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演劇界が嫌われちゃった。

令和2年9月25日追記
オピニオンサイト iRONNA様にて、本記事を加筆修正したものを寄稿いたしました。
詳しくはこちらからご覧ください。

▼今回の記事は、賛否両論、お叱りもあると思って書いている。
この新型コロナウィルスの禍の中にあり、演劇界が嫌われている。
この記事を書こうと思ったきっかけは、ぼくのTwitter(質問箱)に以下のような質問が来たからだ。


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そうなのだ。演劇界、世間に知らたけど嫌われちゃったのである。
この記事では、演劇界に対する考えを書いておきたい。
ぼくのような無名の舞台演出家が何を言っても、世の中にはさざ波も起きない。それでも、少しでも…ぼくの考えを書き、演劇界が良い方向に変わっていく事ができればと思っている。

演劇界の末端に身をおく、舞台演出家のはしくれとして、今の現状とこれから何をすべきなのか…考えてみた。

▼結論をかけば、ぼくはこの新型コロナ禍あろうがなかろうが…
「演劇界は嫌われていた」と思っている。
また、このコロナ禍において演劇界だけが被害者なのではない。
全世界の人間が被害者であり、総ての職種が影響を受けているのだ。
それは、ぼくの経験からそう感じていたし、いわゆる世間で言われることでもそう感じていた。

部屋を借りる時、「俳優です」と言っても無名であれば、部屋を借りることはできない。
お金を借りる時、「舞台演出家です」と言っても…やはり無名であれば借りることはできない。

世間的に信用がないのだ。部屋を借りるにしてもお金を借りるにしても、別の仕事(副業)もしくはアルバイトが貸主の方では「本業」であると認識されるわけである。

▼演劇だけで食べられていない人間が何を言うか…食べられている人間は、そんなことはない、とお叱りを受けるかもしれない。生業として俳優、演出家として生きている人についてはきっとそうなのだと思う。
しかし、世間から見れば、まだまだ信用のない世界、それが演劇界なのだと思っている。

▼そもそも、おそらく演劇に興味のない人から見たら、演奏家のように楽器を弾くわけでもなく、噺家さんのように一人何役もするわけでもなく…単に喋っているだけで「お金」を得ていることは違和感の塊な職業なのだと思う。
もちろん、「うまい」俳優さんに対してはこの限りではないだろうが…特にぼくらのような小劇場を主に活動している人間は、「趣味でしょ」と言われるのが関の山なのだ。

▼これは…大なり小なり、大きなところで公演を行っている人々もそうだと思う。「食えてないでしょ」「趣味の延長上でしょ」と思っている人が大半だと思う。

▼余談だが…世間からすれば、脚本家と演出家が別の職種であることも浸透していない。もちろん、兼ねる場合もあるが…脚本家と演出家は別の職種だ。

▼つまり、演劇界というのは信用がない、興味の薄い、「認めてもらえていない」世界なのだ。

▼もちろん認めてもらえている舞台も数多い。宝塚や劇団四季などは誰もが認めている舞台だ。歌舞伎もその中に入るのではなかろうか。

▼音楽などでもそうだが…
クラシック好きの人ばかりでもないし、ロック好きの人ばかりではない。
民謡が好きな人ばかりではないし、ジャズ好きの人ばかりではない。

民謡ファンの方に怒られそうだが、民謡は今、一時期の人気を失っているとことは否めないと思う。
コロナ禍がない時から。
それでも民謡に関わる人や民謡ファンの努力はあるとは思う。思うけれども、一般の人が「民謡を盛り上げよう」となっていないのが現状だと思う。

つまり、自分に興味のない音楽ジャンルが危機に瀕していても…世間では何ら起こらない事の方が多い。

▼日本文化である、畳や障子についてもそうだ。
「やっぱり畳の部屋は落ち着く」だとか「障子は雰囲気が良い」と思っていても…普段の生活の中で使わなくなってきたら…今、現在、日本間自体が少なくなってきている。

そうだからと言って、世間一般の人が「日本間をつくろう」となる動きは少ない。

▼つまり、それが不景気の影響なのか、文化というものの変革なのか、はたまた必要性の差なのかはわからないが…廃れるものについて、世の中が自然と動くことはまずない。

▼今回のコロナ禍について、演劇界だけが影響を被っているのか、そうではない。どんな職種もどんな人間も影響を被っている。
全世界の人が被害者なのだ。
もちろん、演劇界に身を置く一人として、助けてもらえるなら助けてほしい気持ちはある。
しかし、だからと言って、自分たちだけ助けてほしいとは思わない。

▼先にも書いたが…「演劇界は嫌われていた」と感じる理由はもう二つある。

▼ひとつは「世の中に馴染んでいない」ということだ。
今、小劇場を主に活動している人間は別の仕事を持ったり、アルバイトをして生計を立てていることが多い。
そうした中で、「公演」の度に、その別の仕事のスケジュールを調整しなくてはいけない。
無論、自身で調整できる仕事であれば影響は少ないのかもしれないが…そうでなければ…「え?こんなに長い期間仕事できないの?」と思われる場合がある。

もちろん、理解のある人々も多くいらしてくださる。
そういう方々は、「公演」に理解を示してくださり、嫌な顔せず、調整に応じてくださる。
しかし、世の中にはまだまだ馴染んでいないのも事実なのだ。

