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舞台 「殻」 観劇レビュー 2022/02/19

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公演タイトル:「殻」
劇場:浅草九劇
劇団・企画:劇団papercraft
作・演出:海路
出演:野島健矢、さいとうなり、神田聖司、今川宇宙、葛堂里奈、工藤大貴、門林有羽、伴優香、井上向日葵、齊藤友暁、入江浩平、岩永亮平、哀原友則
公演期間:2/16〜2/20(東京)
上演時間:約95分
作品キーワード:不条理劇、コミュニティ、マイノリティ、会話劇
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


海路(みろ)さんが主宰する劇団papercraftの公演を初観劇。
海路さんは22才でまだ大学を卒業したばかりの脚本家であり、本公演は劇団として5回目の公演となる。

物語は、「ぽいほい病」という医学的にもよく分かっていない、ティッシュや箱の中に入っているモノをポイポイと地面へ捨ててしまう行動を衝動的に起こしてしまう病気にかかった青年の話。

この青年は大学時代に知り合った男女とルームシェアをしているのだが、この「ぽいほい病」を患っている患者たちが集まって治療を頑張り続けているコミュニティに参加したことによって、徐々に人間関係が崩れていく。

脚本家が20代前半と聞いて納得というか、若い人に刺さるだろうと言った内容で、マイノリティの排斥や、意志・感情を無にして上からの指令に従う様は、今の現代社会を生きる人たち、特に若い層に刺さるテーマだろうと思った。
もちろん「ぽいほい病」なんて実在しないけれども、マイノリティなコミュニティの中で仲間意識を築いていくこと、それを排斥しようとする集団から追われる脆弱さが、この繊細な舞台作品から溢れ出ていて心動かされた。

舞台演出は、なんとなく今泉力哉監督の映画作品を思い浮かべてしまう。
ちょっとへんてこな日常を描いた群像劇ということは共通していて、暗転場転でオペラを流して優雅に踊る役者たちは、今泉監督の演出にもあったと思ったので、通じるものがあった。

そしてとにかくキャスト陣が皆魅力的で素晴らしかった。
美男美女の集まりなのでそれだけで惹かれるっていうのもあるのだけれど、特に野島健矢さんのあの可愛げ溢れるいつもにこやかで人当たりの良い感じが凄く良かった。

若手の脚本・演出家なので、これからも劇団の飛躍を応援していきたい。
多くの人にオススメしたい作品。

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【鑑賞動機】

観劇の決め手は劇団とキャストとフライヤー。
劇団papercraftの第4回公演を観劇していた人たちが非常にこの劇団を誉めていたこと、そしてずっと気になっていたけれど、未だ生で観劇が叶っていない俳優さんが多く出演されていたため。大人の麦茶所属の今川宇宙さんや、さいとうなりさんがそうである。
そしてフライヤーデザインも好きで、海路さんも今回の作品に手応えを感じている様だったので観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

須賀優介(野島健矢)は診察室に案内され、医師から「ぽいほい病」という精神的な病にかかっていると言い渡される。医師の話では、この「ぽいほい病」は全く医学的にも分かっていない病気だそうで、医師も論文に書いてあったことをそのまま引用する形で、その病気のことについて説明していた。

優介はルームシェアを一緒にしている、杉山海里(神田聖司)、立石やよい(さいとうなり)、山上理央(今川宇宙)に自分が「ぽいほい病」という未知の精神病に冒されていることを告げる。
ここから過去に遡って、彼らがなぜルームシェアを始めたのかについて軽く触れられる。優介は大学時代にバイト先で一緒だったやよいに誘われて男女4人でルームシェアをすることになった。しかし、一緒に暮らしているうちに、優介が突如ティッシュの箱から衝動的にティッシュをポイポイと捨てる光景を見て、3人が驚いていた。

話は現在に戻り、やよいと海里が2人で話をしている。海里はそろそろこのルームシェアを終わりにしてどこか違う場所で住むことを考えていた。その話にやよいは乗っかってきて、海里に一緒に住みたいと自分の思いを伝える。
一方海里は学校の教師をしているのだが、教師なのだけれどもちょっとチャラ付いている松林謙志(岩永亮介)と仲が良く、男女でルームシェアしているなら色恋沙汰みたいなのはないのかと色々聞かれる。
優介の「ぽいほい病」のことについて一番心配してくれているのは理央であり、彼女は優介に対して好意的であった。

