記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

2020/09/19 舞台「脳ミソぐちゃぐちゃの、あわわわーで、褐色の汁が垂れる。」 観劇レビュー

画像1

画像2

公演タイトル:「脳ミソぐちゃぐちゃの、あわわわーで、褐色の汁が垂れる。」
劇団:キ上の空論
劇場:シアタートラム
作・演出:中島庸介
出演:落合モトキ、小島梨里杏、藤原祐規、黒沢ともよ、百花亜希、小沢道成、やまうちせりな、宮島小百合、有馬自由 他
公演期間:9/17〜9/27
個人評価:★★★★★★★☆☆☆


オフィス上の空プロデュースの舞台作品は初観劇。中島庸介さんの作・演出舞台も初めて。
隣のアパートに引っ越してきた清楚系美人にフリーターの30歳男性が恋をするというお話。リアルにありそうでなさそうな現代の恋愛模様を描いた作品だった。清楚系美人の岡部天音を演じる小島梨里杏さんがとても美人、他の女性と並んで清楚感が浮き立つので男性陣は食い入ってしまうだろう笑
凄くエンタメ要素が強くて、カットインする音響や照明にとてもインパクトがあって好きだった。また舞台美術がとても独特で、最初はアパートの一室が壁に挟まれて2つ出てくるのかと思いきや、抽象度の高いモダンで西洋的な舞台装置が複数登場し、とてもキュートで印象的だった。
コロナ禍による自粛期間の話も登場して非常に現代的で共感できる箇所も多い恋愛物語なので、多くの人に勧めたい作品。

画像3


【鑑賞動機】

以前から赤坂の朝劇などで活躍して気になっていたオフィス上の空プロデュースの作品は観たことがなかったので、この機会にと観劇。藤原祐規さん、百花亜希さん、小沢道成さんなど知っているキャストも沢山出演していたのも動機。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

大河内大和(落合モトキ)はフリーターで31歳になった交際経験なしの男性。ある日、大和の隣に清楚系の美人が引っ越してきて大和に挨拶しに来た、その女性の名前は岡部天音(小島梨里杏)、大和は天音に一目惚れして恋に落ちる。それからというもの、大和はいつも壁越しに聞き耳を立てて天音の生活音を聞きながら過ごす日々を送っていた。
しかし大和には中学生時代から憧れる存在の男性がいた。その男性はシャイン先輩(藤原祐規)という地元で有名なヤンキーで、大和の中学時代の友人の正(小沢道成)がいじめられてバッグに「玉なし」と書かれていたのを見て、「光」と書き換えたバッグを正に渡して救った光景を見て、大和はシャイン先輩を崇めるように好きになっていった。そのシャイン先輩とは卒業以来会っていないが、大和にとってはいつも自分の心の中にいる憧れの存在だった。
大和はそんなシャイン先輩という憧れが心の中にいるも、隣に引っ越してきた天音に恋をして夢中になってしまった。

天音は会社員として働いていた。天音の会社の同僚のリョウ(黒沢ともよ)は、既婚者の男性(池内風)と密かに付き合っていた。リョウ曰く、結婚している男性の方が自分が束縛されない感じがして、自分の時間も取りながら交際出来るので良いとか。しかし、既婚者の男性の妻が妊娠したと聞いてリョウは絶句して別れることになる。
大和はついに出会って一週間であるにも関わらず、遭遇した天音に対して「一緒にお墓に入りたい」と言ってしまう。当然天音は呆然としてしまい翌日会社の同期に相談して心配されてしまうが、そこから大和のことが気になり出してしまい、次に2人が出会ったタイミングで「車のスモークに映る大和と天音が2人並んで座る光景が好き」だと天音は言って付き合うことになる。
そこから3ヶ月間、大和と天音はイチャイチャしながら楽しいひと時を過ごしていた。しかし、大和が童貞であるせいで性行為までは及んでいなかった。

画像4


しかし、この大和と天音にはそれぞれお互いに言えない裏事情があった。
まず大和の方は、ずっと心の中にいるシャイン先輩の存在だ。実は大和が中学生時代にシャイン先輩に憧れてから、彼に自分も好かれたいと女装をして現れたことがあった。その当時は、シャイン先輩もいきなりの大和の女装に驚き、そんなものは求めていないと突き放されてしまった。そんな辛い黒歴史があって、ずっと大和の心の奥底に潜んでいた。
一方天音には、4年前に死んだアニメのキャラクターの存在が忘れられずにいた。そのキャラクターの名前はカズマ(やまうちせりな)といって戦隊シリーズのイエローを担当する小学5年生の男の子だった。天音はカズマがアニメの中で4年前に死んでからずっと彼のことを思い続けていた。
大和の知り合いのキャバクラを立ち上げたヨシ(宮島小百合)から連絡があり、人手が足りないから入ってくれないかと頼まれていた。大和は最初は仕切りに断り続けたが、やがて女装をしてそのキャバクラへ行くことになった。
大和が女装してキャバクラで接客をする相手となった女性の一行たちの中に天音がおり、大和と天音はお互いに驚きあった。
同性愛的な側面を持った男性と付き合うことを受け入れられなかった天音は、大和に別れることを申し出る。同時に大和も天音にアニメキャラクターに恋をしてしまう女性に理解が追いつかずすれ違ってしまう。

