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舞台 「終息点」 観劇レビュー 2021/07/17

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公演タイトル:「終息点」
劇場:吉祥寺シアター
劇団:しあわせ学級崩壊
脚本・演出・音楽・演奏:僻みひなた
出演:大田彩寧、村山新、福井夏、林揚羽、田中健介
公演期間:7/16〜7/18(東京)
上演時間:約70分
作品キーワード:ホラー、家族、音楽劇、胸糞悪い、舞台美術
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆


2015年に僻みひなたさんによって旗揚げされた、自作音楽をベースに俳優がマイクパフォーマンスで台詞をのせるユニークな作風を持つ劇団、「しあわせ学級崩壊」の作品を観劇。

劇団の新作公演として上演された今作は、呪われた家族が主軸の物語。
3年前の火事で焼け落ちた家に小説家の夫、認知症の妻、足の不自由な妹が住んでいる。
そこへ周辺地域の都市再開発のために立ち退きを要求する役人が現れるのだが、そこからその役人はこの家族たちが持つ闇と恐怖に巻き込まれていくという、ホラー要素、ホームドラマ要素、音楽劇要素をミックスさせたような作品。

上演時間は70分と短めであり登場人物も少ないのだが、非常にストーリーが難解で物語をしっかりと把握しきれなかった。
そこは敢えて脚本家が観客を混乱させるように作っていることは伝わってくるのだが、あまりにも終盤まで途中途中の伏線とかが上手く回収されていない感じがして、ちょっとモヤモヤが残ったまま終わってしまったので、もう少し説明、というか観客が解釈しやすいようなサジェストを加えて欲しかったという印象。
舞台美術も相まって物凄くUzumeの「マトリョーシカ」と似た感触だった。

ただ、舞台美術、演出、そして役者の演技力は素晴らしく感じた。
あの工事用パイプみたいなもので作られた縦に高くそびえ立つ舞台装置を家と見立てる舞台美術は素晴らしかったし、「しあわせ学級崩壊」の持ち味であるマイクパフォーマンスによる演技が凄くアニメ的な格好良さがあるという点と、良い意味でキャラクターの主張がグッと伝わってきて惹き込まれた。
そして自作で音楽を作ってDJのように流すという演出は、僻みひなたさんも役者の一員のように感じられる点があって好きだった。

大音量が苦手な方にはおすすめできないが、この独特な作風は上手くやれれば非常に魅力的な作品が出来ると思っているので、非常にポテンシャルを感じる演劇集団だと思った。

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【鑑賞動機】

2021年2月にしあわせ学級崩壊の前回公演であった「幸福な家族のための十五楽章」という舞台作品が上演されており、その感想ツイートを見ていてマイクパフォーマンスと音楽劇という独特な表現スタイルで人気を集めている劇団に感じたので興味を持ち、次回作は観に行こうと考えていた。そして今回当劇団の新作公演が上演されたので観劇することにした。
柿喰う客の女優の一人である福井夏さんが出演(というか当劇団の劇団員でもある)されているという点も決め手の一つ。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

舞台は3年前の火事で焼け落ちた家、その家に住んでいる妻のミヤシタユウ(大田彩寧)の元へ、一人の役人がやってくる。彼の名前はソノダカオル(田中健介)、彼は周辺地域の都市の再開発計画のためにユウにこの家から立ち退くように依頼する。彼は周囲に住む人々は既に退去しており、立ち退いていないのはミヤシタ一家だけであると告げる。最初は愛想良く紅茶を彼に差し出していたが、立ち退きの依頼を受けて機嫌が変わり立ち退くつもりはないときっぱりと断るのだった。

暗転すると、足を引き摺った女性が現れそれに反応して床のタイルが動き出し、地下に何者かが潜んでいる様子がわかる。

暗転すると、食卓にはユウと夫のミヤシタハル(村山新)がいた。ハルは、ユウがなかなか妊娠できないことを心配して検査をするように勧めていた。その時、食卓に一枚の名刺が置かれていることに気がつくハル。その名刺を見てハルは、役人から周辺の都市再開発のためにこの家から立ち退きを要請されていることを知り、ユウがそれに同意してここを立ち退く気であると勘違いし、彼女を追及し始める。

