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中村文則『遮光』、読書メモ

以下、『遮光』読書会(https://note.com/yozora/n/ne60c2af7326c )時のメモです。

冒頭のサルトル、エロストラートと銃
が、カミュも
太陽が眩しいから殺した、というカミュの異邦人が想起される。ペストのような細かな心理描写。講演で意識してないとは言うものの、その講演でもカミュを扱っており、彼とフランス文学の親近性が窺える。

見られている感覚
悲しいからなくのか、なくから悲しいのか
他人の視線によって行動が決定される世界観(孤児となったことが原因)
演技の快楽→その裏には受け入れられることの原体験
→意志と行動の不一致、断絶。そもそも存在を受容されるための行動なので、意志は問題にならない。
元々は虚言は、自分の気持ちから切り離されたその場にふさわしい言語行為だったはずだが、恋人の死によってそのシステムが崩壊に向かう、テンプレ・典型がその場に応じたものではなくなり、ある秩序がそこにはあったのに統一性を失ってしまう。
もちろんそのシステムはミカ以前にもあったもの。システムが壊れるほど、主人公の思いの強かったことがわかる。
美香と出会って初めて「未来」を考えるようになったのでは?それまではその場その場を生き延びることだけ。未来の幸福を目指すというのは、約束をすることであり、その場その場以上の永続的な視点が必要になる。ミカの死体は未来への断絶。しかしそれまでのぬかるみの安寧には戻れなかった。
本来なら絶望によってしか人は死を受け入れられない。そこからしか人間性の回復の道はない。しかし主人公の場合、システム上、絶望することができない。他者の視線に基づいてるため、演技か本意かの無間地獄にいくため。絶望への道は閉ざされている。両親の死のときも落ち込んではいない。現実味がなく、どこかで生きていると思ってる。
髪の毛や爪を集めるように指を持ち歩く。捨てて欲しいと思っている→大きな男の存在を求めている、

楽しそうに笑う=美なるもの
ミカとの日々で主人公は生涯初めて美しいものに出会ったのではなかったか。
ゆえに未来の幸福を指に託し、持ち歩くようになる。未来への幸福に生きることは、狂うことではないから。その通り、主人公は狂っていない。むしろそれに憧れながら、そのギリギリのところで留まっている。なぜなら未来への幸福が見せた世界が美しかったから。
指に未来への幸福を託しながら、それを捨ててくれる大きな男の存在を求めている。ライ麦畑でつかまえるような。でも捨ててくれる存在がいない以上、瓶を持ち歩くしかない。しかしほんとは父親がいなくても、人間性があれば絶望によって乗り越えられる。だがそもそも人間性が確立されてない。共同性がない。ミカによって開かれるべき人間性への道は失われたのだから。
母親を求めるように瓶への一体感を求め、父親を求めるように虚構の言葉で世界を作っているようにも見える。

一方で滑稽小説にも属するのでは?
世界の不条理に相対しようとすると滑稽にならざるを得ない。サルトル、カミュ、ベケット。

白いワゴン
車の異物感、他者性。こちらから見えないが、見られている。

前の人を突き飛ばしたらどうなるだろう

演技の快楽
→たとえば家族や仕事などの役割、もっといえばなんでも共同体に属したら与えられるキャラ、そういった視線と実質の作り上げる人物像が虚構であるにもかかわらず、演ずることに快楽と陶酔が存する

書くことそのものにも似てる?ことだま的作用。

101 酔っていることを示すため、途中でよろけた。
の非常に冷静さをもつ描写

機能不全をおこした反省

104 人を喜ばせる嘘
道化、チャップリン、太宰的

男は理性、女は感情という効果を最大に。美紀はからだで感情を表現する。少ない描写だが、とても強い輝かしさ。

典型を求める。のは典型ではないから。普通自分の典型ではない部分を反省、自覚するわけだが、ここではただ典型を求める運動だけが繰り返される。悲しさすらも演技に組み込まれているため、主人公に悲しみが宿るのは演技を見透かされたときだけ。わざ、わざ(人間失格)である。
もはや理由もわからずに、やぶれかぶれに見える。本当は典型にもヴァリエーションがあるはずなのに、主人公にはそれは見えない。典型になれば幸せという甘い考えしかできないところに、典型からどれほど隔たっているかを感じる。
センチメンタルに浸るのは健康な人の特権であり、自分にはそれすら許されていないように感じる。→意志と行動の不一致。やりたいわけではなかった。そう思ったわけではなかった。
わかるわ〜、感傷に浸るのは特権なのでは、自分はそれに相応しくないのでは?という感覚。

125
指=私が蔑ろにした陰鬱な世界、の表象であることが明かされる。それは116、あの頃の私は、〜
爪や髪の毛の陰鬱さ→無意識に膨らみ、指へ

死に対する圧倒的な無力を覚える、指はそれからの逃避、無意識的な拒絶反応、それが虚言という形をとったのは白いワゴンの男の話からの影響
だが、直接死に相対する境地に至ろうとしても、演技の疑念がまとわりつき、邪魔をする。

147 どうしてだ〜という問いに答えられない。

好きなシーン
10 煙草を隣のテーブルに投げる
投げた後で、別にそんなことはしたくなかったのに、と思った。が、それはもう起こったことであり、どうしようもなかった。…私は満足したような気分になり、状況を見守った。
「そりゃあすげえな。貴重な体験だよ」
ちょっと嬉しそう。満足してることがわかる。
75 こんなものを捨てた人は、誰なんだろう
こんなもの捨てたら駄目ですよね

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