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地元で「小字」という地名を調べてみた

大字(おおあざ)・小字(こあざ)と類される地名。「字(あざ)」という地名があることを知った。
まったく知らない地名かと身構えていたが、バス停や橋、踏切に使用されている地名も多く、聞き馴染みのある地名が多かった。
それらの地名が一体何なのか、いつからあるのか、詳しく調べてみることにした。

小字という地名の単位

そもそも字とは、何なのか。
意外にも現在でも字地名は使用されている。
私が調査した京都府京丹後市周辺の住所を参考に説明すると…

①都道府県 ②市区郡 ③町村 ④大字 ⑤丁目・番・号
①京都府 ②京丹後市 ③大宮町 ④善王寺 ⑤〇丁目〇番〇号
①京都府 ②与謝郡 ③与謝野町 ④下山田 ⑤〇丁目〇番〇号
①京都府 ②与謝郡 ③伊根町 ④平田 ⑤〇丁目〇番〇号
①京都府 ②宮津市 ④文珠 ⑤〇丁目〇番〇号
①京都府 ②舞鶴市 ③南浜町 ⑤〇丁目〇番〇号
①京都府 ②福知山市 ④内記 ⑤〇丁目〇番〇号

となる。
気付かれたと思うが小字地名は、現在の住所表示では表れてこない。
もともと⑤丁目・番・号の位置に小字地名が入っていたが、住居表示に関する法律の施行に伴い数字を用いて土地を管理することとなった。
(これが小字地名もとい字地名から親しみを失った原因の1つだろう。)
小字地名が⑤丁目・番・号に置き換えられている通り、田んぼ数枚程度からの小さな単位の地名ということだ。

街中で見る小字地名

しかしながら、現在の街中にも小字地名は残っている。
バス停、橋、踏切、墓、公共施設、電柱などに記載されていることが多い。
まず京丹後市大宮町内のバス停(丹海バス)を見てみよう。

丹海バス路線図の一部。参照元はコチラ

この路線図内では、三ツ橋・姫御前・出合・「松田」団地は大宮町の小字地名が採用されている。
続いて、大宮町内の橋を見てみる。

大宮第一小学校近く、竹野川にかかる橋。

「三本木」橋という小字が採用された橋が架かっている。
橋の名前は、その経緯や出来事から名付けられたり、地名から借りることが多いので調査しがいがある。

そして最後に電柱を見てみよう。

私の調査報告書より抜粋。

一見多くの小字地名を集めることができたと思いがちだが、この中で文献資料をもとに小字地名と言えるのは、口大野地区の「錦(にしき)」のみである。
電柱には、電柱が設置されているエリアの総称や、電柱を管理している会社が任意に定めた名称が記載されていることが多い。
私も小字調査を始めた当初は、電柱に住居表示板が設置されているので、町内の電柱を調べ尽くせば大量の小字を採集できると踏んでいた。
しかし電柱調査を実施し、電柱の住居表示板が小字調査の資料としては信用度が低いと判明した際には酷く落胆したものだ。(わざわざ東京から京丹後まで帰省したのに!)

このように街中には多くの小字地名が使用されているが、一方で町名・大字・任意で定めた地名が混在しているため一目で小字と見分けることは難しい。

小字の調べ方

街中にたくさんの小字地名が使われていると知った読者の皆さんも、そろそろ小字地名を調べたくなってきただろうか?(なってくれ!)
どうして私がバス停や電柱で使用されている地名から、小字地名を選別できるのか気になってきただろうか?(なってくれ!)

