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演出家は選ばれてなるもの

よく「俳優は資格がいらないから、『今日から俳優です』と名乗ればなることができる」と言われますが…ぼくはそうだとは思っていません。
演出家も同じであります。

師匠からの受け売りですが…
「演出家は選ばれてなるもの」
というものがあります。

▼誰に選ばれるのか。

では一体『誰』に選ばれるのか…
演出者はお客様、スタッフ、俳優にそれぞれ選ばれる必要があるのです。
それは1回ではなく…

そうしなければ「舞台演出」などできるあろうはずもない、という師匠の言葉です。

例えば、どこかに演劇の神様が居て「この人、今日から演出家だから」という事を示せば…ひょっとするとできるかもしれませんし…
いわゆるプロデューサーが「演出はこの人」と言えば成立するのかもしれません。

ただ、ぼくは思うのです。
それも選ばれていることではないのか、と。
そして舞台演出を続けていくことは、やはり「お客様・スタッフ・俳優」に選ばれる人でないとダメだと考えているのです。

▼俳優に選ばれる

舞台を上演する上において…俳優に選ばれなければお話になりません。
イメージとしては、「演出者が俳優を選ぶ」というようなものがあります。
確かに「キャスティング」は演出者の最大にして重要な仕事です。

キャスティングということであれば、確かに演出者は俳優を選びます。
しかし、出演してくれるかどうかは・・・「俳優」が決めるのです。
そこで俳優さんは・・・その作品・企画について演出者がふさわしいかどうかということが出演判断の要素の一つになるのではないでしょうか。

▼スタッフに選ばれる

俳優に選ばれると同じくらいスタッフに選ばれることは重要な事です。
後述しますが、演出者は別に偉いわけではありません。
先見の明を持った神でもありません。(もちろん先見の明をもった人の方が良い作品になるとは思いますが…)
ですので、照明・衣装・音響・装置・道具・制作・メイク・広報などなどのスタッフが「一緒に仕事をするに値する人物」かどうかを判断するのです。

演劇は一つの作品を多くの人間が作り上げる仕事です。

ですので、演出者もスタッフの一部であり、また、カスタマーでもクライアントでもありません。
同じ作品に向け、意見を交換し合い、時には議論しながら進めていける演出者かどうか・・・スタッフに選んでもらう必要があります。

▼お客様に選ばれる

一番重要なのは・・・演出者はお客様に選ばれなければいけません。
これは最大にして、もっとも難しいものです。
何故ならば、お客様は演出者の人となりを知りません。
もちろん、お客様が知り合いばかりであればそうではないと思いますが・・・。

お客様は「作品」を見て、演出の善し悪しをご判断になります。
おもしろければ、次もお運びになられるでしょうし、つまらなければ、二度とご覧にならないでしょう。

そうなのです。
別の記事でも述べましたが…演出者は「作品すべて」において責任を負うわけですから…お客様が2作品目をご覧にお運びいただいてはじめて「演出者が選ばれた」となるわけです。
もちろん、このお客様の選択は続きます。
常に演出者はお客様に選ばれなければならないのです。

▼俳優・スタッフ・お客様に選ばれて初めて・・・

今まで述べましたように、俳優・スタッフ・お客様に選ばれて初めて演出家と名乗れるとぼくは考えています。
でなければ、役目としての演出であるかもしれませんが・・・演出家が何を考え、何を表現しようとしているかを本当に表現できる環境にはなり得ないと考えているからです。

台本を10人読めば10通りの解釈が出てくるように…作品に携わる人間は数多くいます。
そうした人間の解釈を舞台をすべて取り込む事は不可能です。
そこで演出者の仕事として「統合まとは融合し」、作品のすべての責任を負うのが演出者であり、演出者の感性・考えで作品創りが進行していくわけですから、そこに「選ばれる」必要があると考えているわけです。

選ばれずに演出を行う場合…本当に表現できる環境が出来ていないとぼくには感じられるのです。

▼だからといって偉いわけじゃない

だからと言って演出家が一番偉いわけではありません。
演出者が俳優を支配しているわけでもなければ、権力者でもありません。
管理者でもなければ、先生でもなければ神でもありません。

他のスタッフもそうですし、俳優さんたちもそうです。
同じ作品に取り組む仲間であり、同志であるわけです。
職種・やることが違うだけで、偉いわけではけしてないのです。

もちろん一部の役割として先生の役割を含むこともありますし、経験や年齢によってはリーダー的な要素も出てくるかもしれません。
しかし、「演出者が偉い」というわけではけしてなく、「演出者のいう事がすべて正しい」というのは幻想なのです。

誤解を恐れずに言えば、よく作品の捉え方、稽古の内容なので俳優さんと演出が揉める、というものをSNSなどで目にします。
ぼくが感じるのは「目標が定まっていないだけ」のように見える時があるのです。
何に向かって進んでいるのか。ここが同じでなければ何もできません。
「演出の指示を聞いてくれない」というような事も目にしますが…本末転倒です。
指示の内容は間違っていないか、指示した時の状況、関係性などは担保されているかなどなど…演出者が考える事は無数にあります。
ぼくはそもそも「指示」とは考えていません。あくまで「依頼(オーダー)」であり、それらができるのは「選ばれるからこそ」なのだと考えています。

重ねて書きますが、けして「演出家が偉い」わけではありません。
時には俳優さんやスタッフと議論し、やり方や表現方法、考え方についてまで共に考えていく必要があります。
その中でこそ演出家は本来の演出の仕事が出来ていくのだと考えています。

▼俳優さんも・・・

今まで演出者のことについて書いてきましたが…俳優さんも同様に「名乗ればできる」職業だとは考えていません。

演出者と同様に、共演者に、スタッフに、お客様に選ばれなければ成立しない仕事だと考えています。

共演者に選ばれなければ・・・一人で演じるしかない。
スタッフに選ばれなければ・・・照明も音響もなく、衣装も自分で・・・
お客様に選ばれなければ・・・見ていただけない

となってくるのではないでしょうか。

▼選ばれてこそ

最初にも書きましたが、演出者も俳優さんも「選ばれてなるもの」だと考えています。
ですので…どんな仕事でもそうですが…始めは結構誰にでもできます。
やり方ややる気があれば、最初の一歩は誰にでも機会は巡ってきますし、やれると考えています。
しかしながら・・・演出者・俳優として続けていくには・・・選ばれてこそ続けられるのだとぼくは考えています。

ぼくは未だ下手くそな演出者です。
しかしながら、客演してくださった皆様、新和座の座員、多くのお客様に「舞台演出家」として見ていただけております。
皆さん、本当にありがとうございます。
ぼくはこれからも下手くそなりに舞台演出家として続けて行けるように、選ばれるために、努力していきます!

舞台演出家の武藤と申します。お気に召しましたら、サポートのほど、よろしくお願いいたします!