見出し画像

過去問題を解くにあたって

▼生徒の皆さんからよく受ける質問の一つに「過去問題はいつから解き始めればいいのか?」というものがあります。先生によって回答はまちまちかもしれませんが,私自身は次のように答えています。

【1】新しい年度のものは早めに,それ以外は後で

▼新しい年度の問題(最新年度のものがまだ手に入らなければその前年度の問題)は早めに解く(1学期中に,可能なら春休み中でも構わない)。制限時間を守り,試験本番と同様に解答し,解答を見て採点してみる。それ以外の問題は夏休みから12月までの間に解く。

▼新しい年度の過去問題を早めに解くのは,「大学が求めている力と自分の現状との間にどれくらいの差があるかを実感する」ためです。全く歯が立たないという人もいるでしょうし,かなり解けた!という人もいるでしょう。いずれにせよ「彼我(ひが)の差」を早めに知ることで,自分が何を学ばねばならないのかを早めに把握することが大切だ,というわけです。

▼それ以外の年度の問題は夏休み以降,2学期の間に,模擬試験のつもりで解いてみましょう(もちろん,それまでに「彼我の差」を埋める努力をしてください!)。なお,各大学の赤本はゴールデン・ウィーク明けから出されるはずですが,大学によっては夏休みかそれ以降になる場合もあります。赤本公式ページで発刊予定を確認しましょう。

▼なお,赤本については表記されている「年度」にも注意してください。「2020年度用」と書かれているものには2019年度の試験までしか掲載されていません。2021年度用の各大学の赤本は,現時点(2020年4月10日時点)ではまだ発刊されていません。

【2】過去問題を解く意義

▼勘違いしている人が多いのですが,「過去問題をたくさん解けば力がつく」というわけではありません。また,「過去問題から未来の問題を予測する」ことも不可能です。過去問題はあくまでも過去に出た問題にすぎず,これから出る問題の在り方を必ずしも保証するものではありません。では,そうであるにもかかわらず,なぜ過去問題を解かねばならないのでしょうか。

過去問題を解く意義は,これまで出された問題の形式・分量・難易度を把握することに他なりません。どの大学・学部・学科も基本的に入試問題に関しては学習指導要領の範囲を意識し,受験生を振り分けるために自らが適切だと考える分量・難易度の問題を作成しています。そして,問題の形式や分量や難易度は,多少の変更はあるにせよ,大きく変化することはそれほどありません。もちろん,解答時間が変更される場合などは別ですが,仮に大幅な変更がなされるとしたら,事前に大学から公表されるでしょうから,各大学のホームページをこまめにチェックしていればそうした情報は手に入るはずです(ただし,そうした大幅な変更は1年もしくは2年前に発表されるのが常ですから,入試の直前になって大幅に変更されるということは,よほどの緊急事態を除いてはまずありえません)。

▼たとえば英語の場合,過去に出された英文と同一の英文が出るということはありえません。しかし,過去に出された単語,熟語,構文,文法などは,姿かたちを変えて何度も出されています。また,文と文,段落と段落の「つながり」を考える問題も,形式は異なれど繰り返し出題されています(ただし,特に単語・熟語・文法・語法などの知識問題に関しては「頻繁に出されているものもあれば,滅多に出ることがない「一発屋」もあります。これらの違いについては,試験の範囲を熟知した先生に尋ねるのが良いでしょう)。

過去問題を解いて各大学の形式・分量・難易度といった〈個別の条件〉を知ったうえで,〈普遍的な学力〉を養うこと。そのあたりまえのことを徹底していきましょう。

【3】過去問題を解くのは自分の志望校(学部・学科)だけで良い?