ある日優介は、ブログで「ぽいほい病」を克服しようと頑張る女性の存在を知り、その女性とコンタクトを取って今度会うことになったとルームシェアのメンバーに言う。メンバーからは、そこから恋が芽生えるかもといじられたりする。
優介はその女性がいるとされる、「ぽいほい病」を治療によって克服しようと努めるコミュニティへ赴く。そこには、若林(工藤大貴)という「ぽいほい病」の治療コーチが現れる。彼は縄梯子のようなものを用意してそれを優介に渡らせると、そこには4人の「ぽいほい病」の患者がいた。神保(入江浩平)、土田(齋藤友暁)、川崎(哀原友則)、そして優介がブログで知り合った女性本田(門林有羽)である。彼ら4人はここで暮らしているらしく一緒に住みながら「ぽいほい病」の克服をしようとしていた。優介はルームシェアを別でしているため、若林たちの元には週2日で通うことにした。

一方、優介が留守にしているルームシェアの家には、優介の姉である須賀朝美(葛堂里奈)がやってきていた。朝美は実は優介が高校生の時に彼が家出をしてしまっており、それから一度も帰ってきていないこと、そして姉は結婚式の用事で偶然この近くを通りかかった時に、優介がこの家を出ていったことからここにいるんだと分かったのだという。朝美は優介の連絡先を知らなかったので。
ルームシェアのメンバーは、朝美に優介が「ぽいほい病」であることを伝えるが、朝美はその病気のことについて全く知らない様子であり、優介にも無関心な様子であった。
朝美が帰った後、優介がルームシェアの元に戻ってきて、一緒に住むメンバーから姉の朝美がやってきたことを教えられる。優介は独り言で、高校生の時ふと目が覚めたら家族がみんないなくなっていた、貴重品も全部なくなっていたと言う。

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若林コーチの元で、優介は「ぽいほい病」の克服に努めていた。靴を脱がないで履き続ける治療。優介はすぐに靴を脱いでしまっていた。周囲からは治療を続ければ靴を履き続けられると励まされる。
しかし、今治療現場に神保が見当たらないことに一同は不審に思っていた。神保は昨日から誰も姿を見ていないらしい。
するとその神保が、姿を現した。神保はどうやら「業者」と呼ばれる「ぽいほい病」を駆除する人々に見つかってしまったらしく、慌てていた。すると、まるで神保に対する今までの態度を翻したかのように治療を受けていた他の「ぽいほい病」患者たちは、正体がバレてしまってはコミュニティに所属させることは出来ないと、神保を外へ追い出してしまう。
優介はそのあんまりな行動に対して嘆き悲しむ。神保はこの中では「ぽいほい病」はそこまで重症ではなかったのにと。しかし土田は、今までずっと誰かがこのコミュニティに入ってくれば、誰かが出ていくのだと言う。そうやってここの在り処が「業者」に知れ渡らないように対処してきたのだと。
そしてルームシェアをしている優介にまで、皆の疑いの目は向けられるのだった。
神保は「業者」の柏木茉莉奈(伴優香)と吉田夏子(井上向日葵)によって駆除、つまり殺されてしまう。柏木と吉田は仕事をする時以外は至って普通で楽しそうにふざけ合っていた。

一方、ルームシェアの元には再び朝美がやってきていた。朝美はルームシェアのメンバーにお菓子を持ってきていたようだが、突然朝美が箱の中に入っていたお菓子をポイポイ捨て始める。皆驚く。「ぽいほい病」について知らないと答えていたはずの朝美が、まさか「ぽいほい病」だったとはと。
朝美がルームシェアを出た時、横断歩道で優介とばったり遭遇する。朝美は厳しい眼差しで優介を見て「今から我が国を出て海外へ逃亡しよう」と言う。父も母も「業者」によって駆除されてしまい、朝美も「業者」に追われているのだと。

優介が若林の元で他の患者と「ぽいほい病」の治療を受けている時、「業者」である吉田が現れる。この治療場所の在り処が「業者」にバレてしまったのである。
優介たち「ぽいほい病」患者たちは捕らえられる。そして吉田に、この「ぽいほい病」というのは不治の病で治療して治る病気ではないと告げられる。優介は泣き崩れる。絞首刑のような机の上に椅子が用意され、そこに順番に座るように命令される。川崎が一番最初に座る。その時2番目に待機していた土田が突然暴れ出し、ストロボのように舞台上が点滅する。その間に患者たちは逃げようとする。土田、本田は捕まってしまうが優介は逃げる。

