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ニートのゆるふわ生活日記だと思ったのに。(夏目漱石「それから」感想)

読書感想文のコーナーです。
夏目漱石の「それから」を読んでみました。

うまく理解できていない部分も多くあるので、ほんとうにざっくりの感想です。



手に取った経緯

「こころ」を読んで、大変面白かったので、漱石ワールドを広げたかった。
「それから」や、「三四郎」がヒットしたので、なんとなく「それから」をチョイスした。毎日少しずつ読んで、2か月かかったかな。

どんな話だった?

あるところに、代助というニート(無職)がいた。働かなくても問題ない。なぜなら彼の実家は激太だからである。何もしなくてもお小遣いが貰え、外食もでき、本も買える。家族からのお小言をうまくかわせれば、日々のんびりささやかに暮らしていけるのである。

彼には好いた女性がいた。しかし彼女は既婚者ゆえ、どうにもならない。
とある日、無職であり続ける代助に縁談が舞い込む。しかし、想い人以外の女性と結婚するなんて考えられない。さてどうするか。追い詰められた代助がとった行動とは・・・

そしてその結末は、生活の終焉であった。代助の「それから」。
彼の未来たるそれは、読者の頭の中にのみ広がっている。

登場人物

ざっくり紹介。

代助(主人公)
この小説の主人公。齢30歳にして無職。働いたことがないので、働くって何するのかイメージもつかないくらい。でも焦りとかない。実家の太さに甘え切っている温室の花。

一見ニートで困りもの。しかしみんなから愛されており、その証拠にお婿さんになれと家族から縁談を持ってきてもらえる。

人妻の三千代が大好き。しかし、彼女のために労働はできず、その人柄のみで他人からお金を工面するのだった。

三千代(ヒロイン)
ヒロインで既婚者。代助とは学生の頃からの付き合いで親しかった。
平岡という男と結婚したが、借金があり、旦那は仕事につきっきりで家に帰ってこない。子供はおらず、健気に家で暮らしている。病弱で体調が心配。

門野(親友)
代助の学生の頃からの親友で、三千代の旦那。ワーカーホリックで、奥さんのことは構ってあげられない時期。

誠吾(代助の兄)
代助の優しい兄ちゃん。働いている。弟を𠮟咤もせず、お金を貸してくれる。

梅子(兄嫁)
義姉。代助と仲良しでよく話す。お金も貸してくれる。

代助の父
家長であり、尊敬の対象。代助に「働け」、「結婚しろ」とせっつく際の問答は見ごたえがある。息子に毎月お小遣いを与えるくらいには、彼を愛している。甘やかしすぎだが、いい父ちゃんである。

感想いろいろ


明治時代のニートの生活日記が楽しめる

代助はニートである。オタクではない。お酒も女性にものめり込んでいない。沼ってる趣味もない。健全に、労働せずに、人と自分を比べず、人を愛して生活を謳歌する。終始語られる彼の素朴な生活。癒されると思う。
のんびり朝起きて、身支度して、花を買いに行って匂いを嗅ぎ、街をぶらぶら歩き、友達に会いに行ったりする。父親に働けと言われ、適当にかわす。
ニートだから、生活のさりげないことを深く観察している。ここ重要。
誰よりも彼を縛ることは困難。

惚れた女のためであっても労働はできない

想い人の三千代が金欠で困窮しているのをなんとかしようとする代助。
しかし、彼は労働はしたくない。そこで彼は兄や兄嫁を頼って、金策を取り付けるのであった。
ニートはけして働かない。他人からお金をいただいて活動する。
代助くん、惚れた女のために頑張ってみようとか思わんのかよお・・

ニートだけど結婚できる世界線

代助くんは堂々と政略結婚させられそうになる。ニートなのに。どうして!?無職だよ?働いた経験が1度もないんだぞ?
とてもじゃないが、幸せになれる気が全くしない。

これが分からなくて、私はずっと考え込んでいた。

代助パパは立派な人なのに、「うちの息子、いい男なんですよ、よろしくう!」(本当はニートなんだよなあ)ってお嫁さんになる女性に押し付けるの、あまりにもひどくないか??
仕事ができない社員を押し付けるみたいな構図だ。一昔はこれが当たり前なのだろうか。実家が太ければいけちゃうのだろうか。

