ブックレビュー『空から降ってきた男:アフリカ「奴隷社会」の悲劇』


 なんとタイトル通り、2012年9月アンゴラ発イギリス行きの飛行機から一人の男性が墜落した。

 墜落死したのは当時26歳のモザンビーク人で、飛行機の主脚格納部に身を潜め、ロンドンへ不法侵入しようとした。その無謀な行為の背景には、愛する女性とアフリカ社会から抜け出し自由を手に入れたいという強い想いがあった。

 イギリス、スイス、南アフリカ、モザンビークと、キーパーソンとなる白人女性や男性の家族からの取材で、記者である筆者がこの奇異な事故から世界の格差や難民問題に迫った、小説のようなノンフィクションストーリーだ。

 登場人物の過去が次から次に明らかになっていくストーリで一気に読めてしまう。故郷の伝統的な生活から、物質的な豊かさを知ってしまった男性は、メイドをしていた家主の妻と宗教を通して心が通じ合う。

 個人的には読み終えた後に、欧州とアフリカにある、人種・文化・経済…あらゆる面における、大きな「壁」を考えずにはいられなかった。

 飛行機に忍び込んで墜落死というまさかの一生を遂げた、若い男性の冥福を祈る。



小倉 孝保 (著)

出版社: 新潮社 (2016/5/18)

■出版社からのコメント ※コピペ
空から人が降ってくる!?
英国がEUを離脱!
何の関係もなさそうな二つの事件が
見事に結びついていく迫真のストーリーテリング
そのキーワードは「移民問題」
グローバル社会の闇を
独自の視点で暴く注目のノンフィクション

この空を飛べたら
男はなぜ絶望的な賭けに打って出たのか
超格差社会が産んだ愛と悲しみの実話

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