見出し画像

洋服を纏うということ

これだけインターネットでモノを買うということが一般化した今も、洋服を買うときは大方お店で手に取ってから買う。たとえそれが1,000円足らずの洋服であっても、「一度モノを見てから…」と思ってしまう。お店にて、鏡を見ながら身体に当てるのと実際に着るのとではかなり印象が変わり、着てみたら似合わなかった…と思うことも多々あるので、インターネットで洋服を買うのは失敗することを考えてほとんどできない(検索もほとんどしない)。

しかし、コロナ禍の4月、衝動的にインターネットでワンピースを買った。リネン生地の、長袖の、黒いAラインのロングワンピース。Instagramで偶然フィードに流れてきたそれを、一度見たら忘れることができなかった。2万円弱もして、コロナ禍であまりお金を使っていないからと言って決して安い買いものではなかった。それでも、数日悩んでから、ついにぽちっと購入ボタンを押した。半年だった今でも、この購買体験を超えるものには出会っていない。

・・・

もともとリネン生地のAラインのシンプルな長めのワンピースが欲しかった。リネンのどこか大人っぽい落ち着きと、Aラインのゆとりあるデザインが好きだった。長めの丈から足首がちらっと見える軽やかさを纏いたかった。

偶然見つけたそのワンピースは、まさに理想そのものだった。ずっと探していたものだった。100%リネンで、フリーサイズだからサイズに悩むこともなく、綺麗なAラインで、顔がすっきり見えやすいVネックだった。写真で見る限り、求めていたものだった。

それでも、写真だ。生地感は触らないとわからないし、モデルさんだから似合っているだけかもしれない。Aラインで身体のラインを拾わないからといって、着てみたら究極に似合わないかもしれない。月給の10分の1の金額を叩いて、この外出がほとんどできない時期に買って良い代物か、数日悩んだ。

それでも忘れられなかった。後悔しても、似合わなくても着てやる!そう思って買うことにした。

届いたそれは、想像以上に生地は硬くて重みがあった。これから暑い夏に向かう季節には着られなさそうで、ちょっと顔が強張った。それでも、着てみたらものすごく自分にフィットした感覚を味わった。着丈も顔まわりも求めていたものだった。想定外の生地の重さも、少し重厚感が増して良かった。軽やかな暖かい風が吹く春先に、眩しい夏が過ぎ去った深まる秋口に着ている自分を想像して、ワクワクした。

届いた4月下旬から最適な季節になるまで大切にしまっておいて、少し涼しくなってきた9月頃クローゼットから出して着始めた。大切な友人と数ヶ月ぶりに会う日、仕事がヘビーな日、はじめましての人に会う日。ワンピースと言えば寝坊した日の鉄板の洋服だが、それは大切な日、少し心細い日、力が欲しい日に自然と手に取った。どこか自分を包んでくれるような、後押ししてくれるような、そんな暖かさをあのワンピースに感じていた。

・・・

自分にフィットした洋服を纏うことは、より等身大の自分で在ることを助けてくれることだった。プラスもマイナスもない、ただそのときの自分を見繕うことなくその場に立たせてくれた。

もちろん時には背伸びした洋服を着て気分を上げたい時も、好まないタイプの服を着ないといけないときもある。それでも、どんなときも自分にフィットした、心地の良い服を着ることに叶わないと思った。洋服を着ることは外見を見繕うことではなくて、自分を違和感なく、その場に在らせてくれることだと思うのだった。

何かを買うということは、自分の生活に何かをプラスするということだ。世の中には便利なもの、都合の良いものが溢れている。たしかにそれを取り入れないといけない時や、取り入れば今までの生活が楽になったり、側からの印象も良くなる時もあるかもしれない。でも時には、理性的ではなくて、感覚的に、身体的にモノを迎え入れるということの健やかさを学んだ。

・・・

HAVE A ENJOY YOUR JOURNEY
時代や環境が変わってもその時の着心地を大切にあなただけの旅を楽しんで

このワンピースのブランドのコンセプトだ。購入後、ワンピースと一緒に同封されていた葉書を見て、ブランドのコンセプトを知った。いつでも、旅先にいる時のように、新たなモノを際限なく吸収できる等身大の自分でありたい。そんな自分で在らせてくれる洋服を大切にしたい。

このワンピースと、一緒に歳を取ることが楽しみだ。

この記事が参加している募集

買ってよかったもの

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?