何を隠そう、私の手元には京丹後市大宮町内の小字を整理した表が存在するのである。

小字一覧はコチラで一般公開している。

この小字一覧には、2023年6月現在でおよそ1,700の小字を収録している。
作成に苦労したので自慢させて欲しいし、京丹後市大宮町に関わりを持つ多くの方に見ていただきたい。
小字一覧を作成するにあたり複数の情報を参考にしたので、それぞれについて記載していきたい。

小字は市町村誌(郷土史)に整理されていることが多い

小字の調査を始めるにあたり、まず初めに調査地域の市町村誌(郷土史)を探すことをオススメする。
市町村誌は明治~昭和に編纂されていることが多く、地域の役所や資料館などで購入することもできる。
調査したい地域で市町村誌が編纂されているかわからない時は、役所の文化財を担当している課に問合せをしよう。いきなり訪問してもいいが、事前に小字調査をすることを話しておくと、市町村誌以外の資料や耳より情報が得られたりもする。

私は「小字を調べたいんですけど…」と電話をして、変な奴だと思われた。

市町村誌を入手したら、小字について記述されているかチェックしよう。
市町村誌には地域の産業や歴史、民俗文化など興味ひかれる内容がつまっているが寄り道をしてはいけない。

大宮町誌の小字一覧ページ。

大宮町誌では、大字と小字が整理されていた。
地域によっては字限図(あざきりず)や団子図、大まかな位置図などが掲載されていることもあるので、すべてのページをくまなく見よう。

小字一覧を見つけて満足してはいけない。
市町村誌は地域内で編纂委員会が結成され作成されるが、彼らはプロの編集者ではないのだ。小字が一覧から漏れていることもある。
市町村誌には神社やお寺といった宗教施設、遺跡、地蔵、石碑などの情報も記載される。その所在地を確認することを忘れてはいけない。
それらの所在地に記載されている小字が一覧から漏れていないか確認することもそうだが、現存する神社やお寺、石碑の所在地を小字を用いて表記してくれているのだ。
これは小字位置の特定に大いに役立つ。

また、いくつかの注意点がある。
小字は古くからある地名のため、現在の我々の感覚からするとヘンテコな地名が多い。したがって、小字の読みに関しては自身の判断で「これは間違った読みだから訂正しよう」ということは御法度である。
しかしながら、確かに誤字も存在する。

私の調査報告書より抜粋。

上記の例だと、下川(したわわ)と車細谷(まくるほそたに)は明らかなルビの振り間違いである。しかし梅田(むめだ)は、「梅」を「むめ」と表記することもあるので誤りではない。
このようにひっかけクイズみたいなものが溢れている。
読みの正誤を調査するだけでも時間を要する。楽しんでいこう。

現在も小字が使用されている農地情報

田んぼや畑といった農地の管理には現在でも小字が使用されている。
経済発展に伴い整備された都市に比べ、農地が多く残る地方では小字調査がしやすくなる。

農地情報を参照するためには、農林水産省が提供する「eMAFF農地ナビ」を使用されたい。
これはもう、とんでもない情報源である。
全国各地の農地1つ1つの情報をいつでも見ることができる。サービス登録などの必要もない。

eMAFF農地ナビはとっても便利だ

それでは調査地域の農地すべてを調査しよう。
きっと頭がおかしくなってくるが、めげずにピンを刺し続けるのだ。
田んぼ1枚だけの小字があったり、田んぼ1枚の中に小字の境界があったりする。横着をしてはいけない。

オープンデータ化された地番情報

小字地名は住所表示には表示されないが、実は地番情報にはしっかりと記録されている。
したがって、上記のeMAFF農地ナビを調査し尽くした後に、農地に限らず宅地などの地番情報を調べたくなるのが節理である。

これまでは地番情報は土地登記簿を取得しないと閲覧できなかった。
が、2023年(令和5年)1月23日より、法務省が全国の登記所備付地図の電子データを、G空間情報センターを通じて無償で一般公開した。
地図界隈では当時、このオープンデータ化にお祭り騒ぎであった。
(G空間情報センターはサーバーが落ちてまったくアクセスできないほどで、私は本業に支障をきたした…。)