場転すると、そこには足が不自由でいつも引き摺って移動するユウの妹のクリハラナナ(福井夏)がいた。ナナは地下に住むカトウユズコという座敷童子(林揚羽)と会話している。座敷童子は地下から出てきて、自分は3年前のこの家の火事によって亡くなりずっとこの家に取り憑いており、どうやら自分を見殺しにしたミヤシタユウを恨んでいる様子だった。

場転して、ユウの元へ役人のソノダカオルがやってくる。まるで序盤のシーンのデジャブであるかのように同じ内容の会話が繰り広げられる。途中でユウはカオルに対して「どこかで会ったことがありますよね?」と声をかけるが、カオルは人違いですよと言う。しかし会話を繰り返していくうちにユウは、やっぱり以前に会ったことがあると叫び暗転する。

カオルはなぜかその食卓で寝てしまったらしく起き上がる。そこへユウが現れる。どうやらユウはカオルのことを好意的に思っているらしく、この家で夕飯でも食べていくようにと誘うが、カオルは長い間お邪魔してしまったと帰ろうとする。しかし、時計を見ると夜も更けいていることに気がつく。
ユウは子供が欲しいと言う、カオルと一緒になって子供が欲しいと。ユウは身体的にカオルの近くに迫っていき、そのまま二人でソファーに倒れ込んでいく。暗転する。

暗転すると、カオルは一人家にいる。本棚を調べ始める。そこには、「ソノダカオル」と記された書物が出てきて、自分の今までの過去がびっしりと書かれていることに気が付き驚愕する。
そこへハルがやってくる。ハルがやってきたことに驚いたカオル、ハルはよくぞその書物に気がついたと言って、カオルのことをずっと監視していたんだと言う。そして3年前、この家が火事によって焼け落ちたときのことを知っているだろうと追及する。物凄く気持ち悪く恐ろしい形相で、カオルを追い詰めていく。ハルたちは、あの3年前の火事によって社会から隔絶され取り残され、ずっと時間が止まったかのように生きてきた、まるで「終息点」に向かうかのように。これはカオルのせいなんだと。
この家の住人は皆狂っていると、カオルは叫び始める。そしてハルに都市再開発のためにとっとと立ち退けと怒号する。カオルも狂い始める。暗転。

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暗転すると、ユウとハルが二人でいる。ユウはハルを拒んでいる。ユウの夫はソノダカオルでありあなたは夫ではないと言う。ハルはユウをこう説得する。ユウ自身は認知症であり、そもそもソノダカオルという人物は存在しないんだと。いや、ソノダカオルはミヤシタハルと同一人物であるのだと。そしてユウは仕切りに子供を産みたいというが、そもそもユウは体質的に子供を産むことが出来ないんだと、これはハルである自分のせいではなくユウ自身の問題なんだと、だから検査に行った方が良いと言う。暗転する。

暗転すると、食卓で座敷童子は食事を取っており、その横にナナがいた。座敷童子はユウに対する憎しみも抱いているようだが、どうやらあの3年前の火事で足に一生の傷は患ったものの命は助かっているナナに対しても恨みがあった。
座敷童子はナナに対して暴行を加える。暗転する。

暗転すると、カオルはハルを殺したのか、死んだようなハルを引きずりながらあの座敷童子が住む地下の入り口へと運んできた。暗転。
暗転すると、ハルがただ一人座敷童子の住む地下の入口に佇んでいた。まるで先程のシーンで、カオルのポジションにハルが移動したように、そしてハルのポジションには誰もいなくなったかのように。
そこへユウがやってくる。ハルは彼女に対してミヤシタハルは始末したと言う。しかしユウは、そこに立っているのがソノダカオルであると理解出来ないでいるようだった。暗転する。

ユウは懐中電灯を持って地下の中を覗きに来る。そこへ妹のナナが現れる。あなたのせいで3年前の火事によってこうなってしまったのだと、そして地下から座敷童子が現れ、ユウを襲い殺害する。
こうして焼け落ちた家での悲劇は繰り返され、ミヤシタユウもこの家に取り憑いた座敷童子によって殺されたことによって、座敷童子のように取り憑いて地縛霊のように住みつくのだった。ここで物語は終了。

