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No.13 『ワコール』 女性用下着で国内トップの地位を守るために必要なことは何か

ワコールには思い出がある。かつて同社を担当していた熟女アナリストが、「ワコールの下着って本当に良くできてるのよー」と、男性アナリスト陣の頭上で同社製のブラジャーを振り回しながら、優れたものづくり力を朝からオフィスで力説していた。あれはまさか生下着ではなかったか。そこだけは記憶にない。

直近の決算を振り返りたい。2020年3月期の中間決算は、売上高1,014億円(前期比▲0.4%)、営業利益95億円(同+5.6%、営業利益率9.4%)。当初計画を売上高は下回ったが、営業利益が上振れたのは好印象だ。売上の6割を占める国内事業の収益性が、想定よりも改善したことが大きい。セール販売の縮小や返品率の低下など、売上総利益率を引き上げる努力が実を結んだようである。

努力という意味では、女性用下着の顧客層や販売チャネルの開拓にも、戦略的に取り組んでいると感じた。その具体例の一つが、『3Dボディスキャナー』の導入である。今年5月に東急プラザ表参道原宿、9月に大丸心斎橋店にそれぞれスキャナーを導入、バストやヒップなど18カ所を5秒で計測できるらしい。注目すべきはその導入効果であり、計測した人の実に30%が購入に至り、そのうち初めてワコール商品を購入した人が60%(つまり計測して購入した人の18%が新規顧客)としている。これはかなり幸先の良い数字ではないか。しかも、新規顧客の過半が20歳〜34歳。「ワコールといえば、百貨店でおばさまがお買い求めになるブランド」といったイメージがおそらく強いと思われるだけに、会社側としても若い世代を獲得できていることに手応えを感じているようである。

具体例の二つ目が、米国『Intimates Online』の買収だ。下着販売のスタートアップである同社は、SNSやコミュニティサイトを活用したマーケティングの先駆者的な存在。百貨店以外の販路拡充はワコールの課題であり、被買収企業が持つデジタルマーケティングの手法を国内に取り入れることで販売力の強化が期待できよう。

収益力の向上へ着実に布石を打っている印象だが、さらに手を入れる余地があるとすれば、女性用下着のブランド数の絞り込みとキャラ立ちではないかと思う。メインブランドはもちろん『ワコール』、それに手頃な値段のサブブランド『ウイング』が続くが、実はほかにも多数のブランドを抱えている。『AMPHI(アンフィ)』、『PARFAGE(パルファージュ)』、『Lge(ルジェ)』、『Lesiage(レシアージュ)』・・・。ざっと数えただけでもブランド数は20を超える。おそらく、体型や年齢に合わせてブランド数を増やしてきたのかもしれないが、それぞれのブランドのコンセプトは、女性のみなさんに果たして認知されているのだろうか。

ここで参考にしたいのが、2014年に資生堂が取り組んだブランド数の削減である。化粧品事業の収益性改善を図るため、国内外の約120のブランドのうち、売上規模の小さい28ブランドの販売を取りやめた。思い切ったブランドの廃止によって、在庫や資材などの削減効果がその後の3年間で300〜400億円の増益に寄与する一方、捻出した費用を残りの重点ブランドに集中投下することで、稼ぐ力の強化に成功したという話である。資生堂が過去最高益を連続更新している要因のひとつと言えよう。

女性用下着における首座の地位をユニクロが狙っている。『ブラトップ』や『ワイヤレスブラ』のヒットにより、国内シェアはすでにワコールと肩を並べるまでに拡大している模様だ。さらなる収益力の向上へ、もう一段の大胆な施策を講じてみてはどうだろう。

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