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僕らのスキスキ読書クラブ #1 ~『パーク・ライフ』~

課題本:「パークライフ」吉田修一

〈東京の片隅〉

夜空「始まりました、僕らのスキスキ読書クラブ。第一回目ということで」
吉田「いぇい!」
夜空「吉田修一の『パークライフ』をね、やります」
吉田「はい」
夜空「あのー読みましたか? っていうか覚えていますか、内容を」
吉田「読みましたよ」
夜空「なんかね、こう、印象って言うか、どんな感じすかね、これは」
吉田「印象?」
夜空「そう、どんな印象を受けました? っていうかそんな長くないんだよね」
吉田「そうなんですよねなんか。すごい劇的なことが起こるとかじゃなくて、こう、生活というか、都会……」
夜空「都会ね、東京の片隅だね」
吉田「そう、東京の片隅の話でしたよね?」
夜空「そう、だから印象がこう語りにくいって言うか」
吉田「うんうん」
夜空「だから敢えて訊いてみたんだけど……結構起承転結とかがあんま分かんないんだよね」
吉田「そうですね、なんか、起承転結もないし……一応主人公の目線で語られてはいるけど、あまり感情とかがなくて」
夜空「感情がない」
吉田「感情、なくないですか?」
夜空「感情ね、確かに……なんかこう、昔好きだった人が結婚して寂しい、みたいな……ぐらいかな」
吉田「そう、なんか、そういう、”あるある”ですよね」
夜空「あー、あるあるねえ……なんか結構場所とかの固有名詞が出てきて、これは分かるんですか? 東京にいると」
吉田「日比谷公園、行ったことないけどまあ、分かりますよね。そうそう、具体的に場所の名前が出てくるってのも特徴ですよね」
夜空「実際にあるんだよね、これは?」
吉田「日比谷公園もね、ありますよね」
夜空「健康広場とかもね」
吉田「そう、ブランドの名前とか。わざわざ出してる感じがありますよね」
夜空「お風呂のやつもほんとにあるのかな」
吉田「お風呂は分かんない、あんのかな」
夜空「あ、スターバックスとかね」
吉田「そうそう、わざわざやってる感じがありましたよね」
夜空「そうね、だから、そういう身近さっていうか、そうね”あるある”か。でも、”あるある”を押しつけてる感じもそんなにしなくて、っていうのも、猿とかがいるんだよね」
吉田「そうですね」
夜空「ラガーフェルトっていう、知り合いの家に泊まってるんだよね主人公が。で、その知り合いが飼ってる猿の世話をしてる。で、それを肩に乗せて、それは小さい猿で肩に乗せて、散歩とかしてて、なんか猿の方がみんなに知られてて、挨拶とかされてると」
吉田「おさるのジョージみたいな」
夜空「ああ、確かに。なんか、日常の風景の切り貼りとかはあるんだけど、でもありそうでないことも出てますよね」
吉田「そう、なんか思ったのは、こういう具体的な、スタバとか、日比谷公園とか出てるじゃないですか、名前が?」
夜空「ああ、はい」
吉田「なんかこう、自分が物語に入るっていうよりは、物語の方がこっちに寄せてきてる、ってそんな感覚があったなって思いました。」
夜空「ヒントというか、とっかかりとしてはなんかいいよね。たぶん、その”あるある”の部分を除くと、かなりこう、つかみづらいっていうか、つかみどころのない話な感じはするんだよね」
吉田「そうですねえ」
夜空「でもこれ読んで、好きか嫌いかで言ったらどっち?」
吉田「好き、ですけどね。てかなんか、そのなにも起こらないけど、でもどっかに……誰が読んでもどこかにとっかかりがある気がする」
夜空「エピソードは多いんだよね、意外と」
吉田「そうなんですよ。だから、これ読んでどこに印象持ちましたかって訊いたらそれぞれの答えがある気がする」
夜空「ああ」
吉田「山場とかがないから」
夜空「そうそう。結構ね、色々人生の大事な転機みたいなエピソードは意外と入ってて、」
吉田「サラっと入ってるんですよね」
夜空「そう。広がらないんだよね。……広げてないんだよね。通り過ぎてくみたいな」
吉田「ああ、分かります。そういう感じだった」
夜空「まあ、それが人生ですと言われれば、そうなのかもしれないみたいな感じはしますけど……」
吉田「笑」