優介はルームシェアの元へ戻る。優介はずっと怯えていた。そんな優介をやよいと理央は優しくなだめようとするが、そこでやよいは理央に対して敵意を顕にする。バイトをしていた時からずっと優介のことが好きだったと、ルームシェアをしたかったのも優介と一緒に暮らしたかったからだと。なのに理央は優介と長い時間一緒に過ごして許せないと。
そこへチャイムが鳴る。「業者」かと一同は身構えたが松林だった。しかしその後に続いて「業者」の吉田が入ってきてしまう。吉田が優介を取り押さえようとする。その時、友達だとずっと思っていた海里、それからずっと優介のそばにいた理央まで、「我が国のルールには従うしかない」と優介を取り押さえてしまう。優介はずっと泣きわめいていた。
「殻みたいな毎日を、ただ捨てようと思っただけでした」と海里は口ずさむ。ここで物語は終了する。

私は観劇中にこの物語はコミュニティ/共同体のお話だと思っていたが、どうやらそれだけではなくて社会というルールに縛られた人々の話でもあるんだなと感じた。
どうしてもストーリー構成上主人公が優介なので、優介の視点で物事を捉えがちで、「ぽいほい病」を患った人々に感情移入をしてしまうため、マイノリティに所属することに対する人々の抱える悩み・恐怖と、少しでもコミュニティ内でルールを犯してしまうと処罰されてしまう残酷さ(神保が追い出されたシーンがそう)が目立っていた。
しかし、この作品で訴えたいことはそれだけではなく、タイトル「殻」という言葉にもあるように、マイノリティではない「僕ら(つまりWe)」の物語でもあって、大きな共同体という括りの中でルールに縛られてしまうことによって、自分の意志や感情を無にされてしまう苦しさとそこから抜け出したいと思う気持ちが、この最後の「殻みたいな毎日を、ただ捨てようと思っただけでした」に含まれているんじゃないかと感じた。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

さほど豪華な舞台美術ではないのだが、今作のテキストにハマったシンプルで空虚な舞台演出がとても素晴らしかった。全体的に今泉力哉さんの映画作品っぽさを感じていて、内容自体もちょっとへんんてこな日常の群像劇という点でも共通しているのだが、凄くそれを感じさせた。それらについても触れながら、舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出について見ていく。

まずは舞台装置から。
特段豪華な舞台セットはなく、舞台中央に4人がけのテーブルと椅子が用意されているくらい。そしてそのテーブルの上部には小さな変わったスピーカーのようなものが設置されていた。
基本的にはこのテーブルはルームシェアのシーンで使われることが多く、下手側の空間は「ぽいほい病」を患った患者が治療を行うスペースとして使われていた。
舞台セットの使い方で印象的だったのは、やはり「業者」によって「ぽいほい病」の患者が捕らえられ、絞首刑のような形で駆除されるシーン。テーブルの上に椅子が一つ置かれ、そこに動物のマスクを被される。あの演出によって作られる緊迫感は非常に好きだった。
それと物語が進行していくにつれて、舞台上がゴミで散乱していくのも変化があって楽しむ事ができた。ティッシュや白くて丸いポリエチレン球みたいなものまで散乱していて、それがまるで今後の物語の展開を暗示しているようで、人間関係までもが散乱してしまうことを意味しているようで面白かった。

次に舞台照明。舞台照明で印象に残っているシーンは2つ。
一つはストロボのシーン。土田が暴れて「業者」に抵抗したことによって30秒くらいストロボがずっと明滅するシーンがあったのだが、凄くインパクトは感じられたし、その合間に優介が逃げていくという設定上必要だったのかなとは思うが、ちょっと30秒くらいは長くて目が疲れるかなと思った。実際に測った訳ではないので30秒かは分からないが体感時間は長かった。観客の中にもキツかった人いたんじゃないかなと。
もう一つは、横断歩道で姉の朝美と優介が再会するシーンでの信号機の照明演出。下手側と上手側にそれぞれスポットが一台ずつ天井に吊り込まれていて、そこで青信号のブルーだったり、赤信号のレッドを強く灯しながら、下手から上手に向かって横断歩道があるかのように見せる演出が凄く新鮮で面白かった。あの朝美と優介の再会のシーンも凄く映像的で、舞台を観ているというよりは頭の中で横断歩道や周囲の景色を妄想して補完し、勝手に映像を観ているかのような錯覚を覚えた。そういう舞台演出もありだなと思った上、この作品を映画化してみるのも面白いかもと感じた。

