蹴っても夢を形にしたかったし、先生はお嬢さんを手に入れたいだけだった。2人とも自分のために生きることができた。親やきょうだいの幸せのためにとか、彼らを現実社会に縛る要素はなかった。そしてこころだけに生きた彼らは、やがて己のこころに押しつぶされてしまう。

「こころ」ってそういうこと・・・?うーん。

⑧ぼくもわたしも希死念慮

乃木大将の死について触れられている部分がある。

西南戦争の時敵に旗を奪とられて以来、申し訳のために死のう死のうと思って、つい今日こんにちまで生きていたという意味の句を見た時、私は思わず指を折って、乃木さんが死ぬ覚悟をしながら生きながらえて来た年月としつきを勘定して見ました。

「こころ」先生と遺書 十四 より抜粋

え、乃木大将、そんなに死にたかったの・・?人間として、何があっても諦めず、生き延びるのが一般的なスタンダード価値観なのでは・・・?え・・・?
あ、私は乃木大将について知らなさすぎるので、ここで語る資格はない。ないのだが、「過去に痛い失敗をしたから死んでしまいたい」という思いはすごくわかる。私も痛い過去があるから。

乃木大将は明治天皇が亡くなって殉死した。先生はそれを見て死を決意した。私も希死念慮がある。自分が嫌になって死にたいと思うのは、昔も今も同じことが起きてる。なんか親近感を感じた。
なぜ乃木大将は苦しんだのか。なぜ死ななければいけないのか。気になる。調べるかも。

⑨あるあるテーマ:ハラと行動に食い違い。矛盾
全体的に、「本当はこうしたい、こうあるべきだと思っているのに、実際は行動できなくて物事進まない」、「やりたいことと逆のことをしてしまう」という人の心エピソードが、各所に盛り込まれていました。漱石が書きたかったことなんだろうな。

➉バッドエンド・・でも、なんか面白かったな

「こころ」は、全体を通して明るいお話ではなかった。先生もKも自殺、子供なしで未亡人になってしまうお嬢さん、主人公父は危篤、主人公の就職先あっせんの話は相変わらず放置されている・・・・
い、いいことがねえ!

でも、それらに至る過程面白かったな。先生の普段の姿と葛藤、ささやかな幸せ、過去の青春の思い出。さまざまに動いていくこころ。
Kが実際何を語り、何をしゃべっていたのか気になる。全部先生視点の、抽象的な語りで描かれてるので、Kの直接のセリフは限られてるんだよね。
Kの夢ってなんだったんだろう。

漱石って、人が自分の「こころ」だけになったらどうなるかっていうのを書きたかったのかなあ。だから先生やKから、経済活動や人との関わり(育児や家族支援)を取り上げて、自分と向き合う環境を用意した。
希死念慮も今の私にドンピシャだった。希死念慮が理解できなかったら、「なんでこの人たち幸せに興味ないんだ?」と首をかしげていた。今の私だからちょっと理解できる。

Kや先生が亡くなった理由も考察のし甲斐があるし。名作ってやっぱりなんかすごいんだな。(くそざつ

読書をしてこなかった私なので、こんな風に日本文学の名作を今後も楽しんでいきたいと思っています。次は好きな太宰を読む。

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