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舞台 「ほんとうにかくの?」 観劇レビュー 2020/12/26

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公演タイトル:「ほんとうにかくの?」
企画:ENG
劇場:シアターグリーン BIG TREE THEATER
作・演出:久保田唱
プロデュース:佐藤修幸
出演:五十嵐啓輔、楠世蓮、大神拓哉、今出舞、水崎綾、図師光博、高田淳、中野裕理、平山佳延、高橋明日香、NPO法人他
公演期間:12/23〜12/28(東京)
個人評価:★★★★★★★☆☆☆


もっと観劇ジャンルの幅を広げようと思い、割とエンタメ性やアイドル性に富んだENGの舞台を初観劇。決め手は作・演出の久保田唱さんがTwitter上でよく称賛されている演出家で気になっていたことと、出演者の平山佳延さんの演技を映像で拝見したことがあって、彼の演技を生で観てみたいと思ったこと。
結論、期待以上に面白かった。良い劇団・役者の発掘が出来たと思った。色々な発見があった。
ネタバレ厳禁の作品なのでこのレビューの冒頭部分ではネタバレしないように書くと、まず舞台装置の使い方や照明、ミュージカル要素の入れ方が凄くお洒落で観ているだけで楽しかった。また世界観が全体的に漫画チックで若年層ウケを狙っているのだろうが、その漫画チックな世界観に凄く脚本・演出・キャストが上手くハマっていた。
役者も大半が美男美女ばかりで且つ個性豊かなので観ていて飽きないし、逆に彼らの演技に序盤から惹きつけられた。役者の年齢層も若いので、彼らのやり取りを聞いているだけで凄くエネルギーが貰えたのも大きかったかもしれない。それと、役者の台詞の間(ま)や、ボケ・ツッコミのタイミングが絶妙で素晴らしかった。台詞のテンポとかも凄く自然なので、あそこまでアドリブチックな台詞をさっとかませるあたりに役者陣のレベルの高さを窺えた。
これはコメディなので、多くの人にお勧めしたい作品となった。そしてこの劇団、演出家共にもっと多くの人に知ってもらい触れて欲しいと感じた。

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【鑑賞動機】

今作の作・演出を務めた久保田唱さんを、Twitter上で称賛している人が多くて気になっていた点と、出演者の平山佳延さんの演技を劇団4ドル50セントと劇団ガバメンツのコラボ公演である「LAUGH DRAFT」で拝見して、生で観てみたい迫力を感じた点が今回の観劇の決め手。
ENGという劇団自体もエンタメ性に富んだ劇団ということで気になっていたのだが、久保田唱さんは企画演劇集団ボクラ団義の主宰で、この劇団自体も以前から凄く気になっていた。確か、久保田さんは舞台「炎炎ノ消防隊」の演出を手掛けた人でその際に凄く評価されていた印象。
以前から気になっていた劇団や演出家の作品なので、正直自分の好みに合うかどうか分からなかったけど、新たな発見もあるだろうと思って観劇。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

舞台は、漫画家である扉絵羊一(五十嵐啓輔)のオフィス。羊一は心理学専攻の漫画家で人の心を正確に読めてしまうため、自分の身の回りの人間を基に作品を書くと、その出来事が実際に起こってしまうことで問題になっていた。

今回も羊一は、彼の元で働く弟子の柊香奈太(図師光博)とその彼女の根津田亜美(中野裕理)を題材として肉じゃがから事を発した浮気事件を勃発させてしまった。
羊一の書いた漫画ではこんな展開だった。妻が買い物で留守にしている屑雄(NPO法人)の家に屑子(高橋明日香)が家で作ってタッパーに入れた肉じゃがを持って忍び込み、イチャイチャしていた。ただこのイチャイチャが妻にバレることを避けたい屑雄は、肉じゃがが家にあることも妻に不審に思われると思い、レンジでチンした肉じゃがを別のタッパーに移し変えて、さぞ出来立ての肉じゃがを妻が帰ってくる直前に屑子が届けに来たという体にしようと、タッパーを二つ用意することになった。
この肉じゃが事件は、羊一が漫画として書いた後、香奈太の周りで実際に起こり二つのタッパーを根津田にバレないように、こっそり持ち主に返そうとしていた。
この展開を知った羊一のオフィスで働く芦谷紗江(楠世蓮)は、身の回りにいる人を題材に漫画を書くことを辞めるように羊一に説得する。そしてこの作品をネームとしてネット動画で公開することも止める。
実際、オフィスにやってきた根津田は、香奈太のミスによってタッパーが二つあったことと浮気がバレてしまい喧嘩してしまう。

オフィスの社長の雨堤峻(高田淳)はこの肉じゃがネタはお蔵入りして、以前ネットでも反響のあったアノ作品の続編を書いたら良いんじゃないかと提案する。アノ作品とは羊一自身の身の回りで起きたことを題材としているらしく、他の人々は微妙な素振りをしていた。
羊一は漫画を書く。ある金持ち一家は亡くなった父親の遺産相続で兄弟同士が揉めていた。長男の沸太(西澤翔)に対して、ロクな仕事もしないで遺産だけ相続するなんてふざんけんじゃねえと弟の屑雄とその妻の屑子が入ってくる。屑子は見た感じ、弟家の財産目当てで結婚した雰囲気がある。そこへ妹の良子(松木わかは)がやって来て、屑子に対して嫁に来た分際でいばってんじゃねえと言い争いが起きる。
そしてこれもまた現実のものとなってしまう。羊一のいるオフィスに羊一の弟の海老虎賛二(大神拓哉)とその妻の海老虎申子(今出舞)があがり込んで来て、羊一に対して遺産相続をお前に渡さないからと言い争ってくる。オフィスが海老虎家の遺産相続の取っ組み合いによって独占されてしまい、声優の屑子などは「さよなら」とオフィスを出て行ってしまい、紗江や香奈太たち部外者はタジタジとなってオフィスの隅で様子を窺っている。
そこへ羊一の妹の海老虎美津葉(水崎綾)がやって来て、申子に対して嫁に来た分際でいばってんじゃねえと言い争いが起きる。先ほどの漫画と全く同じ展開が繰り広げられる。そこへさらに、羊一たちの母親である海老虎和美(水野愛日)がやって来るが、彼女はかなり冷静に楽観視して様子を窺っている。
一番勢いが激しいのが申子であり、周りから「しんこ、しんこ」呼ばれるが「もうこ」だと逆撫でしてしまいさらに怒り狂うことになる。
事の発端は、羊一が漫画に自分の身に起こったことを題材して書いた事であるとオフィスの人間がなだめ、一旦海老虎家の人間をオフィスから撤退させる。

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海老虎家をとんでもない状態にし、さらにそれにオフィスの人間を巻き込んだとしてオフィスの人間たちは羊一を追求するが、羊一に反省の兆しはなかった。
もうこれ以上海老虎家のことについて漫画を書くことを止めたらと言われるが、漫画にはリアリティが伴ってこそ面白いというものだと羊一は言う。嘘偽りのことを書いても面白くないんだと。
羊一は漫画を再び書く。この作品は沸太の存在が鍵であると説明する羊一。漫画のストーリーは、沸太は良太(福地慎太郎)という男性に出会い、男同士の恋仲になってしまう。そこに良子がやってくる。良子は良太のことを好きでいたが、良太が沸太に奪われたことを知って沸太に対して恋人を奪われたとして敵対視するようになる。
思わぬ方向にストーリーが進んだことによって、オフィスの人間たちはキョトンとする。果たしてこれが本当に現実に起こるのだろうかと。
オフィスに、このオフィスを羊一に貸してくれている不動産オーナー且つ、美津葉の恋人である瀬古多稔(平山佳延)がやって来る。瀬古多はひょんな羊一の行動から、彼に対して恋心が芽生えてしまい、羊一を恋愛対象として意識してしまう。
そこへ羊一の妹の美津葉がやって来て、瀬古多と羊一の関係に驚き羊一を恨み始めてしまう。完全に羊一の書いた漫画のストーリー通りに現実が動いた。
さらに、そこへ根津田がやってきて香奈太に対して絵を描いたという。その内容は「絶望」と云ってとんでもなくダークな作品を高いクオリティで描いていて、その場にいる者がみんなドン引きしていた。

羊一にまた自分たちのことについての漫画を書かれるのではないかと心配し、羊一の作品の公開を頻繁にチェックしていた賛二と申子だったが、予想外の方向へストーリーが進行したのでホッとしたかのような雰囲気でオフィスにやって来る。
そこで、羊一はそのストーリーの続きをネームに書いていく。屑子は密かにもっと屑雄という男と会っていた。屑子はもっと屑雄から金を貸して欲しいと言われ、屑雄の口座から大金を引き出して彼に貸す。屑雄は口座に入っていた大金が引き出されていることに驚き、大金の行方を知らないかと屑子に問い正すが屑子は、ちょっとだけ借りていてすぐに返すと伝える。屑子はもっと屑雄にお金を返して欲しいと伝えるが、口座が凍結されてしまって引き落とせないと伝えられる。もっと屑雄は、こういうことは珍しいことじゃないしよくあることだから気にしないでと言われる。
この展開に衝撃を受けた賛二は、まさか自分の口座から金が消えているはずがないとスマホから自分の口座の金額を確認したところ、大金が消えていることに悲鳴をあげる。そしてその矛先は申子に行く。しかし申子はしらばっくれていた。
賛二は会社を経営している都合上至急大金が必要で、このままではまずいとパニック状態に陥ってしまった。

この状況をどう収束させるのか、羊一には名案が思いついていて漫画に書き始める。
沸太は、良太に自分と結婚するよう申し込む。沸太と良太は同性愛のカップルとして結ばれる。良太の家は金持ちで沸太の活動を支えていくには十分な資金力だった。よって、父親からの遺産相続は全て弟家族の屑雄・屑子と妹の良子に譲るということだった。
この筋書き通り、羊一は瀬古多に結婚を申し込もうとした。しかし日本の法律上同性愛の夫婦は認められていないので、瀬古多を海老虎家の養子として迎え入れる事にした。これによって羊一が漫画家として活躍していく上での資金源は十分確保された。それによって、遺産相続は賛二・申子夫婦と美津葉に託された。
しかし、遺産相続は手に入るには時間がかかり過ぎて至急大金が必要なんだと言う賛二。その時、根津田が超一流の芸術家であったことを皆が思い出す。根津田が描いたあの絶望というタイトルの絵画をオークションで売れば大金が手に入る。
根津田を呼び出して、先ほど描いた絶望をオークションで売って良いか香奈太が尋ねると、根津田はあれは香奈太の物だから好きにして良いと言う。絶望をオークションで売ることで大金をゲットし、賛二の金欠問題が解消してハッピーエンドとなった。

でも一人だけハッピーエンドでない人物がいる。羊一の弟子の紗江である。紗江は以前羊一と付き合っていたが別れてしまった。しかし紗江にとっては羊一に対する想いは残っていた。羊一は彼女のために漫画を書くという。「ほんとうにかくの?」と紗江。
羊一は、良子が街を歩いていると「おお久しぶり」と言って来る小学校時代の同級生の屑雄に出会い恋をする。そんなことあり得ないと否定する紗江。そこへ、落とし物をしていますよと後ろから声をかけて来た沸太、あれ沸太は幼稚園時代の同級生?となる展開。これもあり得ないと否定する紗江。そこへ、そこの二人の危ない男に振り回されるでない、この俺がいると白馬の王子様のようにやって来た良太。これはもっとあり得ないと否定する紗江。
ここで物語が終了。

漫画の中で進むストーリーと現実で進むストーリーがあって、漫画の方が現実に対して先行して話が進むので現実での結末がそこで分かってしまうのだが、そこが逆に面白くて舞台を観ている上では全く気にならなかった。
ただ今のように、文章として物語をいざ書いてみると「あれ?おかしくね」と思う箇所が多々あった。羊一が瀬古多と結ばれる結末でみんなが本当にハッピーだったの?とか、瀬古多がいきなり羊一に恋することになるの?とか、根津田の描いた絵が登場するのは無理やりじゃね?など。でもそのストーリーの破綻を上回るような演技と演出だったので満足度は高かった。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

今回の作品の演出を一言で表すと、「漫画チックでカラフル」だと思っている。若干荒削りな箇所もある印象だったが、それを上回るくらいのエンタメ性に富んだ面白さが勝った印象だった。気付いたら序盤から作品にのめり込んでいた。それくらい舞台演出は魅力的な箇所が多かったのだと思う。
そんな今作の演出・世界観について、舞台装置、衣装、照明、音響の順にみていく。

まずは舞台装置、凄くお洒落且つカラフルだった。
舞台上には4つの白いオフィスデスクが横並びに置かれている。そしてそれぞれのデスクに黄緑色のオフィスチェアが置かれている。また、デスクの上には青いノートパソコンなどカラフルな品物が置かれている。その奥には、舞台背後一面に本棚がずらっと並んでいる。その下には、白い台のようなものが本棚とくつかるように置かれていて、その白い台の上で、屑雄や屑子たちの羊一の書く漫画の出来事が演じられる。また、屑雄や屑子たちはオフィスデスクの上も舞台上として使用していた。
オフィスデスク手前には、下手側に青いチェアが二つ、上手側にはソファーが置かれている。
オフィスらしく舞台上は真新しいもので基本白いもので埋め尽くされているのだが、そこに点々と存在する青いノートパソコンや黄緑色のオフィスチェアがとてもカラフルに映えて、それだけでも凄く綺麗な舞台美術に見えて素晴らしかった。

衣装もカラフルだった。特に、女性陣の衣装がカラフルで好き。紗江の黄色いカーディガンや、根津田の赤いセーターと派手な髪型、そしてなんと言っても申子のピンクでキャピキャピの衣装。凄くキャラクターを認識しやすくて良かった。
そんな中、地味だけどクールでシャッキっとしている扉絵羊一先生の衣装も好き。あんな感じのインテリいそうだし、凄く雰囲気が役柄と一致していた。

照明もだいぶお洒落に使われていた印象。客入れ時の4つのオフィスデスクを照らす白いスポットは凄く好きだった。また、途中と最後で入るミュージカルチックな箇所の照明も、青とピンクのなかなかカラフルな照明を使っていた印象で凄く素敵だった。
ただ、後半のシーンで意味もなくキャストの顔が暗くて全然分からなかったシーンがあったのが残念。照明の吊り込み方の問題で役者の顔に照明が当たらないシーンが出来てしまっていたのはもったいない。こういう箇所に、舞台演出の荒削り感が垣間見える。

音響はなんといっても途中と最後で入るミュージカルチックなシーンの曲。絶妙なタイミングでミュージカルが入るので、タイミングも長さも丁度良かったし音楽も最高だった。曲風として、恋愛リアリティーショーが始まる時の感じの音楽。分かる人には分かるかもだが、AbemaTVの「恋愛ドラマな恋がしたい」のOPみたいな曲風。

演出面で非常に面白いなと感じた箇所は、まず漫画で進行する部分をオフィスデスク上や白い台のような箇所みたいな部分で披露されていたこと。これで明確に漫画の世界と現実の世界の境界が分かるし、オフィスデスクの上で演技をするって凄く斬新で面白かった。このシーン、なんと一番最初に登場するので度肝を抜かれた感覚。
あとは、台詞一つ一つが漫画の中から飛び出して来たかのような感覚で、非常にコミカルだった。例えば、遠吠譲治(石部雄一)が申子に「旦那と財産どっちをとる?」という質問にすかさず賛二が「やめてー」というくだりだったり、そういうアドリブめいた掛け合いが非常に自然且つ漫画っぽくて面白かった。
あとは、ミュージカルシーンだろうか。役者全員で踊る箇所とか観ているだけでこちらも楽しくなる。ただ、役者が多い上に舞台上が狭いので窮屈そうな印象を抱いてしまった。そういう箇所に荒削りっぽさというか不完全さが残る。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

期待していた以上に役者陣の演技の仕上がりは良かったし、凄く個性豊かだった印象。今回お初でお目にかかる役者ばかりなので丁寧めに書いていきたい。

まずは主人公の漫画家の先生、扉絵羊一を演じた五十嵐啓輔さん。彼の高身長でインテリ且つ独特な存在感には女性ファンも多いだろうと推測。凄く味のある役柄だった。デスノートのLほどヤバイ人間ではないんだけど、頭がキレてあんまり人情味がなさそうで、何考えているか分からないような感じ。でも、ラストでみんながハッピーになれるようなシナリオを漫画として書いて実現させてくれる実はめちゃくちゃ良い奴という設定。
あの髪の毛のモジャモジャとか黒いカーディガンとか凄くイメージとマッチしていて良かった。福山雅治や綾野剛とかあの辺りの俳優が演じられそうな役柄。凄く良かった。

次に、柊香奈太演じる図師光博さん。この俳優さんは名前は聞いたことあったが、とても面白いキャラクターを演じきれる役者だと思った。凄く一つ一つのリアクションがオーバーでコントとか漫才とかいける口の俳優。見た目は冴えない感じなんだけど、役作りとして上出来であの自虐的な面白さが堪らなかった。
例えば、肉じゃがのタッパーが二つあった理由が根津田にバレてしまうシーンのリアクションとか、紗江に終始つっつかれるシーンとか凄くリアクションがオーバーで面白かった。

海老虎賛二を演じた大神拓哉さんも図師光博に近い系統の役者だと思った。ただ、今回の役柄の立ち位置上、かなり羊一に対してシビアにならないといけない役だったので、どちらかというとコメディアンぽさというより、怒り狂う演技が多かったという印象。凄く存在感があった。それでもコメディっぽさを残した演技はあって、譲治の「旦那と財産どっちをとる?」からの「やめてー」とかは最高だった。

ただ一番存在感のあったキャストといったら、海老虎申子演じる今出舞さん。彼女のいかにもお金持ち好きそうで、キャバクラてかにいそうな遊び歩いてそうな女性というオーラは完璧だった。そしてヒステリーを起こして、オフィスの中で怒り狂いながら色々な人に八つ当たりする演技はインパクト強くて最高だった。あそこまで堂々と演技ができる女優は尊敬してしまう。

個人的に今回の役者の中で一番好きだったのが、芦谷紗江を演じる楠世蓮さん。まず衣装も相まって存在が可愛い。でもただ可愛いだけではなく、バシッと羊一や香奈太に対して強い態度を取れる所がグッとポイントだし、そういう役も演じられるという点が良い意味でのギャップにも感じた。
そしてなんと言っても、最後の一人だけ報われない女性になってしまった訳だが、あの羊一を実は密かに慕っている感じとかも好きだった。この作品の中で繊細な役って凄く少かった気がして、その繊細さをこの作品から唯一感じた役者だった気がする。でも、やはり強い女性であることは変わりない。最後に良太に対して、こういう男が一番ムリーは最高。

根津田亜美を演じる中野裕理さんの尖ったキャラクターも好きだった。かなり今回の役で役作りをされていると思うが、あのズレてる感じが凄く舞台上で映えていて、ずっと演技を観ていられるキャラクターだったと思う。正直もっと出番があって欲しかったという印象。特に印象に残ったのが、あの「絶望」の絵画を持って来るシーンが印象的。あのキャラとそのシーンと芸術家というのが凄くマッチしていて役作りとして完成度は高かったと思う。

屑子を演じる高橋明日香さんも良かった。高橋さんの名前も「あすぴー」というあだ名もTwitter上で聞いたことがあったが、あんなサバサバした役を演じるのだなあという意外性が垣間見えた。足を組んで、黒っぽい衣装を着こなしているあの毒づいた感じが好き。そして、海老虎家の面倒臭い家内騒動が勃発した時は、そそくさと「お疲れ様でした」と帰っていく感じとか、沸太役のザワに対して「一生関わることないだろう」という結構尖った台詞が凄く良かった。例えるなら、伊藤沙莉さんみたいな女優の系統だろうと心の中で思った。

最後は、以前劇団4ドル50セントと劇団ガバメンツのコラボ公演且つオンライン演劇の「LAUGH DRAFT」で軍曹役を演じていた、瀬古多稔役の平山佳延さん。この方の演技は兎に角迫力が凄くて、「LAUGH DRAFT」で演じていた軍曹はオンラインからでも怖さ、恐ろしさが伝わる好演をされていた。
そして今回の役もまあインパクトが強かった。一番の名シーンは、やはり羊一に恋心が芽生えて女々しくなる所。凄くオカマを演じるのが上手い。オカマを演じられる役者に小沢道成さんなどもいるが、小沢さんとはまた違ったオカマっぽさ、ちょっとIKKOさんに近いかもしれない。あの男らしい力強さと女々しさが共存する感じ。とても良かった。

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【舞台の考察】(※ネタバレあり)

今回のENGという劇団は、割と若い美男美女をキャスティングしてエンタメ性の高い舞台作品を数多く手掛ける団体というイメージである。下北沢でやるような大衆っぽさが漂う古臭い感じではなくて、割とここ最近で登場して来たタイプの劇団かなと思う。
過去観劇した中で作風が一番近いと感じたのはキ上の空論や劇団時間制作、オフィス上の空等だろうか。観劇したことないが、おそらく企画演劇集団ボクラ団義とかもこの系統に近いと思われる。少し2.5次元ミュージカルに近いような感じ、実際今作に出演している役者の多くは2.5次元ミュージカル等にも出演している訳で。

今回私がこの作品を観劇してみてとても実りのあった体験が出来たのだが、その理由として大きな発見があったからだと思う。
普段私は下北沢で上演されるようなストレートプレイを多く観劇するのだが、割と脚本が不条理的で難しくミュージカル要素があまりないものが多い。
ただ今作は、ミュージカルまでは行かないがストレートプレイの中ではミュージカルに一番近い系統の作品だと思っていて、途中と最後で音楽に合わせて踊り出すようなシーンがあるくらいなので、ミュージカル作品に近いと思っている。
そして、そういった作品が若年層の特に女性で人気があると思っている。今の小劇場演劇は、徐々に衰退の一途を辿っていると言われるけれども、それは今作のようなミュージカルに近いストレートプレイを上演する団体を増やしていけば、その兆候は払拭されるような気がしている。
色々な舞台作品と比べてみても、今作は非常に面白いと感じた。やはりこういう作品をもっともっと演劇業界に浸透させていけば若年層も観劇の文化が根付くと思うし、そうやって演劇業界全体が大きく舵を切っていくタイミングであるような気がする。
今作を観劇した得た発見とは、ミュージカルに近いストレートプレイの可能性を物凄く感じたといった所だろうか。

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【写真引用元】

ENG 公式Twitter
https://twitter.com/DearEng

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