舞台音響は、効果音では信号機の青信号の音やチャイムなどあったが、一番印象に残ったのは暗転・場転で使われていたオペラ音楽。オペラ音楽がかかりながら、ルームシェアの男女4人が家を片付ける演出が凄く優雅で素晴らしかった。こういうシーンとシーンの間の演出で頭に思い浮かんだのが、今泉力哉監督の映画作品である。ひょっとしたら海路さんは彼の作品の影響を受けてたりするのかなと少し感じた。
映画「退屈な日々にさようならを」や映画「愛がなんだ」で、ガンガン音楽をかけながらスローモーションで役者が躍動的な演技をする場転の意味合いを込めたシーンがあるのだが、これは今泉さん特有の映画演出手法らしくてそこと似たような感覚を、このオペラ音楽と片付けで感じた。
役者の動きもとても靭やかで柔らかい感じも音楽と合っていて好きだった。さいとうなりさんの叩きでスイングするのとか好きだった。

その他演出についてみていくと、無限プチプチをルームシェアの4人でしているのが凄く印象的だった。無限プチプチというチョイスが良いなと思っていて、凄く空虚な感じを上手く演出出来ていて好きだった。小道具もティッシュペーパーだったりポリエチレン球だったりが主に使われるので、似たような小道具として相性も良かった印象。
この舞台作品には、そのコミュニティでしか通用しない独特の専門用語が登場する。「我が国」とか「業者」とか「落ちる」とか。その狭いコミュニティでしか通用しない言葉・専門用語が、ある種そのコミュニティの結束力だったりを表現しているような気がして、ちょっと恐怖にも感じたのだけれど、それはどんなコミュニティにも存在するものだなと色々考えさせられた。この辺は、考察パートでも深く書いていこうと思う。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

非常に平均年齢が若いキャスト陣だったと思うが、皆魅力的で素晴らしい方ばかりであった。なんといっても美男美女が多いのでそれだけでも絵になるが、自然体だからなのか凄く演技にも惹き込まれる。表情豊かでどの登場人物も愛おしく感じる。
特筆したいキャストについて見ていく。

まずは主人公の須賀優介を演じた野島健矢さん。野島さんはチーズfilm所属の俳優。MVやWOWOWドラマなど映像方面でも活躍されている。
私が彼の演技に感じた印象はとにかく朗らかで優しさが滲み出る演技で非常に愛おしく感じた。キャラクター設定としても凄く言葉遣いも柔らかく優しくて凄く朗らか。こんな友達がいたらきっと居心地は良いだろうなと思う。
だからこそ物語後半で、仲間を見捨てる行為だったり「業者」に捕まって殺されそうになるシーン、そして終盤の仲間の裏切りに遭うシーンで泣き叫ぶ優介が非常に観ていて心動かされるものがあった。可哀想というか胸が苦しくなる感じがあった。

次に山上理央役を演じた今川宇宙さん。今川さんは劇団大人の麦茶に所属の女優で、imgのYouTubeチャンネルでの「THE FIRST ACT」という一発撮りの一人芝居を視聴したことがあって素晴らしい女優だと思っていた。生で演技を拝見するのは初めて。
とにかく色気があってずっと魅力的に感じていた。あんな美人な方とルームシェアしていたらそりゃ色恋沙汰になりそうだとか思ってしまう。
そしてちょっと早口な台詞の言い方も印象的だった。少し聞き取りづらい箇所があったけれど、ナチュラルな演技ってそんな感じなのかなって思ってしまう。



立石やよい役のさいとうなりさんも非常に素晴らしい女優さんだった。さいとうさんはエヴァー・グリーン・エンタテイメント所属の女優さんで、映画・ドラマ・CM等々幅広く活躍されている。私もドラマで彼女を知っていつか生で演技を観てみたいとずっと思って今作でそれが叶った。
改めて本当に表情豊かなキャストだなと思った。彼女の人当たりの良さ人情深さみたいな人柄が滲み出るような出で立ちと演技。本当にナチュラルな演技で惹き込まれた。
一番印象に残るのはオペラ音楽がかかりながら、はたきを持って踊り回るシーン。非常に柔らかくなめらかでエレガントに感じた。
終盤の理央に対して発狂する姿は、それまで朗らかだったが故に少し恐怖にも感じられたが、あの感情の爆発の仕方は好きだった。
そして髪の結び方が素敵だった。

杉山海里役を演じた株式会社キューブ所属の神田聖司さんも良かった。雰囲気は格好良いのだけれど、なんか空虚っていう感じが舞台のテーマにしっくりきていた。終盤のシーンで、やよいがずっと優介のことが好きだったと言われた時に、彼は彼女に対して何を思ったのだろうか。