大和の前に以前から度々現れる美里という女性(百花亜希)がいた。美里は、占い師として現れたり、コンビニ店員として現れたり、アルバイト先のスタッフとして現れたりしていたが、天音のことが好きだったため大和の眼中には今まで入ってはこなかった。
ある日、バイト先のリーダーのタカシ(有馬自由)に、度々現れる美里は実は女装をしていて性別は男性であることを告げられる。そしてその人こそが、大和が以前学生時代から憧れ続けていたシャイン先輩その人だった。
シャイン先輩は、学生時代の大和がいきなり女装してきた光景を見てその時は驚き呆れてしまったが、改めて考えると大和の女装までして好かれたいと思う気持ちに憧れ、そして女装に目覚めたことを伝えられる。当時いじめられていた正も、今では女装してキャバクラでがっつり働ける立派なオネエになった訳で、学生時代の男子3人は全員女装癖のある面子ということだった。
それを聞いて大和は、今まで落ち込んでいた気持ちが回復したが、それでも天音のことが忘れられずにいた。

2020年3月、世界はコロナ禍によって不要不急の外出の自粛を要請される心苦しい時代に突入していた。大和の働くアルバイト先もコロナと疑われる症状のある従業員が出て出勤が停止されたり、天音もテレワークになって自宅に引きこもらざるを得なくなる始末。ヨシのキャバクラは営業出来ずで苦境に立たされていた。
そんな中、大和は近所のゴミ捨て場から天音の憧れである戦隊モノのブルーレイ一色が捨てられているのを見つける。これは天音のものだと悟った大和は、アパートの壁を突き破り天音のアパートへ押しかける。大和と天音は口論し、お互いの思いをぶちまける。しかし、お互いに好きである気持ちは心の中にあって気持ちを確かめながら寄りを戻すことになった。そしてベッドイン。

天音は毎晩のように大和との性行為にうんざりする愚痴を友達にこぼすシーンがあって物語は終了。

大和と天音が非常にシンメトリーに感じた脚本だった。大和にとってのシャイン先輩、天音にとっての戦隊モノのイエローの存在もそうなのだが、お互いどこか普通でなくて、だからこそ惹かれあい恋愛関係に繋がったのだと思った。まあ、大和に1週間で「一緒にお墓に入りたい」と言われて付き合ってしまう女性っておそらく居ないような気がするが笑、普通ドン引きされて終わると思うがそういうフィクション要素もコロナ禍のようなノンフィクションらしさに紛れ込むような形で組み込まれている点も面白い。

そして、同性愛や既婚者を好きになったり、アニメキャラを好きになったり、マッチングアプリで好きな人に出会うなど、恋愛模様も現代っぽくて多様性があって面白かった。恋愛の仕方は人それぞれ、それを広く受け入れていく姿勢を現代人みんなが求められている。そう訴えてくる作品に感じた。

画像5


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

この舞台はなんと言っても世界観がモダンで独特だったので、舞台装置、照明、音響に着目しながら書き記す。

まずは舞台装置、アパートの隣同士に住む男女のストーリーなので壁で仕切られた二つの部屋が出てくるのかと思いきや、オブジェのようなモダンで抽象的な装置が点在している不思議な空間だった。
まず下手側の奥にはS字型に曲がったまるで道路のガードレールのようなオブジェが置かれていた。凄く滑らかに曲がったオブジェがとてもモダンな作りになっていて、女性らしさというか柔和な感じを漂わせていて物語の世界観にマッチしていたと思う。
次に舞台の下手側から上手側へ向かって一本の道のようなオブジェ、途中で三角形の盛り上がりもある不思議な舞台装置だった。
一つ残念だったのは、ここまで独特な舞台装置があまり劇中で活かされてこなかったこと。抽象度の高い舞台装置で活かしにくい側面もあると思うが、もっと役者が劇中で装置に絡んでくるシーンがあっても良かったと思うし、観たかったと思った。
途中から出てくる「壁」と書かれたビニールシートが貼られた装置のインパクトはとても強く、大和がずっと天音に対して作っていた「壁」を突破したことを象徴する演出もとても効果的だったと思った。