〈量産型と居場所の話〉

夜空「吉田さんの中でのとっかかりというのは、どのあたりになるんですか?」
吉田「ああ、そうですね。あの、あそこですね。スタバにいると、なんか自分がどんどん集まってくるような気がする」
夜空「ああ、あるね。ちょっと辛辣な」
吉田「ページでいうと、33ページなんですけど、こういう感覚あります? 私はあるなって思ったんですけど」
夜空「ま、スターバックスには行かないから、ちょっと……あの……」
吉田「いや私もスターバックスは行かないんですけど、」
夜空「ああ、そうなの?」
吉田「行かないです」
夜空「こんな風に思ってんのかな。でも、ふと気づいたときに思うみたいなことなのかな」
吉田「だからスタバじゃなくても、『あ、いま自分、カテゴライズされてるな』『自分、こういう括りの一部に身を置いてるな』って思う瞬間ってありませんか?」
夜空「あーそれはあるかも」
吉田「なんか量産型みたいな」
夜空「ま、逆に『型に嵌められる』って意味では、えっと……簡単に言うと、『ちゃんとしてない人』ってカテゴライズされる場合もあるよね」
吉田「ちゃんとしてない笑」
夜空「そう、外れたがってるなっていう。他と似てなくても。似てなかったら似てなかったで、『あ、そういう感じか~』みたいな」
吉田「あーなるほどね」
夜空「勝手に察せられる可能性はあるよね」
吉田「笑」
夜空「そういうのはあるかも、僕は」
吉田「私は、うーん、ファッションとかでもあると思ってて、量産型とか地雷系とかってあるじゃないですか?」
夜空「まあなんか目にしますね、字面は」
吉田「そういうのが現代の流行としてあると思うんですけど、そういう……。元々、量産型ってちょっと揶揄っていうか、悪い意味で使われてたと思うんですよ。だから、『女子大生って花柄のワンピースにカーディガン着てるよね』とか。っていう意味で、量産型って『おんなじような格好してんなあ』って感じで使われてたと思うんですけど」
夜空「まあ、はい」
吉田「いまも使われてるとも思うんですけど、なんか『量産型、地雷系』ってうファッションに、自分から合わせに行くっていう子がいま多いって思うんですよ」
夜空「あ、そうなんだ。安心するってこと?」
吉田「そう、だから、そこが居場所になる。この本で言うと、こう、スターバックスが居場所になることもあると思うんですけど、そうやって景色の一部になることで、こう、雑然としてる都会の中で、居場所になることもあると思うんですけど」
夜空「あーいいこといいますね。確かに、あると思いますね」
吉田「でもそれってなんか、別に誰かに認められてるわけではないっていうか……なんだろうな」
夜空「まあでも分かりますよ。安心感。居場所っていうか、敢えてカテゴライズされるところに身を置くっていうことだよね」
吉田「そうです、そうです。っていうのをここを読んで思いましたね」
夜空「それは結構なんかこう、非常に現代的な発想で。たとえば、この本で、日比谷公園に主人公はよく昼休みかなんかに行ってるんだよね」
吉田「うんうん」
夜空「何ページか分からないけど、会社の先輩と話してて、公園に集まる人はどういう人なのって言ってて」
吉田「あーありましたね」
夜空「で、確か、『なんで来ると思います?』って主人公が訊いたら、先輩が『ほっとするからじゃない』って言うんだよね。なんもする必要がないっていうか」
吉田「そう、なんもしない場所っていう話のとこですよね」
夜空「公園に来る人って他から見たらスターバックスに行く人と同じように、『いやなんかいつも公園にいますよね』みたいな感じで、『ぶらぶらしてません?』みたいに思われるかもしれないけど、本人たちは息抜きの場所として来てるってのがありますよね」
吉田「居場所になってる的な」

夜空「うん、そのスターバックスの『こういう感じですよね』っていうのじゃなくて、まあ本当に肩の力を抜いたような、脱力するための居場所っていうか、敵も味方も関係ないみたいな、そういう感じがすごいあって」
吉田「うんうん」