「ぽいほい病」の治療コーチの若林役を演じた工藤大貴さんも素晴らしかった。あんな感じの治療コーチがいたら前向きに病気を治そうって思える気がする。キャラクター設定として好みだった。
あとは、杉山の友人の松林謙志役を演じた岩永亮介さんも良かった。あのチャラい感じがナチュラルでハマっていた。

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【舞台の考察】(※ネタバレあり)

今作の脚本・演出を務めた海路さんが初めて不条理を意識して書いた作品であるそうだが、たしかに日常を扱っているのだけれどどこかぶっ飛んでいて(「ぽいほい病」など)作品を観劇した後に不条理という意味について納得した気がする。
前述したとおり、この作品のテーマというのは2つあって、コミュニティ/共同体と、社会というルールに縛られた人々なのかなと思った。

まずはコミュニティについて取り上げる。人間は常にコミュニティを築いて暮らしていると思う。そのコミュニティというのは家族なのかもしれないし、会社なのかもしれないし、クラスメイトなのかもしれない。この作品でいうコミュニティはルームシェアのコミュニティと「ぽいほい病」を克服しようとする患者のコニュニティがある。
しかし、「ぽいほい病」を克服しようとする患者のコニュニティとは普通の人間たちとはちょっとかけ離れていて特殊な人間たちの集まりである。つまりマイノリティである。社会におけるマイノリティは常に排斥される対象になってしまう。これは今まで様々な作品でテーマとされている普遍的な真理でもある。演劇作品としての最たる例は野田秀樹さんの「赤鬼」である。
学級の中で何か障害を持った生徒や、ずば抜けて頭の良い生徒、ブサイクだったりする生徒などちょっと普通から逸脱している生徒ほどいじめに遭いやすい。この作品でもそういった普遍的な事実に基づいて、「ぽいほい病」という稀な病気にかかった人間は排斥されるという設定になっている。
そしてマイノリティな弱き者同士はお互い手を取り合ってコミュニティを形成する。同じ「ぽいほい病」という精神病を患っているという共通項、そして治療によってそれを克服しようという同じ方向性。彼らは「落ちる」「業者」といった独特な専門用語を使って結束力も高めていたように思える。そして皆無地の半袖という同じ格好をしていた。

しかしそのコミュニティはマイノリティで脆弱であるが故に残酷なものにもなる。神保が「業者」に見つかってしまった時に、彼をコミュニティから追い出した。それはコミュニティの安全を守るために。
ただこういった思想と同じようなものが今の社会にもあると思った。例えばとある田舎で感染症にかかってしまった時、周囲の人間は感染症にかかった人を悪者扱いするだろう。それはある種その田舎のコミュニティを安全に保とうとする人間の本質から来ているように思える。
このように脆弱なコミュニティというものは、そのコミュニティを保とうとするが故に邪魔となってしまう一員を排斥して守ろうとする怖い側面があるということである。

そういった残酷性があるのは何も脆弱なコミュニティだけではない。「我が国」という言葉が劇中で多様されていたが、国家という大きなコミュニティでさえも、その国家という体裁を守るために邪魔な者は排斥するのである。
今作においては、どうして「ぽいほい病」患者が「我が国」から排斥されなければならない対象なのかは掴み兼ねたところではあるが、コミュニティとしての体裁を整えるために「ぽいほい病」患者は邪魔だったのだろう。

ここで、そのコミュニティとしての体裁を整える、安全を守るためにはルールが必要となり、コミュニティに所属する者は皆そのルールに従わなければならないと話を進める今作は非常に興味深い。なぜならそれは、現代社会が抱える問題の根幹にたどり着いている感じがしたからである。
海里も理央も、本当はずっと一緒に暮らしてきた優介を助けてあげたいと思うが、「我が国」のルールに基づけば彼を取り押さえなければいけない。自分がどうしたいかは関係なく、そのコミュニティのルールに従わなければならない。そこに現代社会が抱える問題が垣間見えてくる。
人間は生きていくためには何かしらのコミュニティに属さなければならない。しかし、コミュニティに属するということはそのルールに従わなければならない。日本国家であったら、税金を収めなければならない、労働しなければならない。そして会社に所属すればさらに会社のルールに従わなければならない。
そうやってコニュニティを守るために、属しているメンバーがそのルールに縛られてしまうことによって、人々は「殻」に閉じこもりながらの生活を強いられているのではないかと思う。そしてそういった「殻」を捨てよう捨てようと生き続けることが、今のわたしたちの日常なのではないかという気がした。

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