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自己肯定感を考えるー成功体験の決定の仕方について思うこと

自己肯定感について考える、自己肯定感を使うことになんか違う感じがする、自己肯定感という言葉自体がいまいち引っかかる。
そんな風な感覚が生まれる理由についていくつか分析ができたので記す。

今回は自己肯定感のためによく必要といわれる「成功体験」についてだ。

内容の要旨

自己肯定感確保のための「成功体験」は行動に移しにくく自分の価値観を無視した「ありがちな成功体験願望」になりがちである。これを無理なくできる形にしたり、自分の価値観を参照にしたり、とらえ方の変化・変容を受け入れてたりするのプロセスを通して実行可能な成功体験の形に落とし込むことが重要だ。

成功体験とはどういうものなのか

成功体験による自己肯定感発生の流れは自分の中では以下のような感じだと思っている。

何かについてうまくいく(成功体験)

これがうまくいく自分はOK
これができる自分が好きだ(自己肯定)

肯定パターン:能力や自己効力による肯定

上記より、成功体験とは自然に考えれば以下のようになる。

1.自分がやりたいこと、できるようになりたいことができると思える体験
2.それができる自分を肯定できるという形につながっていける体験

ありがちな成功体験願望とその特徴

しかし実際には上記のような純粋な成功体験と「こういう成功体験がしたい」という願望、すなわち「ありがちな成功体験願望」はずれてくる。

「ありがちな成功体験願望」は以下の特徴を持つ。

1.自分がうまくいきたいと思うこと(例えば「友達を作ろう」「仕事でうまくいこう」など)についての成功体験がないから、うまくいかない。自己肯定感が持てない。しかしうまくいきたいと思うことをうまくやる必要がある。
→特徴:自分がうまくできないことを成功させることで成功体験を得る必要があるという考えになる。

2.成功体験の内容は自分がやりたいの場合もあるが、「友達を作ろう」「仕事でうまくいこう」などといった「世間で望ましいとされている行為」にすり替わることも多い。自分を自らで肯定することが苦手な場合、手っ取り早く自己肯定をするためには世間からの承認のほうが簡単だからだ。
特徴:「世間で望ましいとされている行為」を成功させることで自己肯定感を高めよう となりがち。

「ありがちな成功体験願望」の持つ問題点

しかしこの「ありがちな成功体験願望」は問題を持つ。上記特徴ごとに書く。

1.自分がうまくできないことを成功させることで成功体験を得る必要があるという考え

これについてはそもそも、自分がうまくできないことをできるようにするというのは風邪を引いた人を泳がせようとするような無理のあること(うまくいく場合もあるが)であることだ。
無理があることは当然実施にしり込みすることになり、身動きが取れなくなる。体験してなんぼのものなのに動けないというのはつらい。
自分の感覚を無視して無理に挑戦すれば再度失敗する。そして自己肯定感が低くなる。自己肯定感を増すために成功体験を積もうとした結果自己肯定感が下がるという悪循環を生み出す場合がある。
うまくいかないことじゃなくてうまくいくことで肯定感をつけるほうが良い

2.「世間で望ましいとされている行為」を成功させることで自己肯定感を高めようとする。

自己肯定感を高めるためにやろうとしている成功体験なのにもかかわらず、世間を基準にしてしまっている。
自己肯定感のための成功体験のはずが、自己の価値観より世間の基準を優先するという本末転倒なことが起こっている。これでは自己肯定どころか自己否定である(※1)。

「ありがちな成功体験願望」から抜け出すために

「ありがちな成功体験願望」から抜け出すためには以下3つが必要だ。
1.自分の無理のない範囲でできることを選ぶ、計画する。
2.世間ではなく自分の価値観で考える。

3.とりあえず試しに、いろいろな変化・変容をありにしてみる


以下で1~3について詳しく述べる。


1.自分の無理のない範囲でできることを選ぶ、計画する。具体的には以下の通り


1-a.動作に落とし込んで、その動作をするにはどうすればいいか調べる。

自己肯定感(自分の気持ち)を考えているとつい感傷的になったり過去の記憶に縛られがちで、抽象度の高い空想で終わることが多い。しかし成功体験というのは「体験」つまり具体的な「動作」である。家電やスマホの使い方がわからなければ調べるのと同じように特定の成功体験という動作をしたいのなら、人に聞いたり調べることでわかる場合がある。調べると案外出てくる(無論出てこない時もある)。
自己肯定感が低い場合比較的社会では少数派の価値観を持っていることが多い。このため調べるといってもネットで検索というよりは似た価値観の人に尋ねたり相談するほうが効果的な場合もある。


1-b.やることを変えてしまう。やることの前に寄り道する。

今うまくいかなくてできていないこと(うまくいきそうもないこと)はそもそもやらないほうがいい(自分の過小評価が原因で自己肯定感が得られていない場合うまくいく場合があるが多くの場合そうはならない)
このため、やることを変えてしまう、あるいはやることそのものの前に別のことをやってから再度挑戦するというのはありだ。
例えば「友人を作るのがうまくいかない」場合、「趣味を作る」ことで一回余暇を充実させるような体験をすることで成功体験を増やす(=やることを変える)。
あるいは、友人関係の構成をあきらめず、趣味を持つことで趣味という共通の話題を持ってから、再び友人関係を構築に挑む(=趣味をもつという寄り道をしてから当初やりたかったことを果たす)。


