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【短編小説】フォトアルバム

2,057文字/目安4分


「一つ分かったことがある」
「どうした」
「俺、アプリでいろんな子と会ってるって話よくするじゃん」
「してるな」
「その子ら一人一人、みんな生きてるんだなぁって思うのよ」
「当たり前じゃね」
「いや、そうなんだけど。そうじゃなくて、みんなそれぞれ人生があって、いろんな生き方があるんだなぁって」
「そういうことか」
「みんないい子なのよ」
「何人くらいと出会ったんだ?」
「十五人」
「即答できるのはすげえな」
「当たり前だろ」
「うわめっちゃドヤ顔」
「いや、でもなんなら全員の名前とどんな子かもちゃんと言えるぞ。さすがに出会った順は自信ないけど」
「すげぇじゃん」
「まぁ何の自慢にもならないけどね」
「確かにな」
「遊んでる奴としか思われない」
「まぁ、そうだよな」
「実際そうだし」
「うん」
「全員と付き合ったわけじゃないけどな。むしろ付き合わなかった子の方が多いし。最短だと五分くらいで終わったことある」
「それは早いな」
「めっちゃいい子だった」
「お前早漏だったんだな」
「ちげーよ。会うまでのやり取りでめっちゃ趣味合うなと思ってて。いやでもね、なんか、これが最後の出会いにしたいって言ってて。これは俺が悪かったんだよ。俺は最後のつもりなんかなかったけど、やり取りも楽しいし会ってみないと分からんだろと思って約束して。で、会ったんだよ」
「うん」
「普段おしゃれなんかしないし苦手って言ってたのに、すごく綺麗にしてきてさ」
「いいじゃん」
「実際会った時の印象もよくて、向こうからも会えて嬉しいなんて言われてさ」
「おー」
「……なんだけどさ」
「なんだよ」
「あなたとなら最後でもいいかも、なんて言われて、俺何も言えなかったんだよね」
「まぁ向こうは最初から言ってたしな」
「そう。それで終わり。やっちゃったなーって思ったね。やっぱり会うべきじゃなかった」
「逆に一番続いたのは?」
「一年三か月。あれだよ、はるみちゃんだよ。看護師の」
「あー、はるみちゃんか。いつの間にか別れてたよな」
「そう。最後の時はあんまお前に話してないからね」
「え、てか、めちゃくちゃいい感じだっていう話だったじゃん。なんで別れたんだよ」
「方向性の違いかな」
「バンドマンかよ」
「いや、でもそんな感じだよ。まぁ、最終的に俺が悪いんだけどね」
「何したんだよ」
「いや、まぁ……」
「なんだよ」
「俺がどっちつかずだったっていうか。まぁちょっと違うんだけど」
「え?」
「いや、まぁ」
「なんなんだよ。つーか顔引きつるにもほどがあるだろ。初めてみたわそんな顔」
「うーん」
「いいよ言わなくていいよ。どうしたってんだよ」
「だからね」
「いや、いいからいいから。分かったよ」
「うん。なんかね。俺そろそろ、アプリ使うのやめようかなって思って」
「おー、どうした」
「うん、そろそろアプリも卒業かなって。もう十五だし」
「そんな自分の歳言うみたいに。あれか、義務教育終了か」
「そう」
「なるほどね」
「俺もいい加減、一人の人と本当の意味で真剣に付き合っていきたい」
「いいじゃん」
「今までが適当だったとかじゃないからな」
「分かるよ」
「やっぱりね、好きな人と、心の底から好きになりたいんよ。ぶつかる時はとことんぶつかって。ぶつかるんだけど、ちゃんと認め合うみないな」
「ほう」
「今までの俺はそれができてなかったから続かなかったんだろうなってん思うよ」
「ふーん」
「そりゃ最初はほぼ遊びでワンナイトばっかり狙ってたけどさ」
「なんか、お前変わったな」
「そうか?」
「昔はバカでちゃらんぽらんだった」
「今は?」
「ちょっとバカなままだけどちゃらんぽらんも……まぁちょっとになった気がする」
「変わったって言えんのそれ」
「うん。なんていうか、いい奴だな、お前」
「なんだよ急に」
「なんでもねーよ」
「あっそう。でも、写真とかって消した方がいいよな」
「写真?」
「今まで会った子と写真撮ってたりするんだけど、それ全部残ってる」
「どのくらい?」
「分からん。三千はある気がする」
「すげーな」
「でも、消すのはちょっと嫌なんだよな。今までのをなかったことにするみたいで」
「……お前」
「なんだよ」
「もしかしてメルマガも残ってたりする?」
「メルマガ?」
「ずっと前、彼女に下着プレゼントした時のメルマガ」
「あー、まだ来るよ」
「やっぱり。まじかよ解除してねえのかよ」
「別にメール来るだけだしと思って」
「やっぱお前変わんねえわ」
「なんだよ」
「いや、俺お前のそういうとこ好きだわ」
「なんだそりゃ」
「ま、なんか分からんけど頑張れよ」
「何がだよ」
「これからだよ」
「はぁ?」
「俺もあんま適当にしてられねーな」
「そういやお前からそういう系の話聞いたことないわ」
「俺のことはいいんだよ」
「なんで」
「いいもんはいいんだよ」
「なんでよ。少しくらいいいじゃん」
「いいんだよ別に」
「まさかとは思うけどお前、童貞?」
「なわけあるか。俺は俺でいろいろあるからいいの」
「なんだそれ」
「まぁまぁ。なんか、お前は幸せな人生になりそうだわ」
「は?」
「安心したわ」
「意味わかんねえよ」
「これお前にいつも言ってる気がするけどさ」
「何よ」
「元気出せよ」

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