【短編小説】明日休みの散歩道

820文字/目安1分


 あぁ、疲れた。

 久しぶりだ。こんなに遅くまで会社に残って仕事をしたのは。時計の長針が一周と少しまわれば日付が変わる。終わりそうな気配は全然しなかったけど、どうにかやり切ることができた。
 そろそろ会社から残業時間を注意されそうだけど、来週に仕事を残さなかっただけ自分をえらいとしようか。

 会社を出ると、コートをすり抜けるように冷たい空気が身体を包む。それがなんとなく心地よい。
 ふぅ、とひと息吐き出してから、ポケットに手を入れて歩く。なんだか気分が清々しい。区切りをつけられたのが大きいな。
 少しだけ寄り道して帰ることにしよう。

 その前にまず夕食だ。いい加減お腹がすいた。ぱっと目に入った牛丼屋で済ませることにした。普段はやらないくせに、トッピングをつけて味噌汁セットも注文してしまった。財布の紐も緩んでいるな。
 店がすいているから頼んだものがすぐに出てきた。すぐに食べ終えて、そしてすぐに店を出た。

 駅までの道は騒がしかった。電車の中もざわざわしている。
 ちゃんと歩けない人。ちゃんと立てない人。ちゃんと喋れない人。酔っ払いばっかだ。金曜日だから無理もない。総じてみんな楽しそう。聞かれちゃまずいような悪口も、大声で聞こえてくる。

 自宅の最寄りからひと駅前で降りる。いい気分のまま、夜の道を歩くことにした。
 地元では駅と駅の間で一時間以上は歩くし、最寄りから家までも一時間以上かかる。何より道が真っ暗で危ない。
 いつもよりもペースを落として、家に向かって進んでいく。いつもは早く帰りたいから、せかせかと急ぐけど、そんなことはしなくていいと自分を許すだけでこうも気が楽なんて。

 あぁ、でもやっぱり疲れた。

 あれこれ考えようにも、頭が動いてくれない。まぁ、その分今日はぐっすり寝られそうだ。帰ったら缶ビールでもあけようかとも思ったけど、大人しく布団に入ろう。
 そして明日もゆっくり休もう。

 一つ一つ足を踏み出すたびに、眠気が大きくなっていく。



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