▼これもよく質問されることですが,次のように言えると思います。

① 特に私立大学で複数の入試日程があり,どの日程でも共通の形式の問題を出題している場合,模擬試験代わりに他の日程の問題も解いてみる。

② 自分の志望校の問題をやり終えた人は,同じ形式・分量の他大学の問題も解いてみる。たとえば,70語程度の自由英作文が出題される大学を志望する受験生は,他の大学で同じ形式・分量の自由英作文を出しているところを探し,その問題だけ解いてみる。

▼また,一見,全く無関係に見える他の大学の過去問題が(そのままではないにせよ)再利用されて出題されることもあります。入試問題を作成するのに位は非常に多くの手間暇がかかります。まして,出題ミスなどがあったら一大事です。それを回避するために,複数の大学がネットワークを作り,入試過去問題の一部を再利用しあう方式を採用しています。それがこの「入試過去問題活用宣言」です。令和2年(2020年)1月の時点で,国立大学32校,公立大学26校,私立大学76校が参加しています。

▼これまでの過去問題利用状況も年度ごとにまとめられています(大学公表分のみ)。

▼自分の志望校がこの「入試問題活用宣言」に含まれている場合,このリストを参考に他大学の問題を解いてみるのも良いかもしれません(ただし,どの大学のどの年度のどの科目の問題が採用されるかは全くわかりませんから,むやみやたらに解いても徒労に終わる可能性が高いの,あくまでも「気分転換」程度に考えた方が良いと思いますが…)。

【4】過去問題は何年分さかのぼればいい?

▼これもよく質問されることですが,大学によってまちまちだと言えます。あまり古すぎる問題だと形式や分量が大幅に異なる可能性がありますから,せいぜい5年~10年程度ではないでしょうか

▼ただ,一つの年度のすべての問題ではなく,出題形式が変わらない問題のみ選んで古いものも解く,という方法もあります。たとえば大阪大学の場合,自由英作文は1983年度から出題されていますが,1999年度までは40語~60語程度(年度により語数は異なる)で解答する形式で,2000年度から現行と同じ70語程度の形式になりました。だとしたら,まず新しいものから始めて2000年度までさかのぼる,というように柔軟に対処すれば良いと思います。

【5】過去問題を解く上で注意すること

▼過去問題を解く上で注意すべき点をまとめました。参考にしてください。

①過去問題は「模擬試験」のつもりで解く。同じ問題は二度と出ないが,同じ知識や考え方が求められる問題はいくらでも出されるので,「自分の弱点を発見するツール」と考えること

②通常,小問までの配点は公開されていない(大問の配点すら公開されていないところも多い)ので,自己採点はざっくりと「何問中何問正解したか」という「正答率」を出す程度にとどめる(時々,「自己採点したいけれど配点を教えてください」と質問しに来られる生徒さんがいますが,いくら何でもそれはわかりません(笑))。

③年度や問題によって「相性」もある。特定の問題が解けなかったからといって落ち込んだり,逆に,解けたからといって手放しで喜んだりしないこと(「たまたま」正解したということもある)

④記述・論述問題は自己採点が難しいが,赤本などの解答と照らし合わせ,自分に欠けているポイントを把握すること。自分に欠けているポイントを把握することも解答作成の練習になる。

▼なお,記述・論述問題の自己採点の方法に関しては,小池陽慈先生の『大学入試 無敵の現代文記述攻略メソッド』のSection 3が非常に参考になるはずです。

【6】過去問題がない場合は?

▼2021年度より行われる大学入学共通テストや,2021年度に新設される大学・学部・学科の問題は過去問題がありません。その場合,以下のように対応することが考えられます。

① 大学入学共通テストに関しては,センター試験の読解問題やリスニング問題を使うのが現時点では最善の策(出題形式が異なるものもあるが,2018年度に行われた試行テストを見る限り,英文の難易度や用いられている語句・構文についてはセンター試験とほぼ変わらないため)。また,予想問題集なども出されているので,それを利用する手もある

② 新設される学部・学科については,その大学で既に存在している他の学部・学科の過去問題を解いてみるのが一つの方法。新設される大学については,各大学のホームページで出題方針などが示されている場合があるのでそれを参考にする(そうした情報が一切ない場合はお手上げなのですが…)。

▼過去問題を全く解かずに合格した,という人もいると思います。また,過去問題を解いたからといって合格するというわけでもありません。しかし,「闘う相手を知らなければ対策の立てようがない」ことも事実です。また,これは私の持論ですが,入試問題は,大学が「こんな学生に来てほしい」「こうした文章が読めて,これぐらいの知識がある学生に来てほしい」という受験生へのメッセージを伝える最も有効なメディアでもあります。過去問題を解く際には,入試問題を通じて作問者である大学の先生方の思いを受け止め,彼らと「対話」するつもりで取り組んでいただければと願っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?