この作品のストーリーは難解で正直あらすじをこのように書き起こしても整理することが出来なかった。パンフレットにもあった通り、演出側としても観客に物語の流れを完璧に理解してもらうつもりはないんだと感じているが、だとしても色々と疑問が払拭されなくてモヤモヤしてしまった。
まず、この物語はミヤシタユウを死へと追い込むという目的がゴールだったということで間違いないのか。ユウは認知症で本来存在するはずのないソノダカオルという幻覚を見て希望を見出していた。しかし、ソノダカオルはミヤシタハルと同一人物でソノダカオルという人物は存在しなかった。
個人的にはミヤシタハルも既に死んでいてこの焼け落ちた家に取り憑いているんじゃないかと思った。3年前の火事によってカトウユズコとミヤシタハルは亡くなっており、クリハラナナは生き延びたが足が不自由となってしまった。彼らはまるで火事によってこの焼け落ちた家に取り残されて、時間が止まってしまったようにそこに住んでいるんじゃないかと。
しかしユウだけは助かって、認知症であるが自分が認知症であることを受け入れておらず、子供を産みたいと未来のことについて明るく語っていた。ソノダカオルという存在しない男性に恋までしていた。そんな彼女が憎らしく感じられたため、座敷童子たちは彼女を殺害したという呪いの話だと解釈した。
いずれにせよ、前半はカオルがこの呪われた家に巻き込まれていくようなストーリーに感じられた上で、カトウユズコとクリハラナナのシーンがあまり登場しなかったので、凄くストーリー展開を上手く汲み取ることが出来なくて没入することが出来なかったのは、個人的にはマイナスポイントだったと思う。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

この作品の舞台美術は物凄く作り込まれていて魅力的な世界観だと感じた。そして「しあわせ学級崩壊」の作品とあって非常に独特である。
舞台装置、照明、音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。
Uzumeの「マトリョーシカ」で登場した巨大な赤いジャングルジムを想起させるような、舞台中央にドンと存在感を出していたのは、工事用パイプのようなもので高くそびえ立った巨大な家を模した舞台装置である。これが凄く焼け落ちた家を上手く体現していると思ってて、舞台上全体を物凄く空虚な形に演出出来ていたと思う。
下手側から食器棚、そして食卓が置かれていた。この食卓はカオルとユウが序盤で会話したり、カトウユズコが食事をとる際などに利用されている。その食卓の上にはペンダントライトが吊り下がっていた。この食器棚や食卓もちょっと立派な感じがあって、凄く呪われた家に相応しい厳しさみたいなものを兼ね備えていてよかったと思う。
そして一番目を引くのが、中央にそびえ立つ螺旋階段のような舞台装置である。木造で出来ており、螺旋階段の頂上まで行くと結構な高さになる(4〜5mくらい)。カトウユズコが頂上まで登って音楽に合わせながらマイクパフォーマンスをしたり(ナナと序盤で会話するシーン)、カオルが後半のシーンで狂い始めて頂上まで登るシーンで使われたりしていた。これ役者が駆け登って演技するって結構怖いだろうな、そのくらいの高さがある舞台装置だったが、非常に目を引く舞台美術だった。
その手前には、例の座敷童子の潜む地下への扉が床のタイルのようになって設置されていた。あれがいきなりガタンと動き出すだけでもびっくりする。そんな仕掛けだった。
そして上手側には、ソファーと本棚が置かれていた。ソファーは背もたれ部分が客席側になるように置かれていて、そこでユウとカオルが二人で倒れ込んだり、ナナがユズコに襲われるシーンで使われた。また本棚は劇中で登場した通り、全てがソノダカオルについて書かれた書物で埋め尽くされている。
舞台装置は全体的に呪われた家としてのホラー的な印象ではなく、廃墟感を醸し出すことで観客側に恐怖を与えている印象を受けた。それは凄く今作においては効果的で非常にセンスを感じられた。

