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【短編小説】チョコレート

610文字/目安1分


 きみからもらった、一つのチョコレート。

 普段は甘いものばかり選ぶくせに、チョコレートはビターが好きなんだ。

 口に入れると、ほろ苦さがいっぱいに広がっておいしい。

 だけど。

 わたしは甘いほうが好きかな。

 そう口にすると、きみは言葉にはせず、わたしに微笑んだ。

 その目はどこまでも深くて、ミルクみたいに優しい。

 それがきみの答えに聞こえて、嬉しくなる。

 ここにいていいって、言ってくれているみたい。

 お腹のあたりがくすぐられ、満たされる。

 この気持ちのまま溶け合いたい。

 いつだってそうだ。

 きみにはもらうばかりで返せない。

 きみと一つだったら、喜びも同じになるのに。

 甘い、甘い。苦い。

 きみとわたしで二人。

 一人になれないなら、一つを分け合えばいい。

 きみの好きなビター味をはんぶんこ。

 これなら苦いも甘いも一緒にできるかな。

 割れたチョコレートを二人で口に入れる。

 きみは苦いのが好き。

 わたしは甘いのが好き。

 この違いは同じにはならない。

 だけど。

 おいしいね、ときみが言った。

 はっと気づいて、わたしも言う。

 おいしいね。

 これなら二人とも同じだ。

 割れたチョコレートが混ざり合う。

 近づきすぎると熱に触れて、遠ざかると冷えて固まる。

 それでいいんだよ。

 二人なら甘いを分け合える。

 二人でいれば苦いも分かち合える。

 それならずっと二人でいよう。

 きみとわたし一つずつ、二人で笑った。

 チョコレートが好きなんだ。

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