照明はカットインで入るかっこいいものが多かった。序盤のシャイン先輩登場シーンで入る黄色いカットインの照明、どこのシーンか忘れたが赤い照明がカットインで入ったのもカッコ良かった。
照明に照らされて舞台装置のオブジェたちの影が出来るのも凄く好きだった。オブジェたちがとてもユニークなので、影もユニークで凄く映える。
また、舞台の後半で大和が呆然と立ち尽くしているところに、日光のような黄色く白い煌々とした明かりが当てられているシーンも好きだった。

音響もカットインで入るSEが多かった印象。「バーン」とか「ドカーン」とか耳をつん裂くような爆音がスピーカーから突然流れてびっくりしたが、こういった体験は生の舞台でしか経験出来ないので生の舞台の素晴らしさをここでも感じた。
最後の祭りみたいな音楽も耳に残る音楽で非常に効果的だった。

その他の演出面でも、いきなり学生バッグが天井から落ちてきたり、占い師がローラー椅子に乗りながら登場したりとパンチの効いた演出が多くて楽しめた。

画像6


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

有名な役者も多いからだが、本当に役者たちの演技力が総合的に高い。

まずは主演を務めた大河内大和役の落合モトキさん。有名な俳優だが私は恥ずかしながら初めて知った。個人的に印象に残ったのは大きく3箇所。
1箇所目は童貞拗らせ男なので、天音に対して序盤は緊張しちゃって上手くコミュニケーションが取れないシーンの演技は面白かった。勢いで突っ走って「自分解体工事師だから、壁を壊すと同棲と一緒ですね」とか「一緒にお墓に入りましょう」とかぶっ飛んだ発言をする辺りとか好きだった。
2箇所目はやはり女装のシーン、あんなにガタイが良くて肩幅があるのに女装をしてしまうギャップがまず好きだったし、天音にばったり会ってしまった時の慌てふためき方も良かった。
3箇所目は最後のシーン、天音と本気で口論するシーン。あそこが一番セリフに力が入っていた。そして見応えがあった。俳優魂を感じたワンシーンで好きだった。

次にヒロインを務めた岡部天音役の小島梨里杏さん。この女優は列車戦隊トッキュウジャーのイエローだったとは観劇後のリサーチで知った。清楚系美人の色気が半端なく、他の女性と並んでも煌びやかさが抜きん出ていてどうしても彼女に目がいってしまう。
まず序盤のアパートで靴と靴下を脱ぎながら入浴する場面を描くシーン、そして大和が聞き耳を立てている。あそこの色気シーンは男性はみんな、大和の気持ちになってしまうあの感じが好きだった。そして、大和にいきなり結婚を申し込まれて困っている風な相談を同僚に持ちかけながらも、髪の毛を触りながら得意げになっているあのシーンも凄く好き。
そして物語が進行していくうちに、ずっと行儀の良かった天音が次第にサバサバしていくというか本性を見せて男化?していく変化があるのも好きだった。最後のシーンなんかめっちゃ暴言を履いていて、あの清楚な感じとのギャップも凄く良かった。

シャイン先輩役の藤原祐規さんも良かった。この方はすごくヤンキーが似合うなと思って見ていた。
リョウ役の黒沢ともよさんの好きな男性の前ではキャラを180度変える演技も凄く良かった。既婚者の男性との二人の構図も凄くお似合いだった。
美里役の百花亜希さんの元気一杯なキャラクターも凄く好きだった。あの愛嬌もあってひょうきんな感じのキャラが良くて、序盤の大和が天音に恋に落ちた時の「バーン」とかいう大和の心の中で叫んだ言葉を体現するあたりが好きだった。

今回の役者で特に推したいのが、正役の小沢道成さんとカズマ役のやまうちせりなさん。
小沢さんは以前「鶴かもしれない2020」で一人芝居を拝見しているので、彼の演技力の高さと女装演技のクオリティの高さを知っていたが、今回も期待を超える演技の素晴らしさにお目にかかれた。まず、中学時代の学蘭の小沢さんが可愛く見える。こんないじめられっ子みたいなか弱そうなキャラクターもいけるんだと思った。そして、大人になった普通の正とオネエの正、普通の正も凄く良い人に見えて女性は好きになるだろう。リョウとの二人の掛け合いも心温まって好きだった。そしてオネエの正はもう最高、登場した時「キター」って思った。やはり舞台を牽引するインパクトと面白さがそこにはある、大声で笑わせて頂いた。
次にカズマ役のやまうちせりなさんだが、初めて演技を拝見したがとても2.5次元ぽさのあるハキのある演技だった。あの戦隊モノに成り切って恥ずかしげもなく演じられるあたりがとても滑稽だがカッコよくて好きだった。大和の夢の中で動物を語り出すシーンで、ちょっとエコーのかかった形で喋るカズマも滑稽でカッコ良かったし凄く印象に残っている。