〈本作の魅力とは? 意思と器官〉

夜空「で、結局この話はなんなの?っていうことをね、思ったんですよ」
吉田「はい」
夜空「これは何なのだろう、これが芥川賞獲るっていうのはどういうところが評価されたんだろう?って考えてたんですけど、どうなんすかね、吉田さん、なんか分かります? 芥川賞に選ばれるってのはなんかすごいってことじゃないですか」
吉田「はい」
夜空「どこが、やっぱ”あるある”とかなのかなこれは」
吉田「”あるある”……まあ芥川賞って全然いっぱい読んでるわけじゃないですけど……」
夜空「まあ、でもすごいらしいじゃん。なんか」
吉田「(笑)なんかすごいらしいですよね」
夜空「すごいらしいよね」
吉田「なんか、流行りとか現代のについて書いてるのが獲ってる、って印象がなんとなーくあるんですけど」
夜空「あー、たしかに。時代性、みたいなやつね」
吉田「そう、時代性があるものが獲ってるんじゃないかなって思ってはいます」
夜空「結構なんか現代を描いてるっていうところが、じゃあ評価されたってことかな?この小説では」
吉田「あとなんか意思の話なのかなってわたし思ったんですけど」
夜空「ほう、意思」
吉田「あの、こう最初に主人公の人と女の人が地下鉄で出会って、その広告を見て、『死んでからも生き続けるものがあります。それはあなたの意思です』っていう臓器提供の広告を見て、で、なんかまあそれからちょっとした会話が始まるので、こう、小説が始まるじゃないですか」
夜空「はい」
吉田「で、なんか最後も、あの『よし。私ね、決めた』って言って終わるんですよ」
夜空「はい」
吉田「だから、こう意思とか決断の話なのかなって思って」
夜空「ああ。でもさあ、すごい終わり方なんだよね、これって」
吉田「そうですね」
夜空「『よし。私ね、決めた』って言ってるけど、その文脈もないし、なぜ決めたのかも分からなければ、何を決めたのかも分からないっていう、謎の断絶で終わるっていう……。断絶っぽいんだけど、えーと、その女の人が行ってしまったあとに、一人で公園の方行ったときにその、『よし。私ね、決めた』と呟いた彼女の言葉が蘇り、まるで自分までいま何かを決めたよう
な気がした、で、終わるんだよね」
吉田「はい」
夜空「ちょっと前向き、みたいな。ちょっといい感じで終わるんだよね」
吉田「そうですね」
夜空「なんかよくわかんないのに」
吉田「いやその広告の、『死んでからも生き続けるものがあります。それはあなたの意思』です、の、その意思もなんの意思なのかってよくわかんないなあって」
夜空「おお、なるほど! 確かに! 気づかなかったそこは。なんすかね……え、でも意思は生き続けないよねえ」
吉田「意思は生き続けない?」
夜空「いや、そこは注目してなかったけど、死んでからも生き続ける――」
吉田「ここで言う『意思』ってなんのことなんだろうって思ってて」
夜空「確かに分かんないっすね。臓器に意思が宿ってるみたいなことなのかな」
吉田「え、でも臓器に意思が宿ってることじゃなくないですか? うーん、どう思いますか?」
夜空「僕のなかでぼんやりとしてるところを重ね合わせると、えーっと、結構その臓器に対して、主人公が注目する場面があって」
吉田「うんうんうん」
夜空「それは、ダ・ヴィンチの人体模写のを主人公が読んでんだよね。ダ・ヴィンチが内臓描いてるけど、全然ちがうじゃんってとことか、それと外に出たときに、雑貨屋かなんかの店で人体模型が売ってるんだよね」
吉田「うん」
夜空「で、更にいつも行ってる公園の池とかの場所を内臓の位置になぞらえて……」
吉田「あーうん、ありましたね」
夜空「そう、で、決定的なのは気球を飛ばすおじさんっていうのが出てきて、何をしているのかというと、気球にカメラかビデオをつけて、上に飛ばして、上空から公園を撮りたいっていう」
吉田「そうですね。真上から公園の写真、写真? 映像を撮りたい」
夜空「そうだよね、だから、なんだろう。自分も内臓の一部っていうか、例えば都市の器官の一部だったりとか、なんかそういうイメージがあるんだよね。真上から見てる」
吉田「そうですよね、うんうん」
夜空「で、自分てのは、実は全体を見てる側じゃなくて、一部分に過ぎないんじゃないかみたいな、そういうイメージはあって。だからその臓器移植の広告が、『死んでも生き続けるのは意思だ』っていうのは、なんかちょっと重なるかなとは思う。どこがどうっていう、簡明な言葉で言えないけど」
吉田「分かりますよ」
夜空「ニュアンスとしてはね、臓器の話がところどころ出てくるし、なんか自分ひとりでいるっていうよりはもっと上から見てるような感じが、若干重なっているのかなあとは思うよね」
吉田「その、中身のグロさっていうか」
夜空「うん」
吉田「こう、パッと、それこそ俯瞰で見ないと分かんないこととか」
夜空「あー確かに。全体像出てこないからね、この小説は」
吉田「そうなんですよね」
夜空「限定的だよね、見てる関係の在りかたが、あのひかるっていう昔恋してた女の子が結婚するのも主人公は知らされてなかったり」
吉田「そうそうそう
夜空「だから全体を見れない視点の物語だよね、これは」
吉田「そうですね」