それとも、結婚と仕事は密接に結びついており、結婚すればお嫁さん関係の仕事に就職できちゃうシステムなのだろうか。当時の常識と上流階級のシステムはよく分からないです。

私は普段の代助くんを見て、とてもお嫁さんを幸せにしてあげられる男じゃないと思っているので、結婚してほしくないとヒヤヒヤしていた。
結果、結婚しないで済んだので安心。

ニートは語る。~働け問答~

代助はニートなので、世知辛さを知らず、理想に生きている。
働いたことがないので、世間のいろいろをうっすら馬鹿にしている。

彼と親友の門野、父との問答はギャグである。

面白いと思ったシーンを紹介する。

ネタ発言①「お金のためにやる労働は神聖じゃないよね」

「働くのもいいが、働くなら、生活以上の働きでなくちゃいけない。
あらゆる神聖な労力はみんなパンを離れている」

「食うための職業は誠実にゃ出来にくいという意味さ」

「衣食に不自由のない人が、云わば、物好きにやる働らきでなくっちゃ、真面目な仕事は出来るものじゃないんだよ」

「それから」より一抜粋

代助の云いたいことは、「収入を得ることが目的となっている以上、労働というものはその程度。ガチの神聖な仕事というのは、無償で行われるもののことをいうんだよ!」という感じである。

これに対しての聴き手のリアクションは・・・

門野「じゃあ君のようなニートが働くのが一番世のためになることだね」
三千代「そうねそうね❤」
代助「話が元に戻っちゃった💦」

この話に触れて私は思った。

え、私のやってる二次創作活動、ガチの神聖なお仕事ってコト・・?

世界がキラキラしてきた。二次創作は、お金をもらってはいけない活動である。(著作権とかあるので)その行動の全ては完全に創作者の愛によって行われている。お金は見返りに含まれていない。
創作活動に誇りが持ててきた。漱石先生ありがとう!100年越しで誰かを肯定してくれてありがとう!すごいよ!これからもお仕事しまーす!

やっぱり漱石はさりげないギャグシーンを入れてくれる。おもしれえ。

ネタ発言②「俺は日本がイケてないから働かないんだ」
「何故働かない」と言われたら・・・

「何故働かないって、そりゃ僕が悪いんじゃない。つまり世の中が悪いのだ。もっと、大袈裟に云うと、日本対西洋の関係が駄目だから働かないのだ」(以下略)

「それから」より抜粋

このパートで、長々と代助が語るのを要約するとこれ。

「日本は西洋に追いつけっこない。頑張ってるけどスペック叶いっこない。いっぱい借金してるし。
人は自分のことで手一杯で、他人のことは考えていない。頑張りすぎたって病んじゃうだけ。みんな暗い顔をして生きている。僕一人が働いたってなんにもならないし、こんな社会で働きたくない」

そうだね、確かに環境が悪いと思う。実家が激太で、みんなが優しいっていうチート環境なんだから、働かなくてもいけてきた。追い込まれたら彼だって働くだろう。彼だけが悪いのは言い過ぎである。他責思考かっこわるいけど。

「日本イケてない」なんてそんなこと言うなよ・・日本や社会がどうたらスケールがでかい話と、個人の頑張りの話を、なんにもしてない代助くんが論じるっていうこのあほな理論。
一理あるけどギャグだよね。

しかし、「日本いけてないな」、「労働者はみんな暗い顔」ってイメージがあるのは、今も100年前も変わらないんだなと思った。なんとなくうっすら、世界比較すると自信がもてなくなる感覚ある。それを100年前の漱石も、代助も思ってたとなると元も子もない。戦前の方がわりと自信満々なイメージあったんだけど。

代助がヘタレだから不倫がマイルドに感じる

代助は既婚者の三千代がどうしても好きで、何度も会いに行くし最後は想いを伝える。堂々とホテルに行ったり等しない。ただ、友人のテイで会って、楽しくおしゃべりするだけである。

