機械学習サービスのUXデザイン3原則とは?
以下の記事を読んで面白かったので、一部を簡単に要約しました。Delivery Heroのリードプロダクトデザイナー、Konrad Pierceyへのインタビュー記事です。(元記事はかなり長いです)
0. 概要
機械学習サービスのグッドデザイン原則とは?
…オープンで透明、教育的、単純、楽しい。ユーザの知らないユーザの行動統計を開示し、サービスから離脱する休憩を利益に反するがあえて勧めることで、体験価値を与えるサービスであることを示すのがGDML (Good Design Machine Learning) 。
1. 機械学習にとってのデザインとは?
機械学習デザインの目標は、良いUXと、システムとユーザの良い関係を生み出すこと。そのためにはシステムがどのように動作しているのかを示す必要がある。
ユーザにとっては、システムとのインタラクションがUXにどのような影響を与えているかを理解することが重要。
2. 機械学習デザインの現状
機械学習のためのデザインというのは新しい分野で、機械学習デザイナーというのはまだ存在しない。
そして通常は、データサイエンスや機械学習に、デザイナー(ユーザ中心主義の人々)が入ってきて、ユーザの価値観を代弁することはない。これは大きな問題であると同時に、大きなチャンスでもある。
3. 良いUXと悪いUX
悪いUX 不健康に繋がるもの。
機械学習はユーザをエコーチェンバーに誘導することもある。例えば、Delivery Heroで常にハンバーガーを食べているユーザに食べ物を推薦すると、ハンバーガーだけになってしまう。
良いUX 不健全な利用を解消できるようなもの。
YouTubeではタイマーを設定して「1時間視聴しました。まだ利用しますか?」というアラートを出せる。TikTokはコンテンツの間に「ちょっと休憩して、新鮮な空気を吸いに外に出ませんか?」と言う動画を差し込む実験をした。
これらは素晴らしいが、ユーザにもっと利用してもらうというビジネスの原則には反している。
重要なのは、以下の二点:
透明性
情報開示
これらは、各国の法律で法的拘束力のあるルールとなっている。ユーザよりビジネスを優先させるような戦略は、むしろビジネスを危険にさらすかもしれない。
一方で、アルゴリズムをリセットしたり、オフにしたりするオプションをユーザに与えることは、有益ではないかもしれない。
YouTubeには「アルゴリズムをリセットする」というボタンはない。ユーザが消費しているものは常にシステムに反映されているのだ。
4. 機械学習デザインのプロセス
まず、以下のような質問をする。
機械学習はどこに導入されて、ユーザに効果をもたらすのか?
ポジティブな意味でもネガティブな意味でも、ユーザはどのような影響を受けるのか?
ユーザに商品を推薦するために何ができるかだけではなく、より多くの商品を買わせることにデメリットはないのかも考えなければならない。
また、(デザイナーは)機械学習がプロジェクトで使われることを知ったら、以下の点について理解すべき:
モデルがどのように機能するのか
どのようなデータを使っているのか
そして、何を生み出すのか
そこから、何が入力で、何が出力なのか。モデルができること、できないことは何かを理解できる。
次に、3つの超重要な原則がある:
教育的:ユーザが今まで知らなかったこと、新しい価値を伝える。
シンプル: ユーザに教育的なことを伝える際、複雑なデータや数学の話を講義するのではなく、シンプルなグラフィックやメッセージを見せる。UXのコピーは超重要。
楽しい:機械学習は複雑な話になり得る。多くの人にとって消化しやすくなければ、興味は失われる。人間味のある可視化にするために、楽しい色やアニメーションを使った視覚的な言語やグラフィックが重要。
システムが何を提案しているのか、なぜそれを提案したのかをユーザに伝えることで、価値を与えられるかを考えるべき。どのようにフィードを変化させるのか、ユーザの習慣に影響を与えているのかについて伝えなければならない。
これは機械学習がユーザと製品の間に構築する共生関係である。ユーザの入力・行動でシステムが変化し、システムがユーザに提示するものでユーザが変化するのだから。
最後に、プロダクトをリリースする前に重要なUX/UIデザイン原則がある。それは、オーディエンス(ユーザ)を知って、自分がオーディエンスになること。つまり、
プロダクトを分解してみる
自分が影響を与える人々と話す
自分が作っているものを使う(最重要)
5. これからのGDML (Good Design Machine Learning)
Spotifyには「Wrapped」という年末のまとめがある。 あれがGDML。しかし、これは表面的な実装に過ぎない。
Wrappedは、あなたがシステムにどのような影響を与えたか、またシステムがあなたにどのような影響を与えたかを示している。何曲消費し、何時間聴いたか、それを朝、昼、晩に分けても表示できる。どのようにユニークなのかも示してくれる:「あなたはX組のアーティストを発見し、同じような音楽を聴く人の中で、このジャンルのXパーセンタイルにいます。」
WrappedはGDMLの良い例だが、実際にはユーザに対して深いレベルの価値を示していないことに注意したい。表面的なレベルの数字、必ずしもユーザの役には立たないものを示している。ただなんとなく面白いだけ。GDMLの原則「教育的」は、軽薄なデータではなく、実際に役立つものをユーザに教えること。
今回の例(Delivery Hero、Facebook、Amazon)は、統計やデータを見せることで、ユーザが生活習慣、消費、購入に関する深いレベルの価値を学べることを示している。(※実際のUIビジュアルが元記事にあります)
しかし、ユーザの教育に役立つGDMLコンポーネントがあるとして、そのCTAは非常に控えめにするべきだ。ユーザに向かって喚起すると、怖がらせてしまう。ただユーザが学びたい場合には、辿り着けるべき。これらの情報を隠してはならず、特に健康に影響を与える何かを隠しているように見せるべきではない。
要約は以上です。
感想
大きく以下の2点が重要な点として挙げられていたと思います:
サービスから離脱する休憩をあえて勧めること
ユーザにとって価値のある行動統計を表示すること
1点目についての理由としては、法的なリスクについてしか語られていなかったように思います。ですが、サービスに中毒的になりすぎないようにする(or していると思わせる)ことが、社会責任やイメージ戦略の文脈にも入ってきているのかもしれません。初期に重要なのは、休憩を勧めるメッセージを入れることで、実際に休憩率が上がることではないでしょう。むしろ、休憩を勧めているように見えるが、実際は効果が無い方が(初期は)企業にとってはいいのかもしれません。それはそれで後から問題になるかもしれませんが。
2点目が記事の主題ですが、どのようなデータを提示すればユーザの体験価値やビジネス的な成功につながるかはまだ分かっていない部分が多いように感じています。これから重要になる分野ではあると思いますが、もう少し既存の事例を調べたいところです。
また、1点目と同じく、(少なくとも)表面的にはユーザの健康や生活にとって価値のある可視化であることが重要そうです。ただ、最適化はビジネス的成功の方向にされるので、ユーザのことを考えているかのように、ユーザの利益になるかのように見せながらになる場合も多いに考えられます。もちろんこのギャップが徐々に近づいて行ってWin-Winにマージされれば最高ですね。ビジネス判断が上でなされてUX判断が現場で起きるなら、このマージを実現のきっかけになるのは実は現場レベルのミクロな判断・工夫(…頑張り)だったりしそうですね。知らんけど。
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