1-c.やることの規模を減らす

規模を減らしてやりにくさを減らすことは大切である。
友人関係であれば「知らない人と打ち解ける」は難しくても「友達の友達ならなかよくなれる」とか「SNSでなら仲良くなれる」とか「年齢や価値観が自分と大きく違う人なら仲良くなれる」といった可能性はある。
「自分で料理を作りたい」なら最初から麻婆豆腐を作るのではなく、インスタントみそ汁に豆腐を切って追加するくらいから始めればいい。
小規模でやってみてダメなら見切りをつけることがしやすいし、万が一失敗してもダメージは少なくて済む。自己肯定感不足を補うための成功体験探しにおいてダメージコントロールは重要である。


1-d.できないとあきらめて受け入れる。

あきらめる余裕があればあきらめることも重要である。
自己肯定感を高めるというとポジティブ一辺倒、手を広げること一辺倒になりがちだが、人間は有限でありできることは限られており、あきらめることは重要である。

自己肯定感が不足している場合は実際に足らないときと心身に負担がかかりすぎて活動を制限するために足らない感じがある場合の2つがあるように思う。後者の場合は心身からの危険信号であり現状で何かやることがさらなる負担になるので、いろいろあきらめて休む必要があるときもある
自己肯定感を高めるために自己を壊すなんて一見クレイジーではあるが、自己肯定感不足を補うために無理して行動して心身に不調をきたすというのは結構おきがちな話であり笑えない。


1-e.かかわる環境を変える。

環境によって要求されるかかわりのパターン、質、能力の質、内容、空気、何を悪者とするかなどはまるで変化してくる。
よって現在の環境では「うまくいかないもの」が別の環境では「うまくいく」という話はあり得る。
やりたいことは変わらなくとも、やりたいことに必要とされる能力や特性は環境によって全く変化してくる。

例えば「誰かと良好なかかわりをもちたい」といっても以下のように必要なことは大きく差がある(以下は例示であって実態はもっと複雑)

・学生や友人関係
「打ち解けた感じを演出できる」「腹を割って話せる」など
・ゴリゴリのビジネスマン
客観的で簡潔な情報を高速、高効率で伝送でき、不条理を受け入れる高性能な処理装置のような行動ができる
・対人支援のNPO
相手の話について自分の価値観を振りかざさずに傾聴、共感しつつ相手の意見にのまれず、一人一人にエネルギーをかけすぎない。

また、伝えるのが下手な人が多い集団ではぶつかり合うコミュニケーションが多く発生し、伝えるのがうまい集団ではぶつからず理解と合意をとれるコミュニケーションが多いなどかなり差がある。かかわりといっても必要なことは様々なのだ。

2.世間ではなく自分の価値観で考える。

2-a.自分がどういう価値観なのか探る

自分自身がどういう価値観を持っているか、持ちたいのかをまず把握することが必要である。
自分自身の持ちたい価値観に気づけないまま、社会の承認を得られるような成功体験をすると、承認を受けられているのにつらいという状態が発生する場合がある。正確に気づけていない自分自身の価値観と社会の価値観とずれていると起こる。

2-b.世間の価値観を検証する

世間の価値観の水準がどのくらいのものでどれほど実現可能かに関して調べることは重要である。

例えば、「〈結婚→マイホーム→子育て→年金で老後〉は普通に生きていればみんな実現できる」みたいな価値観がいまだに残っているが、統計を見れば到底「みんな実現できる」ようなものではなくなっている。
世間の価値観がかなり運がよくお金があって実現できるような高嶺の花的価値観なのか、ある程度の生き方をしていれば実現できるのか調べると「これはそもそも実現すること自体が難しくなっているから自分ができなくてもしょうがないか」という価値観は結構出てきて、「できない自分を否定」→できるわけないからしょうがないという肯定」に変化する場合がある。

3.とりあえず試しに、いろいろな変化・変容をありにしてみる
1,2の検討をすると、「自分が思ってたのと違う」ことが結構出てくる。自分が得意であったこと、できたら絶対いいなと思っていたことがそうでもなくなることや、逆に「自分こんな立ち回り向いてないな、できないな」と思っていたことがそうでないかもとなってくるときがある。そういう時には以前の状態を手放したくない自分を大切にしつつも、一回試しに「変化した視点での自分」から考えられる成功体験の行動をしてみることも重要だ。おそらく変化前の自分のとらえ方より変化後のとらえ方のほうが性格性が高く実態に近いので成功体験をつめる確率、つみやすさが上がっていることが多い。

おわりに

自己肯定感の「自らで自らの肯定感を高めることができる」という視点は重要だろうが、成功体験の決定の仕方を間違えると「世間に合わせなければ」とか「やりたいことができない、つらい」状態になりかねない面がある。しかもそうなりがちである。
このために無理をしないやり方やあきらめの模索と、自分自身の価値観、世間の価値観についてよく観察検討することが重要である。またこの再検討の結果生じる自分自身の変化や変容についてとりあえずいったん受け入れてみるという変化の許容も大切である。



(※1)自己肯定が苦手な場合、一時しのぎで世間に合わせるというのは戦略としてはありかもしれない。しかし自己肯定感が不足していると感じる場合、場合世間に合わせることがうまくできていない場合も多いためあまり選択肢には上がらないかもしれない。
自己肯定感がなくとも社会に適応して社会からの肯定を受けられている限りは「自己肯定感を能動的に持つこと」が必要となることはあまりないような気がする。