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舞台 「姿」 観劇レビュー 2021/05/22

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【写真引用元】
ゆうめい公式Twitter
https://twitter.com/y__u__m__e__i/status/1394244535870316552/photo/1

公演タイトル:「姿」
劇団:ゆうめい
劇場:東京芸術劇場 シアターイースト
脚本・演出:池田亮
出演:高野ゆらこ、五島ケンノ介、中村亮太、森谷ふみ、遊屋慎太郎、黒澤多生、児玉磨利、石倉来輝、田中祐希、山中志歩
公演期間:5/18〜5/30(東京)
上演時間:約120分
作品キーワード:家族、夫婦、離婚、VR、昭和レトロ、群像劇、舞台美術
個人満足度:★★★★★★★★★☆


2019年秋に初演され好評を博した劇団ゆうめいの「姿」が、東京芸術劇場が選出する「芸劇eyes」に選ばれ再演されることになったので観劇。
初演は未観劇だが非常に前評判も良かったので期待して観に行った。

物語は、1964年の東京オリンピックと2020年の東京オリンピック(結局延期になってしまったが)の2軸を元に、世代を越えた旦那と妻それぞれが抱える苦悩のぶつかり合いと離婚問題を描いた作品。

想像以上に痺れた作品。
ただ個人的にはそこまで抉られるような作品には感じられなくて、キャストの演技力といい、舞台装置の使い方といい観客を没入させるような「家族」を良い意味でも辛い意味でも上手く描いて素晴らしかった。

個人的に惹かれたのは、1964年の東京オリンピックが開催される頃の昭和の夫婦像を描いたシーンのノスタルジー感、北原白秋の「この道」を口ずさみながら畳ぼうきで掃除をする祖母(当時は母)の長閑な光景と祖父(当時は父)の帰りを待つ姿が目に焼き付く。
それと対比して、2019年の現代では息子がアニメを製作をしたり、VTuberが出てきたり、夫婦が共働きだったりと時代の変化も一緒に堪能することが出来て凄く良く出来ていた。

この作品の魅力は短い文章では語りきれないので、詳しくは下の文章を読んで欲しいが兎に角素晴らしい要素が沢山詰め込まれた傑作だった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/428743/1593631


【鑑賞動機】

劇団ゆうめい自体も以前から気になっていた点と、今作が初演時に高評価だったため。Twitterの感想を見ても評判が良くて期待値は高め。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

2019年、父(五島ケンノ介)は、年をとってからVtuberを始めていた。しかし、チャンネル登録者数や視聴回数が伸びず、ディレクター(田中祐希)と技術スタッフ(山中志歩)にチャンネルを閉鎖することを告げられる。その際、父が母(高野ゆらこ)と離婚したことを聞かされたディレクターと技術スタッフはデリカシーなく「離婚??」と騒ぎ立てる。
息子(中村亮太)はアニメの脚本家として働いていた。そして、競馬を題材とした自分が執筆した脚本が深夜アニメ枠で放送されることが決まる。父は息子がアニメ脚本家として頑張っていることを応援していた。息子は離婚した母に会いに行きたいと父に言うが、父はそれについては難色を示していた。
深夜、息子が脚本を手掛けたアニメが放送される。そこへ酔っ払った母が自宅へ突然やってくる。母は地方公務員として環境に携わる仕事をしており、2020年の東京オリンピックに関連して海外出張もあった様ようである。
母はテレビで放送されている、息子が脚本を努めたアニメを馬鹿にし始める。内容が競馬であるという点(後で理由が分かる)と、「僕はお母さんの元に生まれてきて良かった、愛している(的な感じ)」の台詞があり、この台詞を考えたのが自分の息子であると思うと馬鹿らしくて大笑いしていた。「誰がこんなつまらない消費コンテンツのアニメなんて観るの」と母は馬鹿にした。

時は1963年、最初の東京オリンピックが開催される前年。当時幼かった母(児玉磨利)は若かりし祖母(森谷ふみ)と若かりし祖父(遊屋慎太郎)の3人で北海道で暮らしていた。幼き母は、若かりし祖母からの愛情をたっぷり受けて育った。北原白秋の「この道」を口ずさみながら畳ぼうきで家を掃除する若かりし祖母の姿があった。
若かりし祖父は遊び人であった。東京で芸術関係のやりたいことを見つけたからと、東京への引っ越しを求めた。
家族3人は東京へ引っ越す。北海道の家よりも東京の家は古く窮屈だった。若かりし祖父は、暫く家へ帰ってこない日が続いた。やがて家には家賃の取立(田中祐希、山中志歩)がやってくるようになる。若かりし祖父はやりたいことをし続けて家賃を払う稼ぎも無くなっていたのだろう。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/428743/1593634