画像7


【舞台の深み】(※ネタバレあり)

今作はエンタメチックな仕上がりになっているが、コロナ禍が登場したりと非常に現実に忠実な箇所も多々あることによって、いかにも劇中で起きていることが現実にもあり得るようなリアリティを突きつけてくる。そこが本作の魅力だと思っている。

今作のパンフには、「これは性の癖(へき)と壁(へき)の話です。」と書いてある。この作品を感激し終えてたしかにそうだったなと感じるのだが、これは現代人の多くが恋愛に対して抱えている問題でもあるような気がしてきた。
人間は誰でも何かしらの癖があると思う。女装することに憧れたり、また男装することに憧れたりとLGBT的な癖、アニメに出てくるキャラクターをあたかも実在する人間のように好きになってしまう2次元癖、それ以外にも既婚者を好きになってしまう癖だったり、マッチングアプリで恋人探しをすることだって一種の恋愛のあり方という意味では一つの癖なのかもしれない。
この作品の中には明確には登場しないが、フェチというのもそうである。うなじフェチ、脚フェチ、髪フェチなども性癖の一種で誰しもが異性に対してグッとくるポイントがあるものだと思う。

そんなその人の個性の一つでもある性の癖(へき)だが、それが万人に許容されるものであれば良いのだが、拒絶されてしまうものだってある。特に未だにLGBTに対する嫌悪的な意識は世界中に蔓延っている。この嫌悪こそが人と人との間に壁(へき)を作っている。
今作でも大和と天音はお互いに同性愛と2次元愛という癖があることによって、2人の間に壁を作っていた。それによって本音で話が出来なかったり、キャバクラでの事件によって取り返しのつかない関係になってしまった。ある意味アパートの部屋と部屋を仕切る壁が2人の関係のメタファーとなっていた。

壁が明確に登場するのは大和と天音の2人の仲だけであるが、その他にも劇中に壁を匂わせるものは沢山登場する。
例えば、リョウと既婚者の男性の間にも壁があった、未婚者と既婚者という壁が。お互いに分かってはいたはずだったが、いざ既婚者の男性に赤子が授かったと聞いたらリョウは男性に対して拒絶してしまった。壁にぶつかった訳だ。
また、マッチングアプリで恋人探しする女性も壁があると思う。彼女はマッチングアプリの方がモテるから良いんだと言っていたが、それは本当の彼女ではなくアプリ上の彼女を見て好きになっているという点でギャップがある。ここで壁が形成されている感じがする。
さらに、ここでコロナ禍という現実問題を敢えて登場させたのも外出自粛というものが人と人の間に壁を作っている一種の行為という意味があるからだと解釈した。人と話すのもリモート、マスクを付けなければいけない、そういう制約は全て壁となるだろう。

こんな具合に、実際の現実社会には人と人を隔てる壁が満ち溢れている。特に今作では性の癖によって作られた壁を強調して描いている。同性愛者だからこそ恋人にするとなったら壁を作って遠ざけてしまう。2次元愛だからこそ恋人にするとなったら壁を作って遠ざけてしまう。こんな状況はこの作品中だけでなく、実際問題として現実世界にあふれていることだろう。
この性の壁があることによって、若者の恋愛離れや離婚率の高さなどが問題となるのかもしれない。

こういった壁をぶち壊してお互いがちゃんと向き合えるようになるためにはどうしたら良いか。その答えは、劇中の終盤に隠されていると思った。
大和は2次元愛の癖がある天音を認めた。ゴミ捨て場に置かれた一色のブルーレイを取り戻して、彼女に大事なモノじゃないかと返そうとした。そう思ったタイミングで彼は、アパートの壁をぶち壊した。これは事実上、大和と天音との性の壁を取っ払ったことを意味する。
そしてそれによって天音も彼の同性愛癖を受け入れた。こうして2人は無事性行為にありつけた。
ここで重要なのは、相手は自分の癖を受け入れていないかもしれないけど、自分は相手の癖をちゃんと受け入れてあげること。それは相手が好きであるのなら尚更。相手には拒絶されるかもしれないけど、自分は一歩勇気を踏み出して相手を受け入れてあげることが性の壁を突破する解決策なのではなかろうか。

現実世界において、まずは自分から相手の多様性を受け入れる広い心を持って相手と接することによって、誰もがオープンな心を持った明るい社会が切り開けるのではないかと、この作品を観て自分は思った。

画像8


【写真引用元】

キ上の空論公式ツイッターより
https://twitter.com/kijyooo

この記事が参加している募集

#舞台感想

6,007件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?