G空間情報センターでは、電子データをXML、shape、GeoJSONの3形式で公開されている。
自身が使い慣れた形式でダウンロードして、活用いただきたい。

shapeとGeojsonはログインするとDL可能になる。

XML、shape、GeoJSONのどれも使い慣れない形式、聞いたこともないという諸君。安心していただきたい。
情報が公開された当時、私も同じ悩みを抱えていた。

株式会社トーラス様が「不動産チェッカー・フリー」というサービスを無料で提供している。
使い方はeMAFF農地ナビと一緒である。
調査地域の宅地と農地のすべてをチェックするのだ。

使えるサービスは使い倒そう。

その他にも類似サービスはあるので、使いやすいものを使っていただければいい。
要は、地図上で登記簿の境界線と小字地名が確認できれば、現存している小字情報は網羅できるということである。
ここまでくれば調査は一段落したと言えよう。

調査地域の地図は大変貴重な情報源

さて、ここまで小字調査を進めてきた皆さん。
自身で作成した小字一覧と現存している小字の数を比較していただきたい。
きっと大きく乖離しているだろう。
明治~昭和に編纂された町村誌から、現在の農地・地番情報には時の流れにより使用されなくなってしまった小字地名が少なくない。
宅地開発、農地開発、道路新設、鉄道敷設などなど。
人が暮らす以上、土地もその使われ方を更新してゆき、そのタイミングで消えてしまう小字があるのだ。

現存している小字を確認するだけでは調査を辞められない。かつて、そこにどんな小字が存在したのか追求したくなる者もいるだろう。
私もその1人である。
この時、必要となってくるのが地図資料である。

地図資料には、字限図(あざきりず)、団子図、大まかな位置図など種類がある。どちらも調査の参考になるが、誤植もあったりするので他の資料と照し合せる必要がある。

大宮町口大野の字限図
大宮町周枳の位置図

小字マップの作成

小字一覧を作成し、小字の位置特定を進める私は自身で地図を作成してしまいたくなったので、作成した。

現在はGoogleマップのマイマップ機能を利用して、「京丹後市大宮町小字マップ」を公開している。
利用規約の厳しいGoogleマップを採用していることには理由がある。
1.誰でも簡単に閲覧できる。(GISを触らない人に易しい)
2.Googleマップの情報を参照することができる。(店舗情報など)
3.どこからでも編集・更新が可能である。
4.Googleから最新の航空写真が更新され続ける。
主に上記4点である。

特に4番目の航空写真の自動・無償更新は重宝される。
地図界隈でも、どのように航空写真を入手するかはホットな話題である。
行政が固定資産税計算のために撮影する航空写真データをオープン化しているケースもある。
この航空データは毎度オープンにするのも手間ではあるので、Googleマップを採用してしまった方が早いと踏んだわけである。

しかし、地図を事業活動に活かしていきたいと検討しているのであれば、GISソフトを使用して著作権等の法に準拠した地図データを作成するのが良いだろう。

終わりに

私が地元の小字を調べてきた手法を振り返ってみた。
趣味にするにはボリュームが大きく、時間と労力を要するものであった。
しかし、この記事を読み、少しでも小字に興味を持った方は小字調査にぜひ踏み込んで欲しい。
小字は少しずつ姿を消し、その資料や地名を覚えている人間も少しずつ減る。
小字に限らず地名は、人が生活をするために、何かの目的をもって呼ぶことがあったために発生した。その地名を読むことで、私たちがこれまでどのようにして生きてきたのか、この土地はどのように育まれてきたのか、遠い時間の先を見ることができるかもしれない。

私が調査してきている中にも、きっと間違いが含まれているだろう。
無くなりつつあるものを掘り起こす調査というものは、1人でするには荷が勝ちすぎている。
同地域、他地域限らず共に調査を進めてくれる方がいれば嬉しいものだ。
既に調査をしている方、これからしてみたい方は是非連絡をいただければと思う。

SendoYa
安田大輝
Twitter:@da_ab_y
mail:ysd.0000.dd@gmail.com
大宮町小字マップ:https://www.sendo-ya.com/azamap/

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