次に照明。
これも非常にUzumeの「マトリョーシカ」を感じさせるような、奇抜でカラフルな照明演出が多かった印象。「マトリョーシカ」では赤いジャングルジムに様々な色の照明が当てられて、ジャングルジムが様々な色に彩られる演出がとても素敵だったが、今作では焼け落ちた家を想起させる工事用パイプで組み立てられた舞台装置が、赤や緑や青で照らされて非常に格好良くエンタメ性を感じられた。
個人的に印象に残った照明は、カトウユズコが音楽に合わせて中央の螺旋階段の天辺まで登り、マイクパフォーマンスに台詞をのせるシーンでの照明。舞台全体が緑色に照らされて、カトウユズコ演じる林揚羽さんの演技力の高さも相まって最高のシーンだった。物凄くアニメっぽさを感じられたのもこのシーンで、林さんの声だったり音楽だったりも相まって若い層にウケるようなシーンだったように思える。
終演後の舞台装置全体が赤色にライトアップされる感じも好きだった。赤って強烈な色だけど、作品全体が強烈な印象だったので最後に奇抜な色で照らされることで、舞台作品の迫力を改めてグッと感じさせてくれる。
また奇抜な照明の色以外でも、終盤のユウが懐中電灯で照らしている以外は暗転している状態でシーンが進むのも面白いと感じた。懐中電灯で照らされている箇所以外見えないというストレスはあるが、他が真っ暗であるということの恐怖と、懐中電灯に照らされてナナとユズコのシルエットが不気味に感じられる演出が良かったと思う。

そして今作で一番力が入っていたであろう音響。
音楽と効果音で切り分けるのは難しいが、全体的に秒針と古時計の鐘の音がずっと鳴り響いている。それは客入れの段階から始まっていて、「チックタック」と秒針を刻む音は呪われた家っぽさを醸し出していて良いチョイスだと思う。
そこから派生して、割と序盤の方からこの秒針の感覚が乱れ始める。そしてビートを刻み始める。そんな感じで上手く秒針をアレンジしながら楽曲にしてしまう僻みひなたさんは素晴らしいと思った。
序盤での音響としての見せ所は、ユズコが螺旋階段に登ってマイクパフォーマンスするシーンと、ユウとハルのマイクパフォーマンスによる掛け合い。音楽も大音量で響く中、上手く台詞もそこにのせていてよくぞこんな独特な作風を生み出せるなと感心した。たしかにこれだけ大音量で音楽を流すのであったら、マイク無しだと到底演者の声は聞こえない。最初は、役者にマイクを持たせるのかとちょっとマイナスな意味で違和感を感じたが、マイクありで正解だったとこの序盤でのシーンを観て思った。
また終盤における音響の迫力も凄まじかった。一番の特徴は客席がだいぶウーファーによって震えていたことである。こんな感覚は自分が学生時代に演劇をやっていた時に客席の下にウーファーを仕込ませた時の感覚以来だった。非常に興奮した。ここまで爆音で音楽を流す演出はたしかに好き嫌い分かれてしまう気がする。個人としては凄くエンタメ性を感じて好きだったが、静かな演劇を好む人々は尺に触るだろう。でも万人受けするように作品を作っていても仕方がない。もっともっとこういうエッジの効いた演出を取り入れて作品を作っていくことは大事なんだと思う。
それと、舞台後方で演出・脚本且つ楽曲制作を担当している僻みひなたさんがDJのようにノリノリで音響スタッフをやっていたのも印象的。僻みひなたさんも役者の一員に感じられて好きだった。凄く演劇的で素晴らしいこだわりだったと思う。

その他の演出についてさらっていく。
まず地下の演出はよかった。いきなり床のタイルが外れてガタンと物音するシーンにはびっくりしたしホラー性があってよかった。最後のシーンで、貞子のようにユウの手が地下からヌッと出てくる演出も怖くて好きだった。彼女も座敷童子になってしまったのだなと思った。
それとこの舞台作品は客席によってだいぶ観え方も変わる舞台配置になっていたと思う。私は上手端だったので、結構下手のシーンが遠くてストレスを感じたのだが、別の角度から見るとだいぶ観え方が変わる気がする。
それと今作品は暗転が多い作品であったが、特に序盤に多かったのだが音が全くかからずに暗転して役者がハケたり入ってきたりする音が聞こえてしまって、ちょっと集中力が切れてしまった箇所が何箇所かあった。あそこは何かしら音で繋いで欲しいと思った。そうでないと折角没入していた集中力が切れてしまう。勿体なさを感じた。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