結局のところ、この小説のテーマの一つは不倫の恋愛なんだよね。
でも、代助はニートでヘタレで度胸がないので、堂々と恋愛はしない。がっつり口説いたり、迫ったりせず大切に想う姿勢を貫く。
三千代も、旦那に不満はあれど、別に代助に迫ったりはしない。あくまで旧友として仲よくしているだけ。そもそも代助は無職だから、無職が人生のパートナーはありえないから、ただ遊んでるだけじゃないかと思ったりした。

不倫だけど、なんか清い関係描写だから和やかに見ていられるふしぎ。ここすごいなあ。不倫それ自体はあまり好きではないが、楽しんで読むことができた。

両想いになったシーンちょっと感動した。

代助と三千代は両想いになる。百合の花の匂いに満ちた部屋で行われる告白。
「僕にはあなたがどうしても必要なんです」という言葉。

代助はニートで、三千代は人妻で。代助はいったい何がしたいのか。何ができるのか。それは叶うのか。知らないままの方がよかったのではないか。
それでも、この想いは伝えた。

別の作品「こころ」で、1人で本心を閉じ込めたまま亡くなってしまう人物を観てきたのでこれをやり遂げた代助がかっこよく見える。

好き~こういうの好き。両想いって、誰かと心が一致するって、最高に快感だよね。私は好きです。あなたが必要だとか言われたい~

結婚制度のパワーに戦慄

代助が、「三千代がどうしても好き」と彼女の旦那の門野に伝えたら絶交された。
当然のことのように思えるが、平常は愛が終わっているこの夫婦だからあんまりしっくりこなかった。もう好きじゃないけど、結婚している以上は、他人から手を出されたら名誉に関わるので人は夫婦であろうとするのだ。そして、例え両想いでも、略奪する側は相手の危篤時にすら会いにいける権利はない。

結婚めんどくさ。好きじゃなくなっても、どんなに関係悪くなろうが、夫婦はやらないといけない。結婚の効力の重さに戦慄。人間同士の合意より、社会がもつ権力のパワーって絶大だよな。

なんだかんだ愛されてる代助は才能がある

ニートで、お小遣いをもらい、親からの縁談も幾度となく断る代助。
だけど、彼の家族は彼を愛している。父親はお小遣い毎月渡すし、兄嫁とはお友達だし、甥っ子からも懐かれている。友達付き合いもある。

他人の稼ぎで生活し、こちらの要求(縁談)も断る、とんでもないやつに見えるが、周囲の協力を得ていることから、代助わりとうまくやってるなぁと思うのだった。ほんとうに嫌われていたのなら、親に勘当された時にお金も貸して貰えないからね。

最後の大どんでん返し

この小説の大半は、代助のニート生活に明け暮れる。彼が寝て起きて、三千代や門野に会いに行き、父に「働け」と言われてもうまくかわし、季節が過ぎ去っていく・・・という日常がメイン。

この話がどこにいきつくのか。代助が何をしたいのか。よく分からないまま進んだ。代助自身、夢とか守りたいものもないのでわからんのだ。
三千代が好きなのははっきりしていた。彼女とのハッピーエンドが待っているのかな?とも少し思った。

すると最後の章でどんでん返しが起こった。三千代との関係が父と兄に暴露されて、実家から代助への援助が完全に絶たれることが決定したのだ。
代助のニート生活終了のおしらせ。彼の頭の中は真っ赤に燃えて、電車に飛び乗って終点まで行こうと決意する場面で話は終わる。

これを読み終わった瞬間の衝撃ときたら。「え?そうなるの?」と。想像もつかない終わらせ方と代助の振る舞い。びっくりした。
ハピエンはそこまで期待してなかったけど、まさかこんな形のエンドとは。

