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029_ひとときの出逢いと別れ

僕と彼女が出逢ったのは、朝の雑踏の目黒駅の改札だった。

こんな書き出しで文章を始めたら、さぞかし恋愛の始まりを妄想する。でも実際はなんのこともない、道を聞かれただけの話だ。

秋田から出てきたという彼女。これから品川駅に行きたいという。

僕はこの看板を指さして、「1番線に来る電車ならどれも品川駅に行きますよ」と答えた。(実際には大崎止まりの電車もあるけれど、そんなことを言っても混乱するだけだと思ってやめておいた)でも彼女はその言葉をうまく飲み込めないようだった。そこで一瞬考えた。僕のなかの理解だと、そもそもこの看板さえ見れば、品川駅にどうやっていくかなんてふつう人には聞かない。だったら違う方法で説明するしかないなぁ…と、これ以上の口頭での説明を諦め、一緒にホームへの階段を降りた。

ちょうど1番線に山手線内回りの電車が滑り込んできた。「いま到着したこの電車に乗って、3駅乗ったら品川駅だからね」と言うと、ようやく彼女は納得した顔をした。

いつもなら小走りで目黒駅の改札をすり抜けて会社に向かうところ、この日はダイヤが乱れていて、会社には遅れますと連絡していたところだった。なので普段は視界に入らない、ちょっと困った人の訴える表情に反応できたんだろう。

見た目は就活か社会人1年目で、これからどこかの会社に向かうところだっただろう彼女、無事に目的地に着けたのだろうか。

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