今作は5人しか役者は登場せずすべて劇団「しあわせ学級崩壊」の劇団員だが、若くて非常にエネルギッシュなキャストばかりだった印象だった。マイクパフォーマンスということだったので、実際どんなものかと思っていたが想像以上にマイクを通しての迫力が大きくて圧倒された感じだった。
今回は人数も少ないので全員の役者について取り上げていきたいと思う。

まずは、ミヤシタユウ役を演じた大田彩寧さん。彼女は2017年に「しあわせ学級崩壊」の劇団員になっているということもありかなり多くの当劇団の作品に出演しているようである。私自身は彼女の演技を拝見するのは初めて。個人的に今作に出演するキャストの中で一番印象的で且つ魅力的に感じられた。
今回のキャストの中で一番人間味を感じる役というか、実際彼女だけが認知症だったというだけで正常な人なんだと思うけど、凄く可憐な姿にグッときた。特にソノダカオルを好きになるシーンは凄く素敵だった。カオルに対して子供を作りたいと気持ちを伝えるシーン。正直あそこのシーンが一番心動かされたかもしれない。
そして、細くてスラッとしていて髪を一つに縛った姿と、凄く上品な言葉遣いがマッチしていて、だからこそ最後に座敷童子によって呪い殺されてしまうという結末が残酷にも感じた。
とても良い女優さん、また別作品で彼女の芝居を観てみたい。

次に、夫のミヤシタハルを演じた村山新さん。彼は大田さんと対照的で今年に入って当劇団に所属した俳優。彼の演技を拝見するのも初めて。
ハルは非常に難しい役だったと思う。カオルを陥れるような役をやりながら、妻のユウとは現実を徐々に突きつけていくといったちょっと冷静な役。個人的には、カオルを陥れていくシーンにおけるハルはもっと狂っていて欲しかったという印象。だいぶ頑張っていたと思うが、怖さという意味ではちょっと迫力が足りなかったように思えた。
こういう呪われた家的な主のイメージは、映画「シャイニング」のジャック・ニコルソンが思い浮かんでしまうのだが、あのくらいのビジュアル的な怖さと、聴覚的な怖さ(声の発し方)が欲しかった。なかなかそのレベルの狂乱さを求めるのは難しいと思うが、名俳優がこのミヤシタハル役を演じたらと考えると凄く美味しい役ではあると思う。
そういう意味では、力のある俳優だけを集めて今作品の再演は観てみたいと思った。

そして、前半では役人を演じて結局ミヤシタハルと同一人物だったという、ソノダカオル役を演じた田中健介さん。彼も「しあわせ学級崩壊」の劇団員で演技を観るのも初めて。
こちらは最初は普通の人間かと思いきや、物語が進むにつれてどんどんヤバイ奴になっていき、終いにはミヤシタハルと同一人物だとわかるのだが、その徐々に狂っていく感じを演じるその演じ方が非常に上手いと思った。その段々と狂っていくタイミングと速度と狂い方がドンピシャで、凄く観ていて違和感は感じなかった。
普通の人がどんどん狂っていく怖さってあると思う。映画「シャイニング」もジャック・ニコルソンが演じる父がそうであるが、最初は普通の人間なので観客はある種その人を物語上の自分として見てしまうのだが、途中で裏切られるという怖さ。それを田中さんは良い意味で裏切ってくれる役だったので、凄く観ていて感情をかき乱された感じがした。

座敷童子のカトウユズコ役を演じた林揚羽さんも素晴らしかった。彼女は凄く声優っぽい感じのボイスをお持ちで、それもあって特に序盤のユズコが螺旋階段を上がってモノローグ的に語るシーンではアニメ的な作風にも感じられた。凄く惹き込まれるシーンだった。
凄く「しあわせ学級崩壊」のテイストにあった俳優だと感じていて、万能さという観点では難しいかもしれないが、今作のような作風では物凄く素晴らしい演技を発揮される役者なんだろうなと感じた。