これだから名作って面白い。流行ってるソシャゲからは得られない面白さ。ベタな展開はないし、誰にも媚びていない。私が求めていたものだ。

正しいことをしているだけなのに、大崩壊につながった

代助は、三千代との関係を熟考した上で門野に打ち明けた。縁談も断った。
それは、代助だけの世界でいうととても正しいことだ。今まで理由を付けて労働しなかった彼だけど、自分の口ではっきり意思を伝えたのは、非常に勇気のある行動で拍手を送りたくなる。
それに、べつに三千代とはまだ関係を持っていない(たぶん)し、打ち明けた分だけ誠実と言える。

しかし、それなのに、彼の告白は大崩壊をもたらした。父も兄も友人も彼と容赦なく絶縁した。経済的な援助も打ち切られる。生きるために働かなくてはいけない。
まさかこんなことになるとは。彼はこれも想定した上で決意したのだろうか。彼が世間知らずすぎたから、不倫的な恋愛をすることがどんなにハードな人生をもたらすか、想像つかなかった結果なのか。代助自身、どうしても働きたくない、この生活を守りたいという強い意思が見えないので、この点は分からない。

兄ちゃんに「お前は何考えてるか分からんやつだと思ってた。今回、家族に迷惑かけるようなことをするヤツだって分かったから、絶縁する」と言われるのしんどかった。普段、過度な兄弟愛描写とか好きじゃないんだけど、信頼してた相手からキッパリ絶縁されるのしんどいな。まるで犯罪者だ。正直者なだけなのに。

意思を貫くのは素晴らしいことだ。でも、自分の意思だけを通して、周りの人や社会の機嫌を取らないと、果てには切り離されて、孤立する、という教訓を得た気がしている。
代助は、あまりにも狭い世界で生きていた。それが彼の中では正しくても、誰も彼を論破するに至らなくても、彼の生き方には限界があるのだ。縁が切れたらそこでおしまい。

代助、君はサムライだと思うよ

労働せず、他責思考で問題先送り生活をしてきた代助。
そんな彼だけど、迫りくる縁談と三千代への恋心から、今回新しい一歩を踏み出した。想いを打ち明け、縁談を断り、実家の支援も求めない。

これまでの高等遊民の生活を捨て、家族と友人も捨て、三千代への恋を貫いて生きる。
私にとって、それは好ましいものに見えている。世間体など目にくれず、自分の意思を貫き通した。世間的な幸せより、自分の幸せを取りに行った。世間や周りの人に屈しなかった。誰もが生活のために社会に服従する中、彼はそれを躊躇なく捨てることができるし、行動できる。

その姿って、ある意味かっこいい。ふつうの幸せより何の得にもならない信念を選ぶってことは、サムライに似た何かを感じる。そこ好き。

ちなみに不倫は肯定していない。あくまで、この小説の中だけの話です。

総評


オススメするかについて
★3かな。昔の文章なので多少読みづらい。そしてニートライフパートが多
くを占めるので、慣れるまではとても退屈、つまらん。
終始面白い!とか、風景描写がすごくイイ、恋愛ステキとか、そういう分かりやすく面白い部分はない。ひたすらニートを愛でるためのお話です。

ぶっちゃけ、「こころ」の方が読みやすく、面白い。日本の文学、または夏目漱石オタクの人で興味あればチェックしましょう。読んで損はないと思う。でも読まなくてもイイと思う(

今の感想だとこうだけど、もっと人生経験積んで、読解力と感性が上がったらこの小説の面白さ美しさが理解できるのかもしれない。今の私のレベルだと、「ニートライフのんびりしてていいよね」がメインになってしまう。

隠れ続編が?
調べたら、「門」とかが、隠れ続編にあたり、代助と三千代の結婚生活とかが描かれているらしい。いつか読むか。

代助がかわいい。息子のように思えてきた。
長編ドラマや、小説を楽しんだ時の現象として、登場人物を長きにわたって見守ってきたことにより、愛着がわく現象が起きている。

代助もしかり。なんか彼、可愛く思えてきた。でも、彼の家族にはなりたくないなあ。
彼、働くことになってしまったけど、彼の人生全体から見て、スパイスが必要だからイイコトだったんじゃね。大崩壊したけど、その後の彼の人生応援しているよ。スモールステップから頑張り、世界広げて欲しいな。

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