▼もうひとつは「選択の自由がない」ことだ。
例えば、ネットの動画やテレビは、飽きたら「変えたり」「消せばいい」。
しかし、舞台の場合はそうはいかない。「あ、つまらない」と思っても、中々席を立てる雰囲気ではない時が多い。

中には席を立たれる方も居るが…世間の多くはそうではないのではなかろうか。

また、多くの舞台で採用されている「ノルマ制」でその俳優の知り合いが「つきあい」で観ることが多い。
「観たい」という選択ではなく、「今後の付き合いの為に行くか」という選択になっている場合が多いのではないだろうか。

いわば、押し売り、押し付けになっている時があるようにも思う。

▼映画やテレビではこうした「押し付け」「押し売り」がないと言ってもよいくらいだ。
視聴者は選択し、観ない、ということもできるわけだから。

▼もちろん、我々が行っている小劇場の世界ではこうしたテレビや映画へ続く登竜門としての役割もあるだろうし、大きく言えば、文化の担い手としての自負もある。

▼無論、ぼくらの作品に感動してくださるお客様もいらっしゃるし、応援してくださっているお客様もいらっしゃる。

▼だからこそ、今回の一部の”演劇人”が発したメッセージはとても悲しい。
Twitterの検索で「演劇」と打てば「自業自得」「傲慢」とキーワードが続く。
お芝居は人の心を表現するものではなかったのか。
俳優や演出家は人のメンタルについての職業ではなかったのか。
他人の事を想像できない人間が、登場人物の心情を表すことができるのか。

世の中の人に「自業自得」「傲慢」と思われるようなメッセージが何故出せるのか。
今回のコロナ禍について、演劇界だけが苦しいわけではない。飲食店も小売り関連も…もちろん医療も…すべての人、総ての職種、全世界の人が苦しんでいる。
なぜ、そうした人たちの心を抉るようなメッセージになってしまったのか。

ぼくは演劇の世界の末端に身を置く舞台演出家のはしくれとして、とても心苦しい。
もちろん、演劇、俳優の世界も苦しい。けれどそれは、我々だけではないはずだ。

▼こういう時だからこそ、「人間」が出てしまうようにも思う。
外面だけが良い俳優さんもいるかもしれない。SNSなどでは綺麗な事を言って、実は他の人間を人間扱いしない人も居るかもしれない。
カッコいい事を言っていて、その実、真逆の行動をしている人も居るかもしれない。

今回の一部の”演劇人”のメッセージはまさにその「人間」が出てしまってしまったのではないだろうか。

▼ぼくは俳優だろうと音楽家だろうと芸術家だろうと、政治的意見は発しても良いと思うし、むしろするべきだ、と考えている。
それは、決められた税金を支払っている、義務を果たしている国民だからだ。

しかし、「特権階級」ではない。一社会人なのだ。
社会の中の一人なのだ。
むしろ、人とは違う技能で、ある意味、非常識な手段でお金を得るわけだから、他の誰よりも社会人として自覚を持たなければいけないのではないか。

▼これはあくまで私見だが、演劇や芸術は先に「価値」を提供する技能だからこそ、人が魅せられるのではなかったのか。
先に「補償」や「保証」を得て、「価値」を後回しにするのが演劇ではなかったはずだ。

もちろん、生きていくためにも、公演を行う為にもお金は必要だし、最も大事なうちの一つだ。お金は勝手に生まれない。
お金で世の中は動いている。しかし、世間が必要としている価値を生み出さずに…自分の補償や保証を要求するのは…ぼくは間違っていると感じている。
人生にも芸術にも答えはないが…あえて言う。

保身を考える芸術家の芸術に誰の心が奮えると言うのか。

▼今回の記事に関しては、本当に賛否両論があると思います。
もちろん、ぼくらは「ただ喋っている」だけではなく、稽古もし、準備もして…公演を創っていくことに誇りを持っています。

だからこそ、今の現状が非常につらく悲しく感じます。
もちろん、ぼくらの仲間で先に価値の提供を予定していて、その公演や発表ができず、苦しんでいる仲間は大勢います。
経済的にも精神的も苦しんでいる仲間もいます。
そういう人たちに他の業種と同じように、補償の手立ては考えてほしいと思いますし、私も舞台に関わる一人として、劇場・劇団・俳優について、また自由に活動できるようにしていきたい、という気持ちがあります。

もちろん、今、この状況の中でも、演劇を待ち望んでくださっている方もとても多いですし、応援してくださっている方もたくさんいらっしゃいます。

こうしたお声、ご声援に応えることができるように今は、研鑽の時期だと思っております。
もちろんできることは小さく、限られていると思いますし、
コロナ禍後は演劇の姿は大きく変わると思っています。今までのぼくの脳では追い付かないことが多いと思っています。

それでも、ぼくは舞台が好きです。
「演劇界は嫌われていた」と考える僕ですが、お芝居が好きです。
世の中にはたくさん、素晴らしいお芝居をする人はいます。
お芝居を愛している人がいます。
だからこそ…ぼくらが今までやってきたことを今一度見つめ直して、反省すべき点は反省し、良い点はもっとよくしていく…演劇が発展するように行動していきたい。

世間のすべての人から、好かれることは不可能だと思っています。
それでも、応援してくださる方々に、演劇が好きだと仰ってくださる方々に…これから好きになってくれるかもしれない方々に…
価値を届ける事ができるように、今は研鑽していきます。

舞台演出家の武藤と申します。お気に召しましたら、サポートのほど、よろしくお願いいたします!