母は大学生になった。絵を描くことが好きで大学内で母の描いた絵画が人目に触れる機会があった。若かりし父(石倉来輝)は母の描いた絵画を見て作品が好きになり、その絵画を描いた母がいつもキャンパス内で一人でベンチに座っている姿を確認していた。
若かりし父は、若かりし母の似顔絵を描いてキャンパス内で一人ベンチに腰掛ける母に渡して好意を告げた。最初は父のことを気持ち悪がっていたが、絵画の話で馬が合うようになり恋愛へと発展していった。
二人は進路の話になった時、母は遊び人で家族のことを顧みない祖父を見てきたせいか、芸術の道へ進む訳ではなく公務員として働くことを決意していた。父も芸術関係の進路へは進まず一般就職した。

母と父の結婚式に祖父も呼んだのだが、結婚式場の外で立ち尽くしていて結局母と面会することはなかった。久々に祖母の元へ顔を出した祖父は、祖母と祖父でお互い刃物を持って喧嘩をしていた。
母の様子に変化が現れたのは、結婚して息子を産んでまもなくのことだった。公務員として働く母のストレスは大きく、頻繁に酔っ払って帰ってきては仕事の愚痴を言っていた。父だって仕事で抱える悩みは多いのに、その愚痴をヒステリックになった母の前では言い出せなかった。そして母の怒りの矛先は、父にも向けられるようになる。父の些細な発言が母をカンカンに怒らせ、以前のようなラブラブな夫婦ではなくなっていた。
母はつんく♂にドハマリし始める。そしてその流れでモーニング娘。にもハマる。父は自分が母の心の支えになれていないことを痛感して落ち込む。ある日、母は他に好きな人が出来たと父に連絡してくる。父は結婚して子供がいるのに不倫は許されることでないと強い口調で怒るが、母は付き合いたての頃浮気をしてたと反論して、お互いの溝は深まっていくばかりだった。

母に乳がんが見つかる。これは祖父を会わせた方が良いと悟った父は、競馬場に出かけて祖父に会いに行く。母が乳がんなので会いに来てくださいと強いことが言えなかった父は、「このお金で母に会いに来てください」と封筒にお金を入れて渡す。
しかし結局祖父はそのお金を母に会うために使うのではなく、競馬に使ってしまった。
祖父は重い病気にかかって入院しており、死ぬ間際に母に再会することが出来た。そこで母は、以前祖父の元に父がやってきて会いに来るようにお金を渡してくれたが、結局競馬に使ってしまったことを明かす。
祖父は亡くなり、母は父が祖父にお金を渡していたことに激怒する。

一方、息子は学校で多くの友達と仲良く出来るタイプの人間ではなく、いつも一人で苦しい思いをしていた。しかし、高校生になった時にずっと同じ境遇だったあだ名を弟(黒澤多生)という友人が出来る。息子は背が高い理由から兄というあだ名で二人は兄弟のように仲良くなった。カップルを見かけるとシャボン玉を吹きかけてイタズラをしたりと馬鹿を沢山した。
弟は、現実世界で生きることに苦しさを感じていて、時にはアニメの世界に逃げ込みたくなると話をしていた。一緒に秋葉原にでも行こうなどと話していたが、二人は大学入学のタイミングで進路が別々になった。
その後、弟は自殺してしまった。それまで仲が良かった息子は何か知っているのではないだろうかと、弟の両親(石倉来輝、児玉磨利)に呼び出されたが、唯一知っていたのは弟がアニメの世界で現実逃避をしていたということだった。
息子は大学へ入学してから演劇サークルに入って脚本を書いた経験もあったため、事務所の門を叩いてアニメの脚本の依頼を応募し合格することになる。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/428743/1593632


息子も次第に母からのとばっちりを受けるようになる。母だってやりたいことはあるが、仕事が忙しくて出来ていない。しかし息子はやりたいことを全て出来ていて羨ましかったのだろう。
母は離婚することを父と息子に告げる。父が祖父の生前に会いに来るよう金を渡したことに激怒し、なぜそんな無駄なことをしたのかと呆れていた。
そこへ息子が母に対して、なぜ自分の父と母が喧嘩する光景を見て嫌だったと分かっているのに、同じことを息子の目の前でもするんだと強い口調で訴える。母は、こうなりたくてなった訳ではないから仕方のないことなんだと反論する。母はそのまま家を出ていく。