最後にクリハラナナ役を演じた、柿喰う客にも所属する女優の福井夏さん。彼女を柿喰う客の公演「夜盲症」で拝見した時には、あまりにもクレイジーだが魅力的な役だったので、その印象が頭から離れず、今回の作品での役は足の不自由な妹の役ということで、そこまで出番としては多くない役で目立った印象はなかった。
しかし、彼女の声をマイク越しに聞くと凄くうっとりするくらい魅力的なボイスだということが分かった。imgのYouTubeチャンネルで配信している「THE FIRST ACT」を拝見した時にも感じたが、福井さんは結構独特で素敵な声を持っていると感じている。凄く魅力的で声に温かさがあって素敵である。それが今作では良い意味で不気味にも聞こえるので、不思議なものだと感じた。

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【舞台の考察】(※ネタバレあり)

「しあわせ学級崩壊」の公式Twitterを眺めていたら、柿喰う客主宰の中屋敷法仁さんと、エリア51の神保治暉さんそれぞれと僻みひなたさんとの対談動画がアップされているのを知ったので、その動画を拝見していたのだが、この作品を考察する上で浮き彫りになったのが、「止まった時間」というものだった。コロナ禍に入って表現者は活動の場所を失ってある種時間が止まってしまったかのように何も進まない時間を送っていて、そこから今作は着想を得たみたいである。
そこで、コロナ禍と「止まった時間」という観点でこの作品を考察してみようと思う。

今作を手掛けた僻みひなたさん自身も、昨年はコロナ禍によって一作品も上演が叶わなかったので、ある種時間が止まってしまったかのような心地だったという。時間はたしかに進んでいるのだが、何も活動していないので停滞しているという感覚だろう。私自身は、仕事はコロナ禍でも問題なくやれていたが、外に出て遊びに行くことは出来なかったし、友達と集まることが出来なかったので、そういう意味では空白の時間だったという感じで、時間が止まってしまったという感覚は何となく分かる。

そこで今作品の中身をみていくと、たしかにこのミヤシタ家の家族は、3年前の火事によって家が焼け落ちてしまってから何も変わらず、ずっとその焼け落ちた家に住んでいた。
まるで活力がそこにはある訳でもなく、堕落した世界と停滞した時間だけがそこにはあった。それはたしかに、2020年のコロナ禍における表現者たちの生活に近いのかもしれない。一歩も外出することがなく、何か活動的になる訳でもない。そういった虚しい空間だけが広がる世界という点で共通しているのだろう。

劇中で、ミヤシタハルの言葉で一回だけ「終息点」という今作品のタイトルが登場する。それは、ずっとこの堕落した生活が続いた果てのことである。この生活がいつになったら終わるのだろうか分からない、分からないけどいつかきっと終わりが来るのだろう。それが「終息点」の意味する所かなと思っている。
そして劇中でその「終息点」はやってくる。それは、ミヤシタユウを殺すことだった。それまでユウはずっと授かるはずのない子供を欲しがり続けていた。ユズコはずっと彼女に復讐を果たしたかった。それが達成されたことで「終息点」が来た。

この「終息点」がもたらす意味ってなんだろうか。この作品は決してハッピーエンドで終わるような作品ではない。ユウが座敷童子と同じように地下に地縛霊のように住みつく形で終わっている点からそれが分かる。たしかに「止まった時間」というものがあって、ユウの死によって事態はたしかに前には進んだが、決して皆の時間が再び動き出すといったような解決が起きた訳ではない。
そしてこれは、現実世界にも当てはまるんじゃないかという気がする。コロナ禍における「終息点」は、おそらく今思い描けることとしては「ワクチン接種」だと思うが、この「ワクチン接種」が終わったことによって果たしてコロナ禍は終わるのだろうか、ちょっと疑問である。たしかに事態は変わるので前進はするように見えるかもしれないけど、完全な解決には至らないんじゃないかと。
そんな終わり方が見えない、出口は見えているのだがどこまで行っても続く長いトンネルの中にいるような感覚なんじゃないかと。そういった、現実世界とも上手くリンクした状況を重ねた作品として捉えると、非常に面白いなと感じられた。

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