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時間軸

人と話したり、仕事をする時に気を付けていることがあります。
それは
『時間軸が違う』
ということです。

マウスの使い方なんて……

ぼくは良く忘れてしまうのですが……経験は人によって違うものです。

昔、システムエンジニアの時に先輩に対して行った失敗を今でもよく思い出します。

それはぼくが担当したシステムの『使い方』を先輩に説明した時の事です。
当時そのシステムは完成していてエンドユーザーへの引き渡しをするフェーズでした。

ぼくはそのシステムの使い方はもとより、マウスの動かし方まで先輩に伝えていました……
案の定、先輩からは
「オレ、ど素人じゃないんだけど」
と苦言をもらいました。

そうなのです。
ぼくは、話している相手も見ずに…先輩にシステムの『使い方』を伝えるという目的をも見失ってしまっていたのです。
ですので、話している相手をパソコン操作になれていないエンドユーザーと錯覚し、マウスの使い方まで言及してしまっていたのです。

その時、顔から火が出るほど恥ずかしかったのを覚えています。

経験は人によって違う

また、舞台演出家として仕事をしている時にも感じる事があります。

ぼくよりも経験年数が少ない人でも、ぼくが経験していない事を経験している人はいますし、ぼくよりも経験年数が多い人が経験していない事はざらにあるのです。

これはお芝居に限った話ではないと思っています。
どんな仕事でも、どんな出来事でも……年齢や経験に寄らず、一人ひとりが経験してきたことは違います。

舞台演出をする時は特に気を付けるのですが……
仲間であろうと客演の方であろうと、自分がしていない経験をしていることを前提に話をするようにしています。

もちろん、場数と言った部分や時間という部分におていはその経験年数に比例するものがあるかもしれません。
しかしながら、内容ややってきたこと、経験してきたこと、そこで感じたこと得たものは他人がおいそれ、と判断できるものではないと思っています。

やりづらいひと

ぼくは自由業ですので、基本的にお客様から仕事をいただきます。
ですので、条件が合えばどんな仕事の依頼内容でも完遂に向けて進めます。

でも。
モノを書く仕事でも、舞台演出でも、照明・音響、システム作成でも……
『やりづらいなぁ』と思う事があります。

それは”時間軸”が全く違うということが共有されていない場合です。

ご依頼いただいた内容が変わるのは往々してあることです。
しかし、その変更内容や変更理由が伝わってこない事、時間を十分にいただけない時はやっぱり『やりづらいなぁ』と感じてしまいます。

そのご依頼の方と四六時中一緒にいれば、『だいたい』の変更理由や変更内容、目的がわかりますので……進めている仕事について反映は比較的容易にできると感じています。

しかし、やっぱりその方の頭の中身までは解るわけではありません。
『変更したい!』
という熱い思いは伝わってくるのですが……やっぱり、内容や理由、変更した後の事というのは”時間軸”が違うので、伝え方に工夫がないと難しいと思っています。

だいたいぼくが『やりづらいなぁ』と感じるのは……こうした他人の”時間軸”が共有されず、『え?これって常識ですよね?』的なことを仰ってくる方や『良いものをつくるためですよ』的な事を仰ってくる方は……「うーん」となってしまいます。

時間軸を共有する事

ぼくは仕事をする上で、変更やアイデアの交換で……細かい仕様書や説明書が必要だ、なんて思っていません。

逆にそうしたものがあることで、見落としてしまうこともある場合も……と感じています。
(ただ、拠り所としてあるととっても良いと思っています。)

ぼくの経験則の話になってしまいますが……
やはり変更がスムーズにできるのは『言語』がある程度共有出来ているといいな、と思っています。

例えば新和座の仲間や、家族、長く仕事をいっしょにさせていただいている方々、親友などは……ある程度『言語』が共有化されていますから、すべてを語らなくても「あ、なるほどね」となる時が多いと思っています。

その背景には『経験』や『時間』、『考え方』が共有されていることが多いと思いますし、実際に一緒に遊んだり、作業したり、仕事したり、考えたりする時間が多い事で共有されている”時間軸”が多いのも事実だと思います。

しかし、やっぱり。
個別に見ますと、人間は一人になる時間もあれば、複数の人間と何かをする時もあり、常に同じ人といっしょに何かをやっているわけではありません。

ですので、自分の見聞きしたことが相手も同じように見聞きしているかというとそうではありませんし、たとえ同じモノを見聞きしたとしても感じるものは違ってきます。

人に接する時に……

自分が『初めて知った』事が周りは『既に知っていた』事かもしれませんし、自分が『既に知っていた』事は周りの人が『知っている』とは限りません。

とても難しい事ですが…
ぼくはどんな仕事をする時でも――こうした経験、言語、思考は一人ひとり違うので――『時間軸が違う』という事を意識するようにしています。

無論。
ぼくのような人間ですから常に完璧にできるわけではありません。
ぼく自身も『え?こんなことも知らないの?常識でしょ?』と口をついてしまうことも何度もありました。
ただ。
今、家族との生活や仲間と仕事を進めたり、お客様と仕事をしていく上で、こうした思いになったとしても、口から出る事は少なくなってきているとは思っています。

自分が経験したことを他人も経験していたらどんなに楽かわかりません。
他人が経験した事を自分も経験できていたら違うモノができるかもわかりません。
他人と脳みそが交換できればもっと円滑に進むのかもしれません。

しかし、『時間軸』が違うからこそ、色々な人の様々な思い、意見、考え、思想が融合していくのだと感じています。

このコロナ禍に突入し、もうすぐ2年余り。
今回書きましたこの『時間軸』についてもこのコロナ禍で見つめ直した事の一つです。

相手が誰であれ、『時間軸』が違うということを心に接していきたいと思っています。


舞台演出家の武藤と申します。お気に召しましたら、サポートのほど、よろしくお願いいたします!