母は離婚後、自分の環境活動の仕事と芸能を活かした活動をしていた。YouTubeチャンネルでリモートお掃除と題して、オンラインで視聴しているユーザーみんなで身の回りを掃除しようというコンテンツだった。北原白秋の「この道」が流れながらオンライン越しのユーザーは掃除を始める。一人ではなかなか掃除しようとならないが、オンラインでみんなとなら掃除しようと思える。そんな活動を母は取り組んで幸せそうにしていた。ここで物語は終了。

ストーリー構成で上手いなと思った点は大きく分けて2つ。
1つ目は、祖父・祖母が生きた1963年の1回目の東京オリンピックという時間軸で昭和時代の夫婦像と、2019年の2回目の東京オリンピック(開催されていないが)という時間軸で平成・令和時代の夫婦像を対比的に描くことによって、時間の変化による懐かしさと新しさを同時に堪能出来る点と、夫婦像の時代の変化を上手く捉えられている点が素晴らしいと思った。昭和時代はまだ女性の社会的地位は今ほど高くないため、旦那に振り回されて苦労する妻という構造があった。一方で平成・令和時代になると女性の社会的地位は向上して、共働きという状態が一般的となった。だからこそ、職場で抱えるストレスが家庭内にも持ち込まれて夫婦の関係がこじれていくという昭和時代にはない夫婦バランスの崩壊を上手く描いていて素晴らしかった。
もう1つは、父と母の馴れ初めから離婚までを丁寧に描き、各々の心情変化を観客に伝わるようにストーリー化しているため、誰に対しても同情できてしまうからこその離婚という結論への辛さが存在する。最後の母の台詞である、夫婦喧嘩に対して「こうなりたくてなった訳ではないから仕方のないことなんだ」という言葉が非常にしっくりくるし、胸に突き刺さる。誰もこうなりたくてなった訳ではない、様々なことが積み重なって離婚という結果に至ったのだと。
脚本についても考察パートでもう少し深堀りしたいと思う。素晴らしくよく出来た脚本だと思った。

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【写真引用元】
ステージナタリー
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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

この作品の世界観・演出も抜群にセンスを感じた。特に舞台装置の使い方は本当に創意工夫が凝らされていて、こんなに上手く作られ使われた作品はないんじゃないかと思われるほど素晴らしい仕上がりだった。舞台装置、照明、音響、その他の演出の順に見ていく。

まずは一番目を引いた舞台装置から。東京芸術劇場シアターイーストの奥行きまで広々としたステージを目一杯使用していた。
素の舞台に中央だけ立方体の木造の枠で囲われた空間が2つほど存在し、一つは固定されていて、もう一つは役者が押すことで自由自在に固定された方の立方体の空間の枠の一辺を軸として動かせるようになっているというユニークな仕組み。
固定されている方の立方体の空間にはリビングが用意されており、主に父と母と息子の家族の会話がそこで繰り広げられる。中央にはソファーが置かれ、実際には存在しないが手前側にテレビがある体となっていて、テレビの明かりのようなものがテレビが付いている状態だと手前側から照らされる。また、ソファーの後ろには3つほど引っ張ると上側へ収納されるようなスクリーンが用意されており、そこに「1963年」「2019年」といった年号を示す映像や、Vtuberのアバターが投影されていた。
もう一つの動かし可能な方の立方体の空間は、主に祖父と祖母と幼き母の家族、つまり昭和時代の家族の会話や、アニメ撮影現場を描く際に使用されていた。ソファーやスクリーンのある部屋とは対照的で、中央に冷たい木造のテーブルが置かれているだけで、ちょっとだけ暗さを感じる。ただ、そこを畳ぼうきで掃除する祖母の姿がなんともノスタルジーを感じるし、背丈を柱に印をつけるシーンなんかも凄く田舎の温かさを感じられて素敵な空間だった。
芝居はこの立方体の枠の中に囚われず、舞台上のスペース全体を使っていた。上手側には椅子が2つ設置されていて、テレビ放送中の声優が台詞を発したり、大学のキャンパスで若かりし母が一人座っていたり、競馬場のシーンではベンチにもなってその椅子の前を役者たちが馬のように駆け回る演出はとても面白かった。そして、祖父が最後尾の馬のけつを新聞紙で引っ叩く演出も最高だった。
舞台空間の使い方は杉原邦夫さんが演出した「オレステスとピュラデス」に近いものを感じた。ステージ上に舞台装置を仕込んでそこで演技をする訳ではなく、ステージ全体の広大な空間を全て舞台上としてしまうのは凄く発想として面白いと感じている。