〈キャッチボールにならない言葉、合目的性への嫌悪〉


夜空「なんかねー結構喋ってきましたけれども、一応僕のなかでの、これはどのような小説なのか、というのをちょっと喋ろうかなと思うんですけれども」
吉田「はい」
夜空「えっと、簡単に言うと、二つあって、ひとつが『言葉になれない言葉、言葉以前の言葉』なんだけど、これは公園を思い出そうとしたときに、公園の風景を思い出すんじゃなくて、そこにいる人たちのなんか喋ってる声しか思い出せない、みたいに言ってたんだよね。まあこれは最後の方で言ってるんだけどね」
吉田「はい」
夜空「なんていうか……キャッチボールじゃない言葉、っていうのが結構注目されてんのかなっていう、ところとふたつめは、『目的意識に対する嫌悪感』っていうのがすごいあるなあって思ってて、」
吉田「うんうん」
夜空「なにかをしなくちゃいけないみたいな、ね。臓器移植とかがまさにそれで、繋いでいく、その繋がりのなかに固定されてしまう、っていうことに対する否定。だからこれは気球を飛ばしてるオジサンが『なんで?』を禁止するんだよね。『なんで?って言わないなら教えてあげるよ』って。だから、その理由を問わないことの自由さ。だからそれゆえに起承転結も分かりやすくついてないし」
吉田「そうですね。深入りするのが怖いっていうのがありますよね、ずっと」
夜空「あ、そうね。深入りしないね、どこにも。深入りしてもいい場面はたくさんあるんだけどね」
吉田「そう、なんかギリギリまで近づくけど、しない」
夜空「ラガーフェルトと散歩に行っちゃうからね」
吉田「そうですね(笑)」
夜空「あの主人公はね。そうそう、意外とね、入浴剤を主人公が売ってるってとこも皮肉だと思ってて」
吉田「ああ」
夜空「リラックスするための入浴とかも、結局こうやって商業の一部で、コマーシャリズムで生み出されてるっていうところも皮肉なのかなって若干思いましたね」
吉田「なるほど」
夜空「ちょっと駆け足で言ってしまったので、分かりにくいとも思うけど、まあ僕としてはそんな感じですね。だから、そういうところがなんか賞に選ばれるほどの良いところなのかなあ、って気はしました」
吉田「はい」
夜空「どうですか、吉田さん。ここまで喋ってきてどんな感じですか?」
吉田「そうですね、なんかもっと話せそうだけど、感覚的だから」
夜空「悪い意味じゃくて、なにしろ感覚的な小説ではありますよね」
吉田「そんな感じですね」


話者紹介

吉田(@_love_hate___):愛ほど歪んだ呪いはないよ

夜空(@yorui_yozora):それもまたSweet Daysわね...

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