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相次ぐ募集停止で問われる、私立大学のレーゾンデートル ②

「閉学を前提」、にした募集停止

募集停止を発表した恵泉女学園大学。
3月22日に大学が発表した「募集停止のお知らせ」を見てみましょう。
そこには、このように記載されています。

…18歳人口の減少、とくに近年は共学志向など社会情勢の変化の中で、入学者数の定員割れが続き、大学部門の金融資産を確保・維持することが厳しくなりました。これまで大学存続のためにあらゆる可能性を模索し、将来のありかたについて慎重に検討を重ねてまいりましたが、このたび閉学を前提とした募集停止という苦渋の決断に至りました。

恵泉女学園大学ホームページ 
2023年3月22日「恵泉女学園大学・大学院 学生募集停止のお知らせ」より抜粋

 「閉学を前提にした募集停止」とありますので、募集再開への道は断たれたことになります。
河井道の教育理念を受け継ぎ創設された恵泉女学園大学は、ここで完全に終止符が打たれることになります。
ほんとうに、残念です。

そして、募集停止に至った原因について、「定員割れが続き、大学部門の金融資産を確保・維持することが難しく」なったとの記載がありますが、この点について、少し詳しく見て参りましょう。


21年度にはすでに定員割れに

恵泉女学園大学の入学定員充足率を見てみましょう。

2020年度 1.04倍
2021年度 0.77倍
2022年度 0.56倍

2021年度に入学定員充足率が定員を大きく下回わり、いわゆる定員割れを
おこしました。
そして、2022年度も、さらに大きく落ち込み、0.50倍寸前に近づいていたのです。

今年度の入試結果は現段階ではまだ公表になっていませんので、充足率がどうなっているかは不明ですが、昨今の18歳人口の減少を踏まえるとさらに落ち込んでしまった可能性もあります。

どうしてここまで急速に落ち込んでしまったのか――



私大全体のマイナスをこえる減少に

2021年度入試についてみれば、2020年に広がった新型コロナウイルス感染症の影響がもろに影響し、共通テスト開始初年度などの入試改革の影響も受け、私立大学は志願者数を減少させました。減少幅は、代々木ゼミナールの調査ではマイナス14.3%にも及びました(548大学集計)。

恵泉女学園大学の落ち込みも、そうした私大全体を覆った志願者減少の流れに抗えなかったということになりますが、そのマイナス幅は、私大全体より8㌽以上も超えていたのです。

次の年の2022年度入試については、私大全体としては回復とまではいかなかったものの、マイナス0.3%(代々木ゼミナール調べ、539大学)と、下げ止まりをみせてはいました。しかし、恵泉女学園大学はさらに27%余り落ち込み、入学定員の0.56倍にまで下落してしまったことは前述のとおりです。

では、下落の傾向に歯止めがかからなくなった背景に何があるのか?



厳しさを増す女子大の募集環境

まず、女子大学を取り巻く環境が年々厳しさを増している現状があります。
 
その最大の理由は女子受験生の共学志向でしょう。
 
高校までの教育や日常生活において、男子と女子が分け隔てなく学んだり、一緒に活動する場面が増え、自ずと男子と机を並べることへの忌避感が無くなってきていることは実感できるところです。

また、就職における男女格差の是正や、あらゆる場面での男女共同参画の流れもあり、敢えて女子大で学ぶ意義が薄れてきていることは間違いないでしょう。

そもそも、女子大には、“良妻賢母”の養成といった理念で発足した学校も多くありましたので、そうしたイメージが残っていて、マイナスに作用してしまったのかもしれません。


都内でも若年人口の減少幅に差が

さらに、恵泉女学園大学固有の問題として、キャンパス立地に問題もあったのかもしれません。

ちなみに、都心から恵泉女学園大学に行くためには、京王もしくは小田急に乗り、多摩センター駅でさらにバスに乗り換える必要があります。新宿駅からですと、乗り換え等を含めると、小1時間といったところでしょうか。

人口動態を見てみると、全国的に少子化がすすんでいますが、東京都内だけをみると、都心といわれている23区と、恵泉女学園大学が立地する多摩市などを含む市部(都内中・西部)とでは、その進行度合いが異なるのです。

東京都が発表する統計資料を使って、0~14歳の人口について、恵泉女学園大学が創設されて間もなくの平成2年(1990年)と現在(令和5年)を比較すると、減少幅は市部の方が大きくなっていることがわかります。
つまり、市部は23区よりも、急速に高齢化しているのです。

大学に進学する女子受験生の住んでいるエリアが、だんだん23区の都心部にシフトしているとすれば、通いづらいと感じる受験生の比率は年々高まってきていたことになります。
ましてや、コロナ禍で遠くまで通学したくないと思う受験生も増えていたことは容易に想像できます。

実は、他の私立大学では、現在、大学キャンパスの都心回帰傾向が強まっています。その背景には、こうした事情があったのですね。


地域型大学はミクロな人口動態も大切

全国的なネームバリューでの学生募集が難しい地域型大学にとって、
こうしたミクロな人口動態は無視できないファクターになるでしょう。
これは都内や首都圏の大学についても言えることです。

いずれにせよ、恵泉女学園大学にとって、キャンパスの立地もマイナスのファクターと捉えられていた可能性は否定できません。


さて、ここまで女子大や恵泉女学園大学を取り巻く学生募集環境を
みてまいりましたが、さらに無視できない要素があります。
次回は、そこから、私立大学の“経営”について考えてみたいと思います。


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