次に照明。目立った演出箇所でいうと、息子が悪夢で魘されるシーンの照明はとてもインパクトがあった。カラオケボックスのミラーボールのような紫色の水玉の照明が舞台上全体を支配していた。本当に悪夢で祟られているような演出が良かった。
あとは、自由に動かし可能な立方体の枠の方に蛍光灯が設置されていて、取立がやってきた時にその蛍光灯が点灯して緊迫感のあるシーンになっている演出も結構好きだった。
また、舞台上の左右の壁にずっと花柄のようなシルエットが最後らへんの場面で出来ていたが、あれもおしゃれで素敵だった。あそこに目をやる人ってなかなかいないだろうけれども。
さらに細かい部分でいうと、テレビが付いているように感じさせる手前側からの明かりだったり、上手側の2つの椅子にだけ照明が当たるような演出など工夫が沢山見られて複雑な舞台装置に対して上手く照明が吊るされている印象を受けた。素晴らしいプランニング。

次に音響。音響で印象深いのは、北原白秋の「この道」とモーニング娘。の「ハッピーサマーウェディング」。
まずモーニング娘。の「ハッピーサマーウェディング」だが、母がドハマリしていたつんく♂がプロデュースした楽曲であるというのと、結婚を祝福するような楽曲であるというのが、今回の劇中において特別な意味をもたらしている。あの離婚のタイミングで結婚を祝福する楽曲を流して、父との思い出を顧みさせる演出が良い意味でちょっと残酷に感じられて良かった。また、楽曲とは関係なくなってしまうが、父が「ハッピーサマーウェディング」に合わせて踊っている間に、背後で若かりし父と母が楽曲に合わせて踊っている光景が演じられているのも凄く切ない。冷え切った現在の夫婦関係と、結婚するタイミングでのラブラブの二人。凄く胸に刺さるものがあった。
次に北原白秋の「この道」。個人的にこの童謡は亡くなった祖母がよく口ずさんでいた曲なので、そのメロディを聞くだけでウルっときてしまったのだが、まだ北海道に幼き母一家が住んでいた時に若かりし祖母が口ずさんでいたのが伏線となって、最後のシーンで母がリモートお掃除中に静かに伴奏として「この道」が流れる。このチョイスが本当に完璧。きっとこの曲を選んだ母の心境には幼き頃の祖母(母にとっての母)の思い出が今でも忘れられなかったのだろうと思えた。とても泣けてくる。


最後に、その他の上手いと思った演出部分をピックアップしていく。
まずVRが出てきたのは凄いと感じた。VRを劇中で使った作品を観たのは初めてだと思う。そしてそれを巧みに活かしてVtuberをやるおじいちゃんがなんとも可愛い。
あと、電動のスケーターみたいなのに乗って黒澤多生さんが登場したのも現代感を上手く出しているという観点で、びっくりした。
競馬場のシーンで馬を演じる際に役者が全速力で駆け回るのも好きだった。最後に祖父が最後尾の馬のけつを引っ叩くのも。
全体的に、一つの役を時間軸ごとに異なる役者で演じるという手法も面白くて、過去作品だと悪い芝居の「今日もしんでるあいしてる」や企画演劇集団ボクラ団義の「鏡二映ラナイ女 記憶二残ラナイ男」もそうだったのだが、たしかに混乱はする時があるものの、先ほど触れたようなモー娘。を踊る際に今の父と過去の父が踊っているみたいな演出で上手く利用するのは面白いと感じた。このシーンをこの役者で演じている意味ってなんだろうとかも色々考えを巡らせられるので好き。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/428743/1593627


