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期待を持たせてくれる予言の書

「君は総理になった。これは必然だ。しかし、君は男性ではなかった。これは偶然だ。そうだろう?」

舞台は未来の日本。政局大きな変化に巻き込まれ、日本初の女性総理相馬凛子が誕生した。荒波にもまれながら、彼女は日本を変えようと奮闘する。

この設定のみ聞いても、今の日本から想像もつかない話である『総理の夫』を読んだ。読みきるとこんな世がいつか来るのではないか、凛子さんのような総理が生まれて欲しい、という気持ちに襲われた。

この物語は基本、こちらも「日本初」の総理の夫となった相馬日和の日記、という形で進められていくのだが、この日記が後世に残すべく書かれるという点も素晴らしいなと思っている。この今ではかんがえられない設定が、当たり前、もしくは違う意味で「考えられない」状況になっているとの前提で書かれている点がだ。今、日本が世界が価値観を変化させようという動いている。そんな中で、2013年に本書が出版されているということに、原田マハという人はどれほど賢い人なのだろうと感嘆する。それと同時にこのような作品を作り上げられるほど価値観は変わりつつある、日本の価値観や生活は変わるのだと大きな期待に胸が膨らんだ。

冒頭に書いた台詞は、総理の夫相馬日和が、まさしく「総理の夫」となったときに妻に、日本初の女性総理にかけた言葉である。私はこの言葉にとても感動した。日和は母親から「おめでたい人」と言われてしまうほど、決断力や判断力、頼りがいは欠けるような人ではあるのだが、こういうひとつひとつの考え方や凛子へのリスペクトの姿勢からこういうパートナーは本当に素敵だと思わせてくれる。自分と相手それぞれに大切なことを持っていてそれを互いに尊重しあう2人の姿は、私にとって理想のパートナーであるように感じた。       


話は変わるが、本書の解説はとても勉強(のきっかけ)になった。

私はジェンダーについてや性について、勉強真っ最中だが、政治についてはどうしても疎かったし、そちらの方面に目を向けることを少し避けていたように思う。政治、興味はあるものの、(授業では)苦手な方だったので。

だけどやっぱり、目を向けなければならない。今回この物語では「女性」に焦点が当てられている。しかし先日ニュースに取り上げられた「LGBT理解増進法」の話題から見られるように、性による差別・不利益というのはまだまだ現代日本に蔓延っている。ジェンダーギャップ指数からみる男女平等ランキングで日本は下降傾向をみせ、法整備からみると進んでいるとは言えないし、議員の発言からも性的少数者への配慮など微塵も感じさせない発言が堂々とされる始末だ。

ただ、変わってきてはいる。

少なくとも私はそう感じている。

批判が多く報じられるということは、「違和感」に気づく人が増えたということだと思う。今まで「仕方ない」「当たり前だ」と思われていたことが、これは「おかしい」と気づくことができるように変化してきたということだ。

今、性教育も盛んに議論の対象となってきており、次世代の「性」に対する考えは現代の大人たちとは一線を画すものになっていくだろう。

私が生きている内に、この小説のような時代が、なるべく早く来ることを願うと共に、自身も努力していきたいと思う。

原田マハさんは単行本発刊に際して

「私から提案した理想の総理像です。いずれこういう総理が現れてくれるという予言の書(笑)」

とおっしゃっている。

私もこの物語が「予言の書」であって欲しいと本気で思う。現実になって欲しいと切に願う、『総理の夫』はそんな希望を持たせてくれる小説であった。


▽『総理の夫』


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