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おい、武藤、何かを忘れてしまっているのではないか

毎年この時期になると中高生向けの演劇ワークショップをクローズドなのですが、開催します。

昨日、その講座を開催しました。
舞台演出家として、”いちおう”お芝居の事を伝えますが……その実、ぼくの方が生徒さんたちにたくさん教えてもらっていると思うのです。

▼土曜講座

『開催する』というよりも呼んでもらう、という方が正しい表現です。
神奈川県にある逗子開成中学校・高等学校さまでは『土曜講座』という特色のある課外授業的な講座を用意されています。
例えば、青銅鏡を作る講座だったり新聞記者が見た海外の真実だったり…
体験できる講座やタイトルを聞くだけでぼく自身も受けてみたい!という座学・講演がたくさんあるようです。

その一つが毎年お声がけいただいており、実施しています
こころとからだのための演劇ワークショップ
です。

ご担当の先生とお話ししたところ…もう十年以上やらせていただいており、嬉しい限りです。

この学校の生徒さん向けですので完全にクローズドなのですが……それでも、毎年この講座を迎えると身の引き締まる思いとぼく自身が生徒さんに色々と教えてもらうことが多いのです。

▼俳優になりたい、というわけではない

ぼくも舞台演出家の端くれですから、俳優志望者に何人も会ってきましたし、今作品を創っている仲間は教え子・弟子です。
そうした中で、専門学校での講座、劇団のワークショップなどでは、『お芝居(俳優など)を志している』が前提であります。

しかし、このワークショップに関してはこの前提が違うわけです。
中には演劇部の生徒さんもいる事がありますが……ほとんどがお芝居をしたことがない、舞台も見た事がない、という生徒さんたちばかりです。

とすると……ぼくが普段、常識だ、と思っていた事が生徒さんにとっては常識ではなく、ぼくが当たり前だ、と思っている事がぜんぜん当たり前ではないのです。

つまり、
『おまえさぁ~そんな、セリフで通じるの?』
だとか
『もっとでかい声出せよ』
だとかはまったく意味がありませんし、響く声の出し方を言ったところで、生徒さん達はポカーンとなってしまう事が多いのです。

▼こころとからだのための

この講座をお引き受けした十年以上前はこうした違いに戸惑いましたし、おそらく講座の内容も今とはだいぶ違っていたと思います。

ご担当の先生が命名されたワークショップ名『こころとからだのための演劇ワークショップ』が示すとおり、生徒さんのこころとからだをテーマに、と考えた時にぼくの中で腑に落ちたものがありました。

と同時に、座員の松井や石井が同行してくれていた回の内容や生徒さんが書いてくれた感想で毎年、この講座の内容が磨かれている――手前味噌ながらそう感じています。

お芝居を習う、お芝居をうまくなる方法ということではなく、
こころとからだの変化を演劇を通して一緒に考えていくことを主眼におくようにしました。

方針を切り替えた年からどこかぼくなんかより三十歳以上若い生徒さんたちの目が変わってきたように思いますし、通じ合えたのではないか、と勝手に思っています。

そして、ぼくがいつもこの事をすぐに忘れてしまうことなのではないか、とも同時に感じてしまうわけです。

▼ぼくが普段忘れがちなモノ

お芝居の公演をしていく時に、お客様にご覧いただく為に色々な方法や技術を磨いていきます

具体的にはここには書ききれませんが、
例えば歩き方、喋り方、光の当て方、構成、衣装、道具、広報、音などなどなど仕事・業務毎に色々な技術や方法がありますし、常に最新の技術がでてきます。

これらを磨くことはお客様にご覧いただく為にとても大切ですし、絶対に無くすことはできません
また、技術が伴わず、『やる気』や『気持ち』だけがあってもやはり具現化は難しくなってきます

しかし、技術だけ……ぼくの舞台演出という領域であれば「こういう見せ方をしたい」という気持ちだけでもダメですし、逆に「こういう動き」という方法だけでも作品は創れないと考えております。

ぼくが普段忘れがちなこと……それは作品を創る時にこうした気持ちと技術のバランスを忘れてしまうのです。

『この方法を使いたい』から、目標や気持ちを変えたり、後付けしたり……
気持ちが先走ってしまって、技術を磨くことが疎かになったり……

両輪の大切なものを失くしたり、バランスを悪くすることが多くあります。
特に作品に取り組んでいて集中しているとそうなってしまうことが多いのです。
こうしたバランスの悪さ、『おい、武藤、何かを忘れてしまっているのではないか』ということをこのワークショップに参加してもらった生徒さんたちに教えてもらうのです。

▼生徒さんたちの眼差し

毎年、毎年、お目にかかる生徒さんたち。
リピートしてくれる方もいますが……ほとんどは初めてお目にかかるのです。

どの生徒さんも目がキラキラしています。
そして…たとえ「お芝居を志していない」としても、眼差しが真剣なのです。
”先生”として目の前に立っている人間の言葉を聞こう、という気持ちをものすごく感じます。

それが若さなのかもしれません。学生さんなのかもしれません。

しかし、その眼差しがぼくに”忘れてしまっている”モノを思い出されせてくれるきっかけになっています
ありがとう。

ぼくはまた研鑽をつづけ、こころとからだを育てて。
技術も気持ちも磨いて……来年も呼んでもらえるように精進します。




舞台演出家の武藤と申します。お気に召しましたら、サポートのほど、よろしくお願いいたします!