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

今作のキャスト陣もみんな拝見するのは初めてだったが非常に素晴らしかった。個人的に印象に残ったキャストを数人紹介していく。

まずは息子を演じた中村亮太さん。今作での主人公的な扱いになるので、彼目線で物語が進むことが多く感情移入しやすい役だと感じた。特に印象に残ったのは、ラストの母が離婚するタイミングに際して自分の主張をしっかり述べていた点。夫婦で喧嘩しないでよと。あの切実さが凄く胸にグッと来て素晴らしかった。
あとは、友人である弟とのコンビがとても好きだった。カップルに対して悪さするシーンとかやんちゃが好きだし、そんでもってアニメのことについて語るあたりも好き。良いコンビだった。

次に、母を演じた高野ゆらこさん。ずっとどんぐりさんに似ているキャストさんだなあと思いながら演技を観ていた。
父や息子に対して煮えたぎった不満をぶつけるあの熱量ある演技は尋常ではなかった。今回の客席がだいぶ後方だったので直接的なインパクトはそこまで受けなかったが、小さい劇場で間近で拝見していたらとんでもないパワーだったと思う。
それと、序盤での酔っぱらいながら息子の書いた脚本アニメを酷評する演技は、非常に良い意味で嫌らしくて良かった。基本観客は息子目線で物語を観に行くので、非常に嫌な女に感じさせるあたりが最高だった。
次に出演される舞台も是非観劇したい。

次は父を演じた五島ケンノ介さん、60歳過ぎくらいだろうか。五島さんはなんとゆうめいの主宰で演出の池田亮さんの実父なんだとか。個人的な感想はとにかく可愛いかった笑。
まず最初の場面で「こんにちはー」と元気な声で客席に挨拶しながら入っている演出も面白いなと思いつつ、物凄く私自身も元気が貰えた。
またVtuberとして活躍したり、モー娘。の「ハッピーサマーウェディング」に合わせて踊る五島さんがとても楽しそうで可愛げがあった。自分なんかでも癒やされたと思ったので、女性目線で観るともっとそういった感想は寄せられるんじゃないかと思う。
非常に良い雰囲気を醸し出していた。

個人的に一番印象に残ったのが、声優役や若かりし母の役を演じていた児玉磨利さん。この人の演技は本当に心動かされた。特に若かりし頃の母を演じている時のシーンで、北海道から東京に引っ越して来た時の祖母に愛情いっぱい育てられながら元気に遊んでいる姿がとても印象に残っている。
そして、若かりし父に最初は冷たい態度を取りつつも、徐々に父を好きなっていく過程が物凄く睦まじく感じる。イチャイチャしているシーンとかあったが、あそこまで身体密着していると本当に好きになってしまうんじゃないかってくらいリアルで、こちらまでドキドキさせられた。そんな演技を見事に演じていた児玉さんは凄い。
また、結婚して子供が生まれて、仕事が忙しくなって自暴自棄になっていくあたりは見ていて辛かった。こんな愛情いっぱい育てられたのに、仕事のストレスによって崩壊していく様は辛いものを感じた。それが児玉さんが演じる役だからこそ尚更。

最後に若かりし父を演じた、劇団ままごと所属の石倉来輝さん。石倉さんは中村亮太さんと同じく今回のキャストでいうとイケメン枠。
なんといっても児玉さん演じる若かりし母との二人のシーンが、凄くドキドキさせられた。最初、大学キャンパス内で一人座る若かりし母に初めて話しかけようとする、若かりし父の演技が本当に素晴らしかった。体をクネクネさせながらもじもじさせながら「あのー」と自分で描いた似顔絵を渡すあたりが凄く青春だった。
また、競馬場で祖父に会いに行くシーンでの「あのー」というひ弱な感じが同じく良かった。なかなか母に会ってくださいとは言えない。お金だけ置いていくあたりが、非常に父と石倉さんの演技がマッチしていて良かった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/428743/1593635


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

私はこの作品で描かれているテーマは「夫婦」と「芸術」の2つがあると思っていて、それぞれに対して私的意見を織り交ぜながら考察していこうと思う。


まずは「夫婦」について。
ストーリー・内容の章でも書いたように、この作品では昭和の夫婦のあり方と平成・令和の現代的な夫婦のあり方を対比構造によって上手く描いている。
昭和時代の夫婦というのは、夫は仕事で出稼ぎに行って、妻は専業主婦として家事や育児を全てするみたいな形式が一般的である。これは裏を返せば社会的な地位として男性の方が上で女性が下という構造を反映していることにもなる。この作品で言えば、北海道から東京へ引っ越すことに関しても、ただ若かりし祖父のやりたいことが東京にあってそれに振り回されるかのように妻と子供がくっついていく他はなかった。そして若かりし祖父は遊び人で自由人であったため、金を稼ぐこともなく家族を顧みることもなかった。結果的に妻は不幸になり夫と刃物を持って取っ組み合うみたいな状況になってしまった。
このような時代的背景をベースとして、昭和時代においても夫婦という関係性に対する問題をこの作品では提示しているような気がする。

一方で、平成・令和時代になると女性の社会的進出が活発となり、今では共働きの夫婦が当たり前の時代へと変わっていった。しかし、そこにも夫婦間での問題は別の形で存在することをこの作品では提示している。
それは母の様子を追っていけば分かると思うが、女性は社会進出をすれば家族内だけではなく仕事場においてもストレスを溜め込むことになる。それが引き金となって夫との関係性に亀裂が生じたり、家事のこれやっといて、なんでこれやらなかったのの諍いも始まってしまう。夫も妻も何かしら相手に対して不満を抱きながら生活をしているが、その不満が職場でのストレスで爆発した時に、家庭内においても夫に対する不満をぶつけてしまうことによって夫婦間の均衡が崩壊してしまうのである。
これは現代を生きる自分にとっても物凄くイメージのつくことである。

この作品を観劇して教訓として残しておくべきことは、夫も妻もどちらもそれぞれ自分が知らない間に多くのストレスを抱え込んでいる。だからこそお互いを気遣い合って、助け合いながら生活を共にしていかないといけないということなのだろう。人間いつも冷静でいることは出来ない、時にはむしゃくしゃすることもある。ただそれが引き金となって離婚問題にも発展しかねないということを認識しておかないといけないということだろう。
夫婦生活の難しさを突きつけられた感じがする。そしてラストが離婚して、母が自分のやりたいことをやって幸せそうにしている姿で終了するあたりがなんとも切ない。決して父と仲直りするとかでもなく、離婚という選択肢を取らざるを得なかったという事実が非常に苦しいものに感じる。


次に「芸術」について。
この作品は2019年に上演された作品なので、コロナ禍は特に関係のない脚本になっているのだが、息子のアニメに対する思いを見ていると、芸術やエンタメの必要性を感じさせる脚本にも思えてくる。
息子は高校時代にずっと仲良しだった「弟」というあだ名の友人がいて、彼はまるで現実逃避をするかにようにアニメの世界に入り込んでいた。
しかし、大学進学してお互い離れ離れになった後、「弟」は自殺してしまう。社会に馴染めず自分の居場所が無くなってしまったんじゃないかと想像がつく。そこで息子はその時に感じた友人への思いからアニメ脚本家を目指すことになる。アニメを製作して社会に馴染めない人たちの居場所を作って上げたいというモチベーションなのだろうと解釈した。
しかし、そんな強い思いで執筆したアニメ脚本を何も知らない母に酷評されてしまう。息子の立場からしたら相当傷つくことである。まるでアニメというエンタメを否定されているかのような発言だった。そこに、今回のコロナ禍 による「エンターテインメントの不要不急性」みたいな部分が絡んでくるように私は解釈した。
もちろん、この作品は2019年に書かれた作品なのでそのようなことは意図されていないのだが、エンタメによって人が救われるという真理は、コロナであろうがなかろうが存在して、そういったメッセージ性はずっと描かれてきたんだなと思った。

また、母という立場で芸術を捉えてみることも面白い。
母だって若い頃は絵を描いたりすることが好きだった。しかし、自分の父(若かりし祖父)の自由人・遊び人ぽさを見てきた母にとって、芸術を仕事として家族も顧みず自由気ままに生きていくことだけはしたくなかったんだと思う。
だから人の役に立てるような公務員へ就職した。そして家族のために生きようと決意した。しかし、いざ箱を開けてみると仕事は激務でストレスは貯まり、息子は自分がやりたいような芸術活動にとことんのめり込んでいる。そんな状況に苦しむことになった。
芸術は元々好きだったのだが、公務員に就職して芸術に触れられない状況になったことによって、自分の仕事を正当化するように芸術を避難してしまったのだと思う。
そういう意味では、ラストのリモートお掃除は、やりたいことが出来ているし自分のキャリアを生かしているし、母にとっては最高のハッピーエンドになっている。

非常に良く出来た脚本だと思った。コロナ禍というのもあって結構客席に空席が目立ったが、多くの人に観て欲しい